2021/8/13

【必見】子どもの眠れる「学習意欲」を引き出す4ステップ

NewsPicks Brand Design Editor
 新型コロナウイルスによる一斉休校や在宅時間の増加などにより、子どもたちの学習環境に変化が起きている。
 巷では、コロナ禍による「学力格差」といった問題もささやかれており、子どもの学習意欲の低下を懸念する保護者も少なくない。
 子どもたちの「学習モチベーション」を引き出すには、どうすればいいのだろうか。
17万部のベストセラーとなった『子育てベスト100』著者の加藤紀子氏と幼児・小中学生向けの学習塾「学研教室」を全国で展開する学研エデュケーショナルの代表取締役社長・川端篤氏の対談から、子どもたち、ひいては悩める大人のためになる、モチベーション維持のヒントを探る。

コロナで二極化した子どもの学習意欲

加藤紀子(以下、加藤) 教育ジャーナリストとして取材活動をするなかで、コロナ禍で子どもたちの学習への向き合い方が二分していると感じます。
 もともと勉強が好き、あるいは興味関心が「生物」や「物語」など、勉強の範疇にある子は、学校がなくなったことで、むしろ自分のペースで学習に没入できるようになった。
 逆に、同級生など「仲間」の存在が学習のモチベーションになっていた子は、なかなか学習に前向きになれずにいるようです。
 休校の影響で、ゲームやYouTubeが身近になった、外出ができず息苦しさを感じている、なども、学習に身が入らない原因でしょうね。
川端篤(以下、川端) 学研教育総合研究所が昨年小学生を対象に行ったアンケート調査でも、休校中の困りごとの上位は「友達に会えない」や「体を動かす機会が十分にない」といった回答が占めていました。
 また、同じ設問に対し、保護者からは「(子どもの)勉強時間が減っている」や「生活習慣が乱れている」などの回答が上位にあがっています。
 保護者面談の様子を聞いていても、子どもの学習状況の変化に気をもんでいる方は多いですね。
2020年10月実施された学研教育総合研究所の調査結果を元に作成。※複数回答可、n=30以上の項目を集計 。
加藤 たしかに私も保護者から、「学校や塾が休みになって、子どもの学習の実態がよく見えるようになった」という声を聞きます。
 いわく、「思っていたより学習に集中していなかった」「実は教科書の内容をしっかり理解できていなかった」と。
 その影響か、急に子どもの勉強を監督しはじめる保護者も増えているようです。
 親が学習を見守るのは悪いことではありませんが、中には勉強をしている最中に逐一ダメ出しをしたり、時間割を作って学習時間を管理したり。
 テストの成績をエクセル管理してPDCAを回そうとする「エクセル父さん」なんて言葉もあるくらいで、過剰な管理のせいで子どものモチベーションが下がってしまう場合もあるようです。
川端 良かれと思ってやっている細かな学習管理が、かえって悪い影響を与えているケースですね。
 もともと勉強が好きではないのに、保護者から口うるさく「勉強しなさい」と言われて、さらに勉強したくなくなる……という悪循環は、コロナ前から見受けられました。
 昨今は在宅ワークなどで親子の時間が増えていますから、なおさら学習モチベーションに保護者が与える影響が大きくなっているのでしょう。

教育における「アメとムチ」の落とし穴

川端 細かい時間・目標管理のほかにも、たとえば「テストの点数で100点を取ったら褒める」といった行為も、モチベーションを考えると逆効果となっている場合が多いです。
加藤 モチベーションには「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」の2種類があると言われていますが、テストの点数や順位などの「結果」で褒めるのは、典型的な「外発的動機づけ」ですね。
 外発的動機づけは、「アメとムチ」とも言い換えられますが、テストでいい点をとったら褒める(=アメ)、悪い点をとったら叱る(=ムチ)といった、ものごとの結果で賞罰を決めることの有効性については、教育界でも意見が分かれます。
川端 テストでいい点数を取って褒められれば、短期的にはモチベーション向上につながるかもしれません。
 ですが、それを繰り返していくと、いつしか目的が「いい点数を取ること」や「悪い点を取って怒られないこと」にすり替わり、学習の本旨を見失ってしまう可能性があります。
 次第に「怒られたくない」というネガティブな気持ちのほうが大きくなっていき、勉強が嫌いになる子もいるくらいです。
加藤 特に、今の保護者世代は「いい点数を取ったら褒められる」という教育を受けてきた方が多いですから、そのパターンはありがちですよね。
 恥ずかしながら、私もこうした理論を学ぶまでは、自分の子どもに「100点を取って偉いね」と声がけしていました。
iStock:akasuu
川端 褒めるのはまったく悪いことではないですが、学習の「結果」ではなく、「過程」を評価するように変えるとよいですね。
 保護者の方にも、「いい点数を取ったからすごいね」ではなく、「計画通りにドリルを何冊やりとげたから偉いね」「本を毎日決まったペースで読んで頑張ったね」などとフィードバックするようにアドバイスしています。
加藤 そのとおりですね。外発的動機づけだけでは長期的な学習モチベーションの維持はできません。
 ですから、内発的動機づけ=子どもの内からあふれる興味や行動の尊重も、うまく組み合わせていく必要があると思います。
川端 保護者や我々のような第三者にできるのは、まずは子どもの内発的な興味に寄り添い、その行動をサポートすることです。
 内発的動機づけが自然にできる子は、コロナのような外的環境の変化にも左右されにくいと感じます。

