100年以上IT業界をけん引してきたIBM社員に求められること

2020/4/30
 新型感染症が広がり、世界情勢もビジネス環境も刻一刻と変化する中、4月1日(水)に入社式が執り行われた。
 日本IBMグループ史上初となるオンライン入社式「New IBMers Kickoff 2020」である。
 かねてより事前研修から、オンボーディング研修まで、リモート環境で十全に行う体制を整えていた同社。今回のイベントも、NewsPicksでの限定ライブ配信の方式をとり、グループで810名の新入社員が自宅から参加した。
 NewsPicks Brand Designは、日本IBM 代表取締役 社長執行役員の山口明夫氏による、新入社員へのメッセージを凝縮して伝えると共に、世界をリードするグローバルITカンパニーの最前線をお伝えする。
1964年生まれ。和歌山県出身。1987年日本IBM入社。エンジニアとしてシステム開発・保守に携わったのち、社長室・経営企画、ソフトウェア製品のテクニカルセールス本部長、米国IBMの役員補佐を務める。その後、コンサルティング、システム開発・保守やビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)などの領域でグローバル・ビジネス・サービス事業を担当し、理事、執行役員、常務を歴任。2017年より取締役専務執行役員、グローバル・ビジネス・サービス事業本部長、IBMコーポレーション(米国IBM本社)の経営執行委員に就任。2019年5月より現職。
 山口氏は新卒で入社以来、32年同社に在籍し、金融業界でエンジニアとしてキャリアを積みながら、数々の大型案件を担当。2017年にグローバル・ビジネス・サービス事業の本部長に就任、そして昨年5月、生え抜きの日本人社長としては、橋本孝之氏以来7年ぶりとなる社長就任となった。
 30年以上、IT業界の激しい変革をリードしてきた山口氏は、2020年の今、フレッシュな新入社員にどんなメッセージを送るのだろうか。

一人称で考え、自分の言葉で語ってほしい

山口 IBMは世界で約108年、日本では83年の歴史があります。
 世界中に175カ国以上、35万人の社員がいます。新入社員のみなさんは日本IBMグループの企業に就職し、本日社会にとって重要な使命を担う35万人の仲間の1人になりました。
 “Be Essential”、最も信頼される存在になること。これは私たちが最も大切にしている言葉です。お客様から、社外から信頼される企業、人になっていきたい。そしてみなさんもお客様にとってエッセンシャルな存在、かけがえのない存在になってほしいと思います。
 そのために、「自分はこう思う」という一人称で考え、自分の言葉で語れる人間になってほしいのです。
 今の世の中にはいろんな情報があります。何かを考えるためのネタがいっぱいありますね。いろんな意見を聞いたり、情報を調べたりすることはとても大切です。
 でも、それを誰かに説明するとき、「本に書いてあった」「先輩が言っていた」だけでは、人は納得してくれません。さまざまな根拠を踏まえて、あなたはどう考え、だからこうなんだ。それをしっかりと説明できるようになってほしい。
 IBM初代社長のトーマス・ワトソン・シニアの言葉に“Think”とあります。人々が真摯に考えれば、世界中のあらゆる問題は解決できると彼は信じ、IBMの全社員に言い続けていました。
「この人は企業や社会のために調べ、考え抜き、自身の言葉で説明してくれている」と理解いただければ、信頼関係は生まれます。信頼関係が生まれると、仕事が楽しくなりますし、また勉強したくなります。逆に不信感の中で仕事をすると、どんな仕事でも楽しくないし、夢を描けません。
 ぜひ考え抜いて、信頼を勝ち取って、楽しく仕事をしてください。

課題解決のための全体図を提案する、それが今のIBM

 そして重要なのは、お客様が必要としているソリューションや、お客様の3年後、5年後に必要だといえるソリューションの設計図を考え、提案をしていくことです。
 IT活用は、メーカーから製品を買ってビジネスを動かす『メインフレーム』の時代から始まり、SIerからシステムのソリューションを買う『オープン化』の時代へと変化してきました。そして現在はプラットフォーマーから必要なサービスを利用する『クラウド』の時代です。
 従来は一つのプラットフォームの中で完結するようなサービスが主流でした。しかし、業務の内容や重要度に応じてさまざまなプラットフォームをマルチに使うことが求められる今、一つのプラットフォーム、一つの企業の中だけでデジタル・トランスフォーメーション(以下、デジタル変革)が完結するとは限りません。
 そのため、IBMはレッドハットとの連携を強化していくことにしました。レッドハットのオープンなプラットフォームを活用することで、IBM Cloud上でも、AmazonのAWSでも、MicrosoftのAzureでも、同じアプリケーションを稼働することができ、「Build Once、Deploy Anywhere」という環境を提供しています。
 お客様のