2020/11/4

経済効率化を目指さない生き方へ。スマートシティに宿る「人間の可能性」【The UPDATE特別版ダイジェスト】

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 NewsPicksがお届けする知の格闘技『The UPDATE』。今回のテーマは「スマートシティ化で我々の生活はどう変わるのか?」。スマートシティの未来を担うテクノロジーや都市開発に詳しい論客たちを迎え、意見を交わした。
 議論はこれからの都市やまちづくり、最先端のテクノロジーを中心に展開すると思われた。しかし、論客からは次々と思わぬ意見が飛び出す。
「これからの都市は、都市でなくなっていく」
「人間は、箱の中に効率性があると思い込んできた」
「スマートシティ化で重要なのは、技術じゃなくてリベラルアーツ」
 そして議論は、スタジオにいた誰一人として予想だにしない方向へと、まるで“人間のあり方”を問い直すように広がっていく──。

すべてのモノがインターネットでつながる「スマートシティ」

 「スマートシティ」とは、IoTを使い、すべてのモノがインターネットにつながる都市とされる。
 再生可能エネルギーをはじめとした効率的なエネルギー管理が軸の「スマートエネルギー」や自動運転技術を活かした「スマートモビリティ」、都市全体のインフラをインターネットにつなぎ管理する「スマートガバナンス」など、あらゆる分野に最先端技術を取り入れて都市を支えるのだ。
 スマートシティの実証実験には、すでにトヨタやNTTグループ、アリババ、エストニア政府など、国内外の大手企業や国家・自治体が乗り出しており、その成果に大きな注目が集まっている。
 大気汚染や渋滞の緩和、生活の利便性向上などのメリットが期待される一方で、データのオープン化やセキュリティなどの課題もあるのが現状だ。
 これらの背景を踏まえ、本来あるべきスマートシティの姿やスマートシティが我々にもたらす未来について徹底討論。
 「予想もしない展開だった」と出演者が口をそろえた、ダイナミズムあふれる議論をダイジェストでお届けしよう。

「非定住」でライフスタイルそのものを変えていく

古坂大魔王(以下、古坂) “スマートなんとか”系の概念って、スマートフォンとかスマートスピーカーみたいに、実際に触ったり使ったりしないと、わかりづらいですよねえ。
奥井奈々(以下、奥井) そうですよね。まずは、「スマートシティ化で我々の生活はどう変わるのか」。みなさんの考えを伺っていきましょう。
奥井 栗山さんは「都市化・高齢化、選択と共生」。葉村さんは「法人の都市から個人の都市へ」。林さんは「人間がバカになる?」。そして隈さん、「非定住」。
古坂 おもしろい答えが集まりました。林さんのは、「ダメだよ、スマートシティは!」というふうに見えますね?
林篤志(以下、林) たぶんこの中で僕が一番ビギナーなんですが、「街をスマートにしよう」という議論はされても、「何のためにテクノロジーを使うのか」あるいは「人間がどうスマートになるか」という話は全然されていないと感じています。
 さっきこの周辺の六本木を歩き回ってみたんですけど、土に一切触れないし、肉眼で確認できる生き物が人間しかいない。これって、かなり異常なことだと思うんですよ。
 つまり都市って、人間が「コントロールできるもの」を集約し、「コントロールできないもの」を排除した存在。スマートシティはその究極です。
 IoTデバイスも同じで、箱の中に閉じこもって「帰ってきたら温度が一定でいいね!」なんてやっていると、どんどん地球全体がどうなっていくかを感じられなくなってしまうわけですね。
 そういう中で、人間らしさや五感から生まれるようなクリエイティビティが失われていけば、「人間がバカになるのでは?」と。そんな問いを投げかけたいです。
奥井 隈さんの建築は、“五感の建築”だと思うんですけれども。
隈研吾(以下、隈) そう言ってもらえるのはうれしいんですが、僕は建築をやっているからこそ、自分の仕事の限界を感じますよ。
 建築だけではなく、ライフスタイルが変わらない限り、本当のスマートシティにはならないと思います。
 一番の課題は、生活の空間や時間が固定されていること。だから、住む場所を複数持つ、あるいは定住する場所を持たない「非定住」で、生活のあり方そのものを思い切って変えるしかない。
古坂 建築家の巨匠・隈さんが「非定住」を提案するんですね!
栗山浩樹(以下、栗山) 奇しくも新型コロナの後押しによって、世の中はリモートとオンラインでほとんど済むようになりました。その意味では、もはや定住・非定住という考え方すら、必要ないのかもしれませんね。
栗山 数年に一度、こういう常識がガラリと変わるような出来事が起こりますよね。コロナ禍の前は、9.11や3.11もあった。
 そのたびに、自分の生き方と、都市やコミュニティのあり方を考え直す。人間は常にそれを試されてきたように思います。
葉村真樹(以下、葉村) これからの都市のあり方でいえば、都市が都市でなくなるような気がしていて。
葉村 スマートシティと聞くと、高層ビルの間をチューブが走って……みたいなものをイメージしがちです。
 それは僕もヤバいなと思ってる。下手すると、ただ建築の設備だけが豪華になったものだと誤解されやすいんです。
葉村 そうですよね。けど、本当はそうじゃないはずで、今のような「高密な都市があって、その郊外に住んで通勤する」っていう形はもう終わると思うんですよ。アスファルトのほうが効率的だけど、林さんが言うように、やっぱり土や自然に触れられるほうが気持ちいいし、楽しい。
 人間は、効率化によって経済というものをつくってきたけれど、そうじゃない生き方が、これから目指すスマートシティではないか、と。

