2021/9/6

【マクドナルドの本気】環境保全は“ビジネスのおまけ”を超える

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 年間1億食を販売するマクドナルドの「ハッピーセット®️」。
 そのおまけであるプラスチック製おもちゃを、店頭の回収ボックスで集めて生まれ変わらせるのが、「おもちゃリサイクル」プロジェクト
 同プロジェクトは2021年3月、期間限定から通年実施へと進化した。
 SDGsやCSR活動の重要性が高まるなか、日本マクドナルドは環境保全を“おまけ”ではなく、ビジネスとして本気で実践し始めている
 その裏側はハードルの連続。だが乗り越えた先には、予想以上にポジティブなインパクトがもたらされていた。
 同社でおもちゃリサイクルを主導する大湯緑氏と、パートナーである日本環境設計 取締役会長の岩元美智彦氏に話を聞いた。

「設計」さえすれば、環境保全とビジネスは両立できる

──昨年までの「おもちゃリサイクル」は、子どもたちの長期休みに合わせたプロジェクトでした。通年実施に踏み切ったのはなぜでしょうか?
大湯 3年にわたる期間限定の取り組みは、お客様から大変好評でした。認知度も上がり、大きな手応えを感じています。
 おもちゃをリサイクルに持っていきたいと思ったときに、「今、リサイクルやってるっけ?」と実施期間を気にすることなく、気軽な習慣にしてもらえるようにと、通年実施を決めました。
岩元 私たち日本環境設計は独自のリサイクル技術をもって、さまざまな企業のリサイクルの仕組みづくりをお手伝いしてきました。
 なかでも、おもちゃリサイクルは環境保全とビジネスが両立し、相互作用を生む好例と言えます。
 これまで環境保全とビジネスは両立できないといわれてきました。
 でも我々の経験から言えば、リサイクルについて学び、商品やサービスの仕様をもとに「設計」すれば、どの企業にも両立の最適解が必ず見つかるものなんです。
 単純に「SDGsが流行りだから」「競合他社が取り組んでいるから」と、環境保全を“ビジネスのおまけ”として捉えているうちは、それにたどり着くのは難しいでしょう。
──ビジネスの中に環境保全を置いて設計しているかで、本気度がうかがえるわけですね。そもそも、なぜハッピーセットのおもちゃに着目したのでしょうか。
大湯 2015年に、日本環境設計からお声がけいただいたのがきっかけです。
岩元 当時、弊社が環境省と連携して、店頭でのプラスチック製品の回収・リサイクルの実証事業をしていたんです。そこに参加しませんかとお誘いしました。
 2015年の段階で、マクドナルドのような大手企業が参加を決めたのは、実はすごいことなんですよ。今みたいに、まだSDGsやCSRが浸透している時代ではありませんでしたから。

使い終わったおもちゃをどうするか、お客様は困っていた

──プラスチック製品の店頭回収を考えたときに、ファストフード業界のマクドナルドが想起されたのは意外です。
岩元 そうですよね。実は2013年にある幼稚園で、卒園時のおもちゃ回収をしたんです。その中に少なからずあったのが、ハッピーセットのおもちゃだったんです。
 マクドナルドの店頭回収が実現すれば、子どもたちがリサイクルを自分ごととして、習慣化するきっかけにできるかもしれない。
 そして彼らが成長するにつれて、社会にリサイクル文化が定着する。そんなイメージが自然と湧きました。
 実証事業ではまず、どんなおもちゃが集まるかを調べることから始めました。
 材質によって、リサイクルの手法も、どんな製品に生まれ変わらせるかという“出口”も変わるからです。
大湯 一口にプラスチックと言っても、PP(ポリプロピレン)やPS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)などの種類があり、ハッピーセットのおもちゃにも、こうしたさまざまなプラスチックが使われています。
 ただ実証事業では、一部店舗での実施だったこともあって、あまりおもちゃが集まりませんでした。
──そうなんですね。では、なぜ自社での取り組みに踏み切ったのですか?
大湯 活動を知って参加してくれていた一部のお客様からの反響が、とても大きかったんです。
 裏付けとして全国でアンケートを取ったところ、「思い出のおもちゃをこっそり捨てるのは罪悪感がある」「子どもに、おもちゃと上手にお別れしてもらいたい」といった声が多数寄せられ、ハッピーセットのおもちゃ回収のニーズは高いとわかりました。
 遊ばなくなったおもちゃに、お客様は困っていた。
 調べてみると、先ほどの幼稚園と同様に、学校のリサイクル活動でもハッピーセットのおもちゃが多数集まるとわかりました。
 調査をすればするほど、これは人任せにはできない。マクドナルド自らが、販売した先まで見据えて事業をしなければ、と痛感したのです。

