2021/4/16

続々立ち上げ。ラクスル流「シリアルイントレプレナー」の育て方

NewsPicks Brand Design ChiefEditor / NewsPicksパブリッシング 編集者
 2020年4月23日、ラクスル株式会社は広告のプラットフォーム「ノバセル」を正式にリリースした。
 これは、印刷・集客支援の「ラクスル」、物流の「ハコベル」に続く、第三の新規事業という位置づけになる。
 ラクスルは創業以来、数兆から数十兆の市場規模を持つレガシー産業を、次々と変革してきた。売上高は年々増加し、2020年には200億円を突破。2021年も成長を続けている。
 どうしてラクスルは、骨太な事業を連続して生み出せるのか。
 CEOの松本恭攝氏曰く、その鍵は「事業家人材」にあるという。
ビジネスの構想を立て、サプライチェーンを築いて、ビジネスアライアンスを組んで、ユーザーエクスペリエンスの高いサービスを定義し、それをテクノロジーのチームと一緒に開発し、出来上がったサービスをマーケティングしていく。
これらすべての工程をリードし、売上をつくっていく人が、『事業家人材』です。
 果たして、そんなスーパービジネスパーソンはどこにいるのだろうか?
 メルマガ担当として採用され、30代でラクスル関連会社のCxOになった安井一浩氏のインタビューと共に、事業家人材のリアリティを訊いた。
INDEX
  •  BtoB開拓チャネルとしてのノベルティグッズ事業
  • インターネット時代の事業家人材は希少価値がある
  • ビジョンは単なる掛け声ではない
  • メルマガ担当者から事業責任者へ
  • 一つずつスキルを身につけ、経営者へとランクアップしていく
  • チャレンジは早いほうがいい。大企業では得られないスキルとは

