【LayerX福島】「先の見えない不安」にどう向き合うか

2020/6/25
将来が予測不能な「VUCA」と呼ばれる現代。まさに今、世界は誰も想像し得なかった大混乱の最中にある。もはや明日なにが起こるかすら、わからない時代において、たとえば10年後、私たちの働き方や日々の暮らしがどう変化しているかを正しく予測することは不可能だ。

しかし、自身の人生やキャリアを考えるとき、時流を読み、少しでも先に備えたいと考えるのが人の常。そこで今回は、学生時代に自らの手でプログラミングを行い、Gunosyを起業。現在は、ブロックチェーン事業に取り組むLayerX代表の福島良典氏を訪ね、テクノロジーの進化をどう捉え、新しい未来を作り出そうとしているのかを聞いた。

不安に、どう向き合うか

福島 「将来が不安です。どうしたらいいですか?」と言うけれど、まず大前提として僕だって不安です(笑)。正しい未来の姿なんて誰にもわからないし、不安が一切ない人なんて、この世の中にいないんじゃないですか。
 でも、不安があるからこそ僕は徹底的に調べ考え抜いてきた。だから、自分が向かう先に「自信」はあるんです。
 LayerXは、次の10年をブロックチェーンに賭ける会社です。
 ブロックチェーンと聞くと、今はまだ多くの人が仮想通貨をイメージするでしょう。「そんなもの世の中に必要ないのでは」とシニカルに捉えられることもありますが、実際には仮想通貨以外にもブロックチェーン技術の活用は進んでいます。
 ただ現在は、サービスの提供先が金融機関や証券会社の決済システム、貿易関連のファイナンス、保険の審査から支払いまでの自動化など、裏方のサービスが多いため、エンドユーザーにはそのメリットが肌感覚としてわかりづらい。
 ブロックチェーンとは、簡単にいうと契約書や請求書、証券などの元本性が必要なデータを改ざんできないかたちで、みんなで共有し検証できるようにする技術です。よくも悪くも、それだけ。
 でも、技術的にはすごく社会を進化させるものです。

わからないから「価値」がある

 過去10年を振り返ると、「ソフトウェアが世界を食っていく」ことが始まった時代だったと思います。とくに広告やコマース領域は、完全にソフトウェアに飲み込まれた。
 その一方で、金融業界のような信用情報を扱う領域では、まだ人の手による紙のやりとりが残っています。また、このデジタル時代に、業務フローにおけるハンコ文化が非効率ということが浮き彫りになりました。
 これが絶対にソフトウェアに置き換わる、という大局観を僕は持っているんです。
 それが、このタイミングでLayerXがブロックチェーンに張る理由でもあります。技術としてはまだまだ未成熟な分野なので、自分たちの優位性を見出せるという勝算もある。
(写真提供:LayerX)
 ただ、ブロックチェーン技術が今後、金融業界で使われていくというような、すでに「確定した未来」はありますが、そこで実際に「自分たちが勝てるかどうか」はまったく別の話です。
 僕たちは、ブロックチェーンは今よりもっと広がりのあるすごい技術だと信じていますが、いや、そうじゃないと否定的な人もたくさんいるわけです。
 でもこれって、僕たちが他の人より賢くて正確な未来を見ているわけではなく、“賭けている未来”が違うだけ。
 たとえば、スマホが登場した際、優秀な企業の方々がこぞってこの先、ブラウザゲームがくるのか、ネイティブアプリがくるのかって真剣に考えてサービスを展開しました。あのFacebookですら、ブラウザが来るという世界に賭けていた時期もあった。後に、アプリが台頭するわけですが、その瞬間には正解がわからない事象だったからこそ、全力で張る価値があったのです。
 みんなが答えをわかっていたら、チャンスというかたちでは降りかかってきませんから。
 「ブロックチェーンってどうなるの?」と言われている時点で、大きなチャンスなんです。

