2021/6/26

【解説】アップルがはまった「中国依存」の大きすぎる代償

INDEX
  • 専門家が懸念していた「中国リスク」
  • 中国を「読み誤った」西側諸国
  • 企業価値を損なう「妥協」
  • 「対価」を要求する中国政府
  • アップルのために「山も動かす」
  • 行き詰まる「リスク分散」計画
  • 「守れない法律」の罠にはまる
  • 「貢献度スコア」の獲得に奔走

専門家が懸念していた「中国リスク」

1994年当時、ダグ・ガスリーは中国の産業に関する論文を執筆するため、変速ギアのない自転車に乗って、上海の工場をあちこち訪ねていた。
それから数年のうちに、ガスリーは資本主義に向かう中国に関して、アメリカではトップクラスの専門家となった。中国進出を目指す企業にアドバイスもしていた。
20年後の2014年、アップルは中国市場での道案内役としてガスリーを雇った。中国は同社にとって、非常に重要な市場だった。しかしその頃には、ガスリーは中国の新たな方向性に関して懸念を持つようになっていた。
中国の新たな指導者となった習近平は、国内での掌握力を強めるため、西側の企業に圧力をかけていた。その中でも、おそらくは最大のターゲットであり、最も影響を受けやすい立場にあるのがアップルだということにガスリーは気づいた。
同社製品のほぼすべてが中国で組み立てられており、中国は売上高でも同社第2位の市場だったのだ。
ダグ・ガスリー(Erin Kirkland/The New York Times)
ガスリーはアップルに警鐘を鳴らそうと、スライドを作成して同社内でレクチャーをして回った。ガスリーいわく、アップルには中国に関する「プランB」がなかった。
「アップルの幹部を訪ね回っては、『習近平がどんな人物かわかっているのか? 中国で何が起こっているか把握しているか?』と問いかけました。その点が、私の大きな懸念だったからです」と、ガスリーは振り返る。
ガスリーの警告は正しかった。習近平のもと、中国はナショナリスト的、独裁主義的な方向に舵を切り、アップルやナイキ、NBA(全米プロバスケットボール協会)といった米国企業は、ジレンマに陥り始めた。
中国での事業は魅力的だが、同時に、気詰まりな妥協を求められるようになっていったのだ。
(Andrea Verdelli/Getty Images)

中国を「読み誤った」西側諸国