【武田双雲】迷ったら、“楽”な方を選べ。
日本マイクロソフト | NewsPicks Brand Design
2020/6/17
どんな状況でも、楽しそうに働いている人はいる。仕事にやりがいを見出し、楽しみながら結果を出すには、どのような思考法が必要なのか?
新卒でNTTに就職後、独立して書道家となった武田双雲氏。書道家、現代アーティストとして第一線で活躍しながら、幸せになれる生き方に関する書籍も多数出版。SNSでのライブ配信など、これまでのアーティストらしからぬ活動も注目を集めている。
「産みの苦しみ」を一切感じさせずに、クリエイティブであり続けられる理由とは?テクノロジーはアートをどう変えるのか?武田氏に話を聞いた。(全3回連載)
新卒でNTTに就職後、独立して書道家となった武田双雲氏。書道家、現代アーティストとして第一線で活躍しながら、幸せになれる生き方に関する書籍も多数出版。SNSでのライブ配信など、これまでのアーティストらしからぬ活動も注目を集めている。
「産みの苦しみ」を一切感じさせずに、クリエイティブであり続けられる理由とは?テクノロジーはアートをどう変えるのか?武田氏に話を聞いた。(全3回連載)
筆文字を喜ばれ、NTTを退社
── 武田さんはそもそも、NTT社員から書道家に転身という稀有なご経歴をお持ちですよね。その経緯やきっかけを教えていただけますか?
まず僕は、東京理科大学理工学部情報科学科という、コンピューターど真ん中の学科を出ているんです。入学したのが94年、翌年にWindows95が発売される頃。ちょうどコンピューターが一般家庭で使えるようになった、歴史的なタイミングです。
そんな背景もあって、新卒でNTTに入社しました。当時はITコンサルタントとして働いていて、お客さんに「インターネットの波がくるぞー!」と言い続けていましたね。
インターネットを使えば、世界中に無料でなんでも伝えられる。それってとんでもないことだと、当時から興奮していたんです。
IT畑で働きつつも、母が書道家なので幼い時から書道には慣れ親しんでいて。職場でも、電話があった旨のメモを墨と筆で書いて、「余計なことをするな」と上司に怒られていました(笑)。
そんな社会人をやっていたのですが、ある時同僚の名前を筆で書いてあげたら、その人が涙を流して感動してくれて。自分の書でこんなにも人を喜ばせられるんだ、と気づいた瞬間でした。
「これは書道家になるしかない」と直感し、その日に退社を決めました。
NTTを退社した後は、オーダーメイドで筆文字の名刺や表札、ロゴなどを販売するネットショップを立ち上げました。
伝統的でアナログな書道とインターネットを掛け合わせたら、最高に面白い革命を起こせるはずだと、ワクワクが止まらなかったのを覚えています。
「楽しむ」って、難しい
── 今では書道家、現代アーティストとして活躍する武田さんですが、SNSで発信する様子を拝見しても、非常に楽しそうに見えます。なぜなのでしょうか?
はい。天然記念物レベルに、人生を楽しんでいる自負があります(笑)。
僕は、人生のビジョンに「楽」を掲げているんです。というのも新卒で入社したNTTを退職して書道家になった20年前、先が真っ白で。目標がなかったんですよね。
だから目指すべきビジョンとして、もしおでこの真ん中に刻むなら、どんな一文字が良いかなと考えました。
そこで思いついたのが「楽」という字。見た目もかわいいし、調べてみると「楽」の4つの点は感謝祭の鈴を表しているそうなんです。「楽しい」「楽(らく)」と、「感謝」。もうこの字に惚れてしまい、自分の文字は「楽」に決めました。
しかしいざ書道家として独立してみると、お金がなくて借金するわ、誰も話を聞いてくれないわ。楽しむって、難しいんです。
こうなったらいっそのこと、突き抜けてやろうと。「楽しむ」「楽しませる」「楽でいる」「楽にさせる」の4つを、徹底的に意識する実験を始めたんです。
やってみると、思うようにいかない。たとえばコンビニのお兄さんを、会計の一瞬で笑わせようとして、大きい声で「あざーす!」って言えば、逆に怖がられちゃうし(笑)。
「エレベーターで一緒になった人を笑わせる」「歯を磨く動作すら楽しむ」。こんなことを20年間ストイックに毎日続けてきて、だいぶうまくなりました。これは完全に、“トレーニング”なんです。
もしいま楽しく働けていないと感じている方がいれば、トレーニングだと割り切って、日常生活の全てを楽しんでみてください。
たとえばパソコンのボタンを押すときも、パソコンの立場になってみる。 「早く立ち上がれよ」と乱暴にボタンを押されるよりも、「今日もよろしくお願いします」と優しく押されれば、パソコンもやる気が出ますよね(笑)。
結局、「職場のムードメーカー」や「自然にお客さんに好かれる営業マン」のような人って、「自分も楽しみ、周りも楽しませられる人」なんじゃないかと思うので。
アイディアは、浮かんだ時点で「遅い」
── そんな武田さんの作品では、これまでにない手法や素材を用いたものが次々と生み出されています。そうしたアイディアは、どのように生まれるのでしょうか?
