2021/6/30
【無印良品×Instagram】「理由」に共感できれば選ばれる
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いまや企業と消費者のコミュニケーションツールとして欠かせないSNS。
従来のマーケティングメソッドでは、ユーザーの多様化や行動の変容に対応することはできず、企業のマーケターは日々さまざまな工夫を凝らしている。
いかに自社の魅力を表現し、消費者とコミュニケーションするか。オーガニック投稿と広告を併用し、いかに「見てもらえるコンテンツ」にするか。
その難しいコントロールをうまく設計しているのが「無印良品」だ。
フォロワー数277万人(2021年6月現在)のInstagramアカウントでは週30本前後ものコンテンツを投稿している。
ライフハックや生活者に寄り添った情報を続々と発信し、ユーザーからも「#無印、#無印購入品」などといったハッシュタグ付きの投稿が拡散される。
なぜ無印良品のInstagramは、企業アカウントであっても敬遠されないのか。「つい見てしまう」「シェアしたくなる」理由は?
デジタルマーケティングに欠かせない「ユーザーとのコミュニケーションの秘訣」を、無印良品のInstagramを運用する4名に聞いた。
INDEX
- 「最後のひと推し」はユーザーのもの
- 余白があるから「無印良品っぽい」
- 「ツッコミどころ」を用意する
- もはや「映え」じゃない
- オーガニックと広告をつなぐ世界観
- 「理由」を知って共感されれば、言い過ぎなくても選ばれる
「最後のひと推し」はユーザーのもの
── ユーザーにとって企業アカウントは敬遠されそうなものですが、無印良品の投稿はつい見たくなってしまうから不思議です。ずばり、秘訣はどこにあるのでしょうか。
細川 私がいつも心がけているのは「言い過ぎない」ことですね。
コミュニケーションの前提として、情報は正しく、誠実にお伝えする。
ただし、商品に「最後のひと推し」を加えるのは、受け手であるユーザーのみなさま。そのことを忘れないようにしています。
同じ商品でも人によって使い方は違いますし、使ったときの発見や感動も人それぞれですよね。
Instagramはあくまで、ユーザーが自分なりの「ここ、いいな」を見つける舞台装置。
どうすれば押しつけがましくならないかを考えながら、日々試行錯誤しています。
坂本 無印良品は1980年に西友のプライベートブランドとしてスタートして以来、大量生産・大量消費に疑問を持ち、お客様の声を聞きながら無駄を出さない商品を開発してきました。
Instagramでも顧客視点を大事にして、ユーザー自身が発見したり、創意工夫したりできる「余白」を残すコミュニケーションを心がけていますね。
そもそも無印良品では、ブランディングやマーケティングという言葉を使わないんです。
僕と細川の所属する部署も「オープンコミュニケーション部」という名称です。
SNSの投稿も店舗の設計や接客も、すべてユーザーやお客様とのコミュニケーションだと考えているから、お客様の発見や行動を「先回りしない」。
こうした微妙なあんばいを、Instagramではビジュアルとテキストでコントロールしています。
余白があるから「無印良品っぽい」
彦坂 私は良品計画のマーケティングをお手伝いして2年になりますが、以前担当していたナショナルクライアントとは、ずいぶん勝手が違いました。
Instagramを使ったマーケティングでは、「ユーザーにとってのメリット」をパッと見てわかりやすく投稿するのが定石です。
一方、それだけにこだわると「無印良品」ではないんですよね。
定石どおりの手法やパフォーマンスだけを突き詰めれば短期的な売り上げには貢献できるかもしれません。
でも、無印良品が守り続けてきた世界観が、どこか損なわれてしまう。
だから細川さんの言うように、最後まで言い切らず、伝えたい情報の抽象度を上げたり言葉を絞ったりと工夫しています。
どんな思いを込めて開発した商品なのか、どんなふうに使ってもらいたいのかを伝えるようにしています。
無印良品にはさまざまな商品や取り組みがあり、「こうすればいい」というような単純なパターン化ができないので、細川さんたちとの議論が欠かせません。
津野 一つひとつの投稿のなかで、良品計画さんが伝えたいことはたくさんあると思いますが、投稿を拝見していると、できる限り情報を削ぎ落としていますよね。
