30代以降は特に意識を。緊急事態をサバイブする免疫力UP術

2020/5/14
外出自粛や家族が在宅する中でのテレワークを余儀なくされる生活が続き、多くの人が心身の不調や運動不足という問題を抱えている。平時であっても、異動や新生活などで環境が大きく変化するこの季節は、体調を崩す人が増えがちな要注意シーズンだ。
毎日を忙しく過ごすビジネスパーソンが心身を健やかに保ち、病気に負けない身体をつくる方法はあるのだろうか。そのヒントとなるのが、外敵から体を守るために日々戦っている「免疫」と、心身の状態をコントロールしている「自律神経」だ。
免疫学を専門とする順天堂大学大学院 医学研究科の竹田和由准教授に、免疫のメカニズムや病気に負けない身体(からだ)づくりのために今すぐスタートしたい対策を聞いた。

過度なストレス下で免疫力が下がりやすい状態に

急速に拡大しているテレワークは、通勤から解放されるメリットがある一方、新たなストレスの元になることもある。これまでと生活が一変したことで、イライラが溜まっている人も多いだろう。
この状況について、「身体の免疫力が下がりやすい状態になっている」と指摘するのは、免疫に詳しい順天堂大学大学院 医学研究科の竹田和由准教授だ。
「身体の中で真っ先にウイルスや細菌と闘ってくれる『自然免疫』は、その力が様々な要因で上下する性質をもつため、ストレスなどにも影響されやすい性質があります。多くの人が不安やストレスを感じる状況下では、免疫力が弱くなってしまう心配があります」
人の「免疫」とは、身体の外から侵入してくるウイルスや細菌、あるいは体内で発生するがん細胞を異物として認識し、排除してくれる頼もしいしくみだ。
たとえば、同じように寒さにさらされたり、ウイルスをもつ人と一緒にいても、風邪をひいてしまう人とそうでない人がいるのは、その人がもつ免疫のパワーの差もひとつの要因だと考えられる。
免疫には「獲得免疫」と「自然免疫」の2種類があり、前者は特定のウイルスを記憶して強力に狙い撃ちするのが特徴で、ワクチン接種や病気にかかることで活性化(獲得)する。
一方、自然免疫は獲得免疫に比べると防御のパワーは弱いが、初めて出会うどんな敵(異物)に対しても、素早く攻撃を開始できる強みを持つ。
最前線で異物と戦う自然免疫の代表選手が「ナチュラルキラー(NK)細胞」だ。
「NK細胞をわかりやすく説明すると、『初対面でも悪い奴を倒そうとする、生まれながらの殺し屋』。風邪や感染症の原因となるウイルスに感染した細胞やがん細胞を叩き、外敵から体を守るために戦っています」(竹田氏、以下同)
これらの免疫の力で敵を排除できることもあるが、病気にかかってしまうこともある。それでも軽く済んだり治ったりするのは、免疫の力が働いているからだ。
攻撃の過程で自然免疫から獲得免疫に敵の情報が伝えられ、獲得免疫が抗体をつくることで敵を退けるという流れで、2つの免疫は連携して身体を守っているのだ。

自然免疫の力は、加齢とストレスで弱体化する

こうした免疫のパワーは、自分で強くすることはできるのだろうか。竹田氏はこう解説する。
「獲得免疫はほぼ生涯にわたって安定的な力を発揮しますが、自然免疫の力は一定していません。弱くなることもあれば強くなることもあり、その力は不安定なのです
NK細胞の活性を落とすとされている二大要因が、加齢と強いストレスだという。
「NK細胞は人が生まれてから成長と共に活性が上がっていきますが、20代をピークに下り坂になります。『若い頃よりも風邪をひきやすくなった』と感じる人が多かったり、お年寄りが感染症に弱かったりするのはこのためです」
NK細胞が4時間の間にどれだけがん細胞を殺せるかを示した指標を「NK活性」というが、NK活性が高い若年層であっても安心はできない。
冒頭でも紹介した通り、NK細胞はストレスに弱く、心身にストレスがかかる状態が長く続くほど、活性が下がってしまうからだ。
(photo:boonchai wedmakawand/istock)
ストレスや加齢によるNK活性低下を食い止める方法はあるのだろうか。その1つとして、竹田氏は食生活の改善を勧める。
「ポイントは2つあります。免疫に限りませんが、細胞はあらゆる栄養を必要とするので、バランスのとれた食事を心がけること。そしてもうひとつは、免疫細胞に直接働きかける乳酸菌を意識して摂ることです」