“スマート”とはいったい何なのか?

葉村 私がフリップに書いた「法人の都市から個人の都市へ」なんですけど、実は、建築家の故・黒川紀章さんの著書『都市デザイン』にある言葉なんです。
葉村 黒川さんは、産業革命以降は「企業の効率化」を実現するものだった都市が、21世紀は人間のためのものになっていくべきだと語っています。
 それを実現できるテクノロジーが今ようやくそろった。そこで、どうするかなんです。単純にテクノロジーを実装すればいいという話ではなくて、テクノロジーに使われない、人間中心の形に作り変えていくということです。
 僕らの大先輩である黒川さんは、非定住的なものっていうのを夢見て、例えば70年代の「中銀カプセルタワービル」みたいな新しい非定住を考えていた人。
 その夢を実現できなくて、悔しい思いをしてたのを僕は脇で見ていたから、ここで違うステップにいけたら、本当の意味でスマートかなって感じるんですよね。
黒川氏の代表作であり、世界初のカプセル型集合住宅。設計上はカプセル状の部屋の交換が可能だが、実際には部分的な入れ替えが困難なため、竣工した1972年以来一度も交換されたことがない(Jordy Meow, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons)
佐々木紀彦(以下、佐々木) 隈さんはシェアハウスを経営されていますが、それも非定住化の1つということですか?
 うん、シェアハウスはすごく重要な武器ですね。
 建築の“単位”って、事務所や個人住宅に限定されてきたけど、今はそれを壊す最高のチャンス。いろいろなシェアの形でゆるくつながれる。
 スマートシティって、何か大きなものがドーンとあるんじゃなくて、そういうゆるやかな変化が都市全体で起こることで実現していくものなんじゃないかな、と。
 私たちは、人間の効率性は箱の中にあると思い込んできましたが、それって実はストレスばかりでまったく効率的じゃない。
 むしろヤギが脇にいるような暮らしのほうが、いろいろなことができるし、効率的かもしれない(笑)。
 そもそも“スマート”の定義って、ちょっとふわっとしていて、みんな別々のことを考えていますよね。
奥井 そうですね。「スマートシティ」って、いつからある言葉なんでしょう?
栗山 10年くらい前から言われ始めていますが、この1年ほどで猛烈なブームになってきている。コロナ禍で「これは使えるぞ」とますます加速している印象です。
 今世紀最大、人類史上最大ともいえる課題は「都市化」と「高齢化」ですよね。都市に人口が集中しすぎてしまい、さらに高齢化で社会保障も機能しなくなりつつある。
 そこにブレイクスルーを与えようとしているのが、スマートシティです。
栗山 そんなスマートシティの“スマート”とは何かというと、「個人の選択肢の広がり」「自然との共生」の2つだと私は捉えています。
 自動車に乗れば歩きもする。便利と不便が共存する中で、そんなふうに個人の「選択」の幅を広げられること。そして、エネルギー効率を高めて自然資産をうまく使いながら、これまで征服してきた自然と「共生」すること。この組み合わせが、スマートの意義だろう、と。
