【移動×食】なぜ3密を避けても、外食できるのか?

2020/6/18
 新型コロナウイルスが大きな打撃を与えた、外食業界。そんな業界に希望の火を灯す、スタートアップ企業の存在をご存じだろうか。

 その企業こそ、フードトラック(キッチンカー)のプラットフォームサービスを手がける、Mellowだ。

 飲食店が「移動できる」ことの価値とは?「モビリティ×サービス」が秘める可能性を、代表取締役森口拓也が語る。

 本連載は、次世代モビリティをテーマにした番組「モビエボ」と連動。番組に登場するイノベーターの取り組みやビジョンを、さらに深掘りしていく。

自粛なのに、外食が楽しめる?

── Mellowは、創業からビルの空きスペースとフードトラック(キッチンカー)をマッチングするプラットフォームSHOP STOP(旧サービス名TLUNCH)を運営してきました。新型コロナウイルスは、フードトラック事業にどう影響を及ぼしているでしょうか?
 フードトラックの需要は、高まっていると感じます。コロナで人が移動できないからこそ、“サービスが移動できる”価値が、浮き彫りになっているんです。
 フードトラックとは、車内で調理した料理を、お客さんのところまで移動して販売するレストランです。
 オフィス街のランチタイムにフードトラックが何台か集まり、食事を販売している光景を、皆さんも見かけたことがあるのではないでしょうか。
オフィス街に集まるフードトラックの様子。(番組「モビエボ」より)
 フードトラックの強みは、変化に対する適応力の高さ。昼はオフィス街でお弁当を売り、夜はイベント会場まで移動して、販売することもできる。販売場所や時間帯を自由に変えられる点で、非常にフレキシブルです。
 今回コロナの影響で、多くの人が在宅勤務になり、オフィス街には人がほとんどいない状況になりました。ですがフードトラックなら、オフィス街に人がいないなら、住宅街まで動いて販売すればいいんです。
 実際にMellowは、緊急事態宣言が発令された次の日から、大型マンションのすぐ下でフードトラックを出店できる、「おうちでTLUNCH」のサービスを始めました。
マンションの下までフードトラックがやってくる、「おうちでTLUNCH」。外出自粛の中、日替わりで個性的な料理が食べられると、マンションの住民からも好評だ。
 コロナで表出したフードトラックのもう1つの強みは、出店・運営コストの低さ。
 一般的な飲食店は、家賃などの固定費や、人件費などのオペレーションコストが、常に発生しています。だからこそ、柔軟にお店を開閉することが非常に難しい。そんな背景から、コロナ禍では多くの飲食店が打撃を受けてしまったんです。
 一方でフードトラックは、トラックを一度購入しさえすれば、毎月の家賃は不要。固定費が圧倒的に少ないんです。さらに一人で運営することも十分可能なので、人件費などのオペレーションコストも抑えられます。
 身軽なビジネスだからこそ、意思決定を迅速に行え、高速でPDCAを回せる。リアルなビジネスにもかかわらず、IT系ベンチャーが急速に発展できた要因と、似ているのです。
 そんな側面からも、フードトラックのビジネスには、大きな可能性を感じています。
── 改めて、Mellowが展開するモビリティビジネス・プラットフォーム「SHOP STOP」の仕組みを教えていただけますか?
 SHOP STOPは、ビルの空きペースを活用したい不動産事業者と、料理を提供したいフードトラックなどのモビリティ事業者をマッチングするプラットフォームで、提携場所は首都圏を中心に約240カ所、登録しているフードトラックは約850店まで展開してきました。
 フードトラックは、歴史を遡れば“ゲリラ的に”出没するものでした。おでんの屋台が街中に突然現れたと思ったら、いつの間にかいなくなっている、というような。
Getty Images / Charles Lopez
 ですがその状況は、大きく変わりました。取り締まりが厳しくなり、自由に屋台ビジネスをするのは難しくなったのです。
 フード側は、販売場所が見つからない。一方で空きスペースの所有者側は、見ず知らずの事業者に土地を貸すのは怖い。
 ここにMellowが間に入る価値がある。フード事業者がMellowのスペースに出店するには、保険の加入、衛生管理基準などの審査があります。
 だからこそ、不動産事業者も安心して場所を貸せ、フード事業者も販売場所が確保できるというサイクルを回せています。
 地道な活動が実り、サービス開始から4年経った今では、実働中のフードトラックのうちの約6~7割は「SHOP STOP」と提携していただいている状態です。

収益モデルは「届けたい価値」から逆算

── Mellow自体は、どのように収益を上げているのでしょうか?SHOP STOPのお金の流れを教えてください。
 SHOP STOPに登録する際の初期費用は、フード事業者、不動産事業者共にありません。フードトラックの売り上げに応じて出店料をMellowがいただき、そのうちの数%を不動産事業者に支払うビジネスモデルです。
SHOP STOPのビジネスモデル(提供:Mellow)
──毎月固定の金額を支払ってもらうモデルの方が、収益性は高いのでは。なぜあえて、ロイヤリティ方式を採用しているのですか?
 確かに金額を固定するか、ダイナミックプライシング(消費者の需要と供給に応じて価格を変動させる価格戦略)を導入する方が、収益は上がるでしょう。
 ですが収益モデルは、「顧客に届けたい価値」から逆算して考えるべき。ここが、企業のカルチャーやモラルが、一番顕著に反映される部分だと思うんです。
 フード事業者の方々の立場を考えない収益モデルにしていたら、そこからモラルは壊れていく。そうなるくらいだったら、フード事業者が新しいことに挑戦しやすい収益モデルにしたいと思い、ロイヤリティ方式を選びました。

