2021/3/26

企業も人も乗り遅れるな、eスポーツのビッグウェーブに

NewsPicks Brand Design editor
国際大会での正式種目化が有力視され、世界中で盛り上がりを見せるeスポーツ。コロナ禍でのステイホームの影響で、自宅で楽しめる娯楽としても注目されている。
市場の売り上げ規模や賞金総額も拡大し、無視できないマーケットに成長する一方で、日本での認知は低い。「ゲーム=ただの遊び」という感覚を持つ人も、いまだに多いのではないだろうか。
しかし、ワンメディア代表の明石ガクト氏は「eスポーツは遊びではない」「仕事にも通じる要素がある」と話す。元朝日放送アナウンサーでeスポーツキャスターに転身した平岩康佑氏も同様だ。
そんな2人が、企業やビジネスパーソンこそ理解すべき「eスポーツの世界」を語り尽くす。

この状況を「知らなきゃマズイ」

──eスポーツに馴染みのないビジネスパーソンに向けて、まず「eスポーツとは何か」の説明からお願いします。
明石 僕がまずNewsPicksの読者に伝えたいのは、今のゲームは遊びじゃないということ。チームワークと戦略が必須の頭脳戦だし、勝つためにはPDCAを高速回転させた練習が必要。
 しかも、世界大会にはグローバル企業が次々と協賛しています。NewsPicks読者には「この状況を知らないとマズイよ」というのをお伝えした上で、平岩さんにバトンタッチします(笑)。
平岩 ありがとうございます(笑)。
eスポーツは、すごく平たく言えば「ゲーム大会」です。その規模が世界的に拡大し、エンタメとしてもクオリティが高まっているのが現状。
 日本で人気の「ゲーム実況」は、実況者の技とトークをセットで楽しむコンテンツですが、今は技を極めたプロゲーマーたちの真剣勝負を見ることに、エンタメとしての価値が上がってきました。
 実際、「eスポーツ元年」とも言われている2018年は、いろんな企業が参入して今までにない予算規模での大会が行われるようになり、市場規模は2017年の13倍に。
定義は曖昧ですが、ゲーム人口は世界で約27億人、競技者は世界で約1億人にまで増えています。
明石 定義が曖昧なのは、ゲームタイトルごとに競技者とファンが違うからですよね。
 オリンピックという枠組みの中にいろんなスポーツがあるように、eスポーツの枠組みの中にも、いろんなゲームタイトルがあるとイメージするとわかりやすいと思います。
平岩 そうですね。たとえば、世界的に人気の「フォートナイト」というオンラインゲームは、2020年6月に世界の登録者が3億5000万人を超え、2019年の世界大会は賞金総額が110億円という規模で開催されました。
明石 「フォートナイト」にハマっている有名人もたくさんいます。
 子どもたちの間では、当たり前のようにみんなが集まって遊ぶ「現代版の空き地」状態になっています。
 トラヴィス・スコットや米津玄師も、2020年に「フォートナイト」内でイベントを開催して話題になったので、ゲームをプレイしない人も知っているかもしれません。
平岩 「スター・ウォーズ」の新映像も「フォートナイト」で独占公開されましたよね。集まったプレイヤーにライトセーバーが配られて、突如戦いが始まるなど、その時間・場所だけのエンタメもたくさん生まれるようになりました。
明石 こうした状況や市場規模、賞金規模、世界の動きからしても、数年後にはeスポーツがフィジカルなプロスポーツと同じように市民権を得るのは必然の流れ。このムーブメントに早く乗っからないと損だと思います。
©ZIIINVN/iStock

