【奥野一成】投資は「知の総合格闘技」である

2020/11/1
NewsSchoolのコンセプトである「学ぶ、創る、稼ぐ」。この「稼ぐ」という領域を実現するために「投資」のマインドを学ぶことは非常に重要です。

そこで『教養としての投資』の著者である農林中金バリューインベストメンツ最高投資責任者(CIO)の奥野一成さんをお招きし、トークイベントを開催。

個人や企業や社会がより豊かになるために、どう投資を生かしていくのかという観点からお話いただきました。

NewsSchool GINZAで行われたイベントリポートを全2回でお届けします。(イベント開催:2020年7月26日) 
【奥野一成】教養のための投資を通じて「労働者2.0」を目指せ

継続した投資を通じて学びを得る

佐々木 著書にも登場する「労働者2.0」は、キーワードのひとつですね。
ここにたどり着くには知識が必要だと思いますが、投資する力を養うのにどんなことをすればいいのでしょうか。
奥野 「とにかく一歩踏み出してみる」ことです。私の運営しているファンドで購入しているような企業の株であれば、買って1年後に価値がゼロになることは、ほぼありません。
それなら、投資の経験から得られる知見のほうが圧倒的に大きいと思います。とにかくやってみないとはじまりません。
佐々木 事前に多くの準備をしすぎるのではなく、金額を決めて、まずは優良だと思う企業に投資してみてる。それを通じて学んでいくということですか。
奥野 その時に気を付けて欲しいのが「時間を分散する」こと。投資できる金額を、すぐに全額投資しないことが重要です。
少なくとも1〜2年にかけて分散して、決めたら必ず継続をしてください。コロナのようなパンデミックが起きてもひるまない。決めたことを淡々とやるのが大切です。

企業も人間も「構造的に強靭」であれ

佐々木 「構造的に強靭な企業®️」の条件のひとつである「付加価値の高い産業」の見分け方を教えてください。
奥野 一番簡単なのは産業内のマーケットシェアです。大きなシェアを持っている会社を探してください。数字だけを見るのではなく、なぜシェアが増え続けているのか、成長の背景を考えてください。
もしくは、ウォーレン・バフェットがやっているように、自分の子供のころに使っていて、いまも同じ形で残っているものを探すのもいいでしょう。
どんなにインターネットが発達しても、ガムの噛み方は変わりません。人は変われないことの方が多くて、それを見つけるのは難しくありません。
佐々木 NewsPicksもいつも変わるっていう話をしています(笑)著書の中でも長期投資には、情報を集めすぎるのはよくないという言葉が印象的でした。
奥野 情報が多くなればなるほど、逆に考えることに付加価値が出てくるんです。
そして、「構造的に強靭」という考え方は、私たち自身にも当てはまると思っています。
つまりみなさんにも、「自分を構造的に強靭」にしてもらいたい。
社会にとって自分は必要なのか(付加価値の高い産業)。自分にしかできないやり方なのか(圧倒的な競争力優位性)。これから先も同じように需要され続けるのか(長期的な潮流)。
とりわけ最初の2つです。だって世の中がどう変わるかなんてわからないでしょう。自分のできることに集中し、自分を構造的に強靭にすることが大事です。

日常の変化に敏感になる

佐々木 それでは、会場からの質問に移りましょう。
質問者 イノベーションにより「構造」が破壊される場合があると思います。イノベーションが起きるタイミングをどのように見極めるべきですか。
奥野 必ず受ける質問のひとつで、この手の投資をやっていると、みんなイノベーションが怖いんですよね。
生活する中で常に「どうして」と考えるのが大事です。そうすれば、
世の中のさまざまな変化に気がつきます。
それに気づいてから世の中が実際に変わるまでには、どんなに早くても5年はかかりますから心配しなくても大丈夫。これが私のイノベーションに対する考えです。
私たち投資家がやってるのは「科学」です。思い込みではなく、歴史や背景を分析するなかで「必ずこうなるもの」にしか投資をしない。わからないものには投資をしなければいいだけです。
たくさんの企業に投資をする必要はありません。1年にひとついい会社が見つかれば御の字です。
佐々木 色々なものが完全に変わるといわれている「コロナショック」はどう読み取ればよいでしょうか。
奥野 コロナをきっかけにテレワークなったり、非接触型のビジネスモデルなど色々なものが変わったのは事実です。
しかしよく考えると「非効率的なものが効率的になる」という潮流は以前からありました。コロナによって変わる部分もありますが、それは変化が加速しているだけです。
コロナによって人間そのものの生活が長期的に変わることはないですし、結果的に本質的な部分は何も変わらないと思っています。