リサイクルの大変さをわかっていなかった

──おもちゃリサイクルの実現までにはさまざまな苦労があったそうですね。
大湯 はい。まず私自身がリサイクルの大変さを何もわかっていなかったのに気づき、愕然としました。
 お恥ずかしいことに当時は、おもちゃをまとめて溶かせば再生樹脂ができると思っていたんです。
写真左から、破砕したフレーク、洗浄・溶解した作った再生樹脂、みどりのトレイ用に着色した再生樹脂。おもちゃを細かく破砕した後、静電気や比重をで材質ごとに分類。熱で溶かして再生樹脂ができあがる。
岩元 再生樹脂で何を作るかが決まらないと、リサイクルに最適なプロセスも決められません。リサイクルの“出口”を決めるのも大変でしたよね。
大湯 マクドナルドとしては「おもちゃがこれになったんだ!」とお子さんたちが見てわかりやすいように、店内で目に触れるものにしたかった。
 かといって、何でも作れるわけではないんです。強度や耐久性のほか、マクドナルド独自の厳しい衛生基準もクリアしなければなりません。
 プロジェクトの実施は決まったのに、再製品化できるものが見つからないのではないかと、ひやひやする局面もありました。
 いくつもの候補を考え、検証を繰り返し、最終的に食事を載せる「みどりのトレイ」に決まりました。
回収されたハッピーセットのおもちゃからできた再生樹脂を10%程度含む「みどりのトレイ」。数々のパターンをテストしてたどり着いたベストな配合だという。
岩元 再生樹脂は、材料のプラスチックがきれいなほど質が高まります。店頭の回収ボックスで、いかに他のゴミが混ざるのを防ぐかが重要です。
 おもちゃリサイクルは、2018年当初から店内の飲食で出るゴミなどの異物がどんどん減り、現在はほぼ100%きれいにハッピーセットのおもちゃになっています。
 リサイクルボックスはいろんなお店に設置されていますが、これは本当にすごいことです。子どもたちは賢いですね。

リサイクルするときは“子ども”になって

──異物を減らすために、工夫されたのですか?
大湯 取り組みを広く知ってもらうのはもちろん、回収ボックスの上に、実物の「みどりのトレイ」を展示したのも一役買っていると思います。
 おもちゃがトレイになると一目でわかり、お子さんでも「ここにゴミを入れてはいけないんだな」と理解しやすかったのではないかな、と。
おもちゃリサイクルの通年実施と合わせて、紙製だった回収ボックスも、トレイと同じ再生樹脂を活用した再生ボックスに順次変更している。
岩元 子どもたちの協力の賜物ですよね。だから僕はよく「リサイクルをするときは、子どもになりなさい」と言うんですよ。
──“子ども”になる……?
岩元 そう。大人たちは、環境やリサイクルについて勉強したり議論したりが先で、行動が後回しなんです。
 反対に子どもたちは、知識はなくとも行動して、「使い終わったらリサイクル」と覚えていく。
 おもちゃリサイクルは、子どもたちへの環境教育を含むESD*としても機能しています。
*Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育
 ほとんどおもちゃが集まらなかった2015年の実証事業から、2020年には全国で約270万個が集まるまでになりました。
 この数字は、子どもたちの行動の結果です。大人にもできるはずです。
──2020年までに回収されたハッピーセットのおもちゃは、総計で約740万個にものぼります。
大湯 ひとえにお客様の協力と、日本環境設計さんの尽力のおかげです。
 全国のマクドナルドのフランチャイズオーナーたちの共感と協力も、大きな力になりました。なかには、自発的に自治体を巻き込んだイベントまで発展させてくれた方もいました。
 おもちゃリサイクルは、マクドナルドのビジネスの外側にあったパパママのお困りごとがきっかけでした。
 つまり、SDGsの「アウトサイド・イン」といって、社会課題を起点に生まれたアプローチなんです。
 今回は岩元さんたちの力を借りて、潜在的なニーズをリサイクル活動に変え、うまくビジネスにもつながりました。
 おもちゃを企画する私たちマーケティング部にも、新たに「使い終えた後」という視点が生まれています。プロジェクトも一つのきっかけとなり、現在ハッピーセットのおもちゃは、電池を一切使っていません
 2019年のG20大阪サミットで、メディア関係者の食事用にみどりのトレイが採用されたこともあり、現在はまだ日本独自の取り組みですが、各国のマクドナルドのメンバーからの注目も高まっています。

“正しい”を“楽しく”。それがこれからのリサイクル

──おもちゃリサイクルは順調に回収量を伸ばし、今年から通年実施の取り組みになりました。成功の秘訣は何だと思われますか?
大湯 「環境」と「ビジネス」と「FUN(楽しさ)」。この3つが重なって持続的な活動にできたことだと思います。
 お客様にとっては、お子さんが大切にしていたおもちゃが生まれ変わる楽しさ、家族と一緒に外食する楽しさがある。
 店舗には、おもちゃリサイクル目的のご来店が、思いがけず購買につながるメリットもありました。
 だからこそ活動に共感いただき、ここまで継続できたのだと思っています。
岩元 環境に本気で取り組んだことが、来客や売上となって返ってくる。ビジネスと環境保全の理想的な両立ですね。
「環境」だけを考えた活動なら、世の中にたくさんあるんです。でも、ビジネスへのポジティブなインパクトとワクワクドキドキがないと、単発の企画で終わってしまいがちなんです。
 これからのリサイクルのあり方には「“正しい”を“楽しく”」が不可欠で、マクドナルドはそれをうまく体現されています。
 全国規模でのスムーズな仕組みの構築や企業が主導するESDという観点でも、多くの企業にとってモデルケースになり得る。
 おもちゃリサイクルのような成功事例を、私たちがもっと増やしていかなければと考えています。
──マクドナルドとして考えている、おもちゃリサイクルの次なる展開はありますか?
大湯 これからさらに回収数が増えていくと期待しているので、トレイ以外のリサイクルの“出口”の可能性を探っていきたいです。
 おもちゃリサイクルのほかにも、マクドナルドとしてできる環境のための取り組みがないか、新しいイノベーションを引き続き考えていければと思っています。
 社内の活動を推進しつつ、業界を超えた企業の方々とも連携して、資源循環の輪を広げていきたいですね。