[ワシントン 16日 ロイター] - 米財務省は16日、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表し、スイスとベトナムを「為替操作国」に指定した。このほか、台湾、タイ、インドを「監視リスト」に追加した。

財務省は、スイスとベトナムが2020年6月まで、外国為替市場に介入したと指摘。スイスの介入の少なくとも一部は、国際収支の調整を防ぐためのスイスフラン押し下げが目的だったとしたほか、ベトナムもドンを押し下げ貿易上の優位性を獲得するために介入の少なくとも一部を利用したとした。

ムニューシン財務長官は声明で、「米国の労働者と企業にとっての有利な条件と経済成長を守るために本日、力強い一歩を踏み出した」と述べた。

これに対し、スイス国立銀行(中央銀行)は、為替操作は行っておらず金融政策に関するスタンスに変更はないとした上で、「外為市場に一段と強く介入する意思は変わらない」とした。

ベトナム貿易省はコメントを控えた。

米財務省の高官によると、スイスとベトナムはともに為替操作国指定に関する3つの判定基準を大幅に上回ったという。指定には(1)少なくとも200億ドル以上の対米貿易黒字、(2)国内総生産(GDP)比2%以上の為替介入、(3)GDP比2%以上の経常黒字が必要だが、財務省によるとスイスの為替介入はGDP比で14%、ベトナムは5%超だった。

高官は、米国はスイスとベトナムの指定解除に向け交渉を模索していくとしたが、その手段として両国の製品に関税を課すかどうかについては明言を避けた。

ベトナムに対しては、ドン安の要因を巡り米通商代表部(USTR)が進めている別の調査に財務省の報告書が影響を及ぼし、関税が導入される可能性がある。

高官はまた、今回の為替報告書にバイデン次期政権は関与しておらず、「トランプ政権による判断だ」とした。イエレン次期財務長官は来年4月の為替報告書で調査結果を変更する可能性がある。

監視リストは中国、日本、韓国、ドイツ、イタリア、シンガポール、マレーシアの7カ国の指定が維持され、台湾、タイ、インドが追加されて10カ国・地域に増えた。インドとシンガポールについて、外為市場に「持続的、かつ非対称的に」介入したと指摘。ただ為替操作国指定の他の条件には当てはまらなかったとした。

台湾中銀の当局者は、報告書公表後ロイターに、為替レートの安定維持を図る意向を示した。

テンパスのディーリング・トレーディング担当バイスプレジデント、ジョン・ドイル氏は「トランプ氏が続投していれば、為替操作国指定により大きな効果があったかもしれないが、1カ月後には新たな財務長官が就任するため、今回の報告書にあまり意味はない」と述べた。

一方、ケンブリッジ・グローバル・ペイメンツのチーフ市場ストラテジスト、カール・シャモッタ氏は、市場は概して為替操作国指定を重要視していないが、その認識が変わるかもしれないと指摘。「イエレン氏や一部アドバイザーは為替操作と無制限の資本フローが市場を歪め、米国の貿易不均衡を拡大させていることを理解している。バイデン政権下では為替報告書が新たな重要性を持つかもしれない」と語った。

米財務省や国際通貨基金(IMF)で高官を務めたマーク・ソーベル氏は今回の為替操作国指定について、機微や情状酌量の余地を無視した「機械的な」判断だと指摘。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、スイスフランには安全通貨として資金が流入しているほか、ベトナムでは米国の対中関税を背景に2019年に国外からの投資が殺到しており、「米国は有害な通貨措置に関する明白な事例をいくつか見落としている」と述べた。

また、為替介入のGDP比率が辛うじて2%を超えなかった台湾とタイは「数年にわたり多額の介入を実施してきた」とした。

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