【独白】コミュニティマネージャーの葛藤 星川直美

2021/9/15
星川 直美(Naomi Hoshikawa)
青山商事株式会社 レディス事業部企画グループ長
1984年8月5日生まれ。大学卒業後2007年に青山商事へ入社。6年半ほど店舗にて接客業務をした後、企画コースへ異動。教育担当や営業部レディス企画グループ長を経て2021年4月設立したレディス事業部企画グループ長に就任。2020年より「シン・シゴト服ラボ」コミュニティマネージャーへ。
2020年7月、入社14年目でベテランと言われる年次になった星川直美は、リブランディング副室長から会議室に呼び出された。「星川さん、会社を変えたいと本当に思ってるよね?」。当たり前だ、思っている。その日から、挑戦は始まった。

本当に、お客さまに求められる会社になりたい

思えば私は入社してすぐの頃から、現場に違和感を抱いていました。例えば、新人として売り場で接客をしているとき。とあるお客さまが礼服を見られていました。咄嗟に声をかけようとしましたが、先輩に止められました。聞けば、礼服を見に来たお客さまに、接客につくのは失礼に当たるとのこと。
私からすれば、十分な知識がなくても、お客さまの要望を一生懸命伺うことは新人でもできるのではと感じました。些細なことではあるものの、「なぜそうなのか」「どうして変えないのか」本当に小さな違和感が、少しずつ溜まっていきました
年次が上がり責任ある仕事を任されるようになるにつれ、新しい提案をする機会が増えていきました。全てはお客さまのために。自分の発言に耳を傾けてくれる先輩社員も多かった一方、思ったことを形にする実行力がなく、変えられないことも多かったです。
どこか悶々としながら働くなかで、同じアパレル業界のファーストリテイリングが2020年6月、東京・銀座に「UNIQLO TOKYO」 をオープン。その店舗では、服を売ることだけでなく、SDGsを始めとした、企業が果たす責任について説明するためのスペースが贅沢に割かれていました。衝撃でした。業界のリーディングカンパニーはお客さまと向き合い、時代に求められることを反映しながら新しい仕掛け作りにトライしている。いよいよ、変わらなければいけないときが来た、と思いましたね。
社内に持ち帰り、自分が担当しているレディース領域で、お客様に向き合った店舗づくりを提案するうち、「本当にお客様に求められる会社になりたい」という気持ちがどんどん大きくなっていきました。

仲間が認められることが私の幸せ

ことあるごとに、自分の意見は会議などで直接伝えていましたが、聞き入れてもらえないことも少なくはなく、もどかしい日々を過ごしました。とはいえ、会社を辞める選択肢はありませんでした。
なぜなら、これまで一緒に働いてきた仲間の顔がちらついていたからです。自分を育ててくれた先輩、味方になってくれた上司が今でも社内にはたくさんいて、店舗でお客さまの前に立ち続けています。彼らがもっとお客さまから支持されるようにしたい。自分以外の別の場所で働いている仲間たちが、もっとやりがいを持って、楽しく働きやすい環境をつくりたいと思っていて、そのために私ができることは、できる限りやりたいと思っていたのです。
現状への苛立ちと、闘争心みたいなものを抱えながら、出来る範囲で挑戦を続けていた2020年7月。自分の思想について理解してくれている、青山商事のリブランディング室副室長から「新しくつくるコミュニティの、コミュニティマネージャーにならないか」と打診がありました。
新しくつくるコミュニティはその名も「シン・シゴト服ラボ」。多くのワーカーがビジネスの情報を仕入れるために読むソーシャル経済メディア「NewsPicks」のユーザーと我々「洋服の青山」の社員が共創して、ビジネスにおける課題に向き合い、それを解決する新しい商品やサービスを開発するのが目的でした。
コミュニティ立ち上げ当初のオンラインmtgの様子。打ち合わせは、基本的にはオンラインで行われた