「勢い」で学生起業

── 森口さん自身は、学生時代にチャットアプリを開発して、起業もしていますよね。どうして起業の道に進んだのでしょう?
 僕自身の学生時代は、決して褒められたものではなくて。起業する2週間前まで、起業の「き」の字もありませんでした(笑)。
 ギターが好きで、音楽漬けの学生時代でした。暇に任せて音楽配信のスマホアプリを友人と開発し、そのまま勢いで会社を起ち上げたんです。そうしたら、孫泰蔵氏が主宰するMOVIDA JAPANのスタートアップ支援プログラムに採択され、出資していただけることに。
 一念発起したのは、それがきっかけですね。音楽配信のアプリのプロジェクトは頓挫してしまったのですが、試行錯誤の末「ひまスイッチ」というチャットアプリを開発しました。大学を辞めてからもアップデートを続けて、今でも月間数百万円の売上があるアプリです。
 その会社も結局売却したのですが、売却先の取締役だった柏谷泰行(Mellow創業者)に誘われ、Mellowの立ち上げに参加することになりました。
── アプリの開発からフードトラック事業とは、かなりの方向転換に聞こえます。決め手はなんだったのでしょうか?
 正直僕は、「世界を変えたい」みたいなモチベーションは、そんなに強くない。ですが、「これってどういう仕組みなんだろう?」みたいな、目の前の物事に対する好奇心がすごく強いんです。
 Mellowの話を持ちかけられた時も、「モビリティとサービスを掛け合わせて、どんなことができるんだろう?」と純粋にワクワクしました。
 最終的には、「この人たちとだったら、面白いことができそうだ」と直感できたことが大きいのですが。結局は、人が決め手だったのかもしれません。

トヨタと描く未来の街づくり

── コロナの渦中である今年4月末に、新サービス「フードトラックONE」をリリースしましたね。どんなサービスなのでしょうか?
 フードトラックONEは、トヨタグループが提供する「KINTO」と連携して開始しました。新車フードトラックの5年間のリース契約と各種保険をパッケージ化した、フードトラックのサブスプリクション・サービスです。
提供:Mellow
 フードトラックONEの最大のメリットは、車両の初期投資費用を大幅に抑えられること。通常400万〜600万円かかる初期費用を、このサービスを使えばかなり減らせます。
 さらに、フードトラック向けに特別に開発した保険がしっかり付いていて、安心して事業を始められる。運転や料理にまつわるトラブルはある程度避けられないので、保険は非常に大事な要素なのです。
 このサービスを通じて、フードトラック事業未経験の人や、経済的な理由でなかなか始められない人を、サポートできたらと。
── KINTOとの提携によって、今後はどんな展開が可能になるのでしょうか?
 トヨタが掲げるe-Palette Conceptと、Mellowはすごく相性が良いと思っています。
 6月19日にリリースを公開しましたが、Mellowはもともと、「SHOP STOP」という構想を持っていて。
 先ほど「おうちでTLUNCH」のお話もしましたが、マンションの下に来るお店は、食べ物だけではなく、生鮮食品の移動販売でも、マッサージ屋さんでもいいわけです。
 あらゆるサービスをモビリティに載せて、人がいるところに運んでいく。時刻表で「木曜日の13時は、服屋さんが来るのね」と確認でき、それを目当てにマンション下に人が集まってくる。そんな構想です。
 バスが停まる場所が「バスストップ」なら、お店が停まる場所は「ショップストップ」だろうと思い、名前をつけました。
 トヨタのe-Palette Conceptは、サービスの移動を自動運転で実現するというもので、考え方は僕たちと共通するところが多分にあるんです。正直なところe-Paletteが発表された時は、「移動販売市場にトヨタが来る!?」と、焦りましたが(笑)。
トヨタが発表した、自動運転専用EV「e-Palette」のイメージ。
 SHOP STOP構想が実現できれば、「日替わりの商店街」も、可能になります。場所を用意し、さまざまなトラックを日替わりで配置して、毎日違った買い物を楽しめる。実際すでに清水建設とも連携し、豊洲のスマートシティ開発にも参画しています。
 そんな街作りを進めるためにも、Mellowが目指しているのは、ショップ・モビリティの総合商社のような存在なんです。サービスとモビリティを掛け合わせて、いろいろな可能性を模索していきたい。
 チェーン店だらけの街並みではなく、小さいけれど個性的なお店にあふれている。そんな豊かな街作りを、モビリティの力で実現していきたいと思っています。
(聞き手:呉琢磨、編集:金井明日香、構成:柴田祐希、写真:小池大介、デザイン:月森恭助)