2021/3/29

【プラットフォーマーの戦略】IBM+パートナーで作り出す「共創DXのかたち」

NewsPicks, Inc Chief Brand Editor
顧客の要望が多様化し、対応スピードも求められる今、1社単独でビジネスを完結させる「垂直統合モデル」よりも、他社との協業により強靱なビジネス・エコシステムを形成することがポイントになっている。
BtoBのテクノロジー業界をけん引し続けるIBMは、かつて垂直統合型モデルの典型だった。だが、ここ数年パートナーとエコシステムを形成することに力を入れ、「従来競合だと位置付けられていた企業とも一体となって取り組む」。そんな柔軟な姿勢を見せている。
デジタル・トランスフォーメーション(DX)が加速する今、BtoBテックの巨人、IBMはどんな協業モデルを描いているのか。
立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏と、日本IBM常務執行役員 テクノロジー事業本部 パートナー・アライアンス事業本部長の三浦美穂氏との対談、パートナーマーケティング部門のキーパーソン、そしてそれを支援するマーケティングエージェンシーのインタビューで多角的に紹介する。

新たな協業モデルの構築へ

──日本IBMは今、これまで以上にパートナーとの協業、エコシステムの形成を推進していると聞いていますが、その背景には何があるのでしょうか。
三浦 日本IBMは以前からSIerなどITベンダーとの協業を推進していましたが、従来以上にその枠組みを深くし、そして広げています。
これまでパートナーとのビジネスにおいては、ハードウェアやソフトウェアなどの製品を再販いただくことが多かったです。ですが、お客様が欲しているのは製品のままの状態ではなく、それらの製品をもとに、お客様の業務にそのまま適用できるソリューションであり、サービス。
パートナーの強みとIBMのテクノロジーを組み合わせてソリューションやサービスを生み出し、お客様に提供していく。そんな活動がより必要になってきたのです。これまでも徐々にそうしたかたちにシフトしてきているのですが、2021年からさらにその動きを加速させています。
──具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
三浦 3つの協業モデルを推進しています。具体的には、1つ目が先ほどお話しした再販ビジネスモデル。そして新しく設けたのが、パートナー自身が持っているアセットにIBMのハードウェアやソフトウェアを組み込んで提供いただくモデルと、パートナーのサービスプラットフォームにIBMのテクノロジーを活用いただき新たな価値を提供いただくモデルです。
田中 かつてなんでも自前でビジネス展開していたIBMとは違う動きですね。
三浦 IBMはかつて垂直統合の最たる企業だったと思うのですが、これからはエコシステムで価値を提供していく戦略です。オープンソースのRed Hatを買収したのも、その意思の表れで、Red Hatの価値を通じてこれまでお付き合いのなかった企業との連携も進めることができています。
 優れた価値をお客様へ提供するために、これまで競合関係と位置付けられてきた会社ともアライアンスを進めています。実際に、富士通社とはローカル5Gで、東芝デジタルソリューションズ社とはIoT分野で、またNEC社との協業もすでに始まっています。

