2020/7/24

【内田和成】戦時のリーダーは「現場力」を発揮せよ

金藤 良秀
NewsPicks編集部 記者
まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントをいち早く紹介する連載「The Prophet」。今回登場するのは、早稲田大学ビジネススクール教授の内田和成氏だ。
新型コロナウイルスで企業の競争環境は激しく変わっている。コロナの影響によって倒産したとされる企業数は全国で340社を超えた。
日々、緊張感が高まる中、経営者もしのぎを削っている。果たしてコロナ時代に要請されるリーダーとは、どうあるべきなのか?
内田氏は、6月20日に上梓した新著『リーダーの戦い方 最強の経営者は「自分解」で勝負する』(日本経済新聞出版)の中で次のように語っている。
「リーダーシップにシングル・アンサー(正解)はない。(中略)あなただけの自分解を見出してほしい」
今回の「The Prophet」では、数々の経営者と向き合ってきた内田和成氏による「戦時と平時」のリーダーシップ論を、全3回で紹介する。
内田和成(うちだ・かずなり)早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒業。慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から2004年12月までBCG日本代表、2009年12月までシニア・アドバイザーを務める。2006年には「世界の有力コンサルタント25人」(米コンサルティング・マガジン)に選出された。2006年より現職。ビジネススクールで競争戦略論やリーダーシップ論を教えるほか、エグゼクティブ・プログラムでの講義や企業のリーダーシップ・トレーニングも行う。著書に『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』(いずれも東洋経済新報社)、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』(編著、日本経済新聞出版)など。

戦争で必要な3つの力

──新著の中で内田さんは、リーダーシップには「平時」と「戦時」があると説明されています。具体的にどのようなことでしょうか。
内田 19世紀のプロイセンで活躍したクラウゼヴィッツという将軍が『戦争論』という戦略の本を書いています。そこで彼は、戦争に勝つために重要なこととして次の3つを挙げています。「先見性」「決断力と実行力」「現場力」です。
コロナ下の今は、明らかに「戦時」ですが、同書で最後に挙げられている「現場力」こそが、「戦時」のリーダーに不可欠な素養だと私は考えています。
同書が書かれた19世紀初頭のプロイセンは、西のナポレオン軍率いるフランス、東のロシアに挟まれており、年中、両大国に翻弄されていました。
いわば、常時戦争状態の中、たまに平和が訪れるような時代で、この先どうなるかわからない状況でした。とはいえ、先が読めないからといって身をかがめて待っていれば、余計に蹂躙(じゅうりん)されてしまう。
つまり、わからないなりにも先を見通して行動しなければならない。そのためクラウゼヴィッツは、戦争に勝つための1つ目の要素として「先見性」を挙げました。
カール・フォン・クラウゼヴィッツ(提供:akg-images/アフロ)
とはいえ、見通した先が本当に正しいのかどうかわかりません。それでもリーダーや将軍とは、わずかな灯火を目指して「行くぞ」と進軍しなければならない。これが2つ目の「決断力と実行力」です。それでも、戦争はなかなか予定通りには進まないものです。
いくら優秀な参謀と戦略を練っても、敵がこちらの思うような布陣を組んでこなかったり、いざ出陣してみると味方の将軍が流れ弾に当たって負傷したりすることもあります。天候が変化するだけでも、戦況は大きく変わります。
そのたびに「ちょっと待った、タイム」と引き揚げて、もう一回作戦会議をできるかというと、そんなことは許してもらえないのです。
そこで求められるのは、現場のリーダー一人ひとりが、今ある情報の中で瞬時に正しい判断をすることです。中には計画を予定通り進めるだけではなく、ときに強行突破をすることもあれば、引き返す決断をしなければならないこともあるでしょう。
写真:Johncairns / Getty Images
重要なのは、そうした戦時の場面では、いちいち上官にお伺いを立てないことです。一瞬の判断の遅れが命取りになりますから、許可を求めるのではなく、現場の人間が状況判断をして動かなければならない。
これこそが「現場力」であり、コロナ下のような「戦時」で最も重要な能力だと考えています。

平時のルール違反が、戦時の正解に

同じような事例に、東日本大震災があります。ここでも有事のリーダーが活躍できた企業と、そうでない企業がありました。
たとえばある大企業では、物流が止まった現場に応援部隊を送るべく、全国から支店長がたくさん送り込まれたのですが、「優秀」な支店長ほど、情報をきちんと把握して本社に報告し、判断を仰いで、行動しようとした。