【配車から宅配へ】Uberはギグワーカーの雇用と物流を支える要になる

2020/6/8
ウーバー(Uber)は配車サービスやフードデリバリーで有名だが、「物流会社」としても大きな意味を持つようになってきた。共同創業者で前CEOのトラビス・カラニックは2014年に「何でも5分以内に届けること」を掲げていた。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が発生する前の世界では、どんなものでも5分以内(あるいはもっと現実的に言って30分以内)に配達するサービスは「贅沢」なものだった。
だが世界人口の前例のない割合の人々がロックダウンの下で暮らすなか、それは突如として「必要なもの」に変わったのだ。

世界最大数のドライバーを「宅配」へ動員

世界中で人々が自宅から出られずにいるが、暮らしていくには最低でも食料品や医薬品、家庭用品が必要になる。だがこれまで日常的に行っていた買い物のための外出は、特に新型コロナウイルスに感染した場合に重症化リスクが高い人々(高齢者や基礎疾患のある人々)にとって、危険を伴う行動になった。
それにソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)規制が敷かれている間は、店に買い物に行く人は少ない方がみんなにとって安全だ。
こんな時こそウーバーの出番だ。2月時点で同社の(今も活動している)ドライバーはアメリカ国内で100万人近く、世界全体では500万人程にのぼる。その多くがパートタイムのドライバーだが、人数だけを見れば、配送大手のフェデックス(FedEx)とUPSの全世界の配送スタッフを合わせた人数の5倍以上だ。
ドライバーの多くは、新型コロナウイルスに感染しているかもしれない乗客を迎えに行って自分や家族を危険にさらしたくなどないと思っているし、それも当然だろう。特に医療保険や失業保険が貰えない傾向が強いギグワーカー(単発労働者)の恐怖心は強い。
3月24日にはニューヨーク在住のウーバーのドライバーが新型コロナウイルス感染症で死亡した。このドライバーが3月上旬に空港から乗せた客が、体調を崩していたという。
人々の恐怖心と政府による外出禁止措置が、配車ビジネスに大きな打撃をもたらしている。ウーバーは3月17日に北米全域で「プール(相乗り)」サービスを停止。同社のダラ・コスロシャヒCEOはその2日後、投資家向けの説明の中で、シアトルのように特に大きな打撃を受けている都市では予約数が前年に比べて60%~70%減少したと語っていた。ウーバーの競合のリフト(Lyft)はドライバーをアマゾンの配送要員として派遣。アマゾンは同社のドライバー10万人を雇い入れている。
パンデミックが収束するまで、あるいは少なくとも抑制されるまでは、配車ビジネスの景気回復は望めなさそうだ。それでも、ウーバーがドライバーのリスクを大幅に減らしつつ彼らに仕事を与え、デリバリー事業を通じて自宅待機を続ける人々にとって重要なサービスを提供することは可能だ。
だからこそ、ウーバーをはじめとする配車サービス企業は必要不可欠なものを除く全ての配車サービスを停止し、デリバリーに集中すべきなのだ。

配達サービスの拡充

現在の危機の中でウーバーにどのような潜在的可能性があるかを理解するには、ウーバーの事業モデルを知る必要がある。
ウーバーは、顧客とドライバーをマッチングさせて目的物(通常は乗客やレストランのテイクアウト)を迅速にA地点(ピックアップ地点)からB地点(届け先)に運ぶサービスを専門としている。
2015年10月には乗客以外のものを運ぶサービスの試験導入を開始し、ニューヨーク、シカゴとサンフランシスコで宅配便サービス「ウーバーラッシュ(Uber Rush)」を立ち上げた。その後、同社はウーバーラッシュを終了し、フードデリバリーのウーバーイーツ(Uber Eats)に専念することを決めた。
配車サービス企業の中でも、ウーバーはとりわけデリバリーサービスの経験が豊富だ。同社の主な競合であるリフトは独自にデリバリーサービスを展開したことはないし、他の競合がデリバリーサービスに参入したのはウーバーよりもっとずっと後だった。
ウーバーはフェデックスやUPS、あるいは通常の郵便サービスのような一括配送や決まったルートでの配送を行うようにはできていない。同社の何百万という登録ドライバーがデリバリーに使っているのは、自分の車やバイク。社用の大型バンや、イギリスのネットスーパー「オカド(Ocado)」が食品の配達に使っているような特別仕様の冷蔵トラックではない。
それでも、A地点とB地点を結ぶという同社のモデルで、たとえば注文済みの食料品やレストランのテイクアウト、ペット用品や一部の医薬品など、さまざまなものを配達することが可能だ。配達時間が30分未満(つまり多くのアメリカ人が自宅からスーパーマーケットに車で行くのにかかる程度の時間)なら、冷蔵設備だって必要ない。

