【岡田兵吾】海外は「横社会」。どんなときも相手を気遣い、公平に接しよう

2021/3/21
「NewsPicks NewSchool」では、2021年4月から「グローバルコミュニケーション」について徹底的に学び、ディスカッションするプロジェクト最新・最強のグローバルコミュニケーションを開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、マイクロソフト シンガポール アジア太平洋地区本部長として活躍する、リーゼントマネージャー岡田兵吾氏です。
開講に先立ち、岡田氏にその概要とプロジェクトへの思いを語ってもらいました。

“日本人力”は世界に通用する

──日本人がグローバル社会でより活躍するための手段として、岡田さんの持つ、非ネイティブによる「最新・最強のグローバルコミュニケーション」という考えについて聞かせてください。
岡田 私は今まで、24年間にわたって3社のグローバル企業に在籍してきました。シンガポールは今年で17年目。日々、10か国以上の外国人たちと仕事をしています。
ただ、私は英語がそこまで上手いわけではありません。もともと、所謂「純ドメ」(純ドメスティック)。工学部出身で、初めて海外に行ったのも大学生になってからでした。
英語がまったくできないことで、何度もクビになりかけました。しかし、日本人として日本で学んだビジネススキルを生かし、非ネイティブならではの戦い方を見出し、それを武器として、全世界で仕事ができるようになっています。
そもそも、仕事で英語を使うことと、英語ができることは別物です。海外で仕事をする上で、より重要な要素は英語ではなく、マインドセットやリーダーシップと言えます。
日本では英語力や論理的思考力が大切だとされがちで、私自身も日本のアクセンチュアで働いていたとき、「海外で働きたい」と口にすると、上司に「お前は仕事も英語もできないのに、どうやってバリューを出すんだ」と言われたものです。
ところが、実際はマインドセットや仕事術、巻き込み力などがあれば海外に出ていける実感があり、そもそも相手を気遣うような“日本人力”は世界に通用するのではないかと。
実は、海外は個人で何でもやるというより、立場を問わず、相手に敬意を払いコミュニケーションを取ることが基本になります。それに気づいてからは、コミュニケーションも仕事も上手くいくようになりましたね。
岡田 兵吾
リーゼントマネージャー
マイクロソフト シンガポールアジア太平洋地区ライセンスコンプライアンス本部長
アクセンチュア、デロイトコンサルティング、マイクロソフトにて、日本・アメリカ・シンガポールを拠点に24年間勤務。シンガポール移住17年目。NHK Eテレ、TOKYO MXテレビなどメディア出演多数。情報経営イノベーション専門職大学(iU)超客員教授。オンラインサロン「兵吾村塾」主宰。IEビジネススクール・エグゼクティブMBA取得。著書に『残念なビジネス英語』(アルク)、『武器になるグローバル力 外国人と働くときに知っておくべき51の指針』(KADOKAWA)、『ビジネス現場で即効で使える 非ネイティブエリート最強英語フレーズ550』(ダイヤモンド社)などがある。Twitter:@phoenix_hugo
──気づくまでに苦労は多かったと思います。
最初は上手くいきませんでした。まず英語を話すというと、映画の『ウォール街』のように、相手を言い負かすような、はっきりとストレートに言わなければいけないというイメージを持っていました。
ところが、ダイレクトに強い言葉を使うことによって、信頼関係をつくれずに評価もされなかった。英語が聞き取れず、コミュニケーションができていなかった面もありますが、グローバルでの相手を気遣うルールを知らなかったことで、自分では頑張ったと思っていても評価につながらず、部下からも信頼を得られていませんでした。
具体的には、当時は「自分はできる」と見せつけるように、人前でよく怒鳴っていましたね。問題が起これば、「Why you couldn’t manage this, why?」。「なぜ、お前はできなかったんだ」という、鬼軍曹のように圧のある表現をよく使っていました。
なぜなら、その方がカッコイイと思っていたから。しかし、予想以上に評判は悪かったですね。
その上、日本時代に徹夜で最高品質に仕上げることが仕事だと考えていたので、部下に残業を強要するようなことも平気でしていました。
ところが、海外は及第点の状態でも早くアウトプットを出して、そこからブラッシュアップしていく考え方です。そういった違いがあるのに、部下を平気で残業させていましたから、当然信頼はなくなっていきます。
ほかにも、海外ではディシジョンメイキングが大切で、案は最大で2つで、そこまで絞るからこその上司だったりします。しかし、私は常に3つのプランを用意し、そのために部下を働かせていました。
自分自身若かったせいもあって案を決めきれず、意思決定がないと思われ、部下からも上司からも信頼がない状態に陥っていました。