「0.5秒」の判断が必要とされる

──ムーブメントを後押しする要因は何でしょう。
明石 今までは、eスポーツに本気で取り組もうと思ったら、高価なゲーミングPCが必要でした。さらにマウスやキーボード、ゲーミングチェアを揃えようとするとキリがないし、みんなが買えるものではないですよね。
 でも、クラウドゲーミングサービスの誕生によって、スマホをクラウドに接続するだけで、高品質なゲームをプレイできるようになったんです。
平岩 これが5Gになれば、スマホで高品質・高クオリティ、さらに1万人と同時接続するようなゲームもプレイできるようになる。
 すると、eスポーツの門戸が「近所でサッカーボールを蹴る」レベルまで広がります。
「日曜日にある地域のeスポーツ大会、みんなでチームを組んで頑張ろうぜ」とお小遣いを稼ぐ人が現れると、それこそYouTuberのような憧れの職業になるでしょう。
──なるほど、持っているデバイスから簡単に接続できるから、世界中で盛り上がりを見せているのですね。
明石 デバイスのハードルが下がった一方で、ゲームには反射神経がすごく大事だから、プロゲーマーにはフィジカルのトレーニングが欠かせません。チームによっては共同生活をしてストイックな練習と反省会を繰り返していますよね。
平岩 ゲーミングハウスですね。ゲームは1人で部屋にこもってやるものだと勘違いされているけれど、ほとんどが4〜5人のチーム戦。
 だからチームワークと戦略が重要だし、絶妙な連携のためには「あっちから敵が来る」「右から攻めて」ではなく、「北西から敵!」と的確な方角の指示を出す必要があります。
 小学生の試合を見ていても、行くか行かないかを0.5秒で判断していますし、タスク管理やリスクヘッジもされていてすごいですよ。
明石 それをやっている子どもが将来仕事のできる大人になるのは間違いないでしょうね。

敗因分析、PDCA高速回転…ビジネスシーンにも応用

──eスポーツはチームワークと連携、戦略が必要。そのまま仕事に通じるところがありそうです。
明石 その通りで、eスポーツはPDCAサイクルの高速回転で上達します。
 野球やサッカーなどフィジカルなスポーツには、「完全に同じ局面」というものがほぼないので、最善の打ち手はその時々で変わります。一方、囲碁やチェス、将棋には最善の指し手である「定石」が存在しますよね。
 eスポーツは、フィジカルなスポーツと囲碁の間にあって、状況に合わせて瞬時に判断しながら動くのと同時に、「この局面ではこう返す」という定石がある。
 しかも、その定石は毎週のように更新されるので、自分はどんな考え方でどう動けばいいのか、PDCAを回す必要があるのです。
平岩 そもそもeスポーツで理由のない行動は絶対に取らないんですよ。
 だから、「なぜ負けたのか」「なぜ勝てないのか」というエモーショナルなモチベーションが自然に訪れて、いろいろ考えて試すことになる。それが、PDCAが高速回転する理由。
 よく「子どもがゲームをやめない」と悩む親御さんがいらっしゃいますが、僕はやめさせる必要はないと思っています。むしろ、ゲームノートを作って、負けたときに負けた理由を書かせて、プレイ前にしっかりと読み返すようにすれば、トライアンドエラーができるようになりますから。

ルイ・ヴィトンもメルセデス・ベンツも協賛

──企業側もブランディングやマーケティング戦略でeスポーツ市場に注目していると聞きました。
平岩 「リーグ・オブ・レジェンド」という、同時視聴が最大4400万人を超えるオンラインゲームの世界大会では、スポンサー企業にルイ・ヴィトンやメルセデス・ベンツ、MasterCard、Red Bullなどが名を連ねていました。
 しかも、その決勝戦の放映権は中国に3年間130億円で買われているほど。eスポーツは若年層が熱を持って継続的に見ているので、企業の広告戦略として価値が高いコンテンツになっています。
明石 テレビや新聞、Webメディアなどの若年層へのリーチが難しい今、eスポーツの世界大会のスポンサーになる流れは必然だと思います。リアルタイムで世界中の若年層が数億人規模で集まる興行は、もはやeスポーツの世界しかないかもしれません。
 今後は、テレビCMよりもeスポーツのスポンサーとして広告予算を投下する企業が増えると思うし、放映権争いに日本のテレビ局も参入し始めるでしょう。
平岩 実際、アメリカのeスポーツ月間視聴者数は、メジャーリーグより多いというデータもあるんです。全米で一番人気のナショナル・フットボール・リーグですら、2022年にはeスポーツが抜くと言われています。
 メジャーリーグのワールドシリーズよりも、NBAファイナルよりも、eスポーツが見られているって、純粋にすごいマーケットですよね。
──このまま成長すれば日本も同じような状態になると思いますか?
平岩 可能性は十分あります。
 国内で同時接続者が約35万人の大会もありますし、現在、NTTドコモが開催しているリーグの賞金総額は国内最高額の3億円でした。1億円規模の大会も年に数回行われていて、ポテンシャルは高いと思いますよ。

