2021/3/24
「法人専用スマホ」は、ビジネスの何を変えるのか
FCNT | NewsPicks Brand Design
1人2台持ちも珍しくなくなったスマートフォンは、今やビジネスにも欠かせないツールとなった。そんなスマホに“法人専用”があることをご存じだろうか?
2014年から展開されているのが、富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)の手掛ける法人向けスマートフォン「arrows BZ」シリーズだ。病院や介護施設、物流現場などのさまざまな現場で活用されているという。
「ビジネスユースの場合、スマートフォン単体では何もできないと気づいた」
そう語るのは、同社の法人向けスマホの営業部シニアマネージャーの影長宜賢氏だ。
コンシューマー向けとはまるで違う、ビジネスユースならではのスマホのニーズとは。メーカーが提供する法人向けスマホの“安心感”は、どのようなビジネス課題にアプローチしてきたのか。そして、今後のニーズの広がりや戦略とは。
2014年から展開されているのが、富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)の手掛ける法人向けスマートフォン「arrows BZ」シリーズだ。病院や介護施設、物流現場などのさまざまな現場で活用されているという。
「ビジネスユースの場合、スマートフォン単体では何もできないと気づいた」
そう語るのは、同社の法人向けスマホの営業部シニアマネージャーの影長宜賢氏だ。
コンシューマー向けとはまるで違う、ビジネスユースならではのスマホのニーズとは。メーカーが提供する法人向けスマホの“安心感”は、どのようなビジネス課題にアプローチしてきたのか。そして、今後のニーズの広がりや戦略とは。
INDEX
- ビジネスのあり方を変えたスマホ
- モデルチェンジは、“現場の困りごと”が起点
- 高性能なスマートフォンだけでは「何もできない」
- ライバルは、携帯キャリアではなく「専用機」
ビジネスのあり方を変えたスマホ
──スマートフォンの登場は、ビジネスの現場を具体的にどう変えたのでしょう。
影長 スマートフォン登場の以前/以降で大きく変わったのは、やはりオフィスの外でできる業務範囲の拡大です。
以前は外出中には携帯電話、いわゆるガラケーが電話連絡の手段として使われる程度でした。携帯メールも、簡単な業務連絡のみでしたよね。
一方でスマホは、電話やメールなどの通信機能を持つ手のひらサイズのコンピューター。業務メールはもちろん、資料のやりとりやワークフローの管理など、出先でもできることが格段に増えました。
特に外回りの多い営業担当者から、ビジネスツールとして急速に普及していきます。
しかしスマホで業務が大幅に効率化したのは、オフィスワーカーだけではありません。その代表例として、病院があります。
それまでの病院では、看護師の方々は内線にPHSを使い、患者さんのデータ管理には共有のノートパソコンを使っていました。
──たしかに、パソコンを載せたカートを押しながら回診しているイメージがあります。
はい。そうした状況から、一人ひとりスマホを持つようになったことで、徐々に業務の負担が減りつつあるのです。
モデルチェンジは、“現場の困りごと”が起点
──「arrows」シリーズに、法人向けのモデル「arrows BZ」が登場したのが2014年ですね。どのような経緯で開発されたのですか?
コンシューマー向けのスマートフォンがビジネスツールとして広まるに従い、「こういうところが使いにくい」というユーザーの声に気づくようになりました。
一番多かったのが、長期的に同じモデルが供給されないことへの不満です。
例えば、2010年代前半のコンシューマー向けスマートフォンは、半年〜1年間隔で最新モデルをリリースしていました。これでは、社員が増えて同一モデルを追加購入したくても、手に入りません。
導入にあたって端末のシステム対応テストをしている間に、モデルチェンジが来てしまった……なんてケースもあります。
OSの自動アップデートも、運用管理者にとっては大きな負担です。バージョンアップで自社のシステムが突然動かなくなっては、ビジネスとして命取りになりかねません。
さらに、こうした業務用システムのトラブルに対応可能なサポート窓口もないという状態でした。
──現在まで3世代のarrows BZを発売しています。それぞれどのような商品特徴を打ち出してきたのでしょう。
ビジネス課題の克服がarrows BZの役目です。
これまでモデルチェンジを重ねてきましたが、発売当初から一貫した最大のポイントは、ビジネスパーソンのための“安心感”です。
仕事の効率を上げるためのスマホで、メンテナンスに手間がかかったりトラブルが起こりやすかったりすれば、使いこなすために労力を奪われる。それでは本末転倒です。
「安心して使える」という基本こそが、実際に使うユーザーはもちろん、導入部門の担当者やソリューションベンダー全員にとっての大きな価値なのです。
──ニーズに合わせたモデルチェンジは、プロダクトアウト中心のコンシューマー向けとは大きく異なりますね。
arrows BZのゴールは、お客様の業務改善。ここが、ディスプレイやカメラの性能向上が目玉となるコンシューマー向けと大きく異なる点です。
我々はお客様の“現場の困りごと”を細かくヒアリングし、どんな現場でも使いやすいように改善を繰り返す。
arrows BZがモデルチェンジをする意義は、そこにあります。
企業ごとに異なる細かなカスタマイズ要望に対応しているのも、同じ理由からです。
共通して多いニーズは、社内ネットワークへのWi-Fi接続、アプリのインストールなどの初期設定。導入部門の担当者やユーザー自身が行うこともありますが、地味に負担の大きい作業です。
カスタマイズで初期設定済みのarrows BZなら、手間を解消できますし、個別のカスタマイズ内容を工場で本体に書き込んであるので、初期化しても設定は残ります。
これはメーカーが直接カスタマイズする端末ならではのメリットですね。
──最新モデルの「sXGP」対応も、顧客の要望からでしょうか?
