2020/12/7

ペットボトルは「資源」となるか。循環型社会を目指すサントリーの挑戦

NewsPicks, inc. BRAND DESIGN SENIOR EDITOR
 世界全体でプラスチックによる海洋汚染が問題視されるなか、これを解決することは喫緊の課題だ。
 一方で、プラスチックは人類が発明した有用な素材でもあり、電子製品から自動車部品、ウイルス感染防止のフィルムに至るまで、あらゆる用途に使われている。
 そのプラスチックを使った、身近な商品の代表例が「ペットボトル」だ。ペットボトルは鉄製やアルミ製の容器と比較しても、気密性を保ちやすく、軽く運びやすいため、利便性が高い。
「利便性」か「環境負荷低減」か。ペットボトル使用の有無は、どちらかを選択する「トレードオフ」の観点でしか語れないのか。
 その問題に真っ向から挑むのがサントリーだ。同社はペットボトルを持続可能な形で循環し、利用していく「循環型社会」の構築を目指すべく、様々な取り組みを行っている。
 目指すべき循環型社会とはどのようなものか。ペットボトルリサイクルの現在を切り口に、EY ストラテジー・アンド・コンサルティング ストラテジック インパクト シニアマネージャーの齊藤三希子氏と、サントリーMONOZUKURIエキスパート株式会社執行役員・包材部部長 兼 株式会社アールプラスジャパン社長の横井恒彦氏の対談から、その未来を探る。

プラスチック問題解決は「過渡期」である

──今年、レジ袋が有料化されるなど、化石燃料由来のプラスチックに依存しない社会をつくるための気運が高まっています。
齊藤 自然環境への危機感が高まるなか、問題の解決に取り組む企業が増えていますが、化石燃料由来のプラスチックを、一気に植物由来に変えていくのは現実的に難しいですよね。
 例えば、国産のお米を使ってプラスチックを製造する技術があるように、海に流れても微生物に分解されるようなバイオプラスチックを開発していくことはとても重要です。
 しかし、プラスチックの問題は単一の技術だけで解決できるほど、簡単な問題ではないことも事実です。
 つまり問題解決には様々なアプローチが必要であり、今はまさに過渡期だと考えています。
横井 我々サントリーは、プラスチックが原料となるペットボトルを商品に使う企業ですから、プラスチック問題については、サントリーグループ全体で取り組んでいく課題であると考えています。
 そのなかで、我々はプラスチックの使用量を減らしていく「リデュース」を継続して行ってきました。
 例えば、私の手元に550mlサイズの「サントリー天然水」のペットボトルがありますが、もともと25gだった容器が、少しずつプラスチックの使用量を減らし今は11gほどになっています。
 ラベルも薄肉化を進め、現在は国産最薄の12マイクロメートルのラベルを採用。また、キャップも国産最軽量の1.85gです。
 そして今、「リデュース」とともに強力に推進しているのが「リサイクル」です。
 まず、リサイクルを進めるうえで重要なのは、技術やシステムの開発だけでなくお客様の環境意識も醸成していくこと。
 例えば、ラベルにミシン目を入れているのも、リサイクルを推進するための施策の一つ。ペットボトルを捨てる時にラベルをはがしやすくすることで、ごみの分別をサポートする取り組みを続けてきました。
齊藤 企業だけでなく、消費者の意識と行動が変わらなければ、リサイクルは成立しませんよね。意識が変われば企業も取り組みやすいし、取り組む意義も持てるはずです。
つまり、どちらか一方ではなく「消費者」と「企業」の環境意識を同時に高めることが重要です。
横井 齋藤さんがお話しされたように、両面の視点は必要ですね。これは我々のような企業だけでなく、国も含め全員で気運を高めていくことが大事だと思っています。
 それでいうと、我々は消費者に「ペットボトルは資源である」と、広く理解してもらうことが重要だと考えています。
 そのために、先ほどお話ししたペットボトルの商品設計を改良するだけでなく、新しいリサイクルシステムを構築することにも取り組んでいます。
 2011年には、協栄産業様と共同でペットボトルを新たなペットボトルにリサイクルする「B to B(ボトル to ボトル)メカニカルリサイクルシステム」を国内飲料業界で初めて開発し、翌年には「サントリー烏龍茶」の一部で導入を開始しました。
 これは、回収したペットボトルを粉砕・洗浄して表面の汚れや異物を十分に取り除き、不純物を高温・減圧下で吸い出すことで、再びペットボトルとして利用することができるというものです。
 このペットボトルからペットボトルへの「水平リサイクル」を実現したことで、他のプラスチック製品とは違って、理論上は半永久的にリサイクルができるようになりました。
 まさに「循環型社会」の実現につながる技術であると考えています。
さらに現在では、この「B to Bメカニカルリサイクルシステム」の一部工程を省く「F to P(フレーク to プリフォーム)ダイレクトリサイクル技術」を世界で初めて開発。
 石油由来原料を使ってプリフォーム(ペットボトルとして膨らませる前段階の中間製品)を作成する場合に比べ、二酸化炭素排出量を60%以上削減することができています。
 つまりペットボトルは、きちんと回収して再利用するシステムを構築できれば、「資源」になるのです。
 資源であるという意味で、プラスチックは“都市油田”ともいわれることもありますが、アルミ缶のように繰り返し使えるという認識を、企業にも消費者にも持ってもらえるようにしたいですね。
齊藤 海外でも循環型社会を意識した商品設計や、システム構築を進めている企業もありますね。
 ある大手のスポーツメーカーでは、製造段階からリサイクルしやすい素材や、部分的に修理しやすい部材を使うといった事例もある。
「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」だけでなく、そもそも壊れにくい製品や、修理しやすいようなデザインを意識して製品設計をする企業は、今後より注目されていくと考えます。

