「withコロナ時代」に求められるマネジメント

2020/12/25
 日本の未来を担う実践者たちが交わり、「知」の化学反応を起こすNewsPicks主催のトーク番組「NewSession」。

 今回は「withコロナ時代の個人と社会」をテーマにセッションが行われました。

 ゲストは、国立感染症研究所所長の脇田隆字氏、お笑い芸人でプロデューサーの古坂大魔王氏、実業家の椎木里佳氏です。

 日本のコロナウイルス対策や感染の現状を学びながら、ビジネスにおける変化や家庭での対策など、幅広いトークが繰り広げられました。

 聞き手は、佐々木紀彦(NewsPicks CCO/NewsPicks Studios CEO)です。

(※収録日:2020年12月7日)

コロナウイルスを振り返る。感染が広がる「5つの場面」とは

佐々木 本日は「withコロナ時代の個人と社会」をテーマに議論していきたいと思います。
脇田椎木古坂 よろしくお願いします。
佐々木 まずは脇田先生に、現在のコロナウイルス感染対策について解説してもらいます。
脇田 はい。このグラフをご覧ください。赤が全国の感染者数、青が亡くなった方の数の推移を表しています。
脇田 2020年1月初旬に感染が始まって、4月から5月の波(1番目の波)、7月から9月の波(2番目の波)があり、11月から現在にかけて3番目の波がきている状態です。
 それぞれの波には異なる特徴があります。2番目の波では若い方を中心に感染が広がり、死者数は少なかったのですが、今回の3番目の波では高齢者の感染が増えていて、死者数も増加しています。
 こういった波は今後もしばらく繰り返されていくと予想されます。その中で死者数を減らすには、早めの対策をして波を小さくすることが大切です。それが保健所や病院の負担を減らすことにもつながります。
佐々木 今はワクチンがすごく話題になっていますが、脇田先生はワクチンに対してどんな見解をお持ちですか?
脇田 ワクチンはコロナウイルスへの切り札になると期待されていますが、有効性と安全性がまだ確立されていません。なので我々は、ワクチンが使えるようになることを期待しながら、もうしばらくは感染を抑えることに注力していく必要があると思います。
佐々木 どういった場面で感染リスクが高まるのでしょうか?
脇田 最初は「三密」と言っていましたが、現在はより具体的に、感染リスクが高まる「5つの場面」をまとめてあります。この「5つの場面」を具体的にイメージしながら、日常的に感染対策をしていただきたいです。
佐々木 家庭内での感染も増えていますよね。どう対策すべきでしょう?
脇田 家庭内でもマスクを付けて生活したり、トイレやお風呂といった共用部分は特にこまめに除菌したり、小さな対策の積み重ねが重要です。
 感染した人が家庭内にいる場合は、生活空間を分離していただきたいのですが、それが難しい場合はホテル療養なども良い選択肢だと思います。
佐々木 子供がいる家庭は、離れて暮らすのが難しいと思います。
脇田 子供は感染リスクがあまり高くありませんし、感染してもほとんどが軽症です。もちろん対策は必要ですが、そこまで神経質になる必要はないと思います。ひとり親家庭だと、一緒に入院したり、一緒にホテル療養したりするケースもあるようです。
古坂 脇田先生に質問です。欧米に比べて、なぜ日本では感染者数が少ないのでしょうか? 同じレベルで対策が必要ですか。
脇田 人種や個人の体質によって、感染しやすさや重症度が大きく変わることはないと言われています。感染者数に差がでているのは、社会生活や文化などの違いが大きな要因でしょう。
 また、公衆衛生体制や医療体制も日本と欧米で大きく異なっています。日本は保健所が充実していて、感染対策がよくできているんです。
 検査をして、濃厚接触者を探し出すところまでは諸外国でも行われていますが、日本は「どこで感染したか」という感染源調査までしっかりと行っています。その調査によって、先ほどの「5つの場面」などがわかり、効果的な対策へとつながっているのだと思います。
 ですが、感染者数が増えて重症者数が増加すると、医療崩壊が起きてしまう危険性は日本も欧米も差がありません。気を抜かずに対策を続けることが重要です。

