[東京 1日 ロイター] - 欧州エネルギー取引所グループの高井裕之・上席アドバイザーはロイターとのインタビューで、世界的に加速する脱炭素の潮流について、「隠れた地政学リスク」になるとの見方を示した。原油価格の低迷が続いて産油国の地位と財力が低下するほか、中国がこの新たなエネルギー分野で覇権を狙う可能性があるとした。

原油価格は足元1バレル40ドル前後で、100ドル前後で推移していた2010─2014年から大きく下落している。米国でのシェールガス・オイル増産で低下したが、今は新型コロナウイルスの感染拡大で生産活動や人の移動が抑制されていることが響いている。高井氏も、1日あたり1億バレルとされる世界の原油需要のうち、「600─800万バレルを占めていた航空向け需要が今なくなっているが、早期に回復すると考えいにくい」と語った。

一方で高井氏は、急速に進む脱炭素の流れも市況に影響していると指摘。「(原油)需要の6割が自動車など運輸関係。これが先進国では徐々に電気自動車に置き換わっていくとみられる」と述べた。

原油とは逆に価格が上昇しているのが、リチウムなどの鉱物。脱炭素社会の到来を見越し、電動化や再生可能エネルギー技術に必要な資源の需要が高まっている。高井氏は「電線や電気自動車の部品に使われる銅や、ニッケル、コバルト、リチウムなどの需要が10年、20年単位で伸びる」と語った。

住友商事のワシントン事務所長も務めた高井氏は、産油国が不安定化しかねないこうした流れが国際社会の勢力図に影響を与えると予想。「サウジアラビアなどは政府予算の前提が1バレル80ドルとされており、原油価格の低迷が継続すると産油国の財政に影響する」と述べた。イラクやイラン、ナイジェリア、リビア、ベネズエラやブラジルなど、産油国は経済的に脆弱(ぜいじゃく)な国が多いため「原油安の継続で問題が起こりかねない」と語った。

その一方で、中国は鉱物資源の需要拡大で追い風を受けている。高井氏は「ニッケルやコバルト、リチウムなどのバリューチェーンを抑えているほか、風力発電のブレードや太陽光発電で過半の世界シェアを押さえている」と述べた。さらに、今後は電気自動車の普及でも技術的な覇権を取ろうとしているとの見方を示した。

*インタビューは12月23日に実施しました。

(竹本能文 編集:久保信博)