2020/12/4

【爆伸】1兆円すらスタートライン。製造業の革命児CADDiのプラットフォーム成長戦略

NewsPicks BrandDesign ChiefEditor / NewsPicksパブリッシング 編集者
 そもそも、CADDiの何が驚異的なのか。3点に絞る。
 1.部品の自動見積りを可能にしたテクノロジー
 2.大幅な時間・資金のコスト削減のインパクト
 3.受発注両サイドの負を解決するプラットフォーム
プラットフォームの仕組みは、以下の図に集約される。
発注者が、CADDiプラットフォーム上に図面データをアップロードすると、独自の自動解析テクノロジーによって、価格と納期が瞬時に算出される
 2017年にローンチしたCADDiは、累計6,000社もの顧客基盤を保持し、中でも注力している産業装置メーカー1,500社以上の案件を加工カテゴリごとに集約。全国600社あるパートナー工場の強みに基づき、最適な工場へと分散し工業部品を発注する、という「集散両立」ができるプラットフォームを実現した。
 取引や製造の過程で発生していた時間的・金銭的コストを削減することに成功。その金銭的コストの削減だけ考えても、インパクトの大きさは計り知れない。
 例えば、日本の製造業の中小企業の営業利益率は平均3%。もし売り上げ10億円の企業なら、利益は3,000万円となる。そして調達コストは6億円から7億円ほどだ。では、売上が10億円で調達コストが6億円かかる製品の生産において、調達コストを10%下げるサービスが導入されるとどうなるだろうか。
 実に6,000万円が浮き営業利益が9,000万円、つまり3倍になる。この驚異的なインパクトこそ、CADDiが「モノづくり業界に革命を起こす」と各所で騒がれている所以だ。
「創業以降、個人業から大手自動車メーカーまで、様々なモノづくりに携わるクライアントをサポートし、とにかく業界にどんな課題があるのかを全部把握するため、ありとあらゆる案件に対応し、広い業界やニーズを把握することに努めた」と振り返るのは、キャディ株式会社代表取締役 CEOの加藤勇志郎氏。
 昨年7月、多品種少量生産である「産業機械」という領域に着手してからは、領域の範囲内でいかに市場シェアを獲得できるかにフォーカスし、この1年で顧客単価10倍以上にまで伸ばした。従業員数も昨年から約2倍に増えたという。
 しかし、CADDiの成長ストーリーはまだ始まったばかりのようだ。創業3年となるキャディ社は、次の3年で従業員800人まで増やし、事業を拡大させるという。
 実証実験を成功させ、顧客開拓から「産業機械」という領域に絞り込んだ前年までの活動を「CADDi 第1章」とすれば、現在、彼らは「第2章」のフェーズへと突入していると聞く。
 さらなる成長を遂げる勝ち筋はどこにあるのか?
 代表の加藤勇志郎氏に、「CADDi 第2章」のビジョンと戦略を訊いた。

