2021/4/30

「スキルだけ人間」からの脱却。一生モノの教養を手に入れよ

NewsPicks / Brand Design  編集者、クリエイティブディレクター
 目の前の仕事や日々の雑事に追われがちな社会人だが、ビジネスに直結しない教養にあえて触れてみることで、今までとは違う景色が見えてくるはず──。
 一生ものの教養に出会えた時の高揚感が新たなチャレンジへの原動力にもなる。社会人が教養に触れ続けることの意義を、今こそ見直してみよう。
 3月21日にオンラインで実施された「まなびの5じかん─未来に効く教養─」。これはドコモ gacco×テレビ朝日×パーソルの各現役社員が集まり企画・実現した共催イベントだ。
 「ウェルビーイング」「アート」「テクノロジー」「歴史」「はたらく」の5つのセッションで構成された計5時間にわたるトークセッションは、ビジネスパーソンにとってさまざまな気づきを得られる内容だった。
 本記事の前半では、最終セッションの「はたらく」をレポートする。
 また後半では今回のイベントを手掛けた3社の担当者に、開催の経緯や、企画に込めたそれぞれの想いを聞いた。

「一社でスキルを極める」から、「ジョブチェンジを前提」に

まず、三者は「今、日本人の“働く”の価値観が大きく変わっている」と話す。さらに小川氏からは、「世界的に見て、日本の働き方は世界のスタンダードではない」という発言も。

果たして、日本の働き方はどのように変わり、その変化に合わせて何が必要とされているのか。

バービー氏、久保田直子氏らの等身大の意見を交えながらセッションは進行していった。
森谷 これまで日本人は、組織を軸として働いてきました。
 極端な話、「いい大学に行っていい企業に勤めて終身雇用制度で60歳まで働いて定年」というロールモデルが当たり前の時代でした。
 ところが現代は長寿化し、60歳を過ぎても働く時代。日本型雇用制度は終わりを迎えています。転職は当然のこと、副業も行うなどしてパラレルに働く時代。
 つまり、組織が軸となるのではなく、“個人が軸になる働き方”になるんだと、意識チェンジをする必要があります。
深井 そのためには、「自分は何がしたいのか」を突き詰める過程が必要になりますが、そのこと自体が分からない人も多いでしょう。でもそれも仕方ない。
 歴史的に見ると、自己実現のために働いている人は、人類史上現代人くらい。
 100年前までは「働くこと」は「生きること」と同義で、迷いなどなかったわけで、「自己実現のために働く」のはごく最近できた考えなんです。
そんな迷えるビジネスパーソンの道標となるのが「新たな学び」である。

例えばアートや歴史などの教養に触れることで気づきを得られ、自分自身のアップデートにつながっていくという。
小川 私が研究しているタンザニア人商人たちは、「あ、これ面白そう」と思ったらパッと取りかかる。やりながら学ぶスタイルなんです。 
 彼らは「有言実行」の概念や方向転換への拒否感がないので、身構えずに始めることができる。
 仮に失敗しても、「また何か違うことを考え直せばいい」という柔軟性があります。

収入源の一本化はハイリスク

とはいえ、日本人は収入面の不安から、なかなか新しいことにチャレンジできない風潮がある。そんな我々に、セッションメンバーは「収入源の複数化」を強く提案する。
森谷 今の日本の働き方で怖いのは、収入源が一本化されていること。大企業に勤務しているサラリーマンでも、ある日突然働けなくなるとも限らない。
 そんなとき、複数の経験や収入ルートを持っていないことは、本当にリスクが大きい。
久保田 「キャリア」って、足元がふわふわしている。
 私自身、会社の名前や肩書を取り払ってポンッと放り出されたら、自分は人のため世のため、お金を稼ぐために何ができるのか。
 考えてみたら、生きるベースがない気がします。
小川 タンザニア人の多くは路上商売をしていて、1年先どころか3カ月後に自分が何をやっているか分からない不安定さがあります。
 そうしたなかで生きていくために、彼らは、収入源を一本化しません。
 例えば古着商売をして儲かったら、その資金を事業拡大に使うのではなく、農地購入に費やすというように、異なる収入源を作り出そうとする。
 そうすると、何か失敗しても別の何かで食いつないでいけるので、面白そうなビジネスに挑戦できるんです。
タンザニアの露店商人は、サバイバル感を持ちながら、別の仕事で保険をかけたうえで次々と好きなことを始めている。片や日本人は、「所属感」は強いものの、サバイバル感を持って働く人は多くない。

