【集中力】どんな音楽を聴けばパフォーマンスが上がるのか

2020/6/1
 試合前に音楽を聴くアスリートは多い。
 聞けば、「集中したい」「試合に気持ちを持っていく」「リラックスしたいから」などパフォーマンスを向上させるためのツールとして使っていると言う。
 パフォーマンス向上のために音楽を使っているのはアスリートに限った話ではない。作業をするとき、音楽を聴きながら行うと集中力が増す、捗る(また、その逆もある)という話はよく聞く(ある作家は、必ずクラシックを聴きながら執筆活動をするという。また「無音」を作り出さなければできない、という作家もいる)。
 果たして音楽によってパフォーマンスは上がるのか。上がるとすれば、どういう音楽をどのように聴けばいいのか。
 本特集では、音楽とパフォーマンスの関係に迫る。
※本記事はSportsPicks1月16日配信の記事を有料会員向けコンテンツとして改変したものです。
柏野牧夫:1964年生まれ。岡山県出身。1989年、東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。博士(心理学)。現在、日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所柏野多様脳特別研究室長・NTTフェロー、東京工業大学工学院情報通信系特定教授。専門は心理物理学・認知神経科学。著者に『空耳の科学』(ヤマハミュージックメディア)『音のイリュージョン』(岩波書店)。

「音」で反応する身体

「音」はわたしたちの行動にどのような影響を及ぼしているのか。
 例えば、近くで大きな爆発音がしたとき、無反応だという人は少ないだろう。認知脳科学者・柏野牧夫さんはこう説明する。
「多くの人は、とっさに身を隠したり、しゃがんだり、または足がすくんだりするでしょう。冷や汗をかくこともありますよね。決してしゃがもう、冷や汗をかこうと意識したわけではない。この例が示すように、音は何かしらの身体反応を喚起するものであると言えます。そしてこうした反応は無自覚的に起きることも見逃せません」
 そもそも音の聞こえ方を含めた知覚(聴覚の他に、視覚、触覚など感覚器官に与えられた情報を元に意識にのぼる内容)というのは、「脳」が作り出している。
「ある文章を読み上げる途中の声を、一定間隔ごとに“無音にしたもの”と、その無音の箇所に“全く関係のない雑音”を入れたものを聴いてもらうと、どうなるか。実は、無音が入った文章は“切れ切れに聞こえて”内容を理解するのは難しいですが、雑音を入れると声として自然に連続しているように聞こえ、内容を理解しやすくなります」
 それだけではない。
「同じ音がループされている部分をずっと聴いていると、まったく違った音に変化しているように聴こえてきたりします。実際の音は同じものを繰り返しているだけなのに、です。これが示すことは、音は同じでも聞こえ方は複数あるということ。その度に脳の状態が違うということです」
「脳の状態」によって「音の聞こえ方は変わる」のである。
「音」によって「脳の状態」を変えることは可能なのだろうか。
「ヤーキーズ・ドットソンの法則」というものがある。