お金を分離しない

質問者 会社経営をするなかで、株式投資で資金を増やしたいと考えています。まず何からはじめていけば良いでしょうか。
奥野 資金を増やしたいなら、まずはいまの事業を大きくするための投資をするべきだと思います。株式投資ではなく事業投資です。申し上げたいのは「お金を分離しない」ということ。
「構造的に強靭な企業®️」の3つの条件を意識して「事業の強みの部分に投資をする」ことを一番最初に考えるべきです。まずは自分の強いところで勝負をしないと、お金は増えません。
質問者 数年後に上場を目指しているスタートアップの経営者ですが、マザーズ上場のスタートアップの会社に対して投資したことはありますか?もしあれば具体的な企業名とどのように「競争優位性」を見出したのかを教えてください。
奥野 マザーズの企業に投資したことはほぼありませんが、医療従事者を対象とした医療ポータルサイト「m3.com」のサービスを展開している「エムスリー株式会社」がマザーズだった時期に投資した記憶があります。(2007年に東証第1部に指定替え)
エムスリーが目をつけたビジネスモデルはすでにあるものでしたが、インターネットがとってかわる大きな潮流の中で圧倒的なシェアを獲得しました。
医師向けの情報ポータル「m3.com」を展開していて現在の国内シェアは90%以上、日本国内にいる30万人の医師のうち29万人が登録しています。競合が対抗することは不可能ですね。
スタートアップの難しいところは「自分がスタートアップできる」ということは「参入障壁がない」ことを意味しています。
つまりスタートアップ経営者としてやるべきことは、「参入障壁をつくるための投資」です。
目先の売り上げをつくるための投資をしてはいけません。5〜10年後の利益を生むのは参入障壁です。そこを常に意識して投資できれば、この先も生き残れると思います。
質問者 将来やりたいことがあって株式投資をしていますが、熱中しすぎて本業に支障をきたようになってしまいました。個人で投資をやる場合の効率的な時間の使い方はどのように考えればよいでしょうか。
奥野 深夜まで売ったり買ったりするのは楽しい。すごくわかるんですが、それって結局自分が働いているだけなんです。
その時間は、本来の自分のやりたいことに使うべき。豊かになるというのは、お金がたくさんあることではなく、自分が成長できることです。
短期で売買しても成長できません。うまくなったと思うかもしれませんが、ほとんどまぐれです。ゼロサムゲームはそれでしかありません。
投資は自分より優秀な経営者や、優秀なビジネスモデルを持っている企業に少しずつ稼いでもらうこと。短期間で倍になったりしませんが20年経ったら数倍になってますよ。その20年を自分のやりたいことに使ってください。

投資は「知の総合格闘技」

佐々木 最後にメッセージをお願いします。
奥野 私が本で伝えたかったのは「金銭の投資だけじゃない投資」という考え方。要は「自己投資」です。
まず3つの言語「統計」「会計」「プログラミング」を学ぶことに投資をして使えるようにしておきましょう。英語はいうまでもありません。
そして言語だけではなく「歴史」「文化」「哲学」の知識も重要。ビジネスをやっていく上では、定性的な部分がないと本質的な部分で相手と話をすることができません。
この6つの能力を活かし「具体的な事象を見た時にできるだけ抽象化する」ことを意識してみてください。
強靭な構造を見つけた時、それできるだけ普遍化して、色々なものに使えるようにする。そうすることで、投資やビジネスなどで幅広く応用できます。
このスキルセットがあれば投資で成功するのも、ビジネスで結果を出すのも難しくないと思います。これが私の思っている自立、めざすべきゴールです。
投資先の選択肢の1つとして私たちの運用する「おおぶね」はありますが、「おおぶね」が保有している先でいい会社を見つけたら自分で投資すればいい。情報はすべて公開しています。
自分で納得できるものに投資をして、その企業の「オーナーになってみる」ところからスタートする。それは「ビジネスを理解する」ことにつながります。
ビジネスをする中で自分が「構造的に強靭」になるには一体どうしたらいいのか、自分のどこに投資をすればいいのかを日々考えてもらいたい。
そして、そうして築いた「投資家のマインドセット」という資産を次の世代に残していってほしい。そうしていかないと日本は貧しいままです。
「投資」は資本主義という枠組みの中で社会をよくしていくことです。今日のイベントはその一端になればいいなと思っています。ありがとうございました
(構成・撮影:コルクラボギルド)

新番組のお知らせ

かのウォーレン・バフェットが実践する長期投資。その手法を日本で行うレジェンド投資家・奥野一成がコルク代表取締役 佐渡島庸平とタッグを組んでお届けする新番組「Investors」。コロナ禍で将来に不安を抱く若者に人気と言われる投資・・・。

その極意を「実践編」「勉強編」に分けて隔週で配信。番組内で投資に挑むのはNewsPicksのアンカー&アナウンサー3人組からなる通称「インベスターズ」。

初回のテーマは「世界市場を牽引する米ハイテク株」。ポストGAFAになりうる企業は果たして?インベスターズが独自リサーチ&プレゼンを行い、レジェンド投資家の熱き指導を受ける投資×教養エンタテイメント番組が幕を明ける。

視聴はこちら