【船橋洋一】コロナ後の「世界のリーダー」はどの国か

2020/7/14
世界情勢を理解する上で、絶対に避けては通れないのは「アメリカと中国」だ。
GDP1位、2位の超大国として、経済、安全保障、テクノロジーを始めとするあらゆる分野で世界に絶大な影響力を及ぼしている両国は、互いに大量のモノを輸出入するなど、経済的な結びつきも強い。
しかし近年では「新冷戦」と表されるほど関係が悪化しており、特にコロナ流行後はトランプ大統領が「断交」も口にするほど、両国関係は最悪なレベルに達しているとも言われる。
果たして今後、米中関係はどうなるのか。「世界のリーダー」の役割は、どの国が担うことになるのか。
両国の事情に精通する、アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長の船橋洋一氏が、米中対立の論点を1万字で解説する。ぜひ腰を据えて、この問題の「奥深さ」を感じ取っていただきたい。

異色の中国語YouTube配信

──新型コロナウイルスのパンデミックにより、米中関係は悪化の一途を辿り、アメリカの対中観はますます厳しくなっているように見えます。
コロナ危機の前から、アメリカは経済や政治などあらゆる面で中国を脅威に感じていました。
地経学的な対中競争がし烈になり、AIと5Gでも戦略投資でも、宇宙もサイバーも、守勢に立たされたとアメリカが焦燥感を抱き始めたことが背景にあります。
地経学:国家が地政学的な目的のために、経済を手段として使うこと。船橋氏は著書『地経学とは何か』で、この概念を詳しく解説している。
そのさらに基底には、トランプの「アメリカ・ファースト戦略」の支柱だったスティーブ・バノンが「グローバル化は中国の中産階級を台頭させ、アメリカの中産階級を没落させた」と言ったように、グローバル化とWTO体制への不満があると思います。
コロナ危機以降、アメリカの対中不信感は明らかに対中敵視へとオクターブを上げています。5月4日、大統領副補佐官(国家安全保障担当)のマット・ボッティンジャーが中国の国民に対し、中国語で行った演説はそうした対中観をよく表しています。
新型コロナウイルスの隠蔽や言論弾圧を繰り返す中国政府を非難したポッティンジャーは、中国の近現代史に一貫して流れる、中国の国民が希求する「自由と民主」の理念とその英雄的な行動を彼らに想起するよう呼びかけているように見えます。
五・四運動という、中国国民にとって象徴的な日に「立ち上がってほしい、我々はそれと連帯する」とのメッセージを伝えようとしたのでしょう。
同じ月にトランプ政権が発表した「中華人民共和国への戦略的アプローチ」とともに、従来の対中政策からさらに一歩踏み込んだ内容とみていいと思います。
中華人民共和国への戦略的アプローチ:トランプ政権が5月20日に発表した議会向けの報告書。貿易不均衡の是正や、対中圧力の強化が明示されている。
6月30日には、全国人民代表大会が、香港に適用する「国家安全維持法」を成立させました。