2020/12/11

中国版“食べログ✕Uber Eats”「美団 」に見るデリバリーの未来

モビリティライター
スカイスクレーパーがそびえ立つ大都会の真ん中、オシャレなオフィスビルから美しい女性が登場する。
まるで日本のバブル期のドラマのワンシーンのようだが、ここからが”事実は小説より奇なり”だ。その美しい女性はにわかにスマホを取り出して、自動走行するロボカーにQRコードをかざして、ランチのデリバリーを受け取る。
未来を描いたドラマのワンシーンではなく、中国のオフィス街のランチタイムでは日常茶飯事の風景である。
乗用車に人間を乗せて行う自動運転に関しては、百度(Baidu)や滴滴出行(DiDi)、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)による実証試験が行われている段階で、実用化まであと一歩。欧米諸国と比べて、劣っているとも、勝っているともいえない状況だ。
しかし、低速走行のロボカーに関しては、日本人が想像する以上に、中国の日常には普及している。

イノベーションと社会的受容性との衝突

過去の事例を鑑みても、イノベーションが起こるとき、技術の急速な普及に人間の社会が追い付けずにおかしな法律を作ったり、人間の心理が受け入れず社会的受容性が間に合わないということが起こる。
例えば、自動車が発明された100年ほど前、イギリスでは「馬無し馬車が道路を走ると馬や御者が驚くかもしれない」との懸念から、自動車の前を赤旗を振った人間が誘導しなければ走れないという法律ができたことがある。
自動運転の技術は今まさにそのような過渡期だ。乗用車に人間を乗せて自動運転しようとすると、技術的な課題だけではなく、保険や社会的受容性といった乗り越えなければならない課題が山積している。
しかしながら、過去にも紹介した通り、エストニアのスタートアップ企業「スターシップ」のように荷物を積んで低速で走るなら、現在の道交法上でも運用に問題がないし、社会的受容性の観点からも十分に受け入れられる。
【エストニア】モビリティ・イノベーターの宝庫となった理由
実際、北京に代表される中国の大都市では、道路と歩道に加えて大量の自転車が走る自転車道があったが、今では電動バイクが闊歩する専用道になっている。
そうしたインフラ事情もあって、時速20キロ程度以下で走る車両専用レーンを自動で走行する配送ロボカーが活躍しているのだ。

デリバリー+レストラン検索アプリ

中国では元々、オフィスでのランチに出前を取るのは日常的で、デリバリーサービスのアプリが普及し、Uber Eatsのようにオンデマンドで配送していた。
そこに、中国ではおなじみのデリバリーサービスのアプリ(元々はクーポン共同購入アプリ)を運営する「美団(Meituan)」が、大都市での人手不足に備えて、ロボカーでの自動配送を導入し始めていた。
さらに、「美団」と、レストラン検索アプリである「大衆点評」が2018年後半に合併して、「美団点評(Meituan Dianping)」としてユニコーン化した。ちなみに今年9月には「点評」を消し、「美団」に社名を変更している。
大きな調達によって、潤沢な資金を得た結果、自動配送のプラットフォームと自動配送ロボカーの開発を開始したというわけだ。

フランス部品大手メーカーと共同開発

初めてその発表を聞いたのは、2019年1月のCESの会場だったが、1年後の2020年のCESでは、フランス部品大手のヴァレオ(Valeo)のブースで、実際に自動運転のロボカーでデリバリーサービスのデモを体験できるまでに完成していた。
まずはユーザーとしての体験をリポートしてみよう。
ヴァレオが開発した自動配送ロボの「eデリバリー・フォー・ユー」では、スマホから美団点評を経由してレストランのデリバリーメニューから食事の配送を頼むと、自動配送ロボカーが自動でレストランに走っていく。
レストランで作った食事を自動配送ロボカーの指定された番号のボックスに入れると、今度は、自動配送ロボカーは注文した人のところまで自動で配送する仕組みだ。
ロボカーが到着すると、スマホに連絡が届くので、ロボカーにQRコードをかざすか、注文ナンバーを入力すると、ボックスのドアが開いて料理を受け取れる。
注文システムは美団が独自に開発し、ヴァレオは自動運転のEVの開発を担当した。ヴァレオでは、すでに中国の自動車メーカー向けに48VシステムとEV向けの技術を提供している実績があり、美団向けに開発した自動配送ロボカーに搭載される2次元/3次元カメラ、ライダー(赤外線スキャナー)、超音波センサーなどのセンサー類はすべて量産しているものだ。加えて、画像認識システムや自動走行のアルゴリズムなどもヴァレオが開発している。
デモ走行に使われた車両のスリーサイズは、全長×全幅×全高=2.8×1.2×1.7mとコンパクトながら、17個の食品ボックスが搭載できる。一回の充電で約100kmの走行が可能だ。
2020年中は美団向けに100台の納入を計画しており、冒頭でお伝えした通り、北京の20km/h以下の専用道での導入が始まっている。
美団向けには、2023年までに1万台の生産を予定しているが、加えて、類似のサービサー向けに提供することも視野に入れている。

乗用車では課題が多いが…

MaaSについて考えるとき、乗用車については、法律や保険など、乗り越えなければならない課題が依然としてある。一方で、自動配送ロボカーは、思いの外、現実的になっている。
「pick me up!」と叫べば自動で走ってくるナイトライダーのようなSFチックな世界観とはほど遠いものの、のんびりと出前を運んでくるユーモラスな未来のほうが、より現実に近いと言えるだろう。