【蛯原健】なぜいま、アジアのスタートアップを注視すべきなのか

2021/1/4
プロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、2021年2月から蛯原健氏による「最先端のテクノロジー地政学」を開講します。

プロジェクト開講にあたり、蛯原氏による特別説明会を実施。その一部を抜粋し、お届けします。
【蛯原健】いま知るべき、最先端の「テクノロジー×国際情勢」の論点
【残席わずか】最前線の投資家と学ぶ「最先端のテクノロジー地政学」

新興国や地方はなぜ大事か

今回のスクールへの申し込み理由の一つとして、「仕事に役立てたい」という考えがあると思います。
講義では、今後のビジネスで扱うべき分野やその扱い方、そして扱うべきでない分野なども論じていきたいと考えています。
大きな枠組みとして扱うべき分野の例としては、DXやSDGsやESG、また、新興国や地方の問題解決が挙げられます。
新興国や地方がなぜ大事かと言えば、我々が身近に見ている世界は都市部ばかりですが、世界の人口やGDPの半分以上は、まだ新興国や田舎にあるからです。
インドのバンガロールやインドネシアのジャカルタ、フィリピンのマニラといった都市は、日本の都市と近いものがあります。とはいえ、それぞれの国でそういった都市に住む人口比はわずかで、新興国のほとんどが実はまだ都市化されていません。
例えば、インドは人口の3分の2はまだ農村と漁村といった田舎在住になります。中国で言えば60パーセントほどが都市化され、残りの40パーセントは今も田舎のままです。
ところが、その田舎こそが過剰流動性とビッグテックにとって大きなフロンティアで、すでに奪い合いは始まっています。その重要性や詳細は本編の講義でデータを交えながら扱っていきます。
写真:holgs/istock.com
それから、ソーシャルインパクトも取り上げたい。
現在はマネーとテックの思惑が一致して株価がどんどん上がっています。例えば、テスラは世界で9番目に大きな会社になりました。
株価を見ると、2020年の利益の1200年分の企業価値がついています。それが良いか悪いかは別として、「なぜそうなったのか」「これからどうなるか」はインタラクティブに議論していくべき話題です。
テスラだけではないのです。中国の電気自動車で一番大きい企業はBYDですが、既にGMやホンダ、ヒュンダイよりも時価総額が大きいのです。それどころか、はっきり言って車もまだまともに売ったこともないようなNIOという企業ですら、それら大手自動車企業より大きくなっています。「それはいったいどうなのだろうか」という話もしていきたいですね。
スタートアップを注視することが、イノベーションやテクノロジーの注視とニアリーイコールであるということで、各国のスタートアップのリアルな現況もどんどん紐解いていきます。
例えば、東南アジアで一番目を光らせるべき企業は、ゲームとeコマースを扱う「シー・リミテッド」になります。創業10年あまりのスタートアップですが、今では1世紀ほどの歴史を持つ銀行などと比べても3倍ほどの大きさで、東南アジアで最大の企業になっています。
この成長の背景にはDXの影響があり、なぜアジアは日本よりDXが進んでいるのかも紐解いていきます。
もちろん、中国も力を入れてカバーするつもりです。中国は、過去6年間でスタートアップエコシステムの規模が50倍になったほどの極端な国です。ほんの数年前まではスタートアップでまったくかなわなかったアメリカを、その資金調達額において2019年には瞬間風速としては超えたこともあります。
その後に7割下落したわけですが、その理由が米中テクノロジー冷戦になります。ただ、現在の未上場企業のトップ20を見ると、半分以上は中国企業です。その一因としてIPOブームがありますから、そのあたりも含めて複合的に網羅していきます。
写真:Dilok Klaisataporn/istock.com

最後の超大国・インド

そして、インドも忘れてはいけません。おそらく最後の超大国になることがほぼ確実視されていますから、当然無視できません。
私がインドで注目しているのは、「米中二大国に次ぐ、世界第3位のスタートアップ大国」「グローバルビジネスで最も活躍する民族」「グローバル大手企業のイノベーション拠点」という3点からです。
なかでも2番目の「グローバルビジネスで最も活躍する民族」がポイントで、より具体的に言えば、移民一世という、かなり絞り込んだクラスターになります。
端的には、彼らが世界を牛耳り始めていると言えます。時価総額上位3社のうち、2社の経営者はインド人だったり、直近のアカデミー賞受賞者などを見ても、インド人は常連です。アイビーリーグの学部長でも、シンガポールの医者でもインド人だらけ。
そして、重要なのは彼らの多くが移民一世ということ。イーロン・マスクやビル・ゲイツやザッカーバーグも、他国からの移民二世や三世、四世だったりしますが、自ら海を渡った一世との違いなども、徹底的に紐解いていきたいと思います。
そして、現在は移民一世の好影響がインド国内にも行き渡り、優秀なテクノロジークラスターが形成されています。その上、アメリカにおける特殊技能職のH-1Bビザを取得する8割もインド人でしたが、現在は発給が厳格化されたことで、インド国内で仕事をする流れも生まれています。
アメリカではコストが異常に高くなったことで、多くの企業がシリコンバレーを離れています。そして、グローバルカンパニーがインドでイノベーションの取り組みを始めました。
インドは優秀な人材たちによるスタートアップが多く、今後はゴールドラッシュのように、ユニコーン企業が50社、100社と生まれていくことが予想されます。これらの要因からインドは大きく変貌しつつあるので、詳しく追っていきたいと考えております。
写真:xavierarnau/istock.com

多面的に光を当て考える

情報を詰め込んだ形になりましたが、今回は説明会であり予告編なので、あえて総花的にお話ししました。これまで列挙したのは題材でありますが、本編は題材を単純に解説するスクールではありません。
それらを題材として、それをどう理解分析し、仕事に役立てていくべきかについての、フレームワークやTips、会得しておくべきリベラルアーツなどを解説・議論しつつ、題材を参加者みんなで吟味していきたいですね。
私自身、答えが一つしかないことは、世の中にほとんどないと考えています。そのため、それぞれの対象に多面的に光を当てることで正しく捉えていきたいと考えています。
もちろん、そういったメソッドやアプローチ、フレームワークが参加者の方々の本業においても転用可能になるよう、意識してやっていくつもりです。
「こういう技術をどう思いますか」「この言葉について教えてください」という解説は、スクールの主眼ではありません。
皆様ご自身がテクノロジーが関連する事業計画、経営戦略、立法などの意思決定を行う際に役立つインサイトとメソッドこそが大事です。
また、「ピア効果」仲間同士の関係も非常に重要です。1年前に行ったNewsPicksアカデミアのゼミでも、参加者が非常に活発にインタラクティブな議論をし、みんなで飲みに行って楽しく語りあったこともありました。
当時はゼミの卒業生十数人が私の自宅のあるシンガポールまで遊びに来てくれたこともあります。みんなとは、バーベキューや現地視察など、一緒にイベントなども楽しみました。
COVID-19の流行以前だったので可能だったこともありますが、こういった交流は今回もオンラインも含めて行いたいと思っています。
同じテーマに興味があり、非常に優秀で熱意を持つ方々と、ともに学ぶことは非常に価値が高いものです。
そんな機会はそうそう多くはないはずなので、仲間と一緒にぜひ学び合っていければと思います。
(構成:小谷紘友、写真:遠藤素子)
「NewsPicks NewSchool」では、2021年2月から「最先端のテクノロジー地政学」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。