2021/9/13

【みうらじゅん】A+B=ABはつまらない。答えはCにしよう

新メディア「NewsPicks +d」がお届けするインタビュー連載【私のタグライン】がスタート。いま注目の人が、自身の理念=タグラインを語ります。ひとりめは、「ゆるキャラ」ブームの仕掛け人として知られるみうらじゅんさん。2015年の著書『「ない仕事」の作り方』が、いま再注目を集める中、その理由をひもときながら、ビジネスマンへのエールを贈ります。
本記事はNewsPicksとNTTドコモが共同で開発し、7月19日からスタートした新メディア「NewsPicks +d」の編集部によるオリジナル記事です。全3回連載のうち第1回目を一般公開しております。第2回目以降はNewsPicks +dでお読みいただけます。NewsPicks +dは、NTTドコモが提供している無料の「ビジネスdアカウント」を持つ法人・事業所とその従業員向けのサービスです(詳しくはこちら )。
INDEX
  • 「ない仕事」してみませんか?
  • 「ない仕事」の象徴「ゆるキャラ」
  • A+B=ABではなくCにする発想を
  • 「一人電通」で企画・営業・接待

「ない仕事」してみませんか?

僕はこれまで、たくさんの本を出してきましたが、タイトルに「仕事」がついているのは、この本だけです。ビジネス系の切り口で引っかかっていただけるかなと思ってつけたタイトルなんですが、ありがとうございます、こうして取材が来るようになりました(笑)。
『「ない仕事」の作り方』みうらじゅん/文春文庫。それまで世の中になかった仕事を、「一人電通」という手法で生み出し続けてきたみうらじゅんが、その仕事術を丁寧に解説。子どもの頃のスクラップや、膨大なコレクションなど、写真も多数掲載。美大生時代からデビュー初期までの恩人である糸井重里との対談も収録。
でも、「ない仕事」をしたいなんて誰しも思ってないんじゃないかと思いますよ。「ない仕事」をやってどうするんだよ、って、多分不安だと思います。
あ、「ない仕事」をするというのは、今までジャンルのなかった仕事をそう呼んでいるんです。「ある仕事」がある方は、それを一生懸命やればいいわけです。僕だって、風貌がビジネスマンらしからぬだけで、これでも一応、個人事務所の社長なんですけどね(笑)。
それならなぜ「ない仕事」を作るのか。それは、そのほうが「ある仕事」より、もっと自由で面白そうなことが考えられるからです。
みうらさんの事務所の本棚(ほ、ほんの一部)。

「ない仕事」の象徴「ゆるキャラ」

僕がこれまでやってきた数々の「ない仕事」のなかでも、きっと、具体例としてわかりやすいのが、「ゆるキャラ」だと思います。今となっては一般名詞として使われている「ゆるキャラ」ですが、あるフィギュアの月刊誌で「ユルキャラ民俗学」という連載を始めた2000年は、当然何の反応もありませんでした。
僕は当時、「マスコット」と呼ばれていた着ぐるみを、全国各地の物産展で見かけるたびに、ご当地の名産品を盛り込んだそのトゥーマッチ感に惹きつけられ、いつの間にか四六時中そのことを考えるようになりました。
その時点で、「物産展で見かける着ぐるみのマスコットキャラクター」には、特に名称もジャンルもありませんでした。だからまわりの関心も薄かった。しかし、これこそが、「ない仕事」の出発点だったのです。
僕は彼らをひと言で表現する「ゆるキャラ」という言葉を考えました。「ゆるい」「キャラクター」の略です。これは本来、水と油の合体でした。でも、かつてなかったジャンルが、このネーミングにより、さも「あるように」見えてくるのではないかと思いました。

A+B=ABではなくCにする発想を

「ない仕事」と聞くと、世の中に存在しない、完全なオリジナルととらえられがちですが、この世にないものなんてないんですよね。実はもうすでに全部そろっています。でもね、すでにあるAとBを足して「AB」ではつまらないので、その答えを「C」にする。それが、「ない仕事」の正体です。
「ゆるキャラ」でいえば、A=ゆるい、B=キャラクター、という、本来は矛盾した組み合わせです。考えてもみてください。本来、キャラクターというのはPRが目的ですから、ゆるくては困るわけです。どの自治体も、ちゃんとしたキャラクターを作ろうと努力されたはずです。それなのに、結果、なんとも微妙なものになった。そこがメジャーキャラとの大きな違いです。
A+B=Cにするには、やっぱり、それなりの投資と経験値が必要だと思うんです。ゆるキャラの場合の投資とは、「無駄遣い」のことですけどね(笑)。「なんでこんなものを買っているだろう」という「後ろメタファー」が必要になります。
だって、好きなものなら誰だって買いますからね。ゆるキャラなら、物産展に足繁く通って写真やビデオを撮り、集められる限りのグッズを集め、情報を収集し、地方のイベントにも出かけて行く。「こんなにお金と時間を使ってなんになるんだ」なんて考える隙もないほど、ゆるキャラノイローゼに自分を追い込む。圧倒的な量の関連アイテムが目の前に溜まっていくうちに、「好きにならざるを得ない」状態になっていきますから。好きだから集める、のではなく、集めたから好きになるのです。この状態を僕は「自分洗脳」と呼んでいます。
事務所に並んでいるコレクションの数々。
強調したいのは、僕は、コレクターとして物を集めているわけではないということです。僕の収集は、あくまでも「ない仕事」のための起爆剤です。最終的に何らかの結果は出さなくてはいけないわけですから。

「一人電通」で企画・営業・接待

できる限り無駄遣いし、無駄な努力をし、ノイローゼ状態になるところまできたら、いよいよそれをどうにか発表することを考えます。「ゆるキャラ」のケースでは、まず出版社に企画を持ち込みました。しかし、「ない仕事」ですから、当然、怪訝な顔をされます。そこで、どれだけそれが面白いかのプレゼンをしなければなりません。「ない仕事」では、全部自分でそれをやることになります。これを僕は、「一人電通」と呼んでいます。
雑誌ではなかなか連載が決まらなかったので、イベントを仕掛けることにしました。「第一回みうらじゅんのゆるキャラショー」が開催されたのが、2002年のことです。その後、徐々に面白がってくれる人が増えていきました。
「ない仕事」は、前例がないだけに、当然、初めは怪訝に思われたり、ときには関係者から怒られたりすることもあります。「ゆるキャラ」の連載では「うちのマスコットはゆるくない!」とお叱りを受けたことも。イベントでも、何せ“ないイベント”ですから「本当にお客さんは喜んでくれるのだろうか」と、心配になることは、今でもよくあります。心にマイナス要素が浮かんできたとき、僕はすかさずこの呪文を唱えます。
「そこがいいんじゃない!」
心配だからこそいいと、思い込むわけです。
みうらじゅん
1958年京都市生まれ。イラストレーターなど。1980年、武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。1997年「マイブーム」で新語・流行語大賞を受賞。「ゆるキャラ」「勝手に観光協会」「いやげ物」など、数々のブームを仕掛ける。著書に『アイデン&ティティ 24歳/27歳』(角川文庫)、『青春ノイローゼ』(双葉文庫)、『色即ぜねれいしょん』(光文社文庫)、『みうらじゅんと宮藤官九郎の世界全体会議』(集英社文庫)、『清張地獄八景』(文春文庫)など。近著に『メランコリック・サマー』(文春文庫)がある。
*Vol.2に続く(「NewsPicks +d」にて9月14日更新予定)。