【投資即決】待ってました、と千葉功太郎が投資したディープテックの巨大な可能性

2020/9/30
 2020年4月に、風況データ提供事業においてNTTコミュニケーションズと提携した京大発のテクノロジーベンチャーのメトロウェザー。
 超高性能「ドップラーライダー」のテクノロジーのプレゼンを受けた瞬間、
「そうそう! 待ってました! それが必要なんだよ!!」
と投資を即決したのが、DRONE FUND代表の千葉功太郎氏だ。
左:古本淳一氏、中央モニタ:千葉功太郎氏。対談収録はリモートで行われた
 しかし、そこにたどり着くまでの技術開発の道は険しく、6年の開発期間は、谷あり谷あり……また谷ありだったと語るのはメトロウェザー取締役・ファウンダーの古本淳一氏だ。
 投資家と起業家の対話から、ドローン産業の可能性と、テクノロジーベンチャーのリアルをお届けする。
 最後には、千葉氏も興奮する未知の可能性の話がこぼれ出た。しかと読まれたい。
インターネット、スマホ、SNS、Zoom、5G……テクノロジーの進化によって、社会はどんどん繋がっていきます。人と人、人と社会との距離を超えながら、いかによりよい未来を創っていけるのかを探る大型連載「Change Distance.」。コミュニケーションの変革をリードするNTTコミュニケーションズの提供でお届けします。

ドローンは車やインターネットと同じくらい世界を変える可能性がある

──2018年の11月に、メトロウェザーは千葉さんが代表をつとめるDRONE FUNDなどから総額2.2億円の資金調達を実施しました。もともと、お二人はどういったきっかけで出会われたのでしょうか。
古本淳一(以下、古本) 知人からDRONE FUNDというファンドがあると紹介していただいて、千葉さんのところに押しかけたんです。直球で、「投資してくれませんか」と。
千葉功太郎(以下、千葉) そうでしたね。あれはいい押しかけでした(笑)。
DRONE FUND 創業者/代表パートナー、千葉道場ファンド ジェネラルパートナー、慶應義塾大学SFC特別招聘教授。 慶應義塾大学環境情報学部卒業後、リクルートに入社。 2009年コロプラに参画し、取締役副社長に就任。 2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場後、2016年7月退任。
──それを受けて千葉さんは。
千葉 何の事業をやっているのか聞いたら、なんとドップラーライダーを小型化・超高性能化していると言うから、もう「そうそう! 待ってました! それが必要なんだよ!!」と投資を即決しました。
──ええと……、なぜそれで即決なのでしょう。
千葉 空の産業革命において、必須なインフラだからです。
──「空の産業革命」ですか。
千葉 そうです。順を追って説明しますね。ドップラーライダーなしでは、ドローン前提社会は成立しないんです。ドローン前提社会とは、ドローンがインフラとなっている社会です。ドローンありきでまわっている社会。僕はこういう社会が、近い将来必ず来ると確信しています。
 ドローン産業は、自動車産業、インターネット産業に匹敵するインパクトがあります。これから、空の産業革命が始まるんです。ドローンの国内市場は2024年で3568億円、世界のエアモビリティ市場は2040年までに136兆円まで広がると予測しています。
[出典] ドローン産業:インプレス(2019), エアモビリティ:Morgan Stanley Research(2018)
──ドローンが社会の重要な役割を担うんですか。今はまだそんなふうには考えられません。
千葉 インターネットも最初そうでした。1992年くらいまではインターネットなんかなくても、人々は普通に生活していた。でも今や、インターネットなしの生活は考えられないですよね。
 車もそうです。馬車しかなかった時代の人々は、「自動車」なんて想像もしていなかった。でも、自動車は一大産業になり、人間の生活になくてはならない存在になりました。
 ドローンや小型飛行機であるエアモビリティは、物を運んだり移動できたりする点では自動車に近い。さらに、リモートセンシングや他のハードウェアと通信できる機能などは、インターネットと親和性が高い。物理的に移動するインターネット端末、というイメージですね。
 インターネットが1993年にスタートしたと仮定したら、27年かかって今の世の中まで来た、ということ。スマホが一般的になって、スマホからインターネットにアクセスするようになったのはここ5年くらいでしょうか。新しい技術が社会に浸透するのに、20年以上はかかるんですよね。
 ドローンの業界はまだ始まって数年です。ここからの道のりは長いかもしれません。でも、確実に来る未来だと思っています。
 みなさんには小型のおもちゃのようなイメージがあるかもしれませんが、すでに現在でも、中間物流や離島物流を可能にするトン単位の貨物を1000km単位で運べるような産業用ドローンなどが開発されたりしています。
──そのドローン前提社会と、メトロウェザーのドップラーライダーはどういう関係があるのでしょうか。
京都大学生存圏研究所 元助教授。計測・制御・通信などの知識を活用した新しいレーダー観測技術の開発のほか、社会的課題の解決に直結する研究に力を入れ、近年は最先端計測技術・デバイス開発を駆使した高性能コヒーレント・ドップラー・ライダーを開発。2015年に大学からイノベーションを起こすべく東邦昭とともにメトロウェザーを設立。研究成果の社会実装・社会貢献に向けた取り組みも数多く行う。京都大学博士(情報学)・技術士。
古本 ドップラーライダーは、大気中に赤外線レーザーを発射し、大気中のエアロゾル(塵・微粒子)からの反射光を受信して、風速・風向を観測する大気計測装置です。飛行する物体は、必ず風に影響を受けている。その風を捉えることは、安全なドローン前提社会をつくる上で一番重要なことなんです。

