2021/8/12
キャリアパスは無限。“アジャイル”で組織ごと変えるスクラムマスターの全貌
Scrum Inc. Japan | NewsPicks Brand Design
アジャイルな“働き方”のフレームワーク「スクラム」。トヨタ、日本コカ・コーラやLIXIL、KDDIなどの大企業においても、組織変革のフレームワークとして用いられ注目を集めている。
Amazon、Facebook、Google、Spotifyなどで取り入られているスクラム。実は着想は日本のトヨタ生産方式などに端を発し、アメリカのソフトウェア開発の現場で手法が確立され広まったもの。そのメソッドを改めて日本に普及すべく、設立されたのがScrum Inc. Japanだ。
その働き方は、当然スクラムの手法を用いてアジャイルかつフラット。スクラムを実践しスクラムを広める、スクラムコーチである和田圭介氏、庭屋一浩氏にその真価を聞いた。
INDEX
- 柔軟に変化する、ゆるいフレームワーク
- スクラムは、楽しい
- 無限に広がるキャリアパス
- 評価も給与も徹底的にフラット
柔軟に変化する、ゆるいフレームワーク
──トヨタ、アフラック、日本コカ・コーラ、KDDI、デンソー、パーソル、グロービス……主にソフトウェア開発の手法のイメージが強い「スクラム」が、なぜ今さまざまな事業会社にまで広がっているのでしょうか。
和田 そうですね。今の時代、ライフスタイルの変化もテクノロジーの進化も、猛烈な速度で進んでいきます。その中で、「顧客が本当にほしいもの」を発見し、課題を解決するにはチームのパフォーマンスが重要になります。
そしてチームにミッションを実行してもらうために、スクラムというフレームワークが応用されているということなんです。
階層型、役割別で企画・開発・運用・営業……とわけるのではなく、顧客志向のミッションを持った機能横断のチームでダイレクトに課題を解決する。それがスクラムの威力です。
──どういった企業に導入するといいのでしょうか。
和田 そうですね。ベンチャーでは多く取り入れられていますが、大企業にインパクトを与える働き方のフレームワークでもあります。
いま北米トヨタさんでもアジャイルを数千人の規模で取り入れていますし、我々がこれまで長く担当してきたLIXILさんの場合も、スクラムを採用しようと考えたきっかけは「チーム」の重要性に気がついたことだそうです。
──フレームワークということは、決められたパターンに沿ってプロジェクトを実施していくイメージですか。
和田 いえ。むしろスクラムにおいては、それぞれの企業やチームに合わせて中身を変化させていくことが非常に重要です。
フレームワークといってもルールは非常にシンプルで、その上にチームごとのやりかたを加えて、自分たちで改善していくことが肝なんです。
特に旧来のメンバーシップ型からジョブ型へ働き方を変えようとしていたり、チームにより権限を委譲している、つまり階層型組織から自律分散型組織へ移行しようとしている会社では、スクラムの力で、新しい働き方をどんどん発展させていくことができます。
──「企業やチームに合わせて中身を変化させていく」とはどういうことでしょう。
和田 例えばLIXILさんではもともとチームメンバーに正社員だけでなく社外のパートナーが参加していることが多かったんです。アジャイルを導入するには、働き方の大前提である「心理的安全性」が確保されにくいのではという課題がありました。
──社外の方が、正社員の方に気を使う場面もあったり。
和田 そうです。そこでまずLIXIL内でスクラムコーチになる人たちと心理的安全性のワークショップをつくって、チーム発足時に必ずそのワークショップを実施することにしました。これは、他の企業ではやっていないことです。
また大企業ではやはり何十とチームがあるので、最初はどうしても、スクラムコーチ、プロダクトオーナー、チームメンバーの振る舞いが望ましくない状況になる、つまりスクラムがうまくいかないことがあります。
そこでチームヘルスを全チームが可視化できるようにしたり、悩み相談のような形でスクラムマスター講習を実施したり。我々が介入しなくても、LIXIL内でこの活動が続けられる仕組みづくりに取り組みました。
──実際、スクラムを導入した大企業は変われるんでしょうか? うまくいく企業といかない企業があるとすれば、その違いはなんでしょうか。
和田 やはり経営のトップが重要です。トップが会社を変えたい、チームがいきいきと働き、イノベーションを起こしていく会社にしたいという考えをしっかりと持っているかにかかっています。
経験上、スクラムを導入するにあたって、社員全員がすぐに賛同するわけじゃありません。
まずはスクラムの考え方に共感するメンバーが手をあげて、始めてみる。リーダーは、手をあげたパイロットチームがミッションを達成できるように全力で支援する。そのチームが楽しそうにしていると、やってみたいと思う仲間が増える。