顧客上層部との交渉機会が増えた直近3ヶ月

──創業から3年、実績を着々と積み上げていると聞いています。直近の変化と現状の課題を教えてください。
加藤 ありがとうございます。大きな変化としては、私たちが対面するステークホルダーが、現場の調達担当者の方だけでなく経営層にも広がってきました。
 この半年、コロナ禍によってやはり経営層の危機感が高まってきたと思います。およそ2年前に比べると、今はコストや工数を根本的に削減し、調達担当者がより付加価値の高い仕事をすることを経営層が求めている印象があります。
東京大学卒業後、2014年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに新卒入社。2016年にマネージャーに就任(同社史上最年少)。日本・アメリカ・オランダ・中国などで製造業の全社調達改革領域及びIoT/AI領域をリードするほか、グローバルでの戦略構築、新規事業策定などに従事。大手メーカー15社程度の調達改革に従事した結果、同分野への課題意識から、2017年11月にキャディ株式会社を創業。
 そもそもの大前提として今まで十年来の付き合いがある「得意先の町工場」に代わりCADDiを導入してもらうのは、非常にハードルの高いことです。
 そんな中で今まで調達担当の現場レベルで話を進めていると、月次で数百万円程度まではすぐに発注がいただけても、数千万から数億円規模の取引に発展するまで、とても時間がかかっていました。
 調達部品の1割を発注してみて、便利だということがわかった。では、取引の過半数をうちに任せていただけるのか。そういう経営レベルの判断を要するところまで、話が上がるようになりました。私たちも経営層向けのWebセミナーを開催したりと、アプローチを変えていっています。
 今日も実は取材の前にお客様である装置メーカーの経営者とお会いしていたのですが「1年から3年ぐらいのスパンでCADDiにすべてを任せたい」と言っていただきました。
──顧客に全調達の取引を任されるほどの価値の源泉はどこにあるのでしょうか。
 まずプラットフォームとして、調達のジレンマを解消できるという構造があります。
──調達のジレンマ、ですか?
 はい。取引先を1社に集約して部品を発注できれば、コストを削減できますよね。しかし、何社かに発注先を分けることで、納品の遅延や取引先の倒産などについて、リスク分散もしたい。コスト削減かリスク分散かのジレンマです。
 CADDiを通して何千種類もの部品を調達すれば、企業からすると「集約」にあたります。そしてその受注をもとに、CADDiが600社に及ぶパートナー工場へ案件を「分散」させる。そうやってコストとリスクを同時に下げる「集散両立化」を実現させています。
 さらに私たちもDX的な支援を強化し、現在は受発注に加えてお客様の図面管理や生産管理まで複数の機能開発が進んでいます。
 大量の見積もりがあっという間にできて便利という以上に、お客さまの調達コスト全体を下げるところにまでコミットできるようになってきたと思います。テクノロジーを用いてお客さまの経営によいインパクトをもたらすパートナーになる、これが私たちCADDi第2章のミッションだと言えます。
──その成果が「顧客単価10倍以上、従業員数の倍増」につながっている。まさに当初からの構想通り順風満帆でしょうか。
 いえ、苦労だらけです。たまにまわりのお話を聞くとそつなくスマートにやっていると思われがちのようなんですが、ひとつひとつ泥臭く進めていることがたくさんあります。
 品質管理ひとつとっても、入力された図面を頼りに初回から完璧に求められている品質を満たすことは簡単ではありません。例えば産業機械は装置一式に数千個以上の部品を使います。企業も特定の町工場に数十年以上委託し、試行錯誤を重ねる中で完成品を仕上げてきたようなケースが多いからこそ、図面からある種の「翻訳」が必要です。
──図面に書かれていない情報がいくつもある。
 その通りです。特に新規案件では、どのような品質が求められているかを発注企業と細かくすり合わせないといけません。企業ごとに異なる明文化されていない基準を規格化していくために、仕上がりの仕様をすべてデータ化していく作業は、泥臭く汗かいている部分です。
 また私たちの良品率は99.8%以上あります。数字だけだと十分高く見えるかもしれませんが、それでも1000個以上の部品があれば、必然的に1つ2つの不良品が出てしまう。そして、1つでも不良品が出れば、そこで生産工程がストップしてしまうリスクになる。
 現場としては途中で止まったら、今すぐ不良でない部品を持ってきてくれ、ということになるわけです。それが近所にある馴染みの町工場であれば、すぐに直して持ってきてくれるなど、融通が利く部分でもありました。
 私たちも不良を出したら迅速に再制作を行い、場合によってはハンドキャリーに積んで新幹線で届けるなど、完全納入するためにできることすべてを行います。どんなにインターネット上でのサービス体験が良くても、最終的にそこまで守れないと信頼されません。どれだけ規模の大きな案件でも、いかに安定的に良品率を限りなく100%に近づけていけるか、それも大きな挑戦です。
──それは大変そうです。いわゆる「プラットフォーマー」は、スマートかつ融通の利かないイメージでしたが、顧客それぞれにかなり寄り添っているんですね。
 実は半年前から「個に迫る」という標語を掲げています。
 DXだけが先行して効率化やシステム化を進めていくと、お客さまにこちらの都合をただ押しつけるだけになりかねない。究極的によいサービスができたあとはそれでいいのだと思いますが、現状ではそれだけだと「なければならない」サービスにはならず、「あった方がいい」レベルとなってしまいます。
 だからこそ、個社ひとつひとつのニーズやペインを深く捉えてよりよいサービスを開発・提供する。その中で、共通項を見つけ標準化していくという順番を明確にしました。
 なにより企業は重大な意思決定をして私たちに任せてくれているわけですから、それぞれの企業のニーズに対して、真摯に応えたいと思っています。
──サービスにおいて、なにか具体的な変化はありましたか。
 部品一式を発注いただいているお客さまからは、ここまでやってくれるのなら、いっそあとの「組み立て」の工程までお願いしたいというニーズも多くいただくようになりました。そこで9月から、部品調達から組み立てまで一気通貫での受注も開始しました。
「個に迫る」の標語を掲げてから、お客さまが抱える問題の核心により迫れるようになった手応えを感じています。
 泥臭く信頼関係を築く中で、次の飛躍の礎になるようないい事例がいくつも生まれました。それと同時に、この業界構造が生む負の大きさを改めて目の当たりにしたことで「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」と言うミッションを実現する覚悟を新たにしました。

