(ブルームバーグ): 中国広東省の深圳市で先週、数万人がウォルマートやガソリンスタンド、コンビニエンスストアなどでデジタル人民元を利用した。

中国人民銀行(中央銀行)は幾つかの都市でデジタル人民元のテストを4月に開始。深圳での運用試験は利用者数と利用額において最大で、前例のない規模の実験を滞りなく実施した中国は、仮想通貨の開発競争で最前線に躍り出たことになる。

中国南部に位置するテクノロジー企業の集積地、深圳市の政府はデジタル通貨電子決済(DCEP)、つまりデジタル人民元の1000万元(約1億5700万円)分をウォレットアプリでの抽選を通じ市民5万人に配布した。当選者が受け取ったのは市内3000余りの小売店で使える200元だ。

習近平国家主席の深圳訪問に合わせたかのような「ご祝儀」は、国内で急速に進むデジタル経済をコントロールし、ひいては人民元の国際的な地位を高めようという中国政府の野心的な取り組みにおける大きな一歩だ。

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中国ではすでにキャッシュレス・モバイル決済が普及しているが、現時点でこうした分野を主導しているのはアリババグループ系の「アリペイ(支付宝)」やテンセント・ホールディングス(騰訊)の「ウィーチャットペイ(微信支付)」。デジタル人民元の登場は経済により広範な影響をもたらすことになる。

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深圳での大規模実験は中国が「デジタル通貨をごく近いうちに完全に開始する準備をしている」ことを示していると指摘するのはブロックチェーン(分散型デジタル台帳)エンジニアリングを手掛けるコンセンシスの香港オフィス責任者チャールズ・ドッシー氏だ。

DCEPは中国がいつの日かビットコインやドルといった国外で管理されている通貨を使わなくて済むように設計されている。デジタル人民元が将来的に現金に取って代わることになれば、中国当局のマネーサプライ(通貨供給量)把握改善に寄与する。

DCEPの利用者は専用アカウントに電話番号を登録する必要があり、中国国有4大銀行のうちの1行とリンクするウォレットアプリをダウンロードし、デジタル人民元を使う。店舗側と買い手は売買時にアプリが作成した互いのQRコードをスキャン。アプリは利用者が残高を確認できるページに実物100元紙幣のように毛沢東初代国家主席の肖像を表示する。

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人民銀はエンドユーザーを巻き込む運用試験とは別に、フードデリバリーを手掛ける美団点評や配車サービスの滴滴出行とも手を組んでいる。

深圳のオンライン学習スタートアップ幹部として働くワン・ジンチャオさん(27)は幸運にもDCEPに当選。「ウィーチャットやアリペイより国がバック」のDCEPを「第一の選択肢」にすることを考えるという。

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深圳の電気通信エンジニア、リン・ソンさん(42)は当たった200元を通勤途中の給油所で使った際、他の決済手段と同様のスムーズな支払いができた。「どの決済プラットフォームを利用するかはプロモーションの規模やどれだけ多くの店やサービスで使えるか次第だ」と話している。

原題:50,000 Shoppers Give China’s Digital Yuan Its Biggest Test Yet(抜粋)

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