そうした段階を経て変わっていくパターンが多いんです。
しかしトップに本気で変える覚悟がなく、「流行っているからスクラムをやっておこう」ぐらいの気持ちだと、スクラムチームが2、3あるだけでそれ以上増えないこともあります。
スクラムは、楽しい
──庭屋さんはもともと、前職でスクラムを導入されていたそうですね。なぜScrum Inc.Japanへ転職を決めたのですか。
庭屋 前職では人事の担当で、採用の仕事をスクラムで回してみようと始めたんです。
やってみると、これはすべての業務に使えるし、組織として取り組むと良い効果が出そうだなと感じて。どんどんスクラムに興味を持っていきました。
ただスクラムを組織全体に広めようと思ったときに、スクラムをより深く理解しないといち社員が影響を及ぼせる範囲が狭く、このままの自分で組織をまるごと変えることはできないなと思ったんです。
それでスクラムのスキルアップをしていきたいと思っていたところで、和田さんに「うちに来ないか」と声をかけていただいて。まさに求めている環境にぴったりだなと思い、転職を決めました。
──転職してみて、スキルアップの実感はいかがですか。
庭屋 知識を身につけるのはもちろんですが、顧客の組織ごとにさまざまな事例を経験として得られることは非常に大きい。知識だけで組織変革を実践できるわけではありませんから。
案件ごとにスクラムを導入する中で、まったく異なるカルチャーのメンバーとご一緒して、その度に新たな学びやスキルを得ている実感があります。
顧客の成長と自分の成長がつながっているので、喜びは大きいですね。
──組織を変革する手法はいくつか存在します。その中でもなぜスクラムが良いと?
和田 そうですね、まず……自分がやって楽しかったんですよ(笑)。それが一番の実体験で。
庭屋 そうそう。スクラム、楽しいんですよ。
和田 私も前職でスクラムを経験してから入社しましたが、自分がスクラムと出会ったとき、もう最高の働き方だなと思ったんです。
──「最高の働き方」ですか?
和田 チームがひとつのミッションに向かって一丸となり、素早いサイクルでプロダクトを出して、フィードバックをもらい改善する。で、実際に良いものができて感謝されてというサイクルが続く。
フラットだから、チームも本当に仲良くなれますし。そこが原点にありますね。
庭屋 楽しい上で、顧客志向で「良いものを世の中に出す」が大前提なところが僕はすごく良いと思っています。
熱意を持って取り組むことで、どんどん世の中に良いものが出せるという正の循環が、やっていて楽しいと思ったポイントですね。
無限に広がるキャリアパス
──すこし下世話な質問ですが、スクラムをマスターすると“つぶし”が利くんでしょうか?
和田 あはは。めちゃめちゃ利くと思いますよ。つい先日まで戦略コンサルの方が、弊社に出向してスクラムのスキルを磨いていました。
スクラムでは組織を変えるスキルを手に入れることができるので、その手法を習得して元いた企業に戻る方、別の事業会社に転職してスクラムを実践する方など、さまざまです。
実際にアメリカ本社では、何年もスクラムコーチを務めたのちに、アジャイルのディレクターとして顧客だった事業会社に行くというキャリアも多いですね。反対に、我々が支援した企業の方がScrum Inc.にジョインしてくれることも多くあります。行ったり来たりですね。
庭屋 スクラム自体はチームの働き方を良くするフレームワークなので、起業してスクラムでプロダクトをつくることも、キャリアとしては充分可能だと思います。
──Scrum Inc.は職種としてはコンサルタント、になりますよね。やはり、コンサルの経験がある方がマッチしますか。
和田 もちろんコンサル経験も役には立ちますが、必ずしもコンサル経験が必要なわけでもないですし、スクラムの実践経験も必須ではありません。
向いているなと思うのは、「クリティカルシンキング」ができる方。そして「インターパーソナリティ」といって、巻き込む力のある方ですね。
顧客企業のトップからチームメンバー、業務委託先メンバーまで、一人ひとりと話し合いながら、顧客組織の課題を俯瞰的に分析して、組織変革を進めていく。立場や専門領域が違う人が集まるチームに対して、適切な巻き込み方やコーチングができる。こういうことが得意な方は、合っていると思います。
庭屋 僕はやはり、「熱意」が重要だと思います。いま、何か所属している組織や社会、世の中を変えたいと思うことがあっても、自分にはその力がなくて「悔しい」と思っている方。そういう方は、求めるスキルを身につけられるんじゃないかなと思います。
評価も給与も徹底的にフラット
──やはりScrum Inc.の働き方もスクラムで回していますよね?