内なるモチベーションを引き出す4ステップ

加藤 これまで多くの子どもたちをご覧になってきて、川端さんは何が内発的な学習モチベーションの源泉だと感じていますか。
川端 根底にあるのは、「自己肯定感」だと考えています。
 自分はやれるんだ、一人でも進んで大丈夫なんだ、そう思える経験をどれくらい積めているか、です。
 自己肯定感が高い子ほど、学習そのものにせよ、目標設定にせよ、すいすい進めていける傾向にあります。
加藤 なるほど。私は、これまでの取材を通して、内なるモチベーションを引き出すためには4つのステップが必要だと考えています。
 3つ目にあげた「根拠のない自信をつけてあげる」は、川端さんが言う「自己肯定感」と同義ですよね。
 モチベーション研究で有名なロチェスター大学のエドワード・デシ教授も、「自分はやればできるという有能感があるほどやる気が高まる」と言っていますし、やはり重要なポイントなのだと思います。
 余談ですが、本を読んだビジネスパーソンからは「これは子どもに限らず、大人のマネジメントにも有効だ」と反響をいただいています。
川端 大人にも十分応用できますし、子どものうちからこうしたステップが身につけられているのが理想ですよね。それができれば、社会に出てからも「指示待ち人間」になりにくく、活躍していけます。
自信をつけてあげる」という部分は学研教室でも特に重視しています。
 ステップにもあった通り、自信を育むには「とにかく褒めること」が大事なのです。
 たとえば、教室に入った時の挨拶から、靴がそろえられるかどうか、机に向かう姿勢、さらには鉛筆の持ち方まで、私たちは見ています。
 それが学習に関係あるかどうかにかかわらず、できていなかったら一緒に練習しますし、できるようなったら必ず褒めることにしています。
学研教室の様子。週2回の来校時に、各々のペースで教材を解く。
加藤 学習ルーティンから指導していくスタイルはユニークですね。
川端 これは「地域に密着し、生活に根ざした指導を行う」という学研教室のルーツに由来しています。
 もともと出版社からスタートした学研が、ただ教材を届けて終わるのではなく、子どもたちの学習を一貫してサポートし、学びを通じて心が触れ合う地域のコミュニティ広場を作りたい、とオープンしたのが学研教室です。
 1980年の開設以来、地域の子どもたちを集めて勉強を教えるフランチャイズ形式で拡大し、現在では全国で16,000教室ほどの規模になっています。
加藤 共働きにより時間的な余裕がない保護者が増え、子どもを学校・家庭以外のサードプレイスに預けたいというニーズは高まっていると感じます。
 学研教室は、これまでもずっとその役割を果たされてきたんですね。

子どもたちの「言葉の裏」を考えてみる

川端 もう一つ、学研教室で気をつけているのが、「他者と比較しないこと」です。
 教材の進み具合やテストの点数を他の子どもと比較して、「うちの子は遅れているかもしれません、どうしたらいいでしょうか」と相談に来られる保護者の方は多いです。 
 ですが、そもそも学習能力やペースは一人ひとりによって違うもの。比較されることで子どものモチベーションも下がるので、保護者の方にもそのようにアドバイスしています。
加藤 本当に気をつけたい問題ですよね。私自身もそうでしたが、「子どもが心配なんです」と言う保護者の本音が、「自分が不安なだけ」というパターンはよくあります(苦笑)。
「兄弟間での比較も、子どもの学習モチベーション低下につながるありがちな失敗です」と加藤氏。iStock:akasuu 
川端 不安な気持ちはよくわかるんです。ですが、その気持ちを無意識に子どもたちに押し付けて、萎縮させてしまっては元も子もありません。
加藤 押し付けをしないためにも、今日から保護者にできることは「一歩引いて、見守る」ことでしょうね。
まずは、子どもたちの隣で、口出しはせずに自発的な行動を見守る。学習の仕方しかり、時間の使い方しかり、「失敗するかもしれないな」と思っても、子ども自身に選ばせることが重要です。
川端 「すぐに口を出さない」、もっと言えば「正解を教えない」ことは非常に大切ですね。
 何でも検索すれば答えらしきものが出てきてしまう時代だからこそ、自分の頭で考える経験を親が意識的につくらなくては。
加藤 それでも「子どもが勉強したくない」と言うのであれば、その裏にある言葉の意味を考えること。本当は「勉強じゃなくてゲームがしたい」かもしれないし、「親と一緒に遊びたい」なのかもしれません。
iStock:kazuma seki
「ゲームがしたい」という言葉も解像度をあげていくと、「小さなステージをクリアしていくのが好き」だったり、「ゲームの背景にあるストーリーに引かれている」といった、子どもの「好きなこと」のヒントが隠されています。
川端 「小さなステージをクリアしたい」や「ゲームストーリーに引かれる」と嗜好がわかれば、勉強するときも小さな目標を設定してみようとか、ストーリー性のある国語の文章題から解いてみよう、とアドバイスできますね。
学習塾への入会理由で多いのは、「子どもに苦手を克服させたい」というものです。
 ですが、本当は好きなところ、得意なところを伸ばして、自己肯定感を高めた上で苦手なことにチャレンジさせたほうがいい。
これは学習に限らず子育てにおけるすべての場面で、子どもたちの内なるモチベーションを引き出すために意識すべきポイントだと思います。
加藤 遠回りに思えても、子どもたちの関心に寄り添うところがスタートなんですよね。
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親の教育意識をどうアップデートすべきか?
8/17(火)22:00〜 オンエア