どん底にぶち当たった

──苦しい時期がありながら、どのようにブレイクスルーに成功したのでしょうか。
まずはマインドセットを変えることでした。
当時デロイトコンサルティングに勤めていましたが、1年2カ月間にわたって売上がゼロ。毎日コソコソ会社に行き、コソコソ帰る。売り上げがないから、とにかく人に会いたくないという状態です。
出張も、出張代を申請するのが怖いからと、友人の家に泊まったこともあったほどでした。
本当のどん底にぶち当たったので、やけくそ紛れに「たとえ売上ゼロでも、東南アジアの色んな国を回って、各国の多種多様なビジネス状況を学んでいる日本人なんて、あんまりいないんじゃないの」と考え方を変えてみました。そうすることで、「今の状況は勉強になる」という気持ちが生まれたのが大きかったですね。
あとは、やはりプライドを捨てたことですね。上司にも、「自分ができないんだったら他人を巻き込むのも仕事だ」と声をかけられたことで、周りを巻き込みながら現状を打破していけました。
それまでは「MBAも持っていて、マイクロソフトやアクセンチュアに所属していた」というプライドから、周囲にアドバイスを求められないと考えていました。しかし、当時はどん底の状態。なりふり構っていられません。
それからは、案件を増やすために、各ビジネス領域の専門家の外国人パートナーやディレクターに頼み込んで協力してもらい、日本人駐在員向けの勉強会を主催したりしました。その際、私が通訳することで、東南アジアの様々なビジネスや仕事の仕方を学んだものです。
そうこうしていくうちに、組織や人事といった自分の知らなかった分野も徐々に理解を深めていけましたね。
──自分に足りない部分があれば、上手く周りを巻き込んで埋めていくのに、日本も海外も変わらないと。
周囲を巻き込む意識は、日本より海外の方が強いかもしれません。
日本は「自分で考えろ」という自前主義で、自分で何でもこなそうという傾向があります。しかしグローバル企業では、仕事ではより良い成果を生み出すために、苦手な領域は周りを巻き込むことが重要になってきます。
マイクロソフトで働いていた際には、外国人の同僚が、「こんなことできないよ!」と口にしたときに、上司から「あなたが自分だけで解決する必要はない」と言われていましたね。
よく言われる論理的思考も、ロジカルに話すというよりは、道筋を立てて仕事のロードマップをつくることと言えます。そして、その仕事を進めるにあたって、必要な人材をいかに巻き込んでいけるかが重要視されます。
(写真:tabaco/istock.com)