腸から免疫細胞を活性化する乳酸菌

乳酸菌は、発酵によって糖から乳酸をつくる微生物の総称だ。
宿主に健康上の利益をもたらす微生物の総称である「プロバイオティクス」の代表格であり、腸内で悪玉菌の繁殖を抑え、腸内細菌のバランスをとったり便通を改善したりする役割を果たすことはよく知られている。
この乳酸菌には、免疫を活性化する力があると竹田氏は説明する。
「善玉菌と悪玉菌が戦っている腸内の状態を、免疫細胞は常にモニタリングしています。そこへ乳酸菌がやってくることで腸内細菌のバランスが改善し、免疫細胞を刺激する物質が多く産生されるといわれています」
数百種類もあるとされる乳酸菌にはそれぞれ個性があり、様々な健康効果に対する研究が進んでいる。その中でも特に免疫に対する作用で注目されているのが、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1(以下、R-1乳酸菌)」だ。
「まず、R-1乳酸菌が産生するEPSという多糖体が、腸壁に存在するM細胞という特殊な細胞を通して腸壁を突破し、自然免疫の細胞のひとつであるマクロファージや樹状細胞を活性化します。それがNK細胞を刺激し、活性化するのではないか、と考えられています」

なぜ、乳酸菌を毎日摂り続けることが重要なのか

また、R-1乳酸菌には、獲得免疫を活性化するワクチンの効果を底上げする「アジュバント効果」というパワーがあることも、臨床研究で明らかになっている。
R-1乳酸菌を一定期間摂取し続け、その後インフルエンザワクチンを打つと、R-1乳酸菌を摂取していない人に比べて抗体ができやすくなるという。
腸内環境や乳酸菌というと、便通や肌荒れに影響するというイメージが強いが、実際には身体全体を守る免疫力にも深くかかわっているのだ。
乳酸菌自体は、キムチや納豆などさまざまな食品に含まれ、特に手軽で高い効果が期待できるのはヨーグルトだ。
それ以外の食品で免疫細胞を刺激するだけの効果を期待すると大量に食べる必要があり、ハードルが高い。効果が期待できる量を100グラム程度の1食分で簡単に摂取できる点で、ヨーグルトは優れた食品なのだと竹田氏は言う。
「ただし乳酸菌は腸の中にとどまれないので、毎日継続して摂取することが重要です。また、乳酸菌は胃酸に弱いので、空腹時よりも食後のデザート的に食べることを私は勧めています」
ちなみに、乳酸菌の摂取など食生活の改善で、NK活性はどの程度高めることができるのか。竹田氏はその効果を「おおよそ5%」と表現する。「たったそれだけ?」とがっかりする人もいるかもしれないが、これは決して侮れない数字なのだ。
「NK活性が継続的な乳酸菌の摂取で5%上昇すれば、10歳程度若い世代のNK活性となるため、十分な効果があると考えています」
山形県舟形町に住む70〜80歳の健康な高齢者57名を2つの群に分け、1つは牛乳を1日100ミリリットル飲む群、もう1つはR-1乳酸菌を使用したヨーグルトを1日90グラム食べる群として8週間継続して食べてもらい、体調や免疫の変化を比較した。すると、R-1乳酸菌を使用したヨーグルトを食べた群では、NK活性が低かったグループにおいて、その活性が有意に上昇(「明治ヨーグルトライブラリー」より)