 BtoB開拓チャネルとしてのノベルティグッズ事業

──創業から10年経ち、東証一部上場も果たしました。もはや、「メガベンチャー」として成熟した会社のようにも見えます。
松本 外からはそう見えるのかもしれません。でも、それは半分正しく、半分そうでありません。
1984年富山県生まれ。2008年に慶應義塾大学商学部を卒業し、コンサルティング会社のA.T.カーニーに入社。M&Aや新規事業、コスト削減プロジェクトなどに携わる。その過程で印刷業界の非効率さ、コスト削減効果の高さに気づき、09年にラクスル株式会社を設立。同社代表取締役社長CEO。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに巨大な既存産業にインターネットを持ち込み、産業構造の変革を行う。
 我々は、印刷・物流・広告という3つの業界のプラットフォームを構築していて、そのなかにいくつもの事業を展開しています。
 でき上がっていない部分はまだまだあります。印刷業界ひとつをとっても、チラシ以外の新しい事業がいくつも生まれる余地があります。
 チラシは印刷業界のなかで一番需要が大きい領域ですが、全体の2〜3割なので、まだ7〜8割はチラシ以外の需要があります。
 印刷から派生した最初の新規事業である、チラシの折込・ポスティングの事業は、30億円を超える事業に育っています。印刷市場の中で一番需要が多いのがチラシ市場です。
 ラクスルはチラシの分野で印刷EC市場で一番成長できる企業になりました。チラシを一番便利に、安く、短い納期と良いユーザーエクスペリエンスで提供する会社になった。これはもう、完成された事業といっていいでしょう。
──印刷事業でも、他にもまだまだ新事業の創出を進めていると。
 ええ。やるべきことは無数にあります。
 サイズ感としては、この図のように1つの産業領域のなかの一事業を5年で100億円くらいの売上をつくれるサイズに広げていきたいと考えています。
 世の中を変えていくくらいの、大きなインパクトをつくれる事業を選定しているんです。どんなに小さくても1000億円くらいのマーケットでないと、事業計画は進めません。
 そうした事業の“弾”をいくつも用意しています。例えば、一つイメージをシェアすると、チラシから派生した「集客」のサービスとして、日本中の看板にオンラインから出稿できるというサービスもアイデアの一つです。
──看板って広告が出ていないときには、「こちらにお問い合わせください」という電話番号が書いてあったりしますよね。とてもアナログな出稿システムになっていそうです。
 そう、仕組みが変わっていない業界なんです。それを変えるために、日本中の看板の空き状況を「在庫情報」として集約するシステムをつくる。そして、ラクスルの130万のユーザーに販売をしていく、このような事業を考えることもできます。
 看板の業界も1000億以上のマーケットがあります。1つずつの事業の“弾”が、1つのスタートアップくらいのサイズはあると考えています。
──最近、立ち上がった新規事業でうまくいっているものはありますか。
ノベルティグッズの印刷事業は2年前に立ち上げ、現在10億円弱くらいの売上になっています。
Tシャツやマグカップの他にもお菓子やマスク、トートバッグ、ノート、ボールペン、モバイルバッテリー、タオルなどさまざまなものが、印刷によってノベルティグッズになります。
 ただノベルティグッズの印刷事業のポイントは、実はノベルティグッズという商品そのものではありません。BtoCの販路しかなかった企業がBtoBマーケットを開拓する機会になることなんです。
──BtoCのメーカーがBtoBマーケットを開拓する、ですか?
 そうです。例えば、ラクスルのサービスでは、森永製菓のハイチュウやダースのパッケージに「創業10周年」といった印刷を入れたり、象印のステンレスタンブラーに企業ロゴを入れたりすることができます。ノベルティグッズでよくある筆記具も、三菱鉛筆やゼブラ、ぺんてるといったメーカーの製品を取り扱っています。
 こうした日本の大手メーカーはこれまで、BtoBマーケットを開拓できていませんでした。ノベルティグッズはたいてい、外国産の安い製品が使われていたからです。
 そこで、ラクスルは大手メーカーと提携して、国内企業の製品にノベルティ印刷をできるようにしたんです。ラクスルがノベルティグッズという印刷の一領域に進出しただけでなく、BtoCがメインだった大手メーカーのBtoB販促チャンネルをつくった。
──社内で次々に新しい事業を創るのは、どういうスキルや役割の人なのでしょうか。
 ラクスルではこうした新しい事業を立ち上げ、軌道に乗せる人材のことを「事業家人材」と呼んでいます。

インターネット時代の事業家人材は希少価値がある

──「事業家人材」は、ノベルティグッズのケースでどういう働きをしたのでしょうか。
 まずはマーケットの分析です。顧客のニーズの確認とサプライの状況を把握する。
競合の調査をするなかで、どこに業界の歪みが存在しているのか、顧客のニーズとサプライにギャップがないかを調べます。ギャップがあれば、そこを埋めるようなサービスを設計する。
 ノベルティの場合は、国内の大手メーカーの製品をノベルティグッズにしたいというニーズがあったけれど、それに対するサプライがなかったわけです。また先程お伝えしたとおり、BtoCの大手メーカーでも、BtoBの販路は拡大できていなかった。
 大手メーカーに製品を提供してもらうには、アライアンスを組む必要があります。ここでは条件の交渉なども発生します。そして最終的にはオペレーションを構築して、ウェブサイトをつくり、マーケティングをしてお客様に販売していく。
 言い換えると、ビジネスの構想を立て、サプライチェーンを築いて、ビジネスアライアンスを組んで、ユーザーエクスペリエンスの高いサービスを定義し、それをテクノロジーのチームと一緒に開発し、出来上がったサービスをマーケティングしていく。
 これらすべての工程をリードし、売上をつくっていく人が、事業家人材です。
──企画からリサーチ、アライアンス、サプライチェーン構築、プロダクト開発、マーケティングと、そんな多彩なスキルを持ち合わせた人材は、そういないのでは。
 もちろん、初めからいくつものスキルを兼ね備えていなくてもいいんです。経験がないからといってやれないかというと、そうではない。
 ラクスルで今、事業家人材として活躍しているメンバーも、必要なスキルを最初からすべて持っていた人はいませんでした。みんな、未経験の仕事にチャレンジし、事業をつくっていく過程でスキルを身につけていったんです。
 ラクスルには、コンサルティングファームや消費財メーカー、自動車メーカー、金融、ITなどさまざまな業界の出身者がおり、転職前の職種もマーケティングや製造オペレーション、生産管理、事業開発、営業などバラバラです。転職前のスキルは事業を立ち上げる際に当然役立ちます。
 例えば、商社出身だったら、取引先とのアライアンスを組むという部分に強みがある場合が多い。その上で、ラクスルでの事業開発を経験すると、テクノロジーを活用してプロダクトをつくり上げていくスキルを身につけることができる。
 この部分を網羅すると、インターネット時代に事業をつくれる21世紀型の事業家人材になれるんです。既存の業界からはなかなか出てこない、希少な人材です。