和田 もちろんです(笑)。
──実感としてどういうメリットがありますか。
和田 まず前職よりも残業は圧倒的に減りました。スクラムで回していると、効率的で生産性が高いんです。また前職の伝統的な日本の大企業に比べて、変に気を遣うことや忖度をすることがなくなりました。
私と庭屋さんを含めたこの会社には、ベテランもいれば庭屋さんのように入ってきたばかりの人もいますが、マネージャーがおらず、上下関係がありません。メンバー全員がフラットに仲間として意見を言い合う立場なので、余計な忖度が生まれにくいのだと思います。
──確かに、我々がさまざまな打ち合わせをさせてもらっても、フラットさはにじみ出ている気がします。「持ち帰って検討します」ということがほとんどなく、持ち帰ったとしても意思決定が非常に明快で早い。全員が意思決定者である、当事者意識を感じるというか。
庭屋 やるべきことの優先順位は決まっていますし、それを決める役割の人はいます。
ただどうやるかはチーム次第。だからチームが良いと思えば、それはもう会社から承認されているようなものなんですよね。あの人に話を通してから……なんてことは起きないんです。
──どうやってチームの優先順位は決めるんでしょうか?
(二人) これです(笑)!
──マネージャーがいないと、人事評価はどう行うのでしょう。
和田 人事評価については、メンバー同士で行う360度評価を採用しています。評価制度自体が、チームで働くことを前提としている。私たちはそれを実践しているからこそ、コーチングでも伝えられることは大きいと思います。
庭屋 私はScrum Inc.以前の職場もチームの自由度は高かったのですが、やはりマネージャーが評価する仕組みがありました。ずっと一緒に仕事をしているわけではないので、正しく評価されているかには疑問に思うことはありました。
今はチームで上下関係なく仕事をするので、メンバー同士で評価し、それが給与に直結してくるところにはすごく納得感がありますね。
和田 あと、よく驚かれるのが、基本の給与は個々のスクラムのスキルが関わってきますが、賞与に関しては等分しています。
──賞与を「等分」っていうのは、全員でですか?
和田 はい。営業利益に業績に応じた賞与配分率をかけたものを、社員で等分にしています。
──それはチームに一体感がでそうですね(笑)。そのカルチャーを実践し続けられる背景には何があるのでしょうか。
和田 スクラムバリューというものがあるのですが、我々自身もそれを体現する働き方をするように徹底しています。評価制度や就業規則、プロジェクトの進め方にも、このバリューを反映しています。
──現在メンバーを募集されているスクラム社。和田さん、庭屋さんはどのような方と一緒に働きたいですか。
和田 すこし抽象的ですが、一緒に働いていてエネルギーが出るような方が良いですね(笑)。
あとはパッションがある方。私たちがコーチングに伺う先のリーダーの方々は、信念を持ちながらも悩んでいることが多い。そこを後押ししてあげられる存在にならなくちゃいけないので、パッションを持って、人に思いを伝えられる方が良いなと思いますね。
庭屋 僕たちが対峙するお客様には、ものすごい大企業もあって、問題が根深く固いことも。
そこで必要なのはタフであることと、そのタフさで乗り越えた先の未来に強く思いを持っている方。そういう方と一緒に、楽しみながらスクラムを世に広めていけたらなと思っています。
執筆:シンドウサクラ
撮影:大橋友樹
デザイン:月森恭助
編集:中島洋一
撮影:大橋友樹
デザイン:月森恭助
編集:中島洋一
Scrum Inc. Japan | NewsPicks Brand Design