(ブルームバーグ): 楽天銀行などのネット銀行で口座数や預金量が急速に増加している。オンラインショッピングモールをはじめとするグループの非金融事業が持つ幅広い顧客基盤をポイントなどの優遇策で銀行サービスに誘導する囲い込み策が功を奏している。

楽天銀は昨年1年間で口座数が20%増え、直近ではネット銀行として初めて1000万口座を超えた。預金残高も2019年末と比べ5割近く増加し5兆円を突破。中堅の地方銀行並みの規模だ。同行の強さは、電子商取引サイトの「楽天市場」を始めとする楽天経済圏と呼ばれるさまざまなサービスとのつながりだ。

楽天グループ内のサービスを利用することで得られる楽天ポイントを優遇策として使い、顧客をグループ内に囲い込む。楽天銀も同様だ。例えばクレジットカードの「楽天カード」を使うと、楽天市場での買い物での獲得ポイントが多くなる。引き落とし口座として楽天銀を使えば、そこでもポイントが付与されるという仕組みだ。

楽天銀・戦略企画チームの竹内光祐氏は「楽天グループからの送客が非常に強い。口座数がものすごい勢いで伸びている」と説明。「通常は1月が口座数の伸びのピークだが、今年は勢いが2月、3月も続いている」という。最近では楽天証券との連携で、同証券の利用者による口座開設も増えているとしている。

日本でのインターネット専業銀行は、2000年に営業を開始した旧ジャパンネット銀行が第1号。近年まで利用者数は限定的だったというが、18年にヤフーの連結子会社となって以降、同グループとの連携を強化した結果、口座数の伸びが加速した。

同行は今月5日から「PayPay(ペイペイ)銀行」に行名を変更した。ソフトバンクとヤフーが設立したQRコード決済サービス「PayPay」との提携で利用者数を増やしている。ペイペイ加盟店に対しては、同サービスを通じた売り上げについて、他行では数日かかる入金を翌日にすることで、法人の利用客も伸びているという。

同行経営企画部長の森藤聡志氏は「ペイペイとの連携によるサービスは重要な経営課題。銀行ユーザーにペイペイを使うことのメリットを最大化する方法を今検討している」と語る。

店舗中心では顧客引き付けられず

モルガン・スタンレーMUFG証券アナリストの⻑坂美亜氏は楽天銀などのネット銀行は伝統的な銀行勢にとって「脅威」と見る。「元々持っている顧客基盤やデジタルのノウハウで強みがある」ためだ。

全国銀行協会の三毛兼承会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ会長)は3月の会見で「社会全体のデジタル化といった大きな潮流をうまく取り込んでいる」として、楽天銀などのビジネスモデルは既存の商業銀行に対しても大きな示唆を与えているとの認識を示した。

メガバンクもスマートフォンアプリでのネットバンキングに力を入れている。長引く低金利下で各行とも個人向け業務はデジタル化を通じたコスト削減が必須な上、将来的に店舗中心のサービス展開では顧客を引き付けられないという懸念があるためだ。

地銀でも新たな取り組みが見られる。ふくおかフィナンシャルグループはスマホを通じて銀行サービスを提供する「みんなの銀行」を立ち上げ、5月下旬のサービス開始を目指して準備を進めている。ターゲットは全国のデジタルネーティブ世代。非金融事業者とも広く提携し、利用者を増やしていく戦略だ。

「従来の銀行では既存の商品やサービスをスマホ上で使えるように提供しているのに対し、みんなの銀行では最初からスマホ上だけで提供することを目的にゼロベースで新たに開発した商品やサービスを提供していく」とみんなの銀行の永吉健一副頭取は語った。

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