【withコロナ】ベイスターズモデルが作るスポーツ新・観戦体験とは

2020/10/4
「NewsPicks NewSchool」では、10月から新しいスポーツビジネスのモデルと地域を始めとした社会貢献の可能性を探るプロジェクト「プロスポーツ・マネジメント」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めのは、DeNA代表取締役会長、横浜DeNAベイスターズ取締役オーナーの南場智子氏と、DeNAスポーツ事業本部のプロフェッショナルたち。
南場智子と模索する「withコロナ時代のプロスポーツ・ビジネス」
開講に先立ち、DeNAスポーツ事業本部長の對馬誠英氏に「バーチャルハマスタ」などのコロナ禍での挑戦と、プロジェクトへの思いを語ってもらいました。
對馬誠英(ツシマ・マサヒデ)株式会社ディー・エヌ・エー スポーツ事業本部長
経営コンサルティング会社を経て2005年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。 営業部署を経て、2012年にHRへ転身。HR本部長を経験したのち社長室長、COO室長等を担う。 2020年からスポーツ事業に関わり、同年10月よりスポーツ事業本部長。

バーチャルハマスタ誕生の背景

──新型コロナウイルスの感染拡大では、スポーツ業界にとって大きな衝撃を与えています。特に、DeNAのスポーツ事業は横浜DeNAベイスターズを中心に、非常に好調を維持していた中での出来事です。具体的に言えば、ベイスターズは昨シーズン、横浜スタジアムの主催試合71試合のうち41試合でチケットが完売。観客動員は228万3524人で、横浜スタジアム(ハマスタ)の動員率は驚異の98.9%でした。
對馬 昨年には誰も想像できなかった状況ですから、まずはこの制限の中でできることを最大限行ない、見えてくるであろうニューノーマルーー「新しい日常」の中でこれまでの賑わいをどう取り戻していくのかが大きなテーマになってきます。
 我々だけではなくスポーツ業界、ライブエンタメ業界全体で、できることを探していかなければなりません。
──そんな中で先月に注目された取り組みが「バーチャルハマスタ」でした。
【バーチャルハマスタ】
横浜DeNAベイスターズがKDDIと共に開催した、VR(仮想現実)球場でのオンライン観戦。CGで再現された横浜スタジアムにアバターを使って入場、自宅にいながら試合観戦を楽しめる。8月11日の阪神タイガース戦で無料トライアルを行ない約3万人が参加した。
對馬 このコロナ禍で、さまざまなスポーツチームが「オンライン観戦の形式」をファンの方々に提案してきました。
「バーチャルハマスタ」も同じ形式ですが、プロジェクト自体は新型コロナウイルスの影響を受ける前から検討されていたものです。新しい観戦体験としてこのタイミングで実施することになりました。
 初めての実施で課題も見えてきましたが、多くの収穫もありました。今後もトライアルを続けていきます。
──今シーズンは2月に横浜スタジアムの増築・改修工事が終わり、収容人数もこれまでの2万8966人から3万4046人に増やすなどリアルの場の拡充も行なっていました。しかし、一方では「未来のスポーツビジネスの形」も想定しており、それが実現したものだった。
對馬 はい。約5,000席増やした横浜スタジアムのお披露目、そのオープン戦のチケットは完売していました。
 需要から考えれば、試合によっては席を増やしても球場に来ることができないファンの方が出てきてしまうことは予想されました。
 そういった方たちにどうすれば観戦体験をしてもらえるか、楽しんでもらうために何ができるのかということは常に考えています。
「バーチャルハマスタ」もその一つですし、JR関内駅前の横浜市庁舎跡地の再開発においても、我々が手掛ける「ライブビューイングアリーナ」という施設をつくる計画です。それぞれの特徴を持った観戦スタイルになるのではと期待しています。
 迅速にバーチャルハマスタというトライアルができたのは、こうした準備を進めていたからだと言えます。
──今回の「プロスポーツマネジメント」講座は、今、困難に直面しているスポーツビジネスに対して、どう取り組んでいくべきかという点と、それを踏まえた上でバーチャルハマスタのように未来を見据えた施策やビジネスモデルの構築についての考え方を学んでいく場になります。講義のモデルとなるB1リーグの川崎ブレイブサンダースは、横浜DeNAベイスターズの戦略や知見を共有しながら進めているのでしょうか。
對馬 ベイスターズから受け継がれている施策はたくさんあります。例えば、野球界には「応援する選手の名前入りタオルを掲げて応援する」文化があります。バスケットボールにはなかったスタイルです。
 我々が参入してすぐにこの商品を販売したのですが、想像以上にお客様に好評で、応援スタイルとしても定着しました。贔屓の選手のタオルを掲げて声援を送る、観戦を楽しむ、こういったスポーツの応援スタイルは、スポーツの垣根を超えて受け入れられるということが証明されたと思います。
(C)KAWASAKI BRAVE THUNDERS
 そのほか、試合演出だったり、選手を魅せるためのクリエィティブだったり、基盤となる部分はプロ野球の現場のノウハウを導入してきました。
これからはバスケットボールが持つ競技性やファンとの繋がりを深く理解した上で、独自色のある取り組みが生まれてくるフェーズです。
 またそれが、プロ野球に還元されていく可能性もあるでしょうね。
──そうした意見交換や会議の場で、DeNAのスポーツ事業本部で大事にされていることはなんですか。
對馬 スポーツ事業本部の傘下には、プロ野球球団と球場、プロバスケットボール、長距離陸上というソフトコンテンツとハード、加えてデジタル戦略や新規事業戦略を練る部門、そのすべてを支えるシステム部門、そして事業本部外ですが密接に連携しているまちづくり関連の部門があります。
そのメンバー全員であらゆる情報をオープンにし、相乗効果が生まれやすい土台を作ることを大切にしています。
 前述のバーチャルハマスタも、実施後に詳細なデータが各部門の責任者が集まる場で共有され、バスケットボールの責任者から質問が飛んだりしていました。そういったことが日常的に行われています。
 また、議論が必要な案件をその場に持ち込み、担当領域を越えた様々な視点でのインプットを受けながら、迅速に意思決定していくことも大切にしています。