ゲームで「チームビルディングする」時代

──他にも、eスポーツがビジネスに通ずる点はありますか?
平岩 企業対抗戦が増えていて、私がMCを務めた社会人だけのeスポーツイベント「PUBG MOBILE 企業対抗戦 2020」では、日本全国から110社のエントリーがありました。
 そこでは会社の上司や部下、同僚と4人のチームを組んで、生き残りをかけた撃ち合いをします。チームで連携しながら全員が全力を出さなければいけないので、練習の段階から強い信頼関係が生まれます。
 しかも、ゲームの世界では役職やポジション、社歴、年齢などが全く関係ない。部長や課長もいるけれど、22歳の若手社員がリーダーになってボイスチャットで指示を出すようなケースは往々にしてあります。
 チームビルディングにもつながりますし、お互いの性格や強みが見えるのも面白いポイントだと思います。
明石 そう、ゲームによっては「壁になる人」「特攻する人」「遠くからスナイプする人」など役割を分けるので、そのときに性格が出ますよね。適性がないのにやりたがる人を、適正な役割になるよう諭すというか。
平岩 まさにマネジメントですね。向いているロールにどう誘導するかを考えて、チームとして一番強い状態を作っていく。
明石 戦闘中に前に出てこない、隠れがち、率先して突撃するといった性格も、そのまま仕事に出るので、マネジメントのためのメンバー理解にも向いていますよね。

次世代スターの誕生がeスポーツを変える

──では、これから日本でもっとeスポーツが浸透するために必要な要素は何だと思いますか?
平岩 「ライトユーザーの増加」と「スタープレイヤーの誕生」ですね。
 野球やサッカーを観戦しに行く人の中に、プレイヤーは6%以下しかいないと言われています。つまり、野球やサッカーは94%がビールを飲みながら観戦したい、友達と盛り上がりたい、といった理由で足を運んでいるライトユーザーです。
 現在のeスポーツの視聴者は99%がプレイヤーですから、eスポーツも野球やサッカーのようなライトユーザーをいかに増やせるかが課題です。
明石 YouTubeの実況文化とeスポーツは融合し始めているので、そこから次世代のスターが生まれたら、eスポーツのライトユーザーは一気に増えそうですよね。
平岩 そうですね。VTuberやYouTuberとの親和性は高く、VTuberがプレイして流行ったゲームタイトルもあって、それがライトユーザーのいい入り口になっています。
 一方で、現在はeスポーツの視聴者はほぼ全員がプレイヤーということもあって、熱狂的な空間になるのが強力な魅力であることも確か。
 実際、日本で1億円の賞金が出た大会の決勝戦で、僕は初めて、形式的ではないスタンディングオベーションを見ました。目の前で起きている奇跡的な瞬間に、全員が自然と立ち上がったんです。
明石 その、マニアが面白いと思っている世界観と熱狂を保ったまま、いかにマスに広げていくかが重要。
 一方、最近は子どもたちが慣れ親しんでいる「スプラトゥーン」がeスポーツ大会で盛り上がっている。そうした親しみのあるゲームをきっかけに「プロ競技者を目指そう」と思う人が増えれば、歴史は変わると思います。
平岩 そうですね。アメリカでは、eスポーツ視聴者層の年収が高いというデータがあるので、ぜひNewsPicksの読者にもプレイしてもらいたいです。ゲームは大人が全力で真剣勝負に挑める貴重な場ですし、仕事ができる人ほどハマると思います。
明石 名だたるブランドが協賛を始めている新時代の空気を、ビジネスパーソンは感じ取るべき。企業もこの流れには追随した方がいいと思います。
 仕事でもSlackやZoomなどオンラインのコミュニケーションが増えているのだから、遅かれ早かれチーム戦のオンラインゲームは企業内にも浸透するはず。
 一刻も早くこの流れを取り入れて、現実世界でもオンラインでも、うまくサバイブしてほしい。そんなビジネスパーソンが増えたら、日本はもっと面白くなると思います。