 つまり、スマートモビリティだったりスマートエネルギーだったりスマートビルディングだったりと、これまではいろいろな“スマート”が別々に存在していた
 テクノロジーが進歩して、それらを横串でつなげられる準備が整い、「選択」と「共生」が実現しやすくなったのが、今なんだと思います。
古坂 そうか。今まで縦割りだったものを、並べて刺してみようというのがスマートシティなわけですね。
古坂 じゃあ、そのスマートシティに欠かせない技術って何でしょう?
栗山 デジタルサービスやデータマネジメント、AIです……とかって、うちの会社的には言わなきゃいけないところなんですけど(笑)。
 もちろん、そういう技術も大事なんですが、最も重要なのは「リベラルアーツ」だと思っていて。
栗山 技術は常に最先端のものを使うしかない。でも、そこには必ず限界や制約があります。
 例えば、飛行機や自動車に乗れば事故が起こるかもしれない。それでも、制約を超えて「このテクノロジーを使っていけば、未来はもっと開けるはずだ」と信じられるかどうか。
 そう思えるようになるには、メカニカルアーツではなくて、リベラルアーツ(※)が必要です。そういう心理学的、哲学的な部分を、事業者や消費者も含めた社会全体で共有していかなくてはいけない。
※古代ギリシャ・ローマ時代に起源を持ち、哲学の基礎として「人が持つ必要がある技芸の基本」と見なされた自由七科のこと。「教養を高める教育」を指し、自由かつ創造的な精神・知性を形成する手法とされる。
葉村 我々はこれまで歴史上、さまざまな課題を人間の知恵で解決してきました。
 例えば都市の中で、法律を作ったり貨幣を生み出したり。人間の知恵が新しい概念を生み出すときには、同時に新たなリベラルアーツ的な考え方が必要になってきますよね。
古坂 なんだか、だんだん冒頭で林さんの言っていた「人間がどうスマートになるか」みたいな話に、つながってきましたね
 結局は、「どう変わっていくか」ではなく、僕たちが「どう変えていくか」なんですよね。
 だから僕は、これからスマートシティというテクノロジーを介して、コミュニティや共同体をリデザインしたいと思うんです。
 さっき隈さんもおっしゃったような、いわゆる家とか家族の“単位”が随分と固定化されてしまった。でも、平均世帯人数は減る一方で、地域や血縁のつながりも薄れていっている。
 そうした状況で、例えばデータやセンシング機能を活用すれば「誰が何に困っているのか」「お互いがどう貢献できるか」を可視化して結びつけることもできますよね。
 すると、消費の媒介としての貨幣ではなくて、贈与を贈り合うというか、感謝の気持ちを表すために、コミュニティ内のトークンみたいなものを発行する。そんなふうに、究極的には経済の仕組みまで変えられると思うんですよ。
 「ありがとう」のやり取りがどんどん循環して、周りには虫も動物もいっぱいいる。そういう街を僕はつくりたいですね。
古坂 お年玉をあげて、お返しで芋とか米をあげましょうっていう、田舎の感じを思い出すなあ。林さんのスマートシティは、田舎と都市の共生なんですね。
 そうですね。テクノロジーで、もっと大きなコミュニティでそういうことが実現できるようになりましたから。