トレンド予測はむずかしくない

 では、そんななかで大局観をどう持つのか。
 世の中のマクロなトレンドを捉えるのって、実はすごく簡単です。今は誰でもネット検索すれば先端の情報にアクセスできるので、世界で最も賢い人たちがどこに張っているのかを調べればいい。
 世界のトップキャピタリストはマクロでどの領域がくるかを誰よりも時間を使って考えているし、ピーター・ティールやビル・ゲイツが見ている未来の確実度はほとんどの人より高い。
 正しい発信をしていると思える人をしっかり見つけ、その情報を組み合わせていけば、「このあたりの領域は、こんな流れで、こうなっていくんだ」ってだいたい予想できるわけです。
 それなのに、なぜ多くの人が未来を見通せないかというと、たぶん素直じゃないから(笑)。
 自分にしか見えていないようなカッコいい未来予測をしようとしても、たいていは外れるんですよ。だから、信頼できる情報筋を見つけ、まずはそれが正しいと信じ素直に取り入れる。
 ただ、単純に他人の「答え」を信じるのではなく、彼らがその考えに至った過程や、どんな情報を参考にしているのか、なぜそう言っているのかなど、理由や過程の部分を自らも考えることが大事です。
 ピーター・ティールが発信する未来を、自分オリジナルの言葉で語れるくらい彼らの思考を深掘ることが、未来を知る近道だと僕は思います。

今、プログラミングは絶対的な武器になる

 この10年間、張るべきトレンドは3つあったと僕は考えています。一つはスマートフォン、もう一つは機械学習、最後はクラウドコンピューティングです。
 僕が創業したGunosy社も、スマートフォン×機械学習の領域に張り、クラウドをフルに生かすかたちで少人数、ハイスピードでスケールできました。
 ここに張れたか、張れなかったかだけで最終的にどれくらいの社会インパクトを残せるかが決まってしまったということ。残酷ですが、この影響は日々の努力を無にするほど大きいので、マーケットの見極めは重要です。
 加えて僕には、プログラミングの実装力や機械学習の専門知識という、絶対的な武器もありました。
 大前提として、今の時代は、ほぼすべての領域においてテクノロジーがゲームを決める重要な要素になっている。そう考えると、テクノロジーのルールを知らないって結構怖いですよね。
 プログラミングって要は機械と話すための言語です。機械と仲良くなりたい、機械をうまく使いたいと思ったときに、他人にお願いして通訳してもらうよりも自分で話せたほうが思考をダイレクトに伝えられます。
 外国人の友達がほしいなら、英語を学ぶのと同じことです。
 ソフトウェアはこんな原理で動いているんだなと全体感を理解しておくこと。それを知っている人と知らない人とでは、今の時代、明確に差が出ると思います。
 市場で求められる人材になりたいとか、社会に対してインパクトを出したいみたいなことを考えたとき、マクロで見て勝っている領域の一員になるほうが絶対有利じゃないですか。
 今、30代、40代だとしても、今後50年ぐらい働く可能性がある。50年の間、ほとんどの利益をソフトウェアの領域が飲み込むと想像すると、プログラミングをやらない、テクノロジーへの理解をあえて避ける理由ってないですよね。

成功に着実に近づくための思考法

 テクノロジーがどんどん進化していくなかで、今、学んだプログラミング知識なんてすぐに陳腐化してしまうという人もいますが、逆にこうも考えられると思いませんか。
 その分野のルールを知っておくことで、これから何が起こるかをいち早く察知できると。
 先端にいて知っているって、めちゃくちゃ大事です。起こるってわかっていれば、対策を打てる。
 「不安だ、不安だ」と言う人は、行動していないケースがほとんどです。
 前提として世の中はわからないことだらけなので、100%理解して始めようとすると無限に準備に時間がかかってしまう。50~60%の理解でも、行動したら情報が集まってきて早く100%に近づきます。
 そうやって一つひとつ不確実な部分を消していくアプローチをする人のほうがきっと成功する。
 それに仮に外しても、投じられたものがすべて無駄になることはない。高校球児が、「甲子園に出られなかったから、意味ないね」「プロになれなかったから、野球経験は無駄だったね」とか、そんなことないじゃないですか。必ずそこで培ったプロセスが他の分野の経験でも活きていきます。
 0か100かで捉えるんじゃなく、そのなかで培われる人間的なスキルとか、身体の動かし方とか、頭の使い方とかすべてが血肉になっていく。
 新しいことを一切やらないって、この時代においては変化に殺される可能性が高い仕事の仕方なので、一番危ない。
 だから、失敗しても死なないようなリスクの取り方を覚えることのほうが、確かな未来を探すことよりもずっと重要な気がします。
(構成:尾越まり恵 編集:樫本倫子 写真:LayerX提供 デザイン:岩城ユリエ)