CADDiが目指す3つの拡大路線

──現在は、産業機械にフォーカスを絞って、着実に成長を続けているわけですが、これから3〜5年の中期スパンでどのような成長戦略を考えていますか。
 私たちは3つの成長軸を考えています。
 ①業界・製品の拡大
 ②地域・グローバルの拡大
 ③サービス・アプリケーションの拡大
 1つ目の「業界・製品の拡大」というのは、今まで製品として取り扱えていなかった「射出成形」「鋳造」のような加工領域も、増やしていくこと。そして、産業機械だけでなく、派生できそうな業界へと幅を広げていくことです。
 具体的には、すでにプラント系をスタートしていますが、それ以外にも航空宇宙や医療機器・発電機といった近隣の業界にも展開し、受発注を広げていきたいと思っています。
 2つ目「地域・グローバルの拡大」とは、製造業の受発注プラットフォームを海外に広げていくことです。
 今、国内は47都道府県ほぼ全部の企業と取引が生まれていますが、次の3年スパンで海外進出を考えています。
──グローバル展開は、様々な壁がありそうです。
 それが実はグローバル化には早くも手応えを感じています。というのも、製造業で1,000億円以上の規模を持つ会社のほとんどは、売り上げの半分以上がグローバルなんです。海外の需要サイドはすでに存在するし、供給サイドも海外に子会社を持つパートナー工場が多数あるので、そこを起点にビジネスを広げていくことができる。
 それによって日本のお客さまも海外からの仕入れができるし、日本の工場も海外から受注することができる。一般的なプラットフォームと異なり、私たち製造業のBtoBプラットフォームの特性として、両サイドともグローバルが当たり前なので、既存の取引先との関係がそのままアセットになり、拡張が非常にしやすいんです。
 それに、海外での日本に対する「モノづくりブランド」って私たちが思っている以上に強い。リーズナブルで高品質というイメージがしっかりあるので、日本の会社がモノづくりのプラットフォームとして海外に進出することは、ストーリーとして受け入れてもらいやすそうなんです。
──日本経済の過去の遺産がストーリーとして活きてくるわけですね。3つ目の成長戦略はなんでしょうか。
 3つ目「サービス・アプリケーションの拡大」は、現在の「受発注」の最適化・最大化を中心としたその延長に、様々な関連サービスを構築していくということです。
 例えば、生産管理システムの提供。中小加工会社の生産管理が改善されるだけではなく、キャディとしても町工場の生産状況をつぶさに把握することで、工場・機械ごとに空いている時間が把握でき、短納期での発注ができるようになる。パートナー工場としても、空いている機械の稼働をそのまま売上に変えることができます。
──町工場のキャパシティを仮想化することができるんですね。この図のファイナンスは、どういうサービスでしょうか。
 これは私たち独自の与信で、ファイナンス面の支援も行うということです。
 というのも、現状企業が発注してから、加工工場に入金されるまでに数ヶ月を要します。長いと半年かかることもあり、キャッシュフローが非常に悪い。その間に黒字倒産のリスクが発生していて、これを銀行の借り入れで解決しようとしても、間に合わないケースもある。
 CADDiの場合、その工場の生産能力などのポテンシャルが過去の取引データから精度高くわかるので、詳細なスコアリングを元に適切な与信判断を行うことで、ファイナンスの支援ができると考えています。
──中小の町工場にとって、そんなに心強いことはないですね。他にもサービス要素がたくさんあります。
 そうなんです。いくつもの事業領域が広がっていて、まだまだやるべきことがたくさんあります。
 もちろん大前提として、圧倒的に重要なのは受発注を大きくすること。受発注の拡大が、3方向のスケールの根幹です。