コロナ以前よりも質の高い体験を

──今回は南場智子DeNA代表取締役会長、木村洋太横浜DeNAベイスターズ副社長、元沢伸夫DeNA川崎ブレイブサンダース代表取締役社長というトップランナーの3名に加えて、現場の最前線にいる方の具体的なお話も聞くことができます。
對馬 withコロナの中で、川崎ブレイブサンダースもさまざまな取り組みをしています。
 月額3000円のオンラインサロンは、これまで絶対に見ることができなかった「裏側」の動画をどんどん出していくなど積極的な配信をしています。中でも特徴的なのは「質の高い体験」の提供です。
 例えば川崎ブレイブサンダースは、試合会場に行くと勝っても負けても、帰りに選手がハイタッチをしてファンの方々をお見送りしており、ファンの方もそれをとても楽しみにされてていました。つまり、リアルな現場でしか体感できない価値を提供してきたんです。
 物理的な接触を避ける必要がある今、同じことはできません。価値に共感してファンになってくれた方達にその価値に変わる何かを提示しなければいけません。
つまり、直接提供できなくなった選手との交流に代わるもの、それも以前よりも質の高いもの。これうした体験を提供することに挑戦している点ですね。
オンラインサロンはまさにそこに挑戦しています。
──具体的にどんな取り組みを。
對馬 会員限定で視聴できる裏側の動画の他、選手たちとオンラインでコミュニケーションできる仕組みが設けられています。希望者を募って当選した方が、選手と直接対話ができる企画も好評です。
──それはまた思い切っていますね。
對馬 この数年、「バスケットボール観戦」という新しい習慣、楽しみが確実に根付き始めていた実感がありました。そんな中での「新型コロナウイルス感染拡大」ですから、バスケットボールの魅力に気づき始めた方々が離れていってしまうのではないか、という危機感があります。
 だからこそ、オンラインサロンという形を通じて、選手との触れ合い、コミュニケーションを活性化することで、ファンの皆さんと繋がり続けていたいと考えています。
──熱量を保存する感覚ですね。
對馬 はい。実際、このサロンはファンの方にはものすごく喜んでもらえていますし、選手たちも非常に協力的で盛り上がってきています。
──同じスポーツ事業でも、大きく異なる戦略、課題があるわけですね。DeNAスポーツ事業は横断でありながら、独自色も重視している点が非常に興味深いです。
對馬 そうですね。マーケティング施策のように、野球とバスケットボール、あるいは競技を問わずスポーツビジネス全般で通用するノウハウはあると思います。
しかし、プロ野球や大相撲のように、ニュースなどを通じて日常に組み込まれているような競技と、これから新しい文化として根付かせていこうとしている競技では違うアプローチが必要になります。
 その点で、バスケットボールはプロリーグができて5シーズン目に突入して素晴らしい成長曲線を描いています。今後プロ化を目指していく競技にとっても非常にいいモデルになると思います。
 競技者数は日本国内でも屈指(高校の部活動でいえば男女とも2位。男子1位がサッカー、女子1位はバレーボール)で、ポテンシャルはとても高い。
 ただ、まだ成長途上にあり、課題も多い。そこに加えてのコロナ禍で一時的に苦しい状況ですが、ここをどう乗り越えていくかという姿をお見せして、これからのスポーツビジネス、スポーツマネジメントの一つのあり方を示せたらと思っています。
(構成:黒田俊、デザイン:九喜洋介)
「NewsPicks NewSchool」では、10月から「プロスポーツ・マネジメント」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。