空を飛ぶものは、必ず風の影響を受けている

──DRONE FUNDの代表である千葉さんご自身は、ドローンの巨大な可能性を、どの時点で感じたのでしょうか。
千葉 2017年に自分でドローンを飛ばしてみたときです。その流れで、ドローン仲間とDRONE FUNDを立ち上げました。
 また「空を飛ぶ物体は必ず風に影響を受ける」というのを、僕は航空機のパイロットとして身をもって実感しています。今年の6月に航空パイロットライセンス(自家用操縦士)を取得し、毎週1、2回は自分で自家用機を操縦して空を飛んでいるからです。
 訓練中から思っていたのは、「着陸がめちゃくちゃこわい」ということ。空港の航空管制に滑走路の風について聞くと、例えば「東南東、1.5m/s」など教えてくれるんです。その想定で飛んでいくと、実際は風向も風速も全然違っていて、着陸寸前に突風にあおられて墜落の危機、なんてことがしょっちゅうあります。
古本 風というのは、一定の強さと方向で吹くものではないんですよね。もっと複雑で変化が激しい。特に地上付近の風は、場所によって風向と風力がどんどん変化します。高高度の風は遮るものがないのでわりと一定に吹くのですが、建造物や山などがあるとそれに影響を受けて、変則的な動きをするんです。
千葉 風って地上にいると、前後左右しか感じ取れないけれど、飛んでいると左下から右上に斜めに吹く風、なども感じられます。積乱雲の真下で上から下に吹き下ろす風に当たると、いきなり100m下に落とされたりする。もう死ぬほどこわいですよ。
古本 京都大学の研究室にいたときに、地表に近い層の風を計測するのはかなり難しいことがわかりました。ドローンやエアモビリティが飛ぶのは高度150m以下で、この層の風はまだ誰も正確に計測したことがないんです。
 風は三次元のベクトルを持っているんですよね。だから、メトロウェザーでは、3次元空間における風況マップを提供しようとしています。
千葉 フライトのときは「Windy」というアプリを利用しています。これは、世界中の風の方向と速さを、各高度で表示するサービスです。
 数日後の風の様子も予測してくれるし、便利なんですけど、基本はシミュレーションデータなんですよね。スーパーコンピューターに世界中の気象観測データを入れて、計算して出している。だから、ある程度は当たっているけれど、現実の風を表しているわけではない。
 大局観はまだいいですけど、ピンポイントで「この山の付近にどういう風が吹いているか」といったことはわからないんです。急な変化があっても、シミュレーションで対応できなかったら表示されません。パイロットにとって、これから向かう先に強風が吹いているのかどうかは死活問題なのに。
 そこで、ドップラーライダーです。ドップラーライダーがあれば、まさに風を可視化できる。
古本 リアルタイムでデータをとって、刻一刻と変化する各地点の風を3Dで表示できますからね。
千葉 ドローンは基本的に位置補正機能がついていて、ある程度風が強くても自動的に位置を元に戻すことができます。でも、突風などにはなかなか対応できません。
 ドローンが当たり前になったら、ドローンが商品を宅配したり、街なかを警備したりするようになります。ビルの間って、風が複雑な動きをしているんですよね。突風や強風が起こりやすい。そういうルートを通ってしまうと、ドローンが墜落したりビルに激突したりします。
小型ドップラーライダーを張り巡らし、都市の風の流れを可視化するイメージ
古本 しかも、風は刻一刻と変化するので、今安全なルートと、1分後に安全なルートが違う、ということが起こりえます。
 ドップラーライダーがリアルタイムで風の状況をスキャニングして、その情報を自動飛行のドローンに送れば、その情報を頼りにより安全なルートを選べるようになります。
千葉 というわけで、ドローン前提社会には絶対ドップラーライダーが必要なんです。
 おそらく、これからドローンの普及が進むにつれて、世界の誰かがドップラーライダーの量産に手をつけるはず。日本では今、メトロウェザーしか実現できるチームはいません。だから、僕らは絶対メトロウェザーに投資しなくちゃいけない、と思いました。