ユーザーと向き合って伝えることを絞り込み、共感を呼ぶような世界観が画像からにじみだしている。
そもそもInstagramは、ブランドを好きになってもらえるような「世界観」を伝えやすいプラットフォームです。
長年かけて築いてきた無印良品のブランドを守りながら、運用にあたって「無印良品らしさ」をきちんと話し合われているから、ユーザーが見てくれるし、広がっていくんだなと思っています。
「ツッコミどころ」を用意する
──「伝え切らない」投稿でブランドなりの世界観を作っていくのはすごく難しそうですが、具体的にはどんな工夫をしているのでしょうか。
細川 細かいニュアンスの話になりますが、たとえばサーキュレーターの写真を投稿するとき、「掃除しやすいよう前面のカバーを外せます」とは伝えます。
けれど「ラクですよ、便利ですよ」とまでは言わないんです。
もちろん便利だと思っての商品なのですが、便利かどうかは、お客様が使ってみて感じること。
その発見を、私たちが先回りして言わないようにしています。
── 商品のメリットはついアピールしたくなりそうですが、最小限の情報や機能を伝えるところでとどめておくんですね。
細川 そのとおりです。
人から押し付けられたことを広めようとは思わないけれど、自分で発見したことはうれしくて、誰かに伝えたくなるものですよね。
「ここが良い」「こんなシーンにフィットする」とお客様自身が見つけるから、ポジティブに発信してくれるんだと思います。
坂本 私たちはお客様に“モノボケ”してもらいたいんですよね。
商品には、私たちが思うよりはるかに多様な「ツッコミどころ」があると思っています。
そこからお客様とのコミュニケーションが生まれ、学んだことは今後の商品開発にも生かすことができます。
無印良品の役割は、商品と必要な情報を準備すること。
あとはお客様に、どんどんのっかっていってもらえたらうれしいですね。
── なるほど。無印良品が言い過ぎないからこそ、ユーザーが「言いたくなる」んですね。他に、Instagramの投稿で「これはしない」と決めていることはありますか。
坂本 安さや値引きだけを強調するような煽り方は、できるだけしたくないですね。
たとえば、価格の見直しや消費税込みの表示は、これまでずっとやっているけれど、それを声高にアピールすることはしません。
いつ来店しても安心して買い物できることこそが、真にお客様のためになると考えているからです。
ただ、言わないと伝わらないこともある。そのさじ加減は本当に難しいですね。
もはや「映え」じゃない
── こうした「もっと知りたくなってしまう」投稿は、Instagramと相性が良いのですか。
彦坂 そう思います。
たとえばテキストがメインのSNSでは、ニュース性や時事性の高い内容が求められています。投稿すると急激な反応があり、流れやすくもある。
でも、初見で誘引してユーザーに自分ごととして考えてもらうような投稿は、Instagramのほうが反応がいいんです。
画像の情報量はリッチですし、さらにテキストでしっかり説明もできる。
Instagramは「余白のあるコミュニケーション」と相性のいいプラットフォームだと思います。
細川 Instagramは画像メインなので、語り過ぎないくらいがちょうどいいんですよね。
想像の余地や解釈の幅を持たせて、本質を伝えるようなアプローチがしやすい。
ハッシュタグが広まったり目に見える反応もあったりと、ユーザーに伝えたいことが実際に届いている手応えも感じられます。
津野 Instagramの投稿って、じっと読み込まなくてもわかるじゃないですか。目を留めるかスルーするか、みなさん一瞬で判断しますよね。
そのなかで、無印良品の投稿は「親指が止まる」。
スルーされないでちゃんと見ていただけています。
── Instagramといえば「映え」というイメージですが、無印良品の投稿はそれとも違いますよね。
津野 演出やタグにも流行りはありますが、実はもう「映え」は重要じゃないんです。
大事なのは、いかにユーザーが求めるものに寄り添えているか。
ユーザーが求めているものと投稿との関連性が高いほど、「自分ごと化」されて親指が止まると私たちは考えています。
無印良品の商品やサービスは生活全般をカバーしていて、そもそも商品設計の段階からお客様の「こういうものがあったらいいな」に寄り添っています。
