まずは自問する

たとえ状況のよい時期であっても、業績の悪い従業員にフィードバックをするのは、どんな上司でも楽しみなことではない。パンデミックの最中で、従業員がリモートワークをし、子どもに勉強を教え、世話をし、最近では抗議運動もあるなかでは、なおのこと難しい。
いまでも、従業員に責任を持たせる方法は通常と変わらない。だから、誰かの業績がよくないと決めつける前に、それをしてきたか自問しよう。つまり、その従業員には双方が合意した明確な目標が定められていたか、具体的なフィードバックを頻繁に与えられていたかを、確認するのである。
経営コンサルタントでエグゼクティブ・コーチのリズ・キスリクは「業績の話をする前に、その従業員の状況や仕事に対してどう感じているかなど、さまざまな話をするべきだ」と言う。
マネジャーは、従業員がこの期間に、家族や仕事に関して特別な課題を抱えていないかを知っておくべきだ。
仮に、2人の従業員が同じ状況にあるように見えたとしても、たとえば2人とも幼い子どもが家にいる状況であったとしても、それぞれに課題は異なっていて、それが仕事の業績に違いを生み出している可能性もある。
だから、従業員同士を比べてはならない。それよりも、その従業員の最高の状態と比べるべきだとキスリクは言う。「みな置かれた状況は異なっている。誰もがベストの結果を出せるように、考えなくてはならない」

何か変化があったのかを知る

もし最近、誰かの業績が急激に下がったのであれば、最初に取るべきステップは、何か変化があったのかを見出すことだ。
「必ずしも業績指導のような言い方ではなく、手を差し伸べるように質問をしよう」とキスリクはアドバイスする。共感を持ってオープンエンドの(「はい」「いいえ」で答えるのはなく、自由に答えられる)質問をすれば、その人がなぜ急に苦戦するようになったのか、明らかな理由が見えてくるかもしれない。
この時、従業員が自分の業績の問題について上司と話をするのは難しいということ覚えておかなければならない。
キスリクは「そもそも対立関係が内在している」と言う。従業員は、自分の労働と引き換えにお金をもらっている。そのお金をくれる人に「ノー」と言い、「いまは30%しか力が出せない」と言うのは厳しいことだ。
人間的でくだけたアプローチは、協力的な対話につながり、保身を防ぐ。
苦戦している従業員について多くの事実を知れば知るほど、その人には共感が必要なのか、励ましか、あるいは正式な業務の調整をすべきかなどをよりよく考えることができる。たとえば、締め切りを伸ばせるか、プロジェクトの優先順位を変えられるか、プロセスを減らせるかといったことを検討できる。
追加的なサポートをしても、その従業員の業績が低いままであったなら、その状況についてのあなたの印象を伝えよう。キスリクは、たとえば次のような言い方を勧める。「私のこれまでの印象を伝えたいと思います。あなたも、あなたの視点から話してもらえますか」
この時の会話は、事実と事業への影響にフォーカスしよう。たとえば、守れなかった締切や顧客への影響などだ。価値判断や推測はしない。あなたの見方にその従業員も同意するかを尋ね、この先、何をどのように進めていくべきかを話し合おう。

電話で話すメリット

難しい会話をする時は、ズームなどのテレビ会議のアプリはあまり向いていないとキスリクは言う。彼女が勧めるのは電話だ。テレビ会議はチームのミーティングやプレゼンテーションには非常に適しているが、業績評価の話し合いでは「障害になる」と言う。
まず「どこを見たらよいかわからない」。カメラを見たら、集中して話を聞いているように見える。しかし実際は、カメラを見ていると相手の顔をよく見られない。すると、言葉には表れないサインを見落としてしまう。
また、熱心に聞いていることを示す動作、たとえば頷いたり眉を寄せたりする動作にエネルギーを消費してしまう。そのエネルギーは、相手の話に集中し、メモを取るために使ったほうがよい。
キスリクは「何が起こっているのかを、これまでとは違った方法で聞くということだ」と言う。
また、電話であれば、家が混雑している状況でもプライバシーを確保しやすい。必要ならバスルームに閉じこもることもできる。テレビ会議の時のように、静かで職業人らしく見える場所を家の中で探す必要もない。
キスリクは「電話なら、文字通りバスタブの淵に腰かけて、プライバシーを保てる。だから、冷静になって、よりよい対話をすることができる」と話す。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Sarah Green Carmichael、翻訳:東方雅美、写真:taa22/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.