携帯電話のアンテナのようにドップラーライダーが設置される未来

──ドップラーライダーは、もともとある機器だったのでしょうか。
古本 機器自体は昔からありました。メトロウェザーでは、それをより高精度化、小型化、低コスト化したんです。
千葉 既存のドップラーライダーは空港などに設置されているんですけど、コンテナ1個分くらいある巨大なサイズで、億単位の価格なんです。これでは、街なかにばらまけないですよね。
 ドローンの飛行ルートを探るためのデータをとるとなると、ビルの屋上の右端と左端に1個ずつつけて、斜め下に向かってスキャンする、といったことが必要なんです。ビルの間も隙間なく計測しないといけないので。将来的には、携帯電話のアンテナと同じくらいのドップラーライダーを設置したいところです。
──メトロウェザーでは、今どのくらいの小型化・低コスト化に成功しているのでしょうか。
古本 1号機は1m四方のところまで小さくできました。2号機はさらに60cm四方まで小型化しようとしています。また小さくても、巨大なドップラーライダーに負けないくらい、遠距離のデータがとれるように設計しています。
 低コスト化は、現状既存の10分の1までは実現できました。できれば、さらにもう一桁落としたいですね。

谷ばかりの研究開発を、投資家は伴走者として支える

──開発は順調でしたか?
古本 モノを作って、動かして、性能が出るまで、どんなに頑張っても3、4年かかるんですよね。その間に、自分たちも会社として生き残りながら、いいものを作り上げていかなければいけない。
 1号機が完成するまで、6年かかりました。その間、山あり谷ありではなく、谷あり谷あり、また谷あり、でしたよ(笑)。
 納期が迫っているのに、何ヶ月も、想定していたような性能が出なかったときは泣きたくなりましたね。
 次々に押し寄せてきた技術課題を具体的にはお話しできないのですが、思うようにデータがとれなかったり、次々と部品の故障に見舞われたり、1つ課題を解決しては次から次へと新たな技術課題が押し寄せ、まったく出口の見えないトンネルの中で何度も諦めようかと思いながらも、ひたすら前に向かって走り続けるような感じでした。
 泣いて済むなら泣きますけど、そういうわけにはいきませんから。最後もう、残り100時間くらいのところでうまくいって、ギリギリ間に合いました。
千葉 研究開発型スタートアップの典型的な悩みですよね。性能を実現するスピードと、お金が減っていくスピードのバランスをとるのが難しい。順調にアウトプットが出ないと、売上が立たない、もしくは次の資金調達ができない。でも、そんなに研究開発って、どんどんアウトプットが出てくるものではないですからね。どちらかというと出ないほうが多い。
 スタートアップって大変なんですよ。うまくいかないのが当たり前。だから、相談相手になったり、動ける部分は動いたりと、投資家は伴走者としてなんでもやるんです。
古本 伴走者という言葉はまさにぴったりですね。困っていることがあると、一緒になって考えてくれる。投資家は僕らにとってすごく大切な存在です。
 投資いただけるということは、それだけ期待されているということ。だから期待に応えて、リターンだったり、社会実装だったり、社会問題の解決だったりと、何らかのお返しをしたい。やっぱり最終的に結果を出すことが重要ですよね。それは、石にかじりついても実現しなければと思っています。
千葉 投資家としては、リターンは大事です。大前提として、とても大事です(笑)。でも、「お金を増やしてください」というコミュニケーションはしていないんです。
 そういう言い方ではなくて、メトロウェザーだったら「ドローン社会を支えるインフラにするべく、小型のドップラーライダーを、安く、高機能で実現してください」「ビルの屋上だったらどこでもついているくらいのプロダクトにしてください」と伝える。それができれば、自ずとビジネスの可能性はついてきて、リターンもあるはずなんです。
──投資を受けるのは、国から科学研究費を助成してもらうのとは違うものですか?
古本 全然違いますね。違うというか、逆です。科研費は申請が大変だけれど、アウトプットについては評価されないので。でも投資いただく場合は、「結果が出ませんでした」では許されないですからね。結果に対する責任の重さが違います。