ビジョンは単なる掛け声ではない

──スキルをすべて持っていなくてもいい。となると、事業家人材に必要な資質とは何なのでしょうか。
 ビジョンとパッションです。我々のビジョンは、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」です。テクノロジーを使って新しい仕組みをつくり、21世紀のデファクトスタンダードになっていく。新しい世の中をつくっていく。
 こうしたビジョンに共感し、それを実現するための情熱を持っていることが、事業家人材においては特に大事です。
──ビジョンへの共感が大事、とはよく聞くことですが、どうして必要なのか、もう少し具体的に教えて下さい。
 端的に言えば、易きに流れず価値の高い事業を創るためです。
 事業をつくっていく過程では、当然いくつもの壁にぶつかります。そうしたとき、易きに流れるのは簡単です。既存の業界を同じことをやれば、当面の売上は立つ。
 そうではなくて、テクノロジーを使って、新しい仕組みをつくり、オフラインをオンラインに切り替えていく。これは試行錯誤が必要で、難易度の高いチャレンジなんです。
 その上で、我々は事業家として、大切にしている価値観が3つあります。それを「Raksul Style」という行動指針で示しているんです。
1つ目が「Reality(高解像度)」。現場を観察し、生産方法やバリューチェーンなどの理解を深める。よいプロダクトをつくるには、エンジニア以外のメンバーもシステムに関する解像度を高めたり、マーケターでなくてもデジタルマーケティングを学んだりする必要があります。
2つ目が「System(技術・仕組み化)」。仕組み化やテクノロジーで問題解決をすることです。
そして、3つ目が「Co-Operation(互助連携)」。一人では事業はつくれないので、パートナー企業、社内の他部署のメンバーと連携して成果を出していく必要があります。
──この3つの行動指針は、ビジョンを実現するために必要なんですね。
 ラクスルの場合、ビジョンというのは掛け声ではなくプラットフォームそのものなんです。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」がサービスに落とし込まれた状態が、ラクスルが展開する印刷や物流、広告のプラットフォームです。
 そして、サービスに落とし込むときには、Reality、System、Co-Operationが必要なんです。
 ビジョンとパッションがあれば、そういった事業を次々創っていけるのが、ラクスルの事業家人材です。
──かなりたくさんの経験が必要そうですが、事業家人材はどんなキャリアや世代の人が多いのでしょうか。
 社内では、30代でスタートアップのCxOのような経験を積んでいるような人材が何人もいます。
 具体的な事業家人材としてのキャリアについては、印刷事業のメルマガ担当で入社して、今はペライチCOOとして活躍している安井に聞いてみるといいでしょう。