人間があるべき姿に戻る「スマートランド」へ

古坂 次に「スマートシティで理想の世界をつくるのに、何が必要か」も考えてみたいと思います。
古坂 隈さんの回答は、なんと「住宅の解体」! 建築の次は解体業ですか!?
 さっき「建築の単位を見直さなくちゃダメ」と言いましたが、その単位の中で一番拘束力の強いものが、個人住宅なんです。住宅を所有するというスタイルが定住を生み、我々を縛っている
 だから、そこをまず解体しちゃえ、と。街も同じで、商業地域や住居地域というようにガチガチに区切られています。そこを崩していくことが必要ですね。
栗山 私はスマートシティに「不思議がたくさんあること」が大事だと思いますね。テクノロジーの進歩でできることは増えたけれど、やればやるほど“できないこと”がわかってきます
 不思議を感じることで、その限界を乗り越えよう、試してみようと挑戦し続けるのが素晴らしいし、大切だと思っています。
葉村 人間ってまさにその掛け合わせですよね。理不尽や不合理もあるのが人間で、それは都市にも当てはめられる。
 その意味で、都市とは「人間拡張の最大形態」のようなものなんじゃないか、と考えています。
葉村 スマートシティって、利便性の追求が着目されてしまうけれども、当然そればかりでは良くないことも出てきます。
 もし都市をすべてコンクリートで覆えば、土壌がダメになり、洪水も起こりやすくなる。都市が、そして人間自身が死んでしまう。
 だから、人間がより生きやすく、かつ地球と共存できるような都市が理想だと思います。だって、特定の空間に自分を閉じ込めて、住まわせるって不自然じゃないですか
 人間のあるべき姿に戻り、自然と共生するために、どうテクノロジーを使えばいいかという観点で、スマートシティを設計していけるといいですよね。
古坂 なるほど。単純に郊外に住むっていうんじゃなく、うまいことちりばめて、つながれるようになるのがスマートシティなんですね。
 だからもう、「スマートランド」くらいになるのがいいんですかね。
 テクノロジーって手段ですからね。「僕たちが幸せになるためのスマートシティとか都市の形を考えよう」って方向に持ってかなきゃいけないと思うんです。
 成長しなくちゃ、レースに勝たなくちゃというフレームワークから解放されて、それぞれが楽しいことを追求できるようにしていきたいですよね。
 家族や家という枠を取っ払って好きなように移動し、好きな人と好きな場所で、その瞬間やれることをやる。
 そういうスマートシティというか、スマートランドっていうのを実現するポテンシャルが日本には秘められていると思うんです。これだけ固有で多様な国ですから。
佐々木 もう「スマートシティ」という名称自体がしっくりこない感じもしますね。なんかワクワクしない。
栗山 「スマートランド」って呼び方のほうが、アミューズメントパークみたいでいいですね。
 たとえどんな環境だとしても、個人はそれぞれの思い描く幸せを実現するために生きていくと思うんです。
 じゃあ、都市の公共機能は何のためにあるかと言うと、個の力ではどうしようもない課題を、空間や産業を横断して解決するところにあるわけです。
 個人の能力の総和を超えて、集団としての価値を生み出す「群衆知能」を高める。それを実現するのが、スマートシティの役割でもありますね。

古坂大魔王が選んだ「キング・オブ・コメント」

 「スマートシティとは、人間の幸せを実現するための手段」という議論で、今回の『The UPDATE』はおおいに盛り上がった。
 最後に、番組MCの古坂大魔王が選んだ「King of Comment」は、隈研吾さんのこちらの一言。
「住宅は解体したほうがいい! つまり、見えないボリュームがこの世にたくさんあるから」
 この言葉に込められた意味とは? 詳しくは、ぜひ番組動画をご覧ください。
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