2021/4/23

「SNSをやらない」選択肢がない時代に私たちは子どもを守れるのか

NewsPicks Brand Design editor
警視庁の発表によると、2020年のSNSに起因する犯罪の被害児童数は1819人。被害者が利用したSNSのワーストトップはTwitterで、TikTokとKoetomoが初のランクインとなった。となれば、 TikTokに対して、「危険なSNS」という印象を持つ人もいるだろう。
しかし、実はTikTokでは子どもを守るための機能を年々強化してきた実績がある。未成年者自身の安全意識向上のため、クリエイターとコラボした「届く」安全啓発動画の制作などにも力を入れる。
子どもがSNSを使うことにはどのような危険があるのか。それに対して、プラットフォーマーや大人は何ができるのか。TikTokを運営するByteDanceが開いたトークイベント「TikTok Japan Safety Round Table」に参加し、「SNSをやらない」選択肢がない時代のSNSの安全性について考える。

SNSの児童被害はなぜ生まれるのか

スマホやSNSの登場は、新たなコミュニケーションや情報発信を可能にしたが、同時にオンラインコミュニケーションならではの新たなトラブルも生まれた。大人だけでなく、子どもが巻き込まれるケースもあり、社会問題化している。
ネット教育アナリストの尾花紀子氏は、昨今のSNS上でのトラブルについてこう話す。
「保護者や教員など、大人のリテラシーが高ければ、子どもたちがこれほどトラブルに巻き込まれることはないはずです。しかし、スマホやSNSに触れるようになってからの年数は子どもも大人もほとんど同じです。
それゆえ、どのようなトラブルが起こりうるのか、それを避けるにはどうすればいいかが大人にもわからず、大人が想像し得ないトラブルに子どもたちが巻き込まれています。
以前は金銭の絡むトラブルが多かったのですが、現在は子どもたちの心、体、あるいは将来、もしくは今生きている、リアルな足元をすくわれてしまうようなトラブルが増えていると感じます」
昨年1年間に起訴された事件で、SNSの利用をきっかけに犯罪に巻き込まれた18歳未満の子どもは全国で1819人(警視庁まとめ)。
短い映像配信に特化した「TikTok」は、2018年から日本で急激に浸透した。SNSでも後発組だが、悪用されたSNSとしてワースト4位という不名誉なランキング入りを果たしてしまった。
TikTokを運営するByteDance株式会社の山口琢也氏は、これまでシリコンバレー系のテックカンパニーを渡り歩いてきた。
前職での経験も活かし、公共政策本部長として政府・自治体との交渉や協業提案だけでなく、子どもをはじめ、ユーザーが安心して利用できる環境整備にも力を入れている。
「私が入社したのは2018年ですが、公共政策担当として入社したのはグローバルで初めてでした。公との連携だけでなく、青少年にとって健全な環境を整えていくことにも、日本法人は力を入れている。ですからなおさら、今回の結果を重く受け止めています」(山口氏)
たとえば、ほかの多くのSNSと異なり、TikTokでは、DM(ダイレクトメッセージ。ユーザー間でのクローズなメッセージのやり取り)で写真やTikTok以外の映像を送信することができない。
また、16歳未満のユーザーに対しては、それ以上に制約を設けている。昨年4月には、そもそもDMの利用を不可能に変更した。
今年1月にも、青少年ユーザーが自分のアカウントを公開するかどうか、また何を誰と共有するかについて自身の選択に基づいた情報共有を可能にするため
など、多くのルール変更を行った。
ライブ配信機能を16歳以上のユーザーに限定する、仮想ギフトの購入、使用、受け取りは20歳以上のユーザーに制限するなど、TikTokの青少年に対する施策はほかのSNSと比べても遜色ないどころか先行している部分もある。
それだけ対策していてもワースト4位となってしまったのは、一体何が原因なのだろう。

