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【塩野誠】デジタルテクノロジーと権威主義国家#3/6

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  • 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 准教授

     デジタル・マーケティングの一般的な手法を、政治という領域で最大限に活用したらどうなるか。本章のテーマはこれである。本章に登場する行動履歴データに基づいたターゲティングやレコメンデーション、顧客のスコアリングと顧客ランク別対応は、現在のマーケティングではごく普通に行われている。ではこうした技術の導入期に、マーケティングの研究領域ではどのような議論が行われていたのだろうか。
    手元にインターネット黎明期に書かれたレコメンデーションに関する論文がある*。本論文によるとレコメンデーション・エージェントは、「消費者の意思決定の質の向上」、「顧客満足の増大」を目的とするものであり、その実現のためには消費者からの「信頼の獲得」が不可欠である、とある。そして、信頼の獲得のためにはエージェントは(企業ではなく)消費者の利益の保護と最大化を目指すよう設計されなければならない、と記されている。この企業ではなく消費者の利益、という部分は、革新的な技術から社会が広く恩恵を受けるために重要であろう。
    デジタル技術を選挙や国家統治に活用する場合、国民の意思決定の質の向上、国民の満足度の増大、国民の信頼の獲得の三点がポイントとなるだろう。そして、技術の恩恵を受けるのは国家ではなく国民でなくてはならない。行動履歴データに基づいたスコアリングやターゲティング、レコメンデーションは誰が利するように設計されているのか。本章を読む限り、権威主義国家がこうした技術を手に入れると、利するのは国民とは言えないようだ。

    *West, P., Ariely, D., Bellman, S., Bradlow, E. T., Huber, J., Johnson, E., Kahn, B., Little, J., & Schkade, D. (1999). Agents to the Rescue?. Marketing Letters, 10 (3), 285-300.


注目のコメント

  • ビービット 「アフターデジタル」著者/ビービット執行役員CCO 兼 東アジア営業責任者/エクスペリエンスデザイナー

    民主化にも権威化にもデジタルテクノロジーが利用される中で、陰と陽をフラットに伝える。

    特に私も縁のある中国に関しては、誤解や偏見にまみれた日本においてしっかりと良し悪しを照射しているし、日本人が盲目的に良い評価を下しがちなアメリカに対しても、同様にフラットに語るため、世の中の状況を改めてフラットに学ぶ契機になるのではないか。

    これを見ていると、逆に中国は、日本人の感覚から見て怖い点もある一方で、国民に「こういうことをします」と明言している。対して、ここで書かれるデジタルプラットフォーマーや米国選挙のケンブリッジ・アナリティカの問題、ロシアのIRAの話を聞いていると、むしろ隠れて世を操ろうとするのは西欧的な事例に多いようにも感じる。

    「テクノロジーを手に入れた権威主義国家が国内秩序を維持する中、自由な民主主義国家は選択を迫られている」という投げかけは、今を生きる多くの人にとって逃げられない問い。是非この点は、塩野さんと議論してみたい。


  • Coinbase株式会社 代表取締役

    2020年は世界中の誰しもがコロナという恐怖に直面した。ウィルス自体の実態把握に時間がかかる間に情報が錯綜し、何が正解か誰もわからない事態がパニックを生じさせた。私の同僚が多く住んでいる米国カリフォルニア州では、コロナに加えて、ポピュリズムと極端論者たちの台頭、BLMといった既存の社会的問題の先鋭化、地震や異常気象に起因する山火事といった自然災害など、Apocalyptic(黙示録的)な状況が続いており、皆が先の見えない恐怖に疲弊している。デジタル・テクノロジーの進歩によってインターネットによる民主化が進み、情報はより正確に伝達され、より良い社会が約束されていると思われていたにも関わらずである。情報統制は小説1984や映画未来世紀ブラジルで描かれていたようなディストピアをもたらすと私は未だに信じて止まないが、本章で著者が試みたように現状を客観的に俯瞰すると、デジタル・テクノロジーは民主主義国家にもあらたな課題を与え、権威主義または独裁国家には未曾有のパンデミックに社会秩序をもたらす権威付けとして利用されかねない、という多面性を持っている。インフォデミックの正体を事実に基づき表面化させ読む者に正しい問題意識を持たせる、という本章の位置づけは重要である。


  • 名古屋外国語大学 教授 世界共生学科長

     デジタルテクノロジーの急速な進歩等を踏まえて人類の未来を大胆に読み解いたユヴァル・ノア・ハラリは「ホモ・デウス」(河出書房新社)の中で、資本主義が共産主義に勝利したのは、共産主義がデータの集中処理が必要なのに対して、資本主義は、データ処理が分散的だからだと指摘している。資本主義は、個人や企業が利益というモチベーションで、自由に分散的に活動する仕組みで、共産主義より生産性を高めることができた。
     自由な経済活動で活力を引き出す資本主義は、政治体制としては、民主主義と相性が良い。
    われわれは、どこかで共産党一党独裁の権威主義的な政治体制の中国は、資本主義のダイナミズムを取り込めず、いずれ経済成長は限界を迎えると考えているのではないか。
     しかし、ハラリはAIの進展で、データの一括管理が有用性を高めると、中国が採用している共産主義が社会システムとして優位になりかねないと分析する。新型コロナの感染防止という大義名分があれば、国家が監視カメラやネット上の個人データを一括管理、分析することの有用性が高まる。塩野氏も、AIの進展が権威主義の優位性を高める可能性を踏まえ、大量の個人データで政府が国民を監視する中国の「社会信用システム」の在り様、フェイスブック等のSNSを活用して米大統領選などで世論操作が進んだ内情を豊富な事例と鋭い分析力で読み解く。新型コロナの感染拡大防止に権威主義国家の監視テクノロジーが寄与したことが、自信を失う西側諸国により一層の揺らぎを与えた、との塩野氏の指摘は重い。今、挑戦を受けているのは資本主義と民主主義そのものだと言えよう。


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