2021/6/22

【解説】ブーム加速「空飛ぶクルマ」の現在地

INDEX
  • 世界を「渋滞」から解放する
  • ベールを脱いだ「試作機」たち
  • 「空の開拓時代」の幕開け
  • 今後数年の「根回し」が肝心
  • 目指すは「空飛ぶ無人タクシー」
  • IPO目前「ジョビー」の野望
  • 都市や通勤の概念が塗り替わる

世界を「渋滞」から解放する

「それ」は、流線形の、謎の物体だった──ハリウッドのSF映画で、悪役が逃げ出すときに乗るような代物だ。
ヘリコプターではなく、航空機でもない。両方を足して2で割ったような感じで、曲線的な機体に小さな2つの翼がつき、前後に合計8つの回転ローターが並んでいる。
近くのテントに設置されたコンピューターを操作すると、それは動き出した。カリフォルニア州中部にある牧場の、草で覆われた丘から浮かび上がると、木陰で草を食べている牛の群れに向かってスピードを上げていく──牛たちはこれっぽっちも反応しなかったが。
「クルマにしては奇妙に見えるだろうが、これは移動のあり方を変えるかもしれない」と語るのは、この機体を設計したカナダ人発明家のマーカス・レン。彼はこの機体を「ブラックフライ(BlackFly)」と名付けた。
マーカス・レンと「ブラックフライ」(Jason Henry/The New York Times)
ブラックフライはよく「空飛ぶクルマ」と呼ばれる。
レンをはじめ、エンジニアや起業家たちは10年以上前から、滑走路なしで離着陸が可能な新種の航空機の開発に取り組んできた。ヘリコプターよりも安価かつ安全で、事実上あらゆる人に、渋滞する道路の上空を迅速に移動する手段を提供できると彼らは考えている。
空飛ぶクルマ開発のもう一人の中心人物であるセバスチャン・スランは、「私たちの夢は世界を渋滞から解放することだ」と語る。

ベールを脱いだ「試作機」たち