2020/12/30

【GM直撃】「丹念に、マウントせずに」実行した変革

SportsPicks/NewsPicksSports
 圧倒的な戦力、資金力、育成、データ・・・。
 福岡ソフトバンクホークスが語られるとき、必ず出てくるワードである。
 プロ野球の球団にはそれらをつかさどる署があり「編成部」と呼ばれる。選手の獲得、補強、放出、査定から、監督やコーチの人事がよく知られた仕事だが、昨今注目されるようになった育成やデータの活用、環境整備といった「強いチームを作るための体制づくり」をも取り仕切る。
 ホークスでその「編成」トップを務めるのが、取締役GM兼・球団統括本部長の三笠杉彦だ。
 経営難に直面していたダイエーからソフトバンクが球団を買収したのが2005年。その3年後の08年にホークスの編成部門にやってきた三笠は、以来、13シーズンを共に戦い、6度のリーグ優勝、7度の日本一を見届けてきた。特にこの4年は連続で日本一に輝いている。
 先のホークスを語る言葉を体現してきた男の一人だ。
 果たしてその強さの秘密はどこにあるのか。
 紐解こうとした今回の取材で三笠は「(自分たちがやってきたことは)隣を見ればやっていた」ことだと繰り返した。「とりたてて偉そうに語れることではないですよ」と。
 言われてみれば確かにそうである。
 しかし「隣もやっている」のに「勝っているのはホークスだけ」──それも事実である。
「隣を見ればやっている」
 それは、どういう意味なのか。どこに、他の球団との差があるのか。
 2020年を締めくくるスポーツ業界、日本一のスポーツ球団のトップの秘密に迫る。(一部敬称略)

孫オーナー「iPhoneで何かやれ」

 2008年10月にホークスへとやってきた三笠は、1年じっくりとスポーツを勉強し始めた。もともと東京大学ラグビー部に所属していた「スポーツマン」である。06年から2年間は母校・東大ラグビー部監督も務めた。
 スポーツビジネスに興味があり、その道の第一人者といわれる故・広瀬一郎氏のスポーツビジネスマネジメントスクールにも通っている。
三笠 お亡くなりになられた笠井(和彦)初代球団社長が、当時わたしが務めていたソフトバンク(株)(現ソフトバンクグループ(株))財務部の上司の上司でした。
 わたしがラグビーをやっていたことやスポーツビジネスに興味があることを知ってくださっていたようで、お会いしたときに『ソフトバンクとしてもっと球団を強くしたい。興味があるか?』とお声がけいただいたのがホークスに携わることになるきっかけです。
 「興味あります」とお答えしてやってきたのが2008年のことでした。そこからはまず1年は勉強をさせてもらおうと、いろいろなところへ話を聞きに行きましたね。
 現・ホークス会長の王貞治が指揮官を務めた最後の年のことである。結果は最下位に終わっていた。
 当時のチームの印象を三笠はこう振り返る。
三笠 ちょうど王さんが退任され、秋山(幸二)監督に代わられたとき。なんといっても王会長の率いる強豪チーム。前身のダイエー・ホークスの頃からそういうイメージがありました。
 ただ、一方で王監督がカリスマでありすぎるが故に、新しくすべきところが新しくなっていないという印象も持っていた。
 この頃は、野球界も転換期で、それまであった逆指名・自由枠制度(希望入団枠制度)がなくなったタイミングでもあります(2006年)。ダイエー・ホークスは故・根本陸夫さんがいらして、逆指名・自由枠でいい選手を獲得して強くなった経緯があったわけですが、それができなくなり、どういう形でチームの強化を図っていくのか。時代に合った施策が取れていない。
 成功のイメージがありつつ、その後の親会社の変更(ソフトバンクの買収)以降はうまく機能していない部分もあるなとは感じていました。
 とはいえ、すぐに「こうすればいい」という糸口が見えていたわけではない。
 一つあったのは、オーナーである孫正義から言われた言葉だ。