【山田五郎】稼ぐのが上手い人ほど、お金の使い方を知らないのは何故か?

2020/12/24
2021年1月26日からNewsPicks NewSchoolで「Creative GINZA」が始動する。

常に新しい文化やビジネスを創造してきた銀座で、多彩なジャンルの文化発信を行ってきた東急プラザ銀座とBunkamuraが監修する文化芸術のフィルターを通した新プロジェクトだ。

新たな生活様式が求められる今、まさに必要とされる「次の時代を生き抜く知恵や発想」を、伝統文化や日本のアート業界で新境地を開拓、挑み続ける実践者をゲスト講師に招いて探求する。

ナビゲーターは、テレビやラジオなどのパーソナリティーやコメンテーターなど、多方面で活躍する編集者・評論家の山田五郎氏。
本プロジェクトの開講に先立ち、現代のビジネスパーソンが身につけるべき、人生のパフォーマンスを高める「大人の価値あるお金の使い方」や「銀座だからこそ磨ける審美眼」について山田氏に伺った。(聞き手:佐々木紀彦)
【山田五郎】「茶の湯、落語、美術」から学ぶクリエイティブ思考
山田 五郎/編集者・評論家 1958年東京都生まれ。上智大学文学部在学中にオーストリア・ザルツブルク大学に1年間遊学し、西洋美術史を学ぶ。 卒業後、講談社に入社『Hot-Dog PRESS』編集長、総合編纂局担当部長等を経てフリーに。 現在は時計、西洋美術、街づくり、など幅広い分野で講演、執筆活動を続けている。

日本のビジネスパーソンは「金遣い」が苦手??

── 山田さんがお考えになる「大人の価値あるお金の使い方」とはどんなものでしょう?特に我々ビジネスパーソンは、どうすれば「かっこよく社会に役立つようなお金の使い方」ができるようになるのでしょうか。
かっこいいかどうかはともかく、楽しくお金を使って社会にも貢献するためには、趣味を持つのがいちばんだと思います。
好きなものを見つけて探求し、見る目を磨き、詳しくなるにつれ楽しみを増やしていって、その都度けちらずお金を使う。趣味を持つことは、自分自身の人生を豊かにしますし、文化や芸術を育てることにもつながります。
しかし、あくまで個人的な印象ですが、日本のビジネスパーソンは「お金を稼ぐのが上手な方ほど、お金を使うのは上手くない」ような気がします。稼ぐことばかりに一生懸命で、使うことにまで気が回っていないというか、いわば稼ぐことが自己目的化してしまっている。これはお金の使い方を知らないから。
さらにいえば、お金を稼ぐこと以外に趣味がないからではないでしょうか。いざ使うとなると単に高額なものばかりやみくもに買い漁るお金持ちが多いのも、そのせいだと思います。