メルマガ担当者から事業責任者へ

ラクスルで活躍する「事業家人材」。今回はそのなかでも、ラクスルが株式を取得したホームページ作成SaaSのペライチ社に出向している安井一浩氏に話をうかがった。ラクスルでメルマガ担当として採用され、マーケティング部長を務めた後、ペライチの取締役COOに就任した安井氏は、どのようなキャリアを経て事業家人材となったのだろうか。
──安井さんは今、ペライチでどのような役割を担っていますか。
安井 マーケティングやカスタマーサポートが主な管轄ですが、サービスそのものをどうやって伸ばしていくかという事業戦略も担当していますし、戦略に伴って組織も変える必要があるため、人事制度や採用の部分にも携わっています。マネジメントとして全体をみている感じですね。
 ペライチはこれまで、テンプレートなどを使ってウェブのランディングページを簡単に作ことができるCMS型のSaaSがメインのサービスでした。
 ランディングページのマーケットはそこまで大きくない上に、ユーザーの利用状況を見ると、公式のホームページとして活用しているユーザーが多かったんです。なので、決済や予約などの機能を拡充し、法人向けサービスの方向に舵を切ろうとしているところです。
──ユーザーの「解像度」を上げたら、最初のコンセプトとは違うニーズが見えてきたんですね。安井さんはリクルートから転職されたとうかがっています。そもそも事業の立ち上げがやりたくてラクスルに移ってきたのでしょうか。
 それで言うと、僕はメルマガ担当としてラクスルに入社したんですよ。
東工大土木大学院卒。リクルートコミュニケーションズで求人広告の制作、ブライダル広告の制作、旅行広告の制作、内製業務の外部移管、WEB制作、WEBサービスのUIなど9年勤務後、2014年12月にラクスルに入社。ポスティング、新聞折込など集客支援事業を売上10倍規模に育てる。その後、新たなラクスルの基盤サービスであるオンラインデザインの責任者として利用率向上に寄与。マーケティング部長で成長をけん引。2020年10月よりペライチCOO。
──マーケティング担当の業務としてメルマガを書いていた、とかではなく?
 入社当時は本当にメルマガだけをやっていました。それまでのメルマガ担当者が退職し、その後任として採用されたんです。
 メルマガで実績を出していくと、だんだん違うことも任されるようになっていきました。印刷の商品追加担当などを経て、折込チラシやポスティングの責任者になったんです。まだ、折込・ポスティング事業の月商が500万円くらいで、成長するかどうかもまだ未知数という段階でした。
──今は30億円規模の売上があると聞きましたが、そんなに小規模なビジネスだったんですね。
 最初のメンバーはエンジニア2人とデザイナー1人、あとは僕でした。
 はじめは折込やポスティングについての知識も乏しかったので、サプライチェーンがどうなっているのか、競合はどういうサービスを提供しているのかということから調べていきました。
 事業開発を2年くらいやって、月商が1億くらいまでいった段階で後任に渡して、次の事業をやることにしました。
──500万円が1億円に。どういったことをやっていったのでしょうか。
 これをやったから、売上が大幅に上がったというよりも、いろいろなことを地道にやりました。サービス対象エリアを全国に広げたり、UIを使いやすくしたり、価格を地域ごとに適正にしたり、LPを改善したり、いろいろなマーケティングを試したりと、細かな改善の積み重ねですね。
 それでユーザーが欲しいものが提供できている状態になると、放っておいても売上が伸びるようになっていくんです。
──折込・ポスティングの事業責任者になったときは、どんなことが大変でしたか。
 ポスティングを提供してくださる会社との契約や価格交渉などはやったことがなかったので、難しかったですね。この経験から、委託先開拓のスキル、UI改善のスキル、開発のスキルが身につきました。

一つずつスキルを身につけ、経営者へとランクアップしていく

──折込・ポスティングの次はどんな事業に挑戦したのでしょうか。
 オンラインデザインです。これは、自分でやりたいと手を挙げて、チームの組成から開発まで全部やりました。この事業で採用のスキルと中長期の事業戦略のスキルを身につけることができました。
──どんどんスキルが増えていっていますね。
 事業責任者をやると、必要にかられてスキルを習得していくので、意欲も高いしスキルの伸び方も速いと感じます。事業目標を達成するために必要なスキルをがむしゃらに身に着けていくことになります。
 今は取締役なので、財務やコーポレート系の仕事にもチャレンジしています。最終的には経営者として全部できるようになれたらいいなと。
──メルマガ担当から考えると、すごいレベルアップですね。
 たしかに(笑)。ただ、バラバラの固有なスキルが増えたというよりも、どうしたら事業を成功させられるかといったメソッドが身についていると感じます。
 だから、ペライチの成功にも貢献できるはずですし、もしほかの会社に転職したり、起業したりしても、うまくいくだろうと思っています。
 転職市場では業界が違うとバリューを出すのは難しいと考えられていますけど、事業開発は考え方や視点は共通している部分があるので、普遍性が高いんです。
──失敗することはないんでしょうか。
 それは自分に限らず、役員陣はみんな失敗して苦労してきています。
 ラクスルでは任された事業で失敗したからといって、それでダメというようなことはありません。なぜ失敗したのか、そこからちゃんと学べば、またチャレンジすることができる。
 それって、松本自身もラクスルを経営する中でいろいろ失敗してきているからなんですよね。新規事業がそんなに高い確率でうまくいくものではない、ということも理解している。