SNSを「またいだ」犯罪が増えている

要因のひとつが、被害が明らかになるのが事件化されてからだということだ。発生から公表されるまでタイムラグがあるために、安全への取り組みの成果が数字として見えるのにも時間がかかる。
もうひとつが、ひとつのSNSで犯罪が完結するケースが少なくなっていることだ。複数のSNSを使うのが当たり前の世の中では、SNSが単体で監視の目を厳しくしても、「連絡は◯◯で取り合おう」などと、「出会いの場」と「犯行の場」が異なる事件が増えている。
「TikTok上では当たり障りのない普通の会話に留め、ほかのSNSに誘導し、そこで友達感を醸成したうえで、『友達なんだから写真交換ぐらいしてくれるよね』と、徐々に要求をエスカレートさせていくのです。
ですからほかと歩調を合わせて安全な環境を構築しなければ、被害を防ぎきれません。われわれも最善を尽くしてやってきたものの、内部的にも、外部的にも、これまで以上に緊張感をもって臨まなければと感じています」
iStock.com/ferrantraite
TikTokは安全への取り組みとして、「ルールの整備」「ツールの整備」「教育啓発の推進」「連携の推進」の4本柱を掲げる。
現在、ほとんどのSNSは対象年齢が13歳以上に設定されているが、SNS側の対策によっては小学生でも使えてしまうことも多い。今年2月より、「ルールの整備」の一環として、TikTokでは全ユーザーに年齢認証を求めた。
すでにあげた機能の制限や、自己の判断で公開範囲を設定できるように促すのが「ツールの整備」。誹謗中傷対策も充実させている。
この3月からはフィルタリング機能を強化し、オンにすると、全てのコメントが自分で承認しない限り、基本的には表示されなくなる。
また、コメントを投稿する前に再検討を促す機能も搭載した。いじめや嫌がらせにつながるキーワードが入ったコメントをAIが検知すると、「本当にこのコメントを投稿しますか?」と確認される。
加えて、全世界でも初めてペアレンタルコントロールを導入した。「教育啓発の推進」についても、大人も巻き込んだ啓発に努める。
「学校での安心安全教室、青少年と親御さんが一緒に参加して使い方を学ぶセミナーなどを開催しています。
教員や保護者世代でTikTokを使っている人がまだまだ少なく、そうした方に実際に使ってもらうことで、何が楽しいのか、どこが危険なのかを感じていただく。また、その場で会話しながら、一緒にペアレンタルコントロールを設定してもらう。
アプリへの理解だけでなく、 青少年と保護者世代のお互いの理解も促進できればと考えています」(山口氏)
「危険だから触らせない」と保護者が決めても、子どもの行動を完全に制御することは不可能だ。
この4月からのGIGAスクール構想により、全国的にほとんどの小中学校で「1人に1台のパソコン(タブレット)」が実現する。端末は全国で統一されたものではなく、選定は自治体や学校に委ねられている。
「子どもたちの安全を守りながら学習活動に使えるように」とされているものの、運用についての裁量も大きい。
子どもの安全のためには、彼らに使い方を教え、守る立場である大人も意識を変える必要があると尾花氏は話す。
iStock.com/itakayuki
「個人のスマホはペアレンタルコントロールにより夜9時で時間制限がかかっても、学校から渡された端末に時間設定がされていなければ、ネットを見続けることができます。
家に持ち帰らせない学校、家では設定を変更できないようにして持ち帰らせる学校など、対応はバラバラです。学校と保護者が協力して『家庭ではこういう設定で使わせましょう』と踏み込んで取り組んでいるところもありますが、それは一部のケースでしょう。
これまでも大人同士が遠慮したり、牽制し合ったりした結果、子どもが被害に遭ってきました。緊密な連携の構築や学校・保護者・青少年の相互理解を進めるべきです」(尾花氏)

「何が楽しいのか」を大人も理解しなければいけない

ユーザー目線での啓発もTikTokの安全対策の特徴だ。一般的に啓発動画は上から目線、一方通行になりがちで、さらに内容として「重い」ことから、他の動画に比べて、なかなか見てもらえないという課題がある。
しかし、「TikTok安全推進チーム」が2019年8月から公開している誹謗中傷、児童ポルノ被害、ネット詐欺、違反ユーザーや動画の通報方法など、計38本の啓発動画は累計再生数が3700万回以上に上る。
これだけ再生されるのは、TikTok内で活躍するクリエイターとコラボし、コント仕立てやオリジナル楽曲を作成するなど、クリエイターから安心・安全のための心構えを伝える構図になっているからだ。
これならば、ほかの動画と同じように青少年のユーザーでも受け入れやすく、心に響く。
対策の4本柱のうち「連携の推進」については、2018年に「セーフティーパートナーカウンシル」を立ち上げた。これは関連するNPOや学識経験者、政府関係者などから意見を聴取し、最新の動向や喫緊の課題を確認するための場だ。
さらには、ユーザーである子どもたちの「感性」の部分も理解しなくてはならない。
「なりたい職業のトップにYouTuberやTikTokクリエイターが挙げられる時代ですから、『たくさんの人から注目されたい』『自分の名前(=実名)を知ってもらいたい』というのが彼らの感性なのです。
私自身の感性とも異なりますが、事業者側だけでなく、保護者も警察も、『そういう時代だ』と理解して対策を講じなければいけません」(山口氏)
TikTokとしては、安全・安心な環境を整えることで、インターネットやSNSの暗い部分にだけ目が向いている現状を変えたいという思いがある。
「『瑛人』『YOASOBI』をはじめ、新しいアーティストがTikTokから生まれています。リアルではつながれなかった人に、自分の映像や楽曲が届けられます。
クリエイティビティを発揮し、人とつながるというTikTokが本来目指している価値観を、青少年だけでなく、大人の皆さんにも共感していただきたいのです」(山口氏)
危ない部分を理解することは当然重要だが、そこを押さえた上で、「こんなふうに使うと、人生が豊かになる」「予想もしなかった展開があるかもしれない」という明るい部分も見てほしい、ということだ。
便利ながらも、使い方によっては危険な目に遭うこともあるという点で、スマホやSNSと自動車は似ている。
「自動車は運転する前に免許を取ります。教習所では、運転の仕方だけではなく、世の中のルール、交通ルール、運転を避けるべき心理状態など、さまざまなことを習い、試験に合格して初めて免許がもらえます。
しかし、今の子どもたちにとってスマホやSNSは、幼いときから身近にあるのが当たり前。一般常識すら身につかないうちに、『まず使う』ことから入ってしまい、使い方や注意点は後追いで教えていくのが現状です。
それを事業者だけでなく、大人や社会がよりよいかたちに変えていけるかが問われているのです」(尾花氏)