(ブルームバーグ): 新規事業開発を支援するSun Asterisk(サンアスタリスク)は、これまでのスタートアップ企業の支援で蓄積したノウハウを大企業などにも提供し、売上高は最低でも毎年20%成長を目指す。音楽バンドに熱中して高校を中退する波乱の青春時代を過ごしたトップのデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた挑戦だ。

同社は、日本を支えてきた大企業が素早く新規事業を生み出せる環境を作りたいと7月に東証マザーズに上場した。小林泰平最高経営責任者(CEO、37)によると「大企業などのエンタープライズ企業は新規事業をつくる部分をうまくやれていない」という。そこに取り組むために認知度を上げるべく上場に踏み切ったとインタビューで話した。

製造業主導で発展してきた日本では、企画・開発に長い時間をかけて、安定と品質の高いサービスを最初からリリースすることが多く、その時点では市場が変化していたりユーザーニーズに合わないことがよくあると小林氏はみる。

同社では、企画から半年程度で最初のサービスを開始。そこからさらに開発と運用を続け、ユーザーニーズに沿って拡大していく方法をとる。企業規模によって開発の方法は変えず、スタートアップ的なプロセスでできるだけ小さく、早くリリースしユーザーとの接点を作りニーズを吸い上げる。大企業が新しいサービスを作っていけるような土壌を作り、日本のデジタル化が抱える課題の解決を目指す。

矢野経済研究所によると2021年度の国内民間企業のIT投資は13兆3200億円。そのうち4兆5000億円がDXなど新規ビジネスに充てられると同社では推計する。市場の大きさに対し事業づくりのできるITベンダーの数が足りず、小林氏は「これを乗り越えないと日本は完全にデジタル化の波から乗り遅れて経済的にもつらい国になる」と予想する。

転機

小林氏がエンジニアになったのは、たまたま電子メールの整理中に開いたエンジニアの求人メール。同氏はバンド活動に熱中し中学受験で入った早稲田実業を高校で中退。家を追い出され1年半の間ホームレスとなり新宿や渋谷を転々としながらバンド活動を続け、有名ライブハウスに勤務。その後、音楽の知識を生かし珍しいレコードの転売で生計を立てている時期だった。

その日暮らしから抜け出したいと思っても何をやるにしても経歴が引っかかり普通の就職はあきらめかけていたという。パソコンにも詳しい訳ではなかったが選考は履歴書ではなくテストのみ。中学受験を経験しテストには自信があり、勉強せずに挑んで合格した。ITエンジニアとなり2年がたった2012年に、人材関連のIT企業、アトラエ創業にかかわった平井誠人氏から一緒に起業しようと誘われた。これがサンアスタリスクの種となる。

小林氏は自身を「守るよりもリスクを取ってでも面白いと思えるものや、長期的に良いと思えるものに飛び込んでいくタイプ」と分析する。目を付けたのは理系教育に力を入れているベトナム。移住して、大学と連携し選抜コースを運営したり、ゼロから事業運営と開発が一緒になった価値創造型のエンジニア集団を作った。13年の同社創業から、現在では4カ国6都市でエンジニアを中心に約1500人を擁する陣容となった。

DXの波

同社はあらゆる産業のデジタル化を進める中で、11月に20年12月期の営業利益計画を従来の7億1000万円から8億4900万円に引き上げた。顧客数、顧客単価とも堅調に推移しているという。生産性向上で販管費率も低下した。DXの波は逃さない。

同社は、海外では大学と産学連携でIT人材を教育の仕組みをつくってきたが、日本では18年にエンジニア育成スクールを展開する会社を買収した。小林氏は、IPOにより今後も企業の合併・買収(M&A)はやりやすくなり、「具体的な案件はないが、成長のためにオーガニックだけでなく積極的にやっていきたい」と語った。

サンアスタリスク株は公募価格700円に対し10日終値は2563円と3.7倍で、予想株価収益率(PER)は約118倍。9月3日には4765円まで上昇した。松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは「株価収益率が100倍以上と高くいわゆるモメンタム株という状況になっている」と指摘。「マザーズ市場全般の好調さがどこまで続くかが影響するだろう」とみている。

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