2021/9/8

【トップ直撃】バスケの「投資対効果」とリーグ大改革の狙い

スポーツライター
東京オリンピックが終わり、パラリンピックの熱戦も終焉した。一方、テニスの全米オープンは8月30日に開幕し、プロ野球やJリーグはシーズンの佳境に向かっていく。
スポーツイベントは一年中、目白押しだ。逆に言えば人々の興味は移ろいやすく、“ブーム”を本物の人気に昇華させるのは簡単ではない。
今夏、自国開催のオリンピックという千載一遇の機会で生まれた盛り上がりを、各団体は今度につなげていけるのか。
また東京五輪の後、JOC(日本オリンピック委員会)からの助成金は大幅に減ると言われるなか、今後の運営戦略をどう描いているのか。
スポーツ界で長らく「課題」とされてきたテーマについて、NewsPicksは2つの競技団体の長にインタビューを実施した。
初回では、野球、サッカーという日本の2大スポーツと肩を並べることを目指す、プロバスケットボール「Bリーグ」の島田慎二チェアマンのインタビューをお届けする。
INDEX
  • オリンピックに一喜一憂しない
  • 2026年、「事業力」でリーグ再編
  • 「NPB×Jリーグ」のハイブリッド
  • バスケへの投資が進む背景
  • バスケがメジャーになったとき…

オリンピックに一喜一憂しない

──東京五輪でバスケットは男子が3戦全敗に終わり、女子は史上初の銀メダルを獲得しました。盛り上がりをどう捉え、今後につなげていこうと考えていますか。
島田 男女の5人制、3人制(3x3)というバスケットボールの4種目全部に出たのは世界で日本だけです。強化の観点から、うまくいったということだと思います。
女子の5人制は高さがない分、3ポイントの得意な選手を集めて外のシュートで勝負すること、走り勝つことを目指しました。日本人の弱みを強みに変えたという意味で、いろんな競技に影響を与えるような結果を出したことは大いに評価されるべきだろうと思います。
男子の5人制は悲願の1勝を目指し、そういう意味では残念でした。
ただ2年前のワールドカップで5戦全敗だったところから、今回は世界のトップ・オブ・トップの国と戦えた。結果としては、あまりネガティブには考えていないですね。
千葉ジェッツの社長として人気クラブに成長させ、2020年6月、Bリーグのチェアマンに就任した島田慎二氏(撮影:中島大輔)
今回の盛り上がりを今後にどうつなぐかは、オリンピックにしてもワールドカップにしても、そのときはワーッと盛り上がるけど、それが持続するものでは決してないので、乗っかっていくという感覚はあまりなくて。
ありがたいことですが、“それはそれ”ですね。
バスケットボール界として競技的にも事業的にも長期に対してのビジョンがあるので、一つ一つクリアして地力をつけていく。オリンピックのことで、あまり一喜一憂していないのが本音です。
──東京五輪後、JOCからの助成金は大幅に減っていくと予想されますが、この点はどう考えていますか。
国の投資も含め、補助金が減っていくのはわかっていたことです。バスケット界は構造的に依存度は低いので、あまり気にしていないですね。
協会もリーグも、ちゃんとスポンサーをつけてチケット収入を得て運営していこうという考え方です。

2026年、「事業力」でリーグ再編

──リーグの発展という意味では、2026-27シーズンからリーグ構造を改めるという「将来構想」を6月に発表しました。コロナ禍のこのタイミングで発表したのはどういう理由があるのですか。
コロナの前、2019年7月に前チェアマンの大河正明が方向性を打ち出しました。Bリーグとして右肩上がりで成長してきたのはありますが、成長してきたから変えるというより、昇降格制度の副作用を考えてのことです。
スポーツ団体なので勝ち負けにフィーチャーするのは当たり前ですが、ビジネス上は売り上げを含めて上がっているけれど、収益構造上、ほとんどチーム人件費に消えているという状況があります。
勝った・負けたは大事ですが、チーム現場だけではなく、ビジネス現場や地域社会に投資できるようなお金の使い方ができる構造にしていかなければ、リーグの構造としてだんだん持たなくなるだろうと。
そういうところから昇降格制度を廃止しようとなりました。
バスケットが地域に根づくために何が大事かと言ったら、シンボリックな存在はアリーナです。そこにお客さんが入っている必要がある。地域に貢献できるための資金投資ができるような売り上げを立てないといけない。
「アリーナ基準」「入場者基準」「売り上げ基準」という3つのシンボリックな基準を設けて、それをクリアしたクラブがB1。次のカテゴリーはB2、B3。
それを勝敗による昇降格ではなく、事業力によるカテゴライズをするのが今回の趣旨です。
実際、チームの人件費格差はどんどん広がっていて、同じB1でも3〜4倍になっています。試合前から、どっちが勝つ、負けるがだんだんわかってきてしまうのは健全ではないなと。