NK活性が高い人の特徴とは

ストレスに弱いNK活性は、その人のストレス耐性や性格にも影響されやすいといわれている。
「真面目な人や悲観的になりやすい人はNK活性が低くなりがちな一方で、ストレスを溜めにくい楽天的な人やおおざっぱな性格の人、よく笑う人はNK活性が高い印象があります。
テレワークと子どもの休校・休園が重なっても、仕事ができないと嘆くばかりではなく、家族と過ごす時間が増えたというポジティブな面にも注目できるといいですね」
免疫力を高めたいビジネスパーソンに効果的な対策として、生活リズムを整えることを竹田氏は勧める。
「目覚めや就寝時、始業時と終業時にはしっかりスイッチを切り替え、メリハリのある生活を意識しましょう。特にテレワークをしている人はオンとオフの境目が見えにくくなりがちなので、意識して切り替えることが必要です」
これは、自律神経とNK活性が関連していることからくるアドバイスだ。
自律神経は、仕事中など緊張状態で優位になる交感神経と、リラックス中に優位になる副交感神経から成っており、メリハリのある生活を送ることで両者が適切に切り替わり、バランスが保たれる。
ストレスや長時間労働が多い現代人は交感神経が優位になりがちなので、意識してリラックスできる機会を設けて副交感神経が優位な状態に促す必要があるとされている。

免疫力が高まる瞬間は、「ドヤ顔」をしている時

意外に感じられるかもしれないが、免疫力の観点で見ると、適度な緊張下にある交感神経優位の状態のほうがNK活性は上がっているのだという。
「たとえば、ビジネスパーソンのNK活性が最も高まる局面は、仕事を成功させて『ドヤ顔』をしている瞬間です。ただし、長く強い緊張状態から一気に解き放たれて副交感神経優位にスイッチした時には、NK活性が一気に低下してしまうおそれがあります」
(photo:fizkes/istock)
適度な緊張感で交感神経が優位にあるとNK細胞は活性化するが、そのストレスが強すぎたり、交感神経が優位にある時間が長すぎたりすると、解放されて副交感神経が優位になった時のNK活性の落ち込みが激しくなる。
その免疫力が低下した状態が長く続くと、病気にかかりやすい状態になってしまうのだ。
ある試験では、負荷が高い激しい運動を30分行うと、運動をやめた後のNK活性が2時間低下することがわかったという。ストレスがかかる時間は30分でも、NK活性はその後4倍の時間にわたって落ち込みが続くことになるのだ。
仕事においても同様のことが考えられるので、長時間労働はNK活性を下げる可能性がある。始業と終業をしっかり区別して、早めに副交感神経優位の状態にスイッチすることで、NK活性の変動をおだやかにする必要があるのだという。
特にオンとオフが曖昧になりがちなテレワークでは、業務スタート時や終わりにオンラインで仲間と軽く挨拶したり、メイクや髭剃り、着替えをしたりするなどして、仕事のオンオフを身体に意識させるのがよいという。
また、「ドヤ顔」をあえてしてみるのもオンオフの切り替えに有効、と竹田氏。
たとえばなかなか集中できない時に気合を入れるため、「ドヤ顔」してスイッチを入れてみる。また、1日の業務を振り返って、自分の成果を「ドヤ顔」しながらガッツポーズして、満ち足りた気分でリラックスタイムに移行する。
さらに散歩でもお茶でも構わないので、自律神経の切り替えを促す“自分なりのセレモニー”を実践してみよう。
行動が制限され、不安が募るニュースが続くと、どうしても気分は暗くなりがちだ。
メリハリのある生活と栄養バランスのとれた食生活、ヨーグルトの摂取や軽い運動といった今すぐスタートできる生活習慣を取り入れて、病気に負けない身体づくりを心掛けたい。
(構成:森田悦子 編集:奈良岡崇子 デザイン:小鈴キリカ)