チャレンジは早いほうがいい。大企業では得られないスキルとは

──起業したわけでもなく、30代で取締役COOになり、順風満帆にキャリアを積み重ねている実感はありますか。
 そうですね。周りに助けてもらいならも、急成長できていると実感します。
 でも、もっと早くチャレンジすればよかったと思うこともあります。僕の場合は33歳で転職したんですけど、27、28歳あたりで転職しておけばよかったなと。
 弊社のCFOの永見やCMOの田部は同年齢で、最初の会社を入社3年、4年で辞めているんですよね。僕もそれくらいで転職していたら、もっと経験が積めたと思います。
 以前は、長く働いたらそれだけ高いスキルがあると見てもらえると思っていました。でも採用する側になったら、大企業で長く勤めている場合、他の会社や業種では応用できないスキルがあるだけに見えてしまう。
 時間は取り戻せないので、チャレンジは早いほうがいいですよ。
 ラクスルでは、同じ仕事で役職が上がっていくのではなく、より広い役割にアサインされていくんですよね。求められることのレイヤーが上がっていくと、自分の専門性だけで戦っていると達成できなくなっていく。
 だから、ポータブルスキルがどんどん増えていくんです。
──ラクスルの場合、事業責任者のポストは上が詰まっていたりしないのでしょうか。
 事業のタネはたくさんありますし、スタートアップのピッチのように経営陣に企画をプレゼンして、通ったら事業化されることもあります。事業責任者は足りないくらいだと思いますよ。
 起業してみたい、経営者になりたいという人にとっては、資金や人材が用意されている状態で事業の立ち上げができるので、すごくいい経験になると思います。
 僕自身、いつかは経営者になりたいと思っていたんです。ラクスルでそのステップを一つずつ歩んでいるという実感があります。
──最後に、ラクスルの方を取材するとみなさん質実剛健というか、逆に言うと、「キラキラ」スタートアップという軽薄な印象ではない感じがします。もちろん褒めています(笑)。
 さきほど松本さんが看板のオンライン出稿サービスのアイデアを話されていました。IT系のスタートアップだと「最先端のデジタルサイネージを開発」といった方向の「キラキラ」した派手な事業を考えそうですが、ラクスルはどうもそういう雰囲気ないですよね。地に足がついているというか。
 そうかもしれませんね、長い時間軸でどっしり構えて、面倒なことも地道にやっている(笑)。
 ただ冷静に考えて、まったく新しい電子看板を開発したとして、最初に生産できるのはせいぜい数百台ですよね。それじゃあ業界の一部しか変わらない。だったら日本中の看板の情報を集約して、出稿の部分からデジタル化していったほうが、最終的には大きな変化を起こすことができる、そういう考え方です。
 あとスタートアップでよくあるのは、ソフトウェアだけで完結させようとすること。これもラクスルではやらないですね。なぜかと言うと、システムだけつくっても産業は変わらないから。
 サプライヤーともユーザーとも向き合って、既存の産業に入り込んでいくからこそ、変革を起こせる。それって泥臭いし時間もかかるから、あまり他の会社はやりたがらない。そこが競合優位性になっているんです。
 ラクスルでは、「世界を変えるにはどうしたらいいか」とリアリティをもって真剣に考えているから、地に足がついているんだと思います。