消費に立ちはだかる3つの障壁

──お金を使うには訓練が必要で、それに慣れていない人が多いということでしょうか。
訓練や慣れといった個人の問題もありますが、それ以前に今の日本の社会全体がお金を使いにくい環境になっているのかもしれません。そこには、少なくとも3つの障壁があるような気がします。
1つめは、低成長時代が20年以上続く中で醸成された、お金を使うことへの罪悪感。一国の首相が3500円のカツカレーを食べただけで叩かれる時代ですからね。
戦時中の「贅沢は敵だ」と同じですよ。しかも今はSNSが同調圧力装置としてネガティブに作用して、うっかり贅沢しようものならたちまち大炎上してしまいます。これでは安心してお金が使えません。
2つめは、いわゆる「もの余り」。バブル期に消費が伸びたのは、日本の社会が豊かになった結果だと思われがちですが、そうではなく、豊かになっていく過程だったから。欲しいけど買えなかったものが買えるようになっていく過程だったからなんですよ。
ところが今の低成長時代は「豊かな不況」といわれるように、お金はなくても、ものはある。苦労して働いてもお給料が増えず、一方で必要最低限のものはすでにあるとなれば、無理してまでお金を使おうとは思わない人が増えるのは当たり前。まして将来が不安となれば、使わずに貯めておこうと考えるのが普通ですよね。
そして3つめが、趣味や文化の軽視です。これは戦後の日本にずっと続いている傾向ですが、「豊かな不況」でさらに拍車がかかっています。
例えば、就職に不利だからという理由で、大学の文学部に進む学生さんが減っていますよね。確かに文学や芸術は、お金の稼ぎ方は教えてくれないかもしれません。
でも、使い方は教えてくれる。なにしろ一生の趣味にできますから。そして「豊かな不況」の中でもお金を使いたいと思えるのは、趣味や文化の領域ですから。
──たしかに必需品への欲望は満たされている実感があります。一方で、文化やアートなど心を豊かにするものに対しては無限に欲望をかき立てられるはずですし、そこにお金を投じることで社会貢献にもなります。そういう意味でも文化投資が大事になってきている側面はありそうですね。
そうですね。趣味や文化にお金を使うにあたっては、自分が楽しむだけでなく、美術館や協会への寄付を通じて、より直接的に社会に貢献する方法もあります。
でも、実は日本はここにも障壁があって、寄付に対して税制上の優遇措置を得るためのハードルが、欧米諸国に比べて高いんですよ。日本に寄付の文化が育たない一因は、ここにあると思います。

目利き力を鍛えるには、師を探せ!

──となると、やはり個人として趣味などを育み、文化を下支えすることがひいては社会全体にも効果をもたらしていく道筋となりそうですね。山田さんご自身は、時計をはじめ文化やアートへの造詣が深く様々なコレクションをお持ちですが、お金の使い方はどのように鍛えてこられたのですか?
いや、別に鍛えてはいないですよ(笑)。むしろ「鍛える」といった禁欲的な姿勢で身構えてしまうことが、よくないんじゃないですか。趣味は気軽に楽しむもの。楽しくなければ続きません。
趣味という日本語には、英語のホビーとテイストという2つの意味が含まれていますよね。ホビーは個別の趣味ですが、テイストには嗜好や流儀といった、より広い意味がある。
どんな趣味でも、その分野に関する知識だけでなく、核となる価値観や美意識がなければ浅くなります。そして自分自身の価値観を養うためには、できるだけ多くのものに触れた方がいい。
趣味を深める上でもうひとつ大切なのは、導いてくれる師となる先輩や仲間を見つけること。稀代の趣味人といわれた白洲正子さんにだって、青山二郎さんや細川護立さんといったメンター的な存在がいらっしゃったわけですよ。趣味を極められるか否かは、いい師匠に出会えるかどうかで決まるといっても過言ではないかもしれません。
趣味を同じくする先輩だけでなく、美術商などそれぞれの分野の業者さんが師となる場合も多いですよね。中には悪徳業者もいますから、そこを見極める「目利き役」を雇うお金持ちも少なくありません。いわば、お金の使い方の指南役です。
もっとも、日本ではそうした「目利き役」も育ちにくい。ものづくり立国でやってきたせいか、単にアドバイスするだけでは仕事と認めてもらえない風潮が根強いですからね。
──ものづくり至上主義のような意識ですね。
そうなんですよ。「アイツは人の金で物を買っているだけじゃないか!」と叩かれて、実際その通りではあるのですが、趣味や文化で経済を回していく上ではそういう「目利き」の存在も社会に欠かせないのではないでしょうか。
話が横道にそれてしまいましたが、趣味を楽しむには、できるだけ多くのものに触れ、尊敬できる師匠を見つけること。この2つさえ心がけておけば十分だと思います。
※次回に続く
【山田五郎】銀座は「日本で一番良いもの」に出会える街だ
【山田五郎】お金の価値は平等ではない。価値基準を磨くためにすべきこと
(構成:小俣荘子)
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