【WEEKLY OCHIAI】コロナはパラダイムシフトを引き起こすか?

2020/5/19
「WEEKLY OCHIAI」では、新型コロナウイルスについての最新情報の解説とコロナショックがもたらす新しい未来の可能性をめぐって、落合陽一と各界のプロフェッショナルによる“ハードトーク”をお届けしています。

この記事は5月13日に配信された「パラダイムシフトの〝新世界史〟」のダイジェストです。
前回の配信はこちらからご覧いただけます(有料会委員限定)

パラダイムシフトは起こらない?

新型コロナを契機にパラダイムシフトは起こるかどうか、議論した。
人類史を振り返りながら、今回の新型コロナのパンデミックにおける社会への影響を考える当議論において、河合塾の世界史講師である青木裕司氏は、過去のパンデミックを例にあげて新型コロナをこう位置付ける。
青木 たとえば14世紀のペストや南北アメリカに起きたパンデミックは、社会や民族の構造を根本的に変えました。しかし、一方でスペイン風邪は社会を共同体含めて何も変えなかった。その理由は、死亡率です。
ペストとスペイン風邪を比べれば、圧倒的に違うことがわかります。南北アメリカのパンデミックも、ヨーロッパから人が来るまで4000万人いた人口が、1200万人と75%減っている。
スペイン風邪も死者は5000万人と多いですが、死亡率で考えると社会を変えるほど大きなものではない。今回の新型コロナも、そういう点では同様に社会を大きく変えるほどのものではないと考えています。

道具で社会も人の行動も変わっていく

落合陽一はこの日も、並み居る猛者たちを前に、やはり独自のアプローチで対話の場に一石を投じる。彼が注目したのは「道具」だった。
落合 たとえば戦争が生んだ発明品は数多くありますが、コンピューターを生んだのが第二次世界大戦と考えるのであれば、なんらかの世の中の大きな変化は新しい道具を生み出し、新しい道具が中長期的に変えていくのは間違いないと思います。
道具の発展史と社会的ムーブメントは近く、働き方が変わり、道具が代わり、社会システムの中の対話のための道具が変化すると、人の行動変異は当然起こります。
今回でいえば、人と人が会えないことによって成立する新しい道具の発展が大きくあるだろうと思っていて、それが5年10年経ったときになかなか大きな変化になりそうだ、と考えています。

痛みの大きさで変化の度合いは変わる

国際政治学者で慶應義塾大学法学部教授の細谷雄一氏は、落合氏の発言に同意しながらも「まだ評価は早い気がする」と返す。
細谷 まず、人類というのは痛い目にあわないとわからないものです。たとえば太平洋戦争で原爆を落とされた日本は、そこでやっと国を丸ごと変えた。痛みとは、主観と客観のふたつに分けられます。
身内の死などの主観的な痛みと、社会や経済に対するインパクトなどの客観的な痛み、これらがどれだけ大きいものかで、変化の大きさも変わって来るでしょう。そう考えると、新型コロナがどれほどの痛みを人類にもたらすか、それはまだ過渡的な状態だと思います。

根拠なき精神論に基づく働き方からの脱却

立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏は、社会を変えるのは客観的な痛みである「経済」とし、日本で起こりうる変化についてこう考える。
出口 いま、リーマンショックも超えて戦後最大の経済ショックだと言われています。経済の痛みが最終的にどれほど大きなものになるかはまだわかりませんが、いずれにしても社会を変えていく原動力になると思います。
日本は1970年代からG7ではずっと最下位の労働生産性でした。しかし今回のパンデミックによりリモートワークや大学でのオンライン授業など、急激にITリテラシーが上がっている。
それにともなって、日本の癌であった、付き合い残業や上司に誘われたら断れない飲み会のような、根拠なき精神論に基づく日本的な働き方はやや中期的に見たら次第に消えていくでしょうし、それは生産性を高めることにつながると思います。

新型コロナは宗教観を変えるか?

歴史学者で東京大学教授の本郷和人氏は、新型コロナにより起こる大きな変化のひとつとして「宗教観」をあげた。
本郷 僕は以前、東大全体で所属にかかわらず学生に授業を開放したことがあるのですが、そのときに日本の宗教観について話したんです。
そしたら理系の学生から「科学は宗教になりえますか」と質問がきた。そこで考えたのですが、科学はある種すでに宗教になっているんですよね。
「科学が発展すれば発展するほど僕たちはいい未来を迎えることができる」という考え方、これはある意味信仰なんですね。
果たして宗教がどう変わるかは今の時点ではわかりませんが、神はなんだという大きな問題はありますよね。

“共生”と“根絶”のジレンマ

国立環境研究所の五箇公一氏は生物学者ならでは視点で、環境保全の立場から、今回のパンデミックをこう語る。
五箇 生物学の観点からいえば、こういった新興感染症の起源はすべて野生生物の中にあります。特に1970年代以降、生態系の破壊により、今まで人類史上なかったようなウイルスがどんどんジャングルの奥地から湧いてきている。
今回のパンデミックはさらにグローバル化という経済の加速によってさらに拡大している状況です。最終的には、このウイルスは根絶させないといけないものです。
五箇 常に人間の経済的な欲求や利己的な欲求に乗っかって生き続けるウイルスですから、世界統一的に0にしない限りはいつまでもくすぶり続ける。
さらに進化して強くなっていく可能性もある。一部で「ウイルスと共生」という話も出ていますが、それをやったら永遠にこのウイルスの無間地獄から抜け出せません。これを機に利他的なヒューマニズムや自然共生社会について考えるべきだと思っています。

世界にはびこる健康信仰

番組開始から60分が経過した頃、落合のひと言がこれまでの対話に違った角度を与え、ラスト30分間で、それまでの対話がさらにヒートアップしていく。
「世界的に健康信仰がはびこり過ぎていないか」
落合のこのひと言をきっかけに、「風の谷のナウシカ」の腐海が引き合いに出され、私たちは、これからの世界をどう創っていくべきかについて、各ゲストから示唆に富んだ意見が繰り出された。
ラスト30分のクライマックスをぜひ見届けて欲しい。
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<執筆:富田七、編集:安岡大輔>