【及川卓也×山本康正】DX時代の必須スキルとは何か

2020/9/30
プロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、現在複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏による「プロダクトマネジメント」プロジェクト、DNX Venturesシリコンバレーオフィス、インダストリー パートナーの山本康正氏による「大企業×スタートアップ DX共創戦略」プロジェクトがそれぞれ開講される。

開校に先駆けて、両氏による特別対談を実施。第3回は「DX時代に求められる個人力」ついて語り合った。
【及川卓也×山本康正】DXの本質はソフトウェアにある
【及川卓也×山本康正】大企業とデジタル庁はどうあるべきか?

すべての企業はソフトウェア企業になる

──及川さんはNewsPicks NewSchoolで「プロダクトマネジメント」をご担当いただきます。改めてプロダクトマネジメントについて、及川さんの見解をお聞かせください。
及川 プロダクトマネジメントとは、世の中の課題を発見して、その解決方法を考え出し、提供し、推進していくことです。
及川卓也(おいかわ・たくや)Tably株式会社 代表取締役
大学卒業後、外資系コンピューター企業を経て、97年マイクロソフトに移籍。日本語版と韓国語版のWindowsの開発の統括を務める。2006年からグーグルで9年間ほどプロダクトとエンジニアリングのマネージャーとして勤務。現在はフリーランスとして、複数社のプロダクト開発やエンジニアリング組織づくりを支援する。
 1970年代や1980年代から現代にかけて、世の中は大きく変化しています。その変化に対応し、課題を解決に導く専門職がプロダクトマネジャーであり、プロダクトマネジメントとして体系化されているスキルになります。
 プロダクトマネジャーは、日本でも職種として確立されつつあります。ただ、専門職として専門技術が必要である一方で、実は誰もが持つべきスキルも多くあると感じています。
 今回のNewSchoolでプロダクトマネジメントのプロジェクトリーダーを務めるにあたって、私は2つの考えを持っています。
 ひとつはプロダクトマネジャーを専門職としてより確立させ、その専門職としての人材が活躍することで企業もより活性化し、事業が成功し、日本が輝きを取り戻すというサイクルを回していくこと。もうひとつが、すべての職種で持つべきプロダクトマネジャーのスキルがあると、さまざまな形で啓蒙していくことです。
山本 私自身、Googleに入社するきっかけとなったのが、現在はNianticでプロダクトマネジメントの副社長を務め、元Googleのプロダクトマネジャーだった河合敬一さんでした。
 その河合さんは、本当に何でもやる人で。それこそ、エンジニアに生き生きとコードを書いてもらうところから、製品が世の中に出るときのトラブル対応を含め、最後のところまですべてを手掛けていました。
山本 康正(やまもと・やすまさ)DNX Ventures シリコンバレーオフィス インダストリー パートナー
ハーバード大学大学院で理学修士号取得後、グーグルに入社し、フィンテックやAI(人工知能)などで日本企業のDXを推進。ハーバード大学客員研究員、京都大学大学院特任准教授などを務める。著書に『シリコンバレーのVCは何を見ているのか』(東洋経済新報社)などがある。
 彼自身ハーバードのMBAを取得していて、ほかのビジネススクールの学生もこぞって応募する職種がプロダクトマネジャーになります。海外ではそれほどプロダクトマネジャーという職種は人気があるのに、日本ではあまり認知されていない現状は不思議に思うほどです。
──お二人が考える、DX時代に求められる個々人のスキルや人物像はどのようなイメージでしょうか。
山本 テクノロジーの知識は当たり前に必要になります。それに加え、ソースコードを書くことで何ができて、何ができなさそうかの理解、データを使って因果関係や相関関係を理解するデータサイエンス。そして、ビジネスモデルの理解。あとは英語です。そもそもコーディングそのものが英語であり、新しい知見も基本的に英語で発表されますから。
 DXにおいて特に必要なスキルは、本質をつかむ力だと思います。もしビジネスをゼロからつくり直したとき、「本当に今ある、もしくはこれから出てくるテクノロジーを活用したとき、この形のビジネスモデルがベストなのか」と問い続ける力とも言えるかもしれません。
 UNIQLOが自分たちの存在意義を再定義しているように、現代は各個人でもそれを考えないといけない時代です。データ人材が足りないと叫ばれていますが、能動的に必要なデータを検索し、分析をしたり、知識をつかんでいくような人材こそがまさに求められているはずです。
(ロイター / アフロ)
 そういったスキルは、現代を生き抜くサバイバル知識として重宝されます。DXに取り組む企業は今後も後を絶たないはずで、そもそもDXだけでなくどの企業でも活用できますから、今いる企業からステップを踏んでいく上でも、必ず役に立ちます。
及川 ビジネスサイドの人間もテクノロジーの知識は必須です。エンジニアとコミュニケーションを取るためにも、テクノロジーの知識はアップデートする必要がありますね。ビジネスとしても、知識がなければテクノロジーは活用できません。
山本 その通りですね。言い切ってしまえば、どの企業でもテクノロジーを使わなければ、今後は滅びゆく運命です。テクノロジー企業でない企業はなくなっていくはずなので、いかなる企業、業種でも、DX時代には必須のスキルと言えます。
及川 世界初の商用ブラウザを成功させ、投資家に転じたマーク・アンドリーセンも、ウォールストリート・ジャーナルに「Why Software Is Eating The World(ソフトウェアが世界をのみ込む理由)」というコラムを書いていました。彼も「すべての企業はソフトウェア企業になるだろう」と言っていて、まさしくそうなってきています。
 ソフトウェアがすべてではないですが、ソフトウェアを活用できるかどうかが企業存亡の鍵を握るようになってきていると言えます。