日本は縦社会、海外は横社会

──外国人と仕事をする上で必要な、「Trust」(信頼)と「Respect」(尊敬)を育むために、具体的に心がけていることがあれば教えてください。
まず、日本は縦社会ですが海外は横社会という前提があります。そのため、どんなときでも相手を気遣い、公平に接する姿勢は大切です。
私の好きな言葉に「Perception becomes reality」があります。「振る舞いや、他人からの見え方が、評価となる」という意味です。グローバルでリーダーやマネージャーとして働こうとするならば、相応のふるまいを意識して行動することは重要だということです。
あとは、マイクロソフトの「グロースマインドセット」も心がけていますね。「古い固定概念を捨て去って、新しい概念を柔軟に受け入れる」という考えで、マイクロソフトだけでなく教育現場でも一般的に言われている言葉になります。
私自身、グローバル人材として見られるため、グローバルリーダーに求められる振舞いを心がけています。実際に振舞っていくことによって、相手から尊敬を得たり、信頼関係が築かれていくはずです。
最終的には、「尊敬している彼なら、何とかやっていけるだろう」「彼は信頼できるから、投資をしよう」とつながっていきます。
──岡田さんにとって、ロールモデルとなった人はいたのでしょうか。
数人の名前が浮かびますが、彼らに共通するのは常にオープンマインドなところです。
ミーティングをはじめコーチングするような場面では、必ず相手が成長するアドバイスをしてくれます。そうすることで、周りを育て尊敬を得ながら、自分でも大きな仕事を果たしていました。もはや、ロールモデルよりも憧れと言えますね。
あえて一人挙げるなら、フィリピン人でハーバード大学を卒業した元上司。彼は最年少でマイクロソフトシンガポールの役員に就任した人物で、出会った最初の頃、「どうしてハーバードに行ったの?」と聞いたときの返答が印象的でした。
飲みながらの会話でしたが、彼はフィリピンの貧しさを語り、次に「I wanted to become a president」と言い出しました。
それを聞いて、「えっ、大統領?」と驚いて酔いも醒めましたが、彼は「マイクロソフトにも、ITで世の中を変えるために来た」と話していました。
日本で働いていた頃は、「金持ちになりたい」「モテたい」といった話はよく聞いてきました。しかし、大統領や首相になりたいという話は聞いたことがなく、その志の大きさに、とにかく驚かされたものです。
そういった志の高い人たちから日々影響を受けることで、「こうなりたい」と自分自身の行動も変わっていきました。
──影響を受けて、実際に実践されたことはありますか。
繰り返しになりますが、周囲を巻き込むようになりましたね。
上司にも「様々な分野のスペシャリストがいるのだから、知見を出し合って良い結果を作れ」と言われたこともありますが、周りにより良いスキルを持っている人材がいるのであれば、彼らを巻き込んで成果を上げるべきです。
やはり、様々な価値観を生かすことでイノベーティブであったり、より良いものが生まれます。そのためには、部下とのコミュニケーションでも、「こうやれ」というよりも、相手の考えを聞いて、みんなの意見を組み合わせていくようになっていきました。
ただ、協調路線になり過ぎると、強く言えない場面がでてくるので、時には強く言うことも必要です。
日本人はよく、「Yesでもあり、Noでもある」という考え方をそのまま英語にする傾向があります。合意できない場合にも、「Yes, but」で話し始めるので、「どっちなんだお前」と外国人を混乱させます。グローバルコミュニケーションでは、YesとNoをハッキリさせることは大事です。
私自身はハッキリ言う物言いが昔から苦手で、今でも得意ではありません。しかし、仕事柄意識して、自分なりにYesとNoを決め、butと言わずに説明をしていくことは心がけています。
(写真:filadendron/istock.com)

オープンさとは、相手に興味を持つこと

──外国人とのコミュニケーションでは、英語に苦手意識があったとしても恐れることなく、踏み込むことは重要でしょうか。
そうですね。まさにマインドセットの部分にあたり、わからないことを聞くには、オープンさが大切になってきます。
オープンさとは、相手に興味を持つことでもあって、口では「興味がある」と言いながら、何も質問しなければ「本当は興味がないのかな」と思われてしまいます。
私もかつて、「日本人の仕事が最高だ」と思っていた時期がありました。ところが、様々な国籍の人たちと話すうちに、海外からの学びは多いと気づかされ、今では興味深く話を聞いています。
日本では、特にアジアに対して「安かろう悪かろう」という印象を抱いている方は少なくないはず。しかし、アジア各国でも全世界相手にビジネスをしている企業もありますし、日本以上に進んでいるところもあります。
そういった海外の魅力を知っておくと、興味もわいて踏み込んだ質問もできるようになりますから、相手に興味を持つ、魅力を知っておくことは大切だと思います。
──相手に興味を持って聞くために具体的なTipsはあったりしますか。
私自身は、定期的に同僚や部下と1対1の時間を取るようにしています。仕事のミーティングだけでは互いを深く知り合えませんが、一緒にカフェに行ったり、コーヒータイムやランチを利用して、1対1で話すことで理解を深めることはできます。
そのときの話題は、仕事だけでなく、相手の国の状況だったり、政治や宗教でもいいと思います。
宗教や政治の話はタブーだとされることはありますが、私としては全くタブー視していません。むしろ、外国人が好きな話題だったりします。香港やミャンマーについて話すことで、各々の考え方やポジションが見えたりするので、私は聞くようにしています。
よりTips的な考え方としては、FORMという手法もあります。FがFamily、OがOccupationで、仕事関係。RはRecreationで休み。MがMessageで、それぞれの質問を聞くという手法です。
私としては、最初に家族の話で、次は仕事、そして休みにどうしているかなどを聞き、その後に一段上がって、政治や宗教の話題に移るようにしています。
──より深い価値観や思想を知った上でコミュニケーションを取ることで、互いにオープンでいられると。
そうだと思います。心理的安全な環境も、深いところまで話し合うことで生まれるはずです。
相手の心を開かせるよりも、こちらから心を開いていくと、相手も話しやすくなるものですからね。
(取材:上田裕、構成:小谷紘友、デザイン:九喜洋介)
※後編に続く
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