垂直統合と水平分業、どちらが強いか

田中 新しい動きですね。異なる企業同士が同じ目標に向かって共創していくのは1社単独でやるよりもはるかに難しい。その中で、大切になるのはミッションやビジョン、パーパスの共有だと思っています。
三浦 はい、私たちはパートナーと常に対等な立場で、テクノロジーを活用して社会に貢献するという明確なミッションがあります。
 今年から私たちは、パートナーを支援するための投資も拡大し、また先ほどお話ししたような協業モデルを充実させていきますが、こうした具体的な内容だけでなく、大事にしている価値観をしっかりと発信していき、共感を生みながらパートナー戦略を進めていければと思っています。
 平等に物事をとらえ、オープンに会話していく。それはIBMに根付くカルチャーですので、そうした姿勢もパートナーとシェアできればと思っています。
田中 素晴らしい価値観やカルチャーですね。アマゾンやセールスフォース・ドットコムなどエコシステムの形成がうまい企業はこうした価値観の共有に長けている。実績と多くのソリューションサービスを持つIBMがパートナーと強靭なエコシステムを形成すれば、かなりの強みになる。IBMがつくるエコシステムに期待しています。
──パートナーとの協業を強化している最中かと思いますが、具体的にどのような支援を手がけているのでしょうか。
高嶋 IBMは今年、全世界でパートナー施策に10億ドルを投資すると発表しており、さまざまな支援プログラムを用意しています。
 具体的には、ハイブリッドクラウド環境構築のコスト負担を軽減する「Cloud Engagement Fund」を用意。それから、先進的なソリューションをパートナーと共同開発する専門チーム「Hybrid Cloud Build Team」を新設したり、パートナーのコンテナ利用を拡大し共創を促進する「コンテナ共創センター」を4月1日に立ち上げることを発表したりしています。
 「Cloud Engagement Fund」は、クラウド環境やAIでイノベーションを起こそうとしているパートナーに、クラウドへの移行費などを支援する内容です。
 一方、「Hybrid Cloud Build Team」は、パートナーとそのお客様のために先進的なテクノロジー・ソリューションの共同開発に取り組みます。IBMの技術専門チームが、デザインシンキングなどの手法を用いながら、活動を推進します。
 また、「コンテナ共創センター」では、パートナーが提供するソリューションやソフトウェアでのコンテナ利用拡大に向けたエコシステム構築を目指します。クラウドネイティブ時代の技術者も育成し、日本企業のさらなるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の加速に貢献します。
──新ソリューション創出のための人的支援やインフラ支援が中心のように感じますが、それ以外、例えばパートナーのマーケティング関連のサポートも用意しているのでしょうか
高嶋 はい。マーケティング面では、「IBM Champion」、「共同マーケティングプログラム」、「デジタル・マーケティング支援」などのプログラムから、多角的にサポートします。
「IBM Champion」は、IBM製品・ソリューションに精通するパートナーに認定させていただく制度で、今年から開始しました。IBM外からの公平な視点で、市場やお客様へIBMの価値をお届けいただくことで、パートナーの営業活動にもお役立ていただけると考えています。
 また、「共同マーケティングプログラム」では、IBM製品・ソリューションに関わる、新規案件の発掘や拡販のためのパートナーのマーケティング活動の費用を、IBMが一部負担します。実際の活動推進においても、認定代理店であるメディックス社に支援してもらい、さまざまなマーケティング活動の企画立案、実行、案件醸成をサポートしています。
 加えて、「デジタル・マーケティング支援」は、パートナーから多数のご要望をいただく中で実現してまいりました。今や企業に必須となったデジタルマーケティングを実現するマーケティング・オートメーションのツールを無償で提供したり、デジタルセミナー開催のためのノウハウ提供を行ったりしています。また、パートナーの社員のデジタルマーケティングスキル取得のためのトレーニングも実施し、総合的に支援しています。
 新型コロナウイルスのまん延によって、デジタルマーケティングを早急に強化せざるをえない状況です。ですので、この施策は非常にパートナーの関心が多く、好評をいただいています。
──多角的な支援を手掛けていくのですね。10億ドルを投資するとは強い意気込みを感じます。
高嶋 お客様の要望が多様化している中で、その声により耳を傾けることが必要になってきています。そこにおいては、お客様のそばで密接な関係をつくってくださっているパートナーとの協業が不可欠になっているのです。
お客様の課題解決に向けて、IBMのテクノロジーを活用することで、さらに価値のあるソリューションをパートナーに開発していただく。IBMとお客様だけの関係で生まれるビジネスではなく、パートナーとともに形成するエコシステムがあることで、お客様の成功をご支援できると考えています。
そのためにIBMは、パートナーの皆様へ多角的なさまざまなご支援プログラムを用意しています。パートナーの皆様には、これらをぜひ有効活用いただきたいと思いますし、IBMからも活用に向けたサポートを継続していきます。
──メディックスはIBMのパートナー支援プログラムの中で、デジタルマーケティング支援を手掛けていると聞いています。
根口 はい、メディックスは企業のデジタルマーケティングを総合支援する会社で、私が管掌するビジネスマーケティング部はBtoB企業のデジタルマーケティング支援に特化している部署です。IBMの共同マーケティングプログラムは2020年4月からお手伝いしており、現在は40社ほどのIBMパートナーのマーケティングサポートを行っています。
私たちのミッションは2つで、1つはIBMから提供を受けたマーケティング支援金をどのように活用して成果を出すか、そのプランニングから実行までを支援することです。
大内田 IBMパ―トナーは、IBMから支援を受けた金額の10倍の売り上げを上げることをミッションとしており、我々はそのためのリード獲得や受注に結びつけるまでのプロセスを一緒に考えています。
マーケティング支援というと、デジタル上のコンテンツをつくり導線を張ってリード獲得につなげるまでのサポートが一般的かもしれませんが、私たちはパートナーの売り上げ貢献がミッションですから、そこに至るまでのプロセス全般に責任を持っています。
成果は順調に出ており、昨年の共同マーケティングによる案件創出は一昨年対比で2倍以上となりました。
根口 2つ目がIBMパートナーのデジタルマーケティングスキルの育成です。
私たちの部門では、BtoBの中でも主にITベンダーをクライアントとしているのですが、この業界はこれまで成長産業だったので、マーケティングをしなくても売れていた時代が長く、デジタルマーケティングを得意としている企業は多くありません。
いまだにテレマーケティングやリアルイベント、展示会の出展といったアナログのマーケティングが中心。新型コロナウイルスのまん延によってこうした施策はほぼ不可能ですから、パートナーにとってデジタルマーケティング強化は至上命題。ですので、私たちが専門家として支援させてもらっています。
大内田 具体的に言えば、ウェビナーを通じ、SEO、ウェブ解析といったデジタルマーケティングに関する講座で数回に渡ってレクチャーしたり、コンテンツ制作手法を伝授したり。また、あるソリューションの拡販のためにデジタル上のコミュニケーションデザインやカスタマージャーニーをパートナーと一緒に設計したりすることもあります。
根口 私たちは昨年からIBMのこのパートナープログラムに携わらせていただいていますが、三浦さんや高嶋さんが言うように、昨年以上にIBM社内での位置付けが大きくなっています。
 日本のITベンダーは、技術力は非常に高いですが、その強み・特徴をしっかりと伝える力は少し弱い。ですので、IBMのパートナー支援制度でもマーケティングスキルの向上は重要視されています。
 BtoBのIT業界に精通するデジタルマーケティング支援組織はあまりない存在だと思うので、IBMのこのプロジェクトを成功させるためにも、そして日本のITベンダーのマーケティング力を底上げするという意味でも、貢献できればと思っています。