そのうえで、無印良品の世界観に沿って、1日のタイムラインのなかでユーザーが自分ごとにできるような投稿をされている。
だから、すっと入ってくるんだと思いますね。
── 聞けば聞くほど、Instagramの仕組みと無印良品の世界観はとてもフィットしているんですね。
津野 そう思います。
もともと、Instagramのユーザーには「好きなものに関する情報を得たい」というインサイトがあります。
そのうえで、Instagramのマーケティングプラットフォームとしての特徴は、適切なターゲティングとストーリーテリングによって「好きと欲しい」の発見を促すということ。
購入までの動線をシームレスにすることで、いままでの「買いたいものを探す」という購買行動から、「ユーザー自身が欲しいものに出会う」という「発見型コマース」を目指しています。
良品計画さんの「ユーザー自身の発見」を重視するコミュニケーションとは、本当に相性がぴったりですね。
オーガニックと広告をつなぐ世界観
── コミュニケーション設計のコツを伺いたいのですが、無印良品のInstagramには「オーガニック投稿」と呼ばれる通常投稿と、広告投稿がありますよね。内容や伝え方はどのように変えていますか。
彦坂 通常の投稿はフォロワーを中心にさまざまな属性の方が見てくださるので、いかに多くの人の「好き」に刺さるかを考えています。
広告では、商品や価格などの情報を具体的にして、ほんの少し訴求を強めることが多いですね。
商品の素材や生産過程を伝える動画広告を配信し、それを見た方に商品の広告を出したり、ターゲティングを活用して、無印良品のネットストアを訪問したことのない方限定で広告を配信したりすることもあります。
InstagramやFacebookの広告は他のSNSに比べて細かくセグメントできるから、精度の高いマッチングができる。
「フィードに流れてきたから購入した」というアクションも起こりやすいんです。
実際にInstagramに投稿すると、すぐにネットストアの商品が動きますし、店頭での問い合わせも増えます。
ユーザーにきちんと届くという実感があるので「せっかく欲しいと思ったのに買えない」なんてことがないよう、ネットストアの部署とも連携して商品の在庫を事前に準備したり、綿密な投稿スケジュールを練っています。
「理由」を知って共感されれば、言い過ぎなくても選ばれる
── 店舗や MUJI passport のようなオウンドアプリ、ネットストア、InstagramなどのSNSと、お客様とつながるたくさんのタッチポイントがありますよね。これらのバランスを取るのは難しくありませんか。
坂本 たしかに、商品のうわべだけでコミュニケーションしようとすると大変ですね。
でも、無印良品では商品の背景や、その「理由(わけ)」に共感したうえで選んでもらおうとしてきたことが効いていると感じます。
たとえば商品に付属するタグやパッケージは、まず商品名から始まることが多いですが、無印良品のタグやパッケージは、商品の「理由」を説明する3行の文章から始まります。
その次に商品名があって、最後に価格がくる。
こんなところにも、「値段の安い高いではなく、理由や価値で選ばれたい」という考えが表れています。
この姿勢がブレなければ、どれだけチャネルが多くても問題にはなりません。伝えたいことは初めから一貫していますから。
細川 投稿するときに考えているのは、「売れるか、目立つか」ではなく、「MUJIらしいか」ですからね。
そうやって広がってきたのが、無印良品の世界観なんだと思います。
坂本 究極のところ、広告でも通常の投稿でも、SNSでも店舗でも、投げかけるメッセージは変わらない。
「無印良品らしさ」を自社メディアや店舗だけで発信するのは難しいのですが、そこにInstagramが加わることで、よりお客様の生活圏に近づいてリアルなコミュニケーションができている実感があります。
そこから次の商品のヒントを得たりして、お客様と私たちが互いに新しい発見をする接点にもなっているんです。
執筆:横山瑠美
デザイナー:田中貴美恵
編集:安西ちまり、宇野浩志
デザイナー:田中貴美恵
編集:安西ちまり、宇野浩志
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