そんな日本人の働き方に懸念を持つのが、タンザニア人と同様にサバイバルなお笑い業界で複数の仕事を持つバービー氏だ。
バービー ほとんどの日本人は、ゆったりと生活できているし、守られた仕事環境に憧れている人は多い。
 そういう人たちが、今後、時代から振り落とされていくことには危機感を持っています。
 今の50~60代は終身雇用でキャリアを築いてきたのに、それが急に評価されない時代に変わり、自分の寿命も延びていく。
 彼らの意識をどう変えて、社会は彼らをどうフォローしていくのかが気になります。
新しい時代の波に乗って前向きにキャリアを築こうとする若手世代と、「終身雇用で安心していたのに」と困惑する年上世代。

意識のギャップが生まれる中、ミドル世代はただ困惑するのではなく、「小さいことから始めてみる」ことが大事だと、話は展開していく。
森谷 “自分にいいところがない”と思いがちですが、僕に言わせればそんな人はいません。
 まずやるべきことは、どんな些細なことでもいいから、自分がやってきたことを友人知人に話してみること。
 そこで「マジ?」という反応が返ってきたら、それ自体が気づきになります。
 今まで自分では当たり前だと思っていたことが、他者からすると価値があるということ。肩ひじ張って勉強するのよりやりやすいし、時間も有効活用できます。
深井 あとは、今自分ができることを副業という形で、報酬の多寡を問わず、とりあえずやってみるといい。
森谷 私が取り組んでいる新規事業では、「小さくトライして小さく失敗する」を繰り返すんです。
 その過程で創意工夫してもっといいモノを作ろうね、という動き方です。
 日本の大手の新規事業の作り方は、ある意味社運を懸けて、大きく投資して大きなリターンを得ようとする。だから絶対失敗できない。
 そんな意識を捨てることから始めてみてはどうでしょうか。

「自分の外付けハード」という発想

小川 誰かと仲良くなって「外付けハード」を増やしていくという実践もあります。
 タンザニアの商人は、私が大学教員だと知ると、“レアキャラゲット”みたいな反応で喜びます。
 彼らは自ら多様な能力を身につけてサバイブしていくのは大変であり、自分とは異なる能力や資質、考え方を持つ人々と仲良くなって貸し借りをすることで、自分自身のできることが増えていくと考えるのです。
 そうした他動力を駆使して生き抜いていくのです。
バービー 恥ずかしいという感情を捨てて、さらに「失敗してもいいから」という気持ちで行けば、フットワーク軽く一歩踏み出せるのかもしれないですね。
森谷 いきなりバンジージャンプをするのが怖いなら、まずは身近な人に自分のやりたいことを話してみるのも、手だと思います。
 それに対する「いいね」というポジティブな反応が溜まったタイミングで、飛び込むんです。
深井 意外かもしれませんが、我々現代人は、ローマ皇帝よりいい暮らしをしているんです。一人ひとりがいいものを食べているし、ネットであらゆる情報を入手できる。
 つまり、我々はこれ以上望むべくもないくらい、生体機能が満たされている。
 そう考えると、今後辛い時代が来ても、一回満たされているんだから、どんどん好きなことをしていくといい。
バービー すごい時代の激流の中にいて、不安に思う方もいると思います。
 でも、人とのつながりを大切にする感覚を持ち合わせていれば、それだけでもやっていけるのかなという気もしますね。
イベント終了後、共同主催者の3人による鼎談を行った。メンバーは、ドコモgaccoの佐々木基弘氏、テレビ朝日の織田笑里氏、そしてパーソルホールディングスの工藤大助氏。