そこはニーズを先取った面もあります。
個人向けのPHSは2021年1月でサービス終了となった一方で、病院や倉庫などでは施設内に専用アンテナを設置した構内PHSが今なお現役で稼働しており、その数は推定300万〜400万台ともいわれています。
しかしそれらの構内PHSも、今後必ず設備や本体の寿命を迎える。後継のsXGPに切り替えねばならないタイミングを見据えた2019年のモデルチェンジでした。
高性能なスマートフォンだけでは「何もできない」
──モデルチェンジを重ねることで、ユーザー層はどのように広がっていったのですか。
現在、arrows BZの主なユーザー層は、病院・物流・建設業などに広がっています。
初代モデル発売時のニーズは、PHSから“乗り換えられない”病院が中心でした。
──乗り換えられない、とは?
当時はいわゆるSIMフリー端末を購入する手段がほとんどありませんでした。病院内のWi-Fi通信で十分なのに、キャリアの回線契約なしにはスマホが手に入らなかったのです。
なので、まずはそのようなニーズに応える端末単体の販売形態で、病院を中心にユーザーを獲得していきました。
次に広がったのが、GPSを活用した効率化やスムーズな業務連絡を目的にしたトラックやバスのドライバー向けです。
格安SIMとセットで使えるようになったことで、より幅広いお客様から問い合わせをいただくようになりました。
最近のトレンドは「業務連絡をメインにしながら、社内システムにも対応させたい」というニーズです。
大口契約も増え始め、2020年8月に日本生命さまで約5万台導入いただきました。
──コンシューマー向けのスマホに比べて、ずいぶん時間差でニーズが生まれているんですね。
今のタイミングでニーズが広がっている理由としては、少子高齢化や長時間労働、業務改善といった「働き方改革」の社会問題化があります。
そこにコロナ禍が加わり、業務効率アップが待ったなしの状況です。
また、仕事のツールとして、安心してスマホを使える環境が整ったのも大きいですね。スマホ市場の成熟とともに、ソリューションとなるアプリの種類が増え、クオリティも高くなりましたから。
──スマホ自体の性能の向上ではなく、ソリューションが重要だと気づいたきっかけは何だったのでしょうか。
ユーザーを病院以外の業種にも広げようと考えたとき、「スマートフォンだけでは“ただの箱”で、ビジネスの課題を何も解決できない」と気づいたんです。
arrows BZはソリューションと組み合わせることで初めて、業務改善の武器として力を発揮します。そこから、対応するソリューションを増やすことに舵を切って、注力しました。
もちろん、ソリューションが重要なのは病院も同様です。
初代のarrows BZはPHSに代わる内線電話の機能が主でしたが、スマホとソリューションとを組み合わせることで、その活用範囲は大きく広がっています。
例えばナースコールが鳴ったときに、遠隔で患者の様子をチェックしてから緊急性を判断したり、入院患者のベッドサイドからスマホで電子カルテを閲覧/入力したりもできるようになりました。
最終的に、「このソリューションと連携することで、何ができるか」までを提案し、課題解決に役立ててもらうこと。それが我々の責務だと今では実感しています。
ソリューションを提供するベンダー側にとっても、OSの自動アップデートがないarrows BZは、組む端末としてのメリットが大きい。最初からarrows BZとのセット販売を選ぶベンダーもいます。
ライバルは、携帯キャリアではなく「専用機」
──arrows BZが広がっていくうえで、今後の競合はどこだと考えていますか?
実は私たちにとっての競合は、携帯キャリアではありません。コンシューマー向けスマホとは、明らかにお客様のニーズが異なり、棲み分けができているからです。
競合と考えているのは、PHSやトランシーバー、インカムといった連絡用の専用機。加えて、店舗や倉庫でバーコードを読み取る機器、飲食店がオーダーで使う機器などの専用機の市場に可能性を見ています。
一つの機能に特化した従来の専用機類をスマホ1台に集約できれば、一気に業務効率化が進みますよね。
さらには、トランシーバーで話したことを音声認識でテキスト化してチャットに送ったり自動的に翻訳までしたり、バーコードを読み取った瞬間に受発注まで完了させる。
こんなふうにカスタマイズ次第で、従来の専用機では難しかった効率化が可能になるのです。
──オフィスワーカーには想像もつかない可能性が広がっているのですね。市場の開拓にどんな戦略を描いていますか?
より幅広いニーズに対応できるように、レンタルサービスを2021年の上半期中にスタートさせる予定です。
初期コストが負担だ、少人数の分だけ導入したい、イベント時など期間限定で使いたい──月額レンタルなら、制約のある小規模な企業でも、比較的簡単に導入できるようになります。
そういった細かなニーズにも、メーカー自ら対応していこう、と。
また、通信サービスという広い意味では、arrows BZだけではなく、さらに新しい展開として“企業としての共創”も進めていきたいですね。
今後5Gネットワークの普及で、さまざまな機器に通信機能が搭載されていくようになりますが、5Gは扱いが非常に難しい通信技術です。
我々は長年培ってきたメーカーとしての経験とノウハウを持っています。
そこで、5G対応に悩む企業への技術的なアドバイスをはじめ、テストや性能測定などのサポートまで提供していこうと計画しています。
arrows BZや5G対応ソリューションを通じて、法人向け通信にまつわるあらゆるビジネスの困りごとを解決していきたいですね。
取材・編集:中道薫
撮影:林和也
デザイン:Seisakujo
撮影:林和也
デザイン:Seisakujo
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