(ブルームバーグ): 星野リゾートは、新型コロナウイルス禍後を見据え、3-5年以内に同社として初めての北米大陸の宿泊施設となる和風温泉旅館の開業を計画している。同社の星野佳路代表が3月26日のインタビューで話した。

星野氏は温泉旅館という形式は宿泊施設としては特殊で、「日本文化のテーマパーク」のような要素があると話す。候補地として温泉資源の豊富な西海岸のロッキー山脈沿いや、東海岸のニューヨーク近郊のサラトガ温泉などがあり得るという。

「北米は星野リゾートとして絶対行きたい場所」だとし、コロナ禍の終息後にいち早く実現したい考えを明らかにした。具体的な投資額などについては場所が未確定だとして回答を控えた。

同社は4-5年前から北米本土への進出を検討しているものの、感染拡大で人の移動が制限されたことから現地の不動産デベロッパーや投資家との協議が中断されているほか、往来が制限されている状況下では開業に向けた人材の育成も難しい。コロナ禍の終息後に協議を再開させたい考えだ。

星野リゾート(旧・星野温泉旅館)は1914年に軽井沢で開業。4代目の星野氏は91年に代表に就任後、経営が破綻した大型リゾート施設などの再生にも着手。国内43カ所、海外はハワイ州ホノルルのホテルを含む3カ所にまで事業を拡大させ、今夏までに海外で四つ目となるホテルの運営を中国の浙江省で始める予定だ。

危機をチャンスに

同社はこれまで、バブル崩壊とその後の不良債権の処理、リーマン・ショックなど経済状況を一変させるような危機を契機に運営拠点を増やしてきた。星野氏は、バブル崩壊後に外資系ファンドと連携したことが成長につながったと振り返る。新型コロナの世界的な流行が観光業全体に打撃となる中で「声を掛けていただく数がすごく増えている」と明かした。

米投資ファンドのブラックストーン・グループは25日、近鉄グループホールディングスから京都市や大阪市などにある8軒のホテルを取得すると発表した。こういった事例を踏まえ「われわれに運営させていただける案件は真剣に取り組んでいきたい」と意欲を示した。

「やはりデフレの中や、数年間続くような供給過多のときにこそわれわれが必要とされる」と語る。星野リゾートは観光業が急激な需要減少に直面した昨年でも利益を確保できており、足元ではインバウンド需要の消滅で経営が困難になった京都の旅館の再生などを進めているという。

同社は昨年5月から、自宅から1-2時間の「マイクロツーリズム商圏」内での小旅行を提唱。近場の観光を割安に体験できるプランを独自に販売することで域内の宿泊施設の稼働率を向上させている。

県境ではなく商圏で

 政府は感染状況が落ち着いている都道府県で、同一都道府県内の旅行に限定して1人1泊当たり7000円を上限とする観光支援を4月1日から順次開始する。

星野氏は、鳥取県米子市の住民が旅行する場合には、他の温泉よりも島根県の玉造温泉の方がアクセスが良いという事例を挙げ、支援対象を同一の都道府県内の旅行に限定するよりも自宅からの一定距離の商圏で区切る方が合理的との考えを示した。

また、土日やゴールデンウィークなど補助がなくても客室の埋まる時期を対象から外すか補助金を減額することで、利用者の殺到を回避して感染の防止につながるほか、需要の平準化にもつながると指摘した。

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