【ルポ】逆境が強くした台湾。なぜコロナを抑え込めたのか

2020/7/17
新型コロナウイルス対策で感染抑え込みに成功し、世界的に名を上げた「台湾」。
友好国は15カ国のみ、国連には未加盟、WHOも中国の反対で参加できない「国際的孤立」状態で、なぜこのような成果を挙げることができたのか。
実はその背景には、蔡英文総統を始めとする閣僚陣のリーダーシップ、健全な世論の監視、そして「ソフトパワー」で世界に打って出る長期的な戦略があった。
7月に『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)を出版したばかりの、ジャーナリスト・野嶋剛氏が、台湾の「たくましさの源泉」を綴る。

徹底的な感染リンクつぶし

先月24日、成田空港の検疫で、台湾留学を終えて帰国した日本人女性が新型コロナ「陽性」と判定された。日本では短信のニュースにすらならない話だったが、台湾では国全体を揺るがすほどの大騒ぎになった。
台湾では3カ月近く、帰国者以外の感染者を出していない。
台湾政府は、その女性が通っていた学校のなかで体調に問題があった90人と、女性と接触した可能性がある213人に対して「5種類」の抗体検査を実施し、全員から感染を疑わせる結果は出なかったことを7月9日に報告し、安全宣言を行った。
感染者数ゼロを示す、ホテル「圓山大飯店」のライトアップ(提供:台湾総統府・行政院)
連日数百人の感染者を出し続け、感染リンクが追えないケースが半分を超える日本に比べ、一人の国外感染者の感染リンクつぶしをここまで徹底できるレベルの違いに、正直、台湾がうらやましく思える。
台湾における新型コロナ感染者・死者は7月15日時点で、感染者451人、死者7人。一方、日本は、感染者約2万3000人、死者984人。
同じ東アジアで、中国とも密接な人的・経済交流を持つ者同士で、この差はなぜ生まれたのだろうか。
筆者は7月2日発売の新著『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』のなかで、台湾の歴史や政治とも絡めて、アジアでナンバーワンとも言える優れたコロナ対策の背後にある要因を詳しく分析した。
その結論は、台湾が長年かけてコツコツと育ててきた「民主主義」と「ソフトパワー」の力が、コロナ対策のカギになった、ということだった。

選挙圧勝でも緊張感

今から半年ほど前、1月11日に行われた台湾総統選挙の取材で、筆者は台湾を1週間ほど訪れていた。