「店舗側」も新しい物流をサポート

これを実現するには、各店舗や企業の支援が必要だ。店側が注文を受けた商品をまとめておいて、ウーバーの配達員が店でそれをピックアップして顧客の自宅に届けるだけにできれば理想的だ。
ウーバーは今この瞬間に、できるだけ多くの食料品店や小さな商店、薬局やペット用品店、その他の生活必需品を扱う店と、自社のネットワークで対応可能な契約を結ぶ手続きを進めるべきだろう。
そして同社は実際にその方向に動き始めている。
フィナンシャル・タイムズ紙の4月初旬の報道によれば、ウーバーイーツは食料品のデリバリーサービス拡充を加速させており、フランスの大手スーパー、カルフール(Carrefour)をはじめとする各小売店との契約を締結。国民13億人がロックダウンの中で暮らしているインドでは、4月上旬にネット通販大手のフリップカート(Flipkart)やオンライン食料品店のビッグバスケット(BigBasket)、チェーン展開の小売店スペンサーズリテール(Spencer’s Retail)と提携し、バンガロール、デリーとムンバイで生活必需品の配達を行うことを決めた。2019年秋にはイギリスのコンビニチェーン、コストカッター(Costcutter)と、牛乳やパンなどの定番商品の配達契約を結んでいる。
コスロシャヒは3月19日の投資家向け電話会議の中で、「多くの小さな商店がウーバーイーツと提携している」と説明した。
「需要があるなら役に立ちたい。だから当社は食料品であれ何であれ、従来の配達に代わるサービスを積極的に検討している。今後これが、当社のビジネスの中でより大きな割合を占めるようになっていくと予想している」
ウーバーは既存のイーツ事業とかつてのラッシュの試験導入の経験があるため、他社に比べて大幅に有利だが、どの配車サービス企業でも、いまデリバリー事業に方向転換を始めることはできるはずだ。たとえばリフトでは、「ドライバー・タスクフォース」を立ち上げると発表。ドライバーはここに登録することで、フードバンクのボランティアや食料品店のスタッフの送迎をはじめとする有給の仕事を請け負うことができる。
米フードデリバリーのドアダッシュ(DoorDash)では最近、米国内のコンビニエンスストア1800店超をプラットフォームに追加。その競合のポストメイト(Postmates)は、米国内のドラッグストア「ウォルグリーン(Walgreens)」7000店超から顧客の自宅に家庭用品や市販薬の配達を行っている。ロンドンに拠点を置くデリバルー(Deliveroo)では、ヨーロッパの複数の国、オーストラリアとアラブ首長国連邦で基本的な食料品の配達サービスを試験展開している。
ウーバーの広報担当者は、Quartzにメールで次のようなコメントを寄せた。「スーパーやコンビニ、その他の小売店と提携することで、当社は何百万人もの人々が生活に必要な食糧や生活用品を安全に、安心して購入できるよう手助けすることができる。当社としては今後も、公衆衛生当局と緊密に連携しつつ、可能な限りの場所で支援を提供していくつもりだ」

多くの人にとっての経済的な「命綱」

ウーバーが配達サービスを拡充していけるかどうかは、同社の顧客だけではなくスタッフにとっても重要な問題だ。アメリカでは3月に70万1000の雇用が失われ、過去4週間で失業保険の申請手続きを行ったアメリカ人は1040万人にのぼっている。大勢の人が、今すぐにでも仕事を必要としている。
ここでもウーバーが役に立てるはずだ。ウーバーは2008年の景気後退のさなかに誕生した。当時、仕事も貯金も失った多くのアメリカ人にとって、アプリをダウンロードしてすぐに稼ぎ始めることができるウーバーは、まさに命綱となった。新型コロナウイルスのパンデミックが続くなか、また同じシナリオが繰り返されることになる可能性は高い。食料品店での品出しの仕事が得られなかった人が収入を得られる可能性が最も高い方法が、ウーバーや同様のプラットフォームに登録することかもしれない。
外に出る仕事はどれも、リスクはゼロではない。だが配車よりも配達サービスに重点を置くことで、ドライバーの感染リスクを大幅に減らすことはできる。専門家は、梱包された荷物から新型コロナウイルスに感染するリスクは一般に低く、リスク管理は可能だと考えている。ウーバーにできることは、受け渡す側も受け取る側も「コンタクトレス(非接触式)」にすることだ。ドライバーは店の外の指定エリアから注文商品をピックアップし、それを顧客の家の外に置き配すればいい。そうすることでドライバーも顧客も、相手の6フィート(約1.8メートル)以内に近づく必要がほとんどなくなる。
ウーバーでは既に、ドライバーたちが配達業務を始めやすいように幾つかの措置を取っている。ウーバーイーツのサービスが利用できる都市では、配車サービスの登録ドライバーが自分でドライバー用アプリの設定を切り替えれば、配達リクエストを受けることができるようになる。
またウーバーは4月6日、仕事がなくなったドライバーと、ドミノ・ピザ(Domino’s Pizza)やターゲット参加のオンライン食料品店シップト(Shipt)、イギリスのオンライン食料品店オカドなど現在人材募集を行っている企業と結びつける取り組みを始めることも明らかにした。
どんなに俊敏な配車サービス企業でも、世界的な需要があるからといって、一夜にしてデリバリー事業に切り替えを行うことはできないだろう。
だがウーバーのように輸送を専門とし、変化し続ける需要に迅速に適応してきた経験のある企業(シリコンバレー流に言えば「素早く動け、ぶっ壊せ」を実践してきた)なら、その実現に最も近いところにいるかもしれない。
事業の全面的な見直しを行って、現在の危機の中で経済を動かし続ける手助けをすることは、ウーバーにとって正しい行動という以上の意味を持つ。同社のスタッフにとっても、そして同社の事業にとっても、勝利を意味することになる可能性があるのだ。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:Alison Griswold、翻訳:森美歩、写真:vladispas/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with KINTO.