いよいよ身近にドローンが飛び始める

──ドローン業界はこの先、どうなっていくのでしょうか。
千葉 実証実験がここ2年くらいでだいぶ進んできました。エアモビリティについても、今年の8月には、日本のスカイドライブという企業が人や物を乗せて飛べる「空飛ぶクルマ」の有人飛行に成功したというニュースが出ていました。こうした実証実験を経て、2030年までに社会実装の第一ステップが完了すると考えています。
 普及のポイントは3つあります。まず技術。これはどんどん技術開発が進んでいます。次に法律。これは、2015年4月に首相官邸にドローンが落下した事件によって、同年12月に航空法が改正されました。「無人航空機」というものが定義されたんです。ここから少しずつ法整備も進んでいます。
 最後が社会受容性。人々がドローンやエアモビリティが欲しいと思うようになるか。こうした新しい技術が敵ではなく味方だと思えるか。このあたりが乗り越えるべき壁になってきます。
──社会実装ということは、ドローンのサービスがもっと身近になってくる?
千葉 はい、やっとですね。この1〜2年で、多くの人がドローンやエアモビリティのサービスに触れたり、使ったり、乗ったりできるようになるはずです。僕らはそこに注力しています。そのためには既存の企業や事業者と協力し、既存のサービスにドローンを組み込んでいくことが必要になります。
 社会受容性を獲得するためには、いろいろやったほうがいいんですよ。例えば、昔からドローンでピザの宅配をしたらどうなるか、といったことが言われてますよね。きっと、みんな見てみたいんだと思うんです。だったら、ピザの宅配をやればいい。
古本 ピザの宅配をするとなると、なおさら墜落したら困りますよね。そこで航空機みたいにドローンにも航空管制システムが必要になってくると考えられます。ドップラーライダーはそこにデータを出していく、という未来像を描いているんです。
千葉 空の産業革命がこれからきっと起こる。その基幹システムに使われると考えたら、ものすごく可能性があります。ちなみに、飛行機にドップラーライダーを載せることは可能ですか。
古本 できますよ。
千葉 えっ、できるんですか。今飛行機ってある程度の大きさであれば雨雲・雷雲レーダーは積んでるんですよね。さらに風がリアルタイムでわかるドップラーライダーが加わったら、航空機の世界が相当変わりますね。小型化にはこういう魅力があるんですよ。
古本 今、移動体に載せるライダーの開発をしているんです。速度が上がるほどデータ取得が難しいので、まずは自動車から始めています。1、2年したら飛行機にも搭載できるようにしますよ。
千葉 うわー、それができたら飛行がより安全になります。航空業界がひっくり返りますよ。ぜひお願いします。
(編集:中島洋一 構成:崎谷実穂 写真:加藤麻希 デザイン:田中貴美恵)