[ワシントン 19日 ロイター] - 米上院財政委員会は19日、バイデン次期大統領が財務長官に指名したイエレン前連邦準備理事会(FRB)議長の指名承認公聴会を開いた。イエレン氏は議員に対し追加の新型コロナウイルス対策で「大きく行動」するよう呼び掛け、債務拡大につながっても恩恵は代償を上回るとの考えを示した。

3時間以上にわたる公聴会でイエレン氏は、経済格差の是正や気候変動対策、中国の不公正な通商慣行への対応などに積極的に取り組むより強力な財務省の構想を打ち出した。

企業や富裕層への増税については、バイデン氏が掲げる野心的なインフラ投資計画や、米経済の競争力向上に向けた研究開発、職業訓練の財源を確保するためいずれ必要になるものの、当面は新型コロナの抑制と経済の回復が優先されるとした。

財務相としての自身の責務は、米国民が新型コロナ感染拡大の影響に耐えられるよう支援し、米経済を再構築することで、「より多くの人が恩恵を受けられる繁栄を実現し、競争が一段と激化している世界経済の中で米国の労働者がより良く競争できるようにする」と表明。

「追加措置を講じなければ、足元のリセッション(景気後退)の長期化と深刻化を招く恐れがあり、今後の経済により長期的な傷跡を残しかねない」と警鐘を鳴らした。

どのような支出が最大の利益をもたらすかとの質問には、まず公衆衛生と予防接種普及への支出、次いで失業手当や食料支援サービス(フードスタンプ)の延長が考えられると発言。貧困層や中小企業を対象とした救済措置は支出や雇用の創出につながるとした。

20日に就任するバイデン次期大統領が発表した1兆9000億ドル規模の新たな景気対策案について、この対策で米国の債務が拡大することはバイデン氏と共に承知していると指摘。「ただ、金利が歴史的な低水準にある現在、大きな行動に出ることが最も賢明」とし、「特に長きにわたり苦しんできた人たちを支援することを踏まえると、恩恵は代償を大きく上回る」と述べた。

<増税はコロナ対応後>

2017年に成立した税制改革法については、一部を廃止すべきと主張。ただ、法人税率が減税以前の水準に戻る見通しはないとした。証言を受けて、米国債利回りはわずかながら低下した。

イエレン氏は、増税より新型コロナ対応が優先されると述べる一方、企業や富裕層は「応分の負担」が必要との見解も示した。また、時価評価を通じて未実現のキャピタルゲインに課税する可能性など、歳入拡大に向けたさまざまな手段を検討する考えを示した。

<為替操作容認せず、中国の不公正慣行に対抗へ>

為替相場については、他の国が貿易面で自国が有利になるよう人為的に相場を操作しようとした場合、米国は反対する必要があるとし、商業的な利益のために為替水準を目標にすることは「容認できない」と指摘。

「私は市場が決定する為替レートを信じている。ドルや他の通貨の価値は市場が決めるべきだ」と強調。就任すれば、「貿易で不当な優位性を得るために通貨価値を操作しようとする外国のあらゆる試みに反対する」というバイデン氏の公約実行に取り組むと述べた。自国通貨を操作していると考える国については具体例を挙げなかった。

また、中国は明らかに米国の最も重要な戦略上の競争相手との考えを示し、バイデン政権は中国の「不平等で不法な」慣習に対応していくと表明した。

トランプ政権がこの日、中国について新疆ウイグル自治区でウイグル族などイスラム教徒の少数民族に対し「ジェノサイド(民族大量虐殺)と犯罪」を犯したと認定したことに関連し、同様の考えか問われると、「(中国は)ひどい人権侵害を犯した。イエスだ」と答えた。

<気候変動ポストを新設>

気候変動問題については、米経済の「存続に関わる脅威」との認識を示し、金融システム全体に及ぼすリスクの検証などを担当するポストに財務省高官を任命するとした。

また、二酸化炭素の排出を削減し、米経済の競争力を保つとともに米労働者に良質の職を提供するためには、クリーン技術や電気自動車への投資が必要だと強調した。

イエレン氏の財務相就任について、ジョージ・シュルツ氏からジャック・ルー氏に至るまで全ての財務相経験者が支持を表明。財務相経験者は上院議員宛の書簡で、イエレン氏が「極めて困難な課題」に迅速に対応できるよう、同氏の承認を呼び掛けた。

20日に退任するムニューシン財務長官の報道官から今のところコメントは得られていない。

共和党のマイク・クレイポ上院議員は「速やか」な承認に向けて取り組むと述べた。

ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのグローバル為替戦略責任者、ウィン・シン氏は「当局者は、イエレン氏以外の人物がドルについて語ることはないとしている。こうした取り組みはトランプ政権からの政策転換を示すもので、市場がツイッター投稿に関連したボラティリティーの影響を受けなくなり、良いことだ」と述べた。

スタンダード・チャータード銀行のスティーブン・イングランダー氏は「イエレン氏率いる財務省は強いドルより弱いドルを選ぶとみられ、貿易製品やサービス産業の競争力が大きな要因になるだろう。世界のマクロ経済を考えると、現実的にはドルの限界は制限されるかもしれない。ただ、イエレン氏は中期的にドル安にかじを切ろうとする可能性が高く、ドルが予想以上大幅に下落しない限り強いドルを主張することはないだろう」と分析した。

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