あれはアイディアというか、イタズラに近いですよ。「やっちゃダメ」と言われたことを、ニヤニヤしながらやる子どもと同じです。
飲んでいるコーヒーを作品の上にこぼしたり、食べ物を載せてみたり。時には絵の具をぶん投げることもあります。
小中学校でピッチャーだったので、けっこう速く投げられるんですよ(笑)。そうやって、人に迷惑をかけない範囲のイタズラをどれだけやれるかですね。
もっと言うと、アイディアは浮かんでいる時点でもう、遅いんです。イメージできることなんて、常識の範囲内。どうなるかわからないから面白いわけで、イメージ通りになったらつまらないでしょう。
だから、想像するより先にやらないといけないんです。作品にコーヒーをこぼしてみて、「うわ、墨汁とコーヒーって混ざるとこんな感じになるんだ」と発見することが大事。
僕はいつも、「1.01理論」を人にオススメしていて。毎日のちょっとした変化や、小さなイタズラのことを、そう呼ぶんです。
イタズラが0.01を超えると人に迷惑をかけるし、それで怪我をしてしまったら自分もテンションが下がります。だから「ちょっとやっちゃった」くらいのことを、全ての動作にプラスするんです。
これはアートの世界に限らず、仕事でも同じ。資料作りでもプレゼンでも、常識の範囲に収めようとする人が多いんです。当たり障りなく0.9とか0.8のプレゼン資料を出してきて、最終的にはつまらない仕事になってしまう。
代わりに、いつもの仕事にちょっと遊び心を加えて、1.01にしてみる。たとえば試しに、普段絶対に使わないExcelの機能を使ってみるとか、プレゼンの冒頭でちょっと笑いを取ってみるとか。
小さなことからで良いので、自分や周りを驚かせてみると良いですよ。
制作過程を見せると、「売れた」
── 作品を生み出すだけではなく、YouTubeやTwitterなどのSNSを使って発信していますよね。ITツールも、創作過程の1つとして活用している印象です。
毎日のようにオンラインライブを実施していて、視聴者のお悩み相談に乗ったり、時には歌を歌ってみたり。毎日爆笑しながらやっています(笑)。
制作過程もオンラインで配信しているんですが、ネット上のコミュニケーションと、アートの相性の良さをすごく感じていて。
アーティストが作品を制作するときって、エネルギーがすごいんですよね。それを見てもらうことで、視聴者の方は本物を「見たい」「欲しい」と思ってくれるんです。
先日大きな個展を開いた際も、制作過程を配信した作品を展示販売したらとても評判が良くて。しかも購入してくれた人は、ほとんどが配信を見てくれた一般の方。アートコレクターではなく、普通の会社員の方々なんです。
そもそも高級ブランド品がなぜ売れるかというと、そこに職人さんの技術や伝統といったストーリーがあるからですよね。
一方で僕はまだ40代で、歴史がない。だからこそ配信によって自分をさらけ出して、ストーリーを見せています。
するとみんなは、プライベートな部分やダメな部分を含めた僕が、どんな作品を生み出すのか、そのストーリーを含めて楽しんでくれるんです。
── 今回の記事のスポンサーである日本マイクロソフトの「Microsoft 365 Personal」は、WordやExcelなどの定番ツールが使えるクラウドサービスです。こういったITツールは武田さんの創作活動に、どのように貢献するでしょうか?
海外に行くことも多いので、クラウドサービスは嬉しいですね。「あのファイルは自宅のパソコンにローカル保存していた」なんて、言っていられませんから。
本の執筆もしているので、パソコンのWordで書いたファイルを、どこでもスマホで編集できるのも良いですね。スタッフとの共有も楽になると思います。
さらに、作品のリストをExcelで作っていて。クラウドで共有した1つのファイルを同時編集できると、作品を追加したりタイトルを編集したりするときに間違うことがなく、作品管理にはすごく便利です。
フロッピーディスク世代の僕からすると、これは本当にすごいことですよ。
── テクノロジーの進化で生活がどんどん便利になる一方で、「AIに仕事を奪われるのでは」といった論調も出てきていますよね。そんな時代に、アートはどのような役割を果たしていくと思いますか?
物理的な作業や仕事がより一層コンピューター化していくと、孤独感や寂しさは増していくと思うんです。
だからアーティストは、人々の心をほぐして、元気にしてあげることが何より大切。アートは人を楽しませ、心を豊かにするためのものですから。
またこれからの時代は、アートでもビジネスでも、突拍子もないことを楽しんでやっている人が、注目されていくんじゃないかと思っていて。
飲みかけのコーヒーを作品にかけるなんて、AIは絶対に思いつかないから(笑)。
もはや俺のために時代が作られているのかな?なんてね(笑)。AIがどう頑張っても真似できないような面白い作品を、これからも楽しく創っていきたいですね。
(取材・編集:金井明日香 執筆:シンドウサクラ 写真:双雲事務所提供 デザイン:堤香菜)
なぜ“あの人”はいつも楽しそうなのか?
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