(ブルームバーグ): 野村ホールディングス(HD)は、会社経営に意欲のある人材に買収先が見つかる前から投資する「サーチファンド」の運営を始める。長引く低金利下で運用先に悩む国内機関投資家向けに高収益商品を開発する試みの一つ。1号ファンドを今秋めどに50億円程度でスタートし、運営状況を見ながら2号ファンドの準備も進める。

ファンドの設立・運営は支援ノウハウを持つジャパン・サーチファンド・アクセラレーター(JaSFA、本社・東京都中央区)と共同で行う。2月24日に基本合意を発表した。「サーチャー」と呼ばれる経営者候補に出資、活動費用を出しつつ後継者難に悩む中小企業とマッチングし、ファンドの資金で買収する。

発表資料によると、サーチファンドは1984年に米国で生まれ、ビジネススクールを修了した若手らを担い手に世界中に広がった。取材に応じたJaSFAの嶋津紀子社長によると、同様のファンドの内部収益率(IRR)は30%程度との調査もあり「グローバルでは相当収益性が高い投資と理解されている」という。

JaSFAはこれまで経営者候補約200人と面談してきており、野村HDとの1号ファンドにすぐにでも紹介できる即戦力人材が10人はいるという。野村HDの営業網を使い、日本全国の事業承継ニーズと結び付ける。1号ファンドには両社が出資するほか、機関投資家の参加も募る。対象企業の規模は企業価値5億-15億円が目安で、約5年での投資回収を目指す。

帝国データバンクが昨年11月に発表した調査結果によると、中小企業約26万6000社のうち約17万社で後継者が不在だった。後継者不足に悩む企業は3社に2社という高水準の割合。新ファンド設立で社会課題の解決にもつなげたい考えだ。

プライベート市場戦略の一環

今回の事業は、野村HDが奥田健太郎グループCEO(最高経営責任者)の下で進めるプライベート市場戦略の一環。ファンド規模は同社の事業として大きくはないが、茂木豊執行役員は「規模よりあくまでリターン」と説明。成熟市場で大きなファンドを立ち上げても過当競争で手数料が低い場合もあり「小さな市場でも勝ち組になり、中長期にわたって収益性を維持していけるなら喜んで参入する」と述べた。

1号ファンドは現在抱えている相談案件などから順調なペースで投資が進むとみており、茂木氏は2号ファンドについても比較的早いタイミングで設立準備に入れそうだとした。2号ファンド以降は10億円単位ではなく、100億円単位に規模を拡大したい意向だ。手数料については、相場などから「2%といった水準」で検討したいとした。

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の田村晋一アナリストは「超低金利で国内機関投資家は運用先に困っており、高収益を狙える品ぞろえを開発していく姿勢は証券会社としては当然必要だ」と評価。

一方で「成功と言えるかどうかは、実際に売却損益が出る段階まで分からない。経済が高成長で株価に上昇期待が大きい米国と低成長の日本の市場環境を単純比較はできず、米国のモデルがそのまま通用するかは未知数」とも指摘した。

©2021 Bloomberg L.P.