様々なステークホルダーとの協業で、循環型社会を創る

──サントリーが循環型社会の実現に向けて、他に取り組まれていることはありますか?
横井 100%植物性ペットボトルの開発にも取り組んでいます。米バイオ化学ベンチャー・アネロテック社と連携し、2012年から非可食の植物由来原料を100%使ったペットボトルの共同開発を開始しました。
 松の木の間伐材を使用したPET原料の生成に成功し、実用化に向けて取り組みを進めているところです。
齊藤 間伐材を使われているところが素晴らしいですね。少量かもしれませんが、いずれは日本国内でも同じ原料を調達できるのではないかと思いました。
 化石燃料由来のプラスチックを植物由来のバイオプラスチックに転換していくうえで、私が一番課題だと思っているのは原料の調達です。
 現在、原料の主流となっているサトウキビやトウモロコシは、調達を主にブラジルとアメリカに依存しているんです。
 世界中がバイオプラスチックへの転換を目指すと一気に原料調達が集中してしまい、原料を調達するのが難しくなる。そんな時代が目前に迫っている気がします。
 そのためにも、今後は資源をできるだけ国産に変えていくことも重要ですね。
横井 おっしゃる通りです。原料調達の原則は“地産地消”。課題は多いのですが、必ずやり遂げないといけません。
──今年6月には、そのアネロテック社の新技術を応用して、使用済みプラスチックの再資源化事業に取り組む新会社「アールプラスジャパン」の設立が発表されましたね。
横井 アールプラスジャパンの使命は、サントリーとアネロテック社による100%植物性ペットボトルの開発途上で見出した、使用済みプラスチックの再資源化技術の開発と実用化支援です。
 この技術が実用化されれば、現在多くが熱処理に回ってしまっているペットボトル以外の使用済みプラスチックも、様々な製品に生まれ変わることができる。
 これは、サントリーだけでなくプラスチックに関わるバリューチェーンの皆さんと一緒になってやるべきだと考え、2019年秋から各社へお声掛けをさせていただき、アールプラスジャパンを設立しました。
 現在では、異業種や同業種も合わせて20社が、この新たな取り組みに参画してくれています。
プラスチックの再資源化を加速するため、ペットボトルやプラスチックに関わるバリューチェーン20社が参画している(2020年10月23日現在)
 今後は国や行政にも働きかけながら、国内だけでなく世界にこの技術が広まることを期待しています。

真の循環型社会の実現に向けて

──ペットボトルの資源化が普及すれば、循環型社会のモデルケースの一つになるかもしれませんね。
齊藤 原料が国産で、マテリアルtoマテリアルのリサイクルを実現させる仕組みがあり、リサイクルしやすい製品やサービスも世の中に普及し、消費者が意識的にその製品を選ぶ。
 それが循環型社会の理想形です。今日のお話をお聞きして、その可能性がペットボトルにあると思いました。
 これが実現できれば、非資源国の日本でも資源国になれる可能性は十分あります。
横井 ペットボトルが大切な資源として扱われるような社会にすることは、我々にとっても大きな目標です。そのためには、我々の目指している循環型社会をより多くの人に啓発していく必要がある。
 例えば、ペットボトルを捨てる際にキャップを外すだけで、回収車で収集・運搬する際に圧縮が簡単になり、1台で回収できる量が倍になります。
 キャップが外れていれば、圧縮の際に破裂して中身が飛び散ることも防げる。こういう小さなことも含めて、一つひとつ伝えていきたいですね。
齊藤 日本には、サントリーさんのようにリサイクル素材やバイオ素材に関しても、素晴らしい技術を持っている民間企業や研究機関があります。
 ただ、その開発を後押しできるかどうかは、私たち個人個人の消費行動がカギとなります。
 未来を変えるためには、一人ひとりが社会の一員であることを意識すること。ペットボトル1本でも、それを資源としてしっかり循環させることが大切だと思っています。