ビジネスにおける変化。過去の「信頼貯金」でチームを保つ

佐々木 コロナウイルスの流行で、ビジネスのあり方がどう変わったかをお話していきたいと思います。椎木さんはどんな変化を感じていますか?
椎木 主にPR戦略の面で、方向転換をした企業が多いと思います。企業のYouTubeチャンネルを作ったり、インスタグラムストーリーズのカルーセル広告(1つの広告枠に複数の画像や動画を表示できる広告フォーマット)がメジャーになったり。
 コロナ禍での一時的なものかと思いましたが、ある程度定着したのではないかと感じますね。
佐々木 古坂さんはいかがですか。芸能や音楽の世界での変化は?
古坂 真正面から変化を受けています。ライブで激しいパフォーマンスが終わった後、シーンとした中で拍手だけが響くんですよ。「こんな風だったな」と各々が昔を想像しながら行動しなくちゃいけない状況だと思います。
 お笑いやトーク番組もすごく難しい。お笑いは「間」が重要ですし、密になるから生まれるおもしろさもありますから。
佐々木 リモートでお笑いは難しいですよね。
古坂 そうなんです。お笑いとリモートは相性が悪い。おもしろいものって全くできていないと思います。言葉尻をつかんで、ぱぱっとやりとりすることができないですから。なんとかいい方法を発明したいですね。
佐々木 続いて「マネジメント」についてご意見をうかがいたいと思います。
 コロナ禍でオンライン上の仕事が増え、その中でのマネジメント力が求められています。椎木さんはオンラインでのコミュニケーションをどう感じていますか?
椎木 中学生・高校生の子たちと仕事をすることがあるのですが、SNSでしかやりとりをしないんです。授業もオンラインが主体になっていますが、みんな全くストレスを感じていないようです。
 若い世代のほうが、コロナ時代のコミュニケーションにフィットしているのだなと感じますね。
佐々木 古坂さんはいかがですか? 音楽コンテンツ作りは、チームで動くことが多いと思います。
古坂 会えない中でのチーム作りは非常に難しいですね。今は、過去に築いたチームの信頼の「貯金」を使って、なんとか関係性を保っている状態です。
 お互いに、通常の10倍気を遣って言葉を尽くすくらいの労力をかけないと、オンラインで心地よいチームを作ることはできないんじゃないかなと思います。
 僕は、今も基本的にスタジオに行って収録に参加しています。やっぱり現場の空気感やチーム作りはすごく重要ですし、現場で生まれるおもしろさがあると思っているので。
 リモート収録は感染リスクがなくて安心ですが、僕はオンラインとオフラインをどちらもうまく取り入れていけばいいと思っています。
 常に感染対策のベストを目指すのではなく、ベターを積み重ねて、感染リスク・経済面・チーム作り・おもしろさといったあらゆる観点でベストの状態にできたらいいですよね。
佐々木 つづいて「これからのセルフマネジメント」についてうかがいます。脇田先生からみなさんへのアドバイスはありますか。
脇田 我々は、会社や研究所など組織に所属していますよね。組織の中で「少しでも体調が悪ければ、休んでも大丈夫」という雰囲気を作るのが大切だと思います。思いやりのある環境下で、チームマネジメント・セルフマネジメントしていければいいですよね。
佐々木 椎木さんはどういったセルフマネジメントをされていますか?
椎木 メンタル面をポジティブに保つことがすごく大切だと思うので、家にこもっていても楽しいことをみつけるようにしています。好きなYouTubeを観ながら筋トレしたり、動画配信サービスで韓流ドラマをたくさん観たり。
佐々木 古坂さんはいかがですか?
古坂 子供たちの世話ばかりで、なかなか自分のことができていないのですが……。仕事の生産性をあげて、空き時間を多く作るようにしています。
佐々木 どうやって生産性をあげているんですか?
古坂 「余計なことをしない」ですね。SNSやYouTubeなど、おすすめをだらだらと観るのではなく、自分で観たいものだけを探して観るようにしています。SNSって、ネガティブな気持ちになることも多いですし、「気付いたら何時間もたっていた……!」なんてこともありますからね。

感染症に強い社会を作る

佐々木 最後に視聴者のみなさんへメッセージを書いていただきたいと思います。
脇田 「コロナに学び 感染症に強い社会作り」
 コロナウイルスの流行はまだまだ続きます。現在も感染者数が増えていますが、早めの対策で流行拡大を抑制していきたいと思っています。
 今回、我々はたくさんのことを学びました。コロナウイルスとはなにか、感染症の脅威……。経済面やコミュニティの面からみれば、社会の弱い部分にこそ大きな打撃を与えてしまうこともわかりました。
 過去の感染症流行においては、差別や偏見が横行した歴史があります。社会の弱い部分に影響があるということは、今回のコロナウイルスも差別や偏見を生みやすい感染症なのだと思います。
 感染者に優しい、それでいて感染症に強い社会を作っていく方法をみなさんで一緒に考えていきたいですね。
椎木 「おうちで家族とフルーツサンド作ろう」
 家で家族と料理をしながら仲を深めていく時期だと思うといいですよね。その影響か、今年流行したものは、家の中で家族や友達、恋人と楽しむものが多かったと感じます。
 この状況をポジティブに捉えて、これを機に「つながり」を大切にしようと考えてほしいです。
古坂 「知って 聞いて 考えて 話して 動く」
 まずはこのウイルスが一体なんなのか、知らなきゃいけません。詳しい人に聞ける場合は、今日脇田先生に聞いたように、自分から聞いてみましょう。そこで、自分はどうすればいいか、なにが大切かを考えます。それを家族や夫婦、兄弟、友達と話し合いましょう。倫理観や「コロナ論」はそれぞれ異なります。
 そこまでできたら、初めて行動を起こしましょう。当たり前のことですが、この順序をきちんと踏むことが大切だと思っています。
 最終的に世界を守るためには、家族と自分という小さなコミュニティを守っていくことしかできないんだと思うんです。きちんと話し合って、全員でいい方向へ動いていけたらいいですよね。
 2020年、私たちを襲った新型コロナウイルスの流行。

 いまだ、安全安心のための大小様々な「自粛」と経済を回し生活の質を維持する「活動」との正しいバランスが見えていません。日々の生活を安全・安心なものにしながら同時に質も維持する新しい生活のあり方を模索中です。

 一方で、このコロナ禍を乗り切るための知恵や工夫がすでにあちこちで生まれています。みんなの叡智を結集することで、「新しい生活のあり方」がきっと見えてきます。

 ポータルサイト「新しい暮らし」( https://atarashii-kurashi.jp/ )では、困っている声、それを解決するもの、知恵や工夫を集めて発表しています。あなたの、あなたにとって大切な人の、ひとりひとり、みんなの「新しい暮らし」のために。困ったことがあれば声に出してください。できることを思いつけば声に出してください。

 少しでも明るく楽しく、 前向きに with コロナ時代を乗り越えるサポートをしています。

 ▼「NewSession」の番組視聴はこちらから。
(執筆:水沢環 編集:株式会社ツドイ デザイン:斉藤我空)