日本の輝きをもう一度

──最後にNewSchoolのプロジェクトに向けて、どのようなプロジェクトにしていきたいか、聞かせてください。
及川 私は長い間外資系企業に在籍し、なかでもMicrosoftとGoogleは、もちろんいいことばかりではありませんでしたが、総じて素晴らしい会社だと言えます。私自身、MicrosoftやGoogleのような企業を日本に増やしたいと考えています。
(John Taggart/The New York Times)
 なぜかと言えば、外資系企業を辞めた後に日本企業を見始めると、素晴らしさはあるものの、どこか物足りない。そして、その物足りなさはソフトウェアの価値が理解できていないという理由が大きいと感じました。
 もちろん、海外の例をそのまま日本に持ってきてもうまくいかないことは十分理解しています。なので、日本の長所と私が外資系企業で経験した長所を組み合わせようと。それが私なりのDXで、その本質にあるのがプロダクトマネジメントというわけです。
 現在の心配事は、プロダクトマネジメントやプロダクトマネジャーという言葉自体の認知も高まっているものの、ラベルだけ使って実態はプロダクトマネジャーとは程遠い仕事をやらせてしまっている企業があることです。
 本来であればプロダクトマネジャーやプロダクトマネジメントといった言葉なしでも構いません。テクノロジーを活用して物事の価値を追求するだけでもいいはず。その専門職が、プロダクトマネジャーと呼ばれているだけです。
 実は、かつての日本企業には、プロダクトマネジャーのような仕事をしていた人たちが存在していました。例えば、1970年代や1980年代。当時の日本でプロダクトマネジャーなんて言葉はありませんでしたが、東芝では日本初のワープロが、ソニーではウォークマンがつくられています。当時の逸話などを調べてみると、現代におけるプロダクトマネジャーのエッセンスがふんだんにちりばめられていることがわかります。
 ものづくりで名を馳せていた時代、日本はプロダクトマネジャー大国だったと私は考えています。ところが、技術の本質がITになった途端、日本はそうではなくなってしまった。時期が重なるように、自分が起こした会社を大企業に育て上げた創業者たちが第一線を退いたことで、強みの本質も失われてしまったのではないかと。NewSchoolを通じて、当時の日本の輝きを、もう一度取り戻せるようにしていきたいですね。
山本 私はまさに同じ山を別のルートで登っている感覚ですね。及川さんはプロダクトマネジメントというルート。私は金融出身なので、金融を活用したルートです。ミクロとマクロという視点の違いといいますか。具体的には、VCでのマクロとしてのテクノロジーの理解の視点やCVCの活用が日本ではあまりにも遅れているため、その支援を日本企業のためにしていきたいです。
 及川さんのお話の通り、日本はかつてものづくりに強みがあり、ソフトウェアになった途端に衰退してしまいました。衰退の原因はさまざまあると思いますが、一方で国策でものづくりを伸ばしていったように、ソフトウェアも国策で伸ばしていかなければなりません。
 私も日本が大好きで、そもそも1社目は日本の銀行です。その後に外資系企業に移ったことで、日本の文化や強みと弱み、海外との違いもよくわかっています。そして、日本の大企業を変えるという思いも強く持っています。
 このままGDPが3位から4位、そして5位、6位、7位とジリジリと落ちていくのを、指をくわえて眺めていることはしたくないですから。私はVCとして、ベンチャー企業を大きく育てることと同じく、大企業を変えていきたいと考えています。今回のNewSchoolの参加者の方には上席の方を説得し、変革を実行していくための武器を渡したいです。
(構成:小谷紘友、及川氏写真:大隅智洋、山本氏写真:遠藤素子、デザイン:九喜洋介)
2020年7月に開校する「NewsPicks NewSchool」では、
及川卓也氏による「プロダクトマネジメント」プロジェクト
山本康正氏による「大企業×スタートアップ DX共創戦略」プロジェクト
をお届けします。詳細は以下をご覧ください。
【及川卓也】実践を通し「プロダクトマネジメント」を身につける
【山本康正】シリコンバレーに学ぶ。「大企業×スタートアップ」のDX共創戦略