求める人材は「新しい何かを生み出していく人」採用ではポテンシャルを見る

──非連続の事業成長をしていく上で、組織拡大が重要になります。キャディ社と言えば、NewsPicksでも「辞めマッキンゼー×辞めアップル」といった見出しも躍るわけですが、やはりキラキラしたキャリアの人が多そうなイメージがあります。
 いえ、決して経歴重視で採用しているわけではありません(笑)。
 eコマースから製造業、商社、GAFAなど、幅広い業界の出身者が参画してくれています。タイプも様々で、卓越した個性や専門性を持ったメンバーが集まっていますね。
──どのような点を重視して採用を行っているのでしょう。
 採用で見ているのは2つ。バリューとポテンシャルです。バリューは「テクノロジーや仕組みを通し、モノづくり産業を変えていくことにコミットできるか」ということ。エネルギーが自分に向いているのではなくて、社会に向いている人というのは僕の中でマスト条件として思っているところです。
 これまでの「個に迫る」という標語の通り、特に製造業出身の方は、その知見を活かしてすぐに活躍できると思います。
 もうひとつの「ポテンシャル」は、言うなれば器です。現状でどのくらい水が入っていて、これからどれくらい水をドバドバ注げるのか、という差分を見ています。そして、ポテンシャルという枠組みの中で特に重要な要素が「好奇心」だと考えています。
──社内のカルチャーはどんな雰囲気でしょうか。プロフェッショナルばかりという雰囲気ですか。
 かなり民主的というか、フラットで熱量の高い人が自律的に行動していく組織だと思います。
 各分野のプロフェッショナルも多いですが、社内で人を育てる文化は強いと思います。現場では先輩がとことん教えるし、背中で見せるし、トライできる環境と、個々の仕事に対するフィードバックも徹底しています。
──社内で人を育てる文化について、もう少し聞かせていただけますか。
 評価制度の中に、個人やチーム単位での成果創出に加えて、「組織貢献」を明確に組み込んでいることがその文化を下支えしています。キャディの評価制度は「HELIX(ヘリックス)」と名付けています。
 私は、評価制度の本質的な目的は「人材育成」だと思っています。
 個々人の目指すべき姿とそことのギャップを鮮明にし、到達するまでのプランを考えて日々それを実行する。至極当たり前のことですが、キャディではこれをとても丁寧に時間とコストをかけて徹底しています。
 評価は6ヶ月単位で、3カ月のタイミングで中間FBを実施するのが全社的に決めている最低限ですが、チーム内で適宜、週次や月次での1on1 MTGが実施されています。その他キャディで特徴的なのは、直属の上長だけでなく、他部門のリーダー等にも勝手に1on1を申し込むメンバーが多いところですかね。私に1on1を申し込んでくるメンバーもたくさんいて毎日予定のやり繰りに苦労しています(笑)。
 また、評価をする時には、直属の上司の評価だけでなく、同僚などの評価も集めた上でそれを持ち寄ってマネジメント層が横並びで確認し、議論をして最終評価が確定します。これも多面的な角度から評価をすることで、公平・公正を担保しながら個人の成長を促すための仕組みです。
 各個人について徹底的に議論をするので、毎回丸二日くらいかかります。正直かなり大変ですが、評価は人材育成の為にそれくらい時間とコストをかけるべきテーマだと考えています。
──具体的に、どのような人が求められているのでしょうか。
 採用職種は、すべてです(笑)。既存の受発注と新規事業の両方を拡大していくためには、もっと幅広い人材が必要になってきます。エンジニア、製造業出身者、新規事業開発者、海外事業責任者など、本当にすべて。
 共通しているのは「めちゃめちゃ新しい何かを生み出していく人」が欲しいということ。いかんせん目指している世界が大きく、年間の目標が成長率5倍、10倍っていう大胆なレベルなので。「チャレンジングな方がワクワクする」とか「未開拓な領域が好き」というマインドセットが大事だと思っています。ぜひピンときた人は弊社のHPを覗いてみてください。
──最後に、グローバルを含め競合やベンチマークはありますか。
 クライアントの発注先という意味で既存の商流、つまり町工場です。それと同時に、町工場は私たちにとって大切なパートナーでもあります。
 プラットフォームという意味では、グローバルでもまだ競合と言える存在に出会ったことはありません。
 ただ、常に製造業界の経営指標をベンチマークしています。製造業界に置いて「ポテンシャルを解放する」と言えるレベルは非常に大きく、日本国内だけでも180兆円のうち、1兆円の売り上げでもまだスタートラインだと思っているんです。
 世界が変わるかというと、まだ全然足りない。
 もし世界を変えるとしたら、取り扱いの中で10兆、100兆が必要だと思っています。そうなった時に、10年スパンで兆単位というのは僕の中でひとつのマイルストーンになっています。
 結果的にそれはAmazonのようなグローバルなトッププレイヤーの成長速度だったりするんです。そういう意味ではまだまだ本当に始まったばかりの小さな存在ですよね。これからが本番だと思っています。