インターネット系企業と、放送局、人材関連企業による異業種同士のチャレンジイベントにも見えるこのイベントに彼らが込めた想いに迫った。

組織同士ではなく、個人のつながりから実現したイベント

──このイベント実施に至るまでの経緯や、このイベントに込めた意欲についてお聞かせください。
佐々木 年功序列が崩れて人生100年時代に突入した今、みんなが学び続けかつ働き続けなければならない。
 それをいかに前向きに捉えて社会人のみなさんにお伝えできるか、ずっと考えてきました。
 そんな折、パーソルさん、テレビ朝日さんと別々にたまたま話す機会があり、まったく違う業界の3社でイベントを行うと伝わりやすいかな、楽しいかな、という話になりまして。
織田 私自身、「変化の多い時代だからこそ新たな教養に触れることで、世界が少し変わって見えるのでは」「それをメディアとしてどう提案していけばいいか」と考えていた折でした。
工藤 僕自身も働く人を支援するには、いまある仕事とのマッチングだけでなく、未来のはたらく選択肢を広げるための学び続ける機会、新しい価値観を提供していくべきだと考えていました。
こうした三者三様の背景や、「会社から言われたことをやるのではなく、私たちが主体となってやりたいことをやろう」という共通の思いが重なった。
左より織田氏、佐々木氏、工藤氏
佐々木 まさに、会社というより、個々のつながりの中で生まれたイベント。緊急事態宣言下で顔を合わせられない中、オンラインでどんどん話が進んでいきましたね。

新しい教養に触れることは、新しい自分との出会い直し

──働き盛りのビジネスパーソンが「一生使える教養」や「学び」を自分のものにするためには。
佐々木 以前、NewsPicksさんの記事で「教養」による学びは、正解のない時代において「問いを立てる力」を養うことであり、「問いをたてる力」はビジネスにおいてはイノベーションを起こすための源泉となるとお伝えしました。
 ビジネスシーンだけでなく、人生100年時代においてより自分らしく生きていくための「教養」による学び、私たちはこれらの学びを「タイムレスウィズダム(生涯役に立つ知恵)」と呼んでいます。
 ビジネス上で即戦力となり得る「タイムリースキル」と、すぐには役に立たないけど生涯役に立つ「タイムレスウィズダム」。
 この2つをバランスよく兼ね備えるために、ついなおざりになりがちな「タイムレスウィズダム」、つまり教養を備えるために1日5分でも10分でも時間を作りたい。
織田 新しい教養に触れることは、新しい自分との出会い直しです。
 例えばアートは、作品を通じて作った人と対話しているわけで、作り手の想いを知ることで、写し鏡のように自分が普段何を感じているのか見えてくる。
 そして、これまでの自分は何を考えてきたのか、果たして本当は何が好きなのかについて、改めて考えさせられます。
 新たな自分を知ることで、日々が充実して楽しくなって。その結果少しずつ自己肯定感も上がっていくとしたら、その人の人生は豊かになるのではないか、と。
──教養は新たな自分との出会いでもあり、それがさらなる出会いを呼ぶのですね。
織田 テレビ朝日はもともと「日本教育テレビ」という名前で開局した放送局で、「学び」をテーマにした番組が多い気がしていて。
 SDGsの流れもあり、世の中の「教育」への関心が高まる中、放送局として「まなび」の新しいカタチを何か提案できないだろうか?と考えていたんです。
 だから、このイベントの話が盛り上がってきたとき、縁があるなぁ、と。この話に共感してくれる方と、さらに縁を広げていきたいですね。
佐々木 ぜひ広げましょう。こうして振り返ると、我々3人の出会いは本当に素敵だった。つくづく、世の中は縁の世界だと実感します。
 ただ、日々の中でそれを引き寄せるためには、やはり教養がベースになってきます。
 例えば、マーケティングなどのビジネススキルより、「私は芸術の何々が好き」というほうが、その人の人となりが分かりやすいですよね。
 こうした姿勢こそ、新たなつながりを呼ぶと思います。
最後に「今回得られた縁を糧に、パーソルは今後、“はたらく”と“まなぶ”をつなげる領域に注力していきたい」と語る工藤氏。

私たち社会人も、新しい教養と触れ合い、気づきを得て、自らをアップデートしていこうではないか。
本イベントはテレビ朝日ドコモgaccoパーソルの三社が共同で開催しました