参加者の声を聞いて変わっていった

打診されてすぐは正直なところ、この業務が何につながるのかハッキリとはわかりませんでした。それでも、コミュニティ運営に携わることで外の人の意見を聞くことができ、会社の中からでは変えられないことを、一緒に変えられるのではと感じました。今の仕事のあり方を変え、会社を変えるチャンスなのではと思ったのです。迷う余地はなく「やります」と答え、コミュニティマネージャーを他の業務と兼任することに。
コミュニティマネージャーの「コ」の字もわからなかった私にとって、コミュニティの運営は発見の毎日でした。自分のプライベートの大事な時間を使ってでも一緒に議論したり、何かを生み出したいと思っている方々がたくさんいらっしゃること。流行は自然に生まれるものではなく狙ってつくり出すものであること。さらには、コミュニティ運営とは関係ないような、思考の枠組みから他業界の市況まで、コミュニティメンバーや運営のプロ達と話をするなかで、たくさんの学びがありました
またコミュニティ立ち上げ当初は、自分の役割はとにかくメンバーの要望を叶えることだと思っていました。そもそも生のユーザーの声を聞きながら新しい商品やサービスをつくるために立ち上げたコミュニティで、私が何か意見を言うと、いつまで経っても我々主導の開発から抜け出せないと思っていたのです。
ただ、メンバーの一人でコミュニティ運営豊富な方から「先導役がいなければ、メンバーが主体的にアクションできない」 と言われ、ハッとしました。いくら周りの要望に沿ったところでコミュニティメンバーが主体的に活動に参加するようにはならないです。必要なのは、彼らがもっと積極的に関わりたいと思うような面白いイベントや仕掛け。
その一環として意識しだしたのは、とにかく早く何かしらの、目に見える形での成果を出すことです。何かができればコミュニティメンバーも喜んでくれ、自然と楽しくなってくれます。そのために、やらなければいけないことの整理や、脇道にそれた時の修正が私の仕事なのではと考えるようになりました。
緊急事態宣言前、コミュニティメンバーと議論(写真中央が本人)

コミュニティの価値を社内にもっと伝えたい

現在は、レディス事業部企画グループ長兼営業部レディスグループ長としてレディスウェア販売促進に関わる業務と、「シン・シゴト服ラボ」のコミュニティマネージャーとしての業務を兼任しています。
個人的には、まだまだコミュニティメンバーを面白がらせる仕掛けづくりはできると思っているので、もっとコミュニティメンバー一人ひとりのモチベーションを理解し、有効な打ち手を模索していきたいです。
さらに、青山商事の社内から、「シン・シゴト服ラボ」というコミュニティをもっと認められるようにしたいとも考えています。私自身携わってわかったのですが、コミュニティは圧倒的に学びが多い場所です。普段出会えない、さまざまな業界の方々と議論を重ね、一緒にプロジェクトを進めるうちに、多くの学びを得られます。自分以外のコミュニティ運営メンバーと話をしてみても思考が広がっていることを感じます。そんな学びの場を他の社員たちにも活かしてもらえると良いなと思っています。
また、既存事業をコミュニティに接続させることもできると思っていて、例えば私が兼任しているレディス部門であれば、レディス用の新作ジャケットをコミュニティメンバーの意見を参考にマーケットインでつくり出すこともできると思っています。
我々を取り巻くビジネス環境は、構造的な生産年齢人口の減少とオフィスウェアのカジュアル化をはじめ、コロナによる在宅ワークの普及などの影響で、大きく変化しています。その変化に合わせて我々も変わらなくてはいけません。
今後は「シン・シゴト服ラボ」を、今よりもっと「やりたいこと」がシェアされる場所にしたいです。また、そこでシェアされた「やりたいこと」をベースとして新しいプロジェクトがどんどん生まれるような場所にもしたいです。
そのために、コミュニティメンバーのことを誰よりも理解し、そのモチベーションを支え続ける役割を担っていければと思います。みんなのやりたいことの提案や実現に向けて場をコントロールする、と言うよりは一緒に「シン・シゴト服ラボ」を楽しむ。そして、誰かが「これやりたいんだよね」と言ったとき、その実現に向けて全力でサポートできる人でありたいです。
コミュニティ運営を通して、私自身はたくさんの学びが得られ、その経験は普段の別の業務にも活かせています。これからも、コミュニティメンバー発のアイデア実現を通して、社内だけでは得られない気づきや発見をし続けていきたいです。
シン・シゴト服ラボでは、今後も「ビジネスウェア3.0を定義する」というミッションに向けて、さまざまなプロジェクトに取り組んで参ります。活動内容は服に留まらず、仕事環境そのものも「装い」と捉え、これからの社会に求められる新しいあり方の探求を続けていきます。
ビジネスウェアについて課題を感じている人はもちろん、日本型の古い慣習に疑問を感じる、仕事のパフォーマンスをもっと向上させたい、などビジネスに関する課題意識をお持ちの方も、ぜひご参加ください。企業や業界の枠を超えた挑戦を、私たちと一緒にはじめてみませんか?
コミュニティについて、さらに詳しく知りたい方はこちらへアクセスください。
編集:山尾 真実子(シン・シゴト服ラボ編集長・青山商事)
共同編集・執筆:種石 光(NewsPicks Creations)
カメラマン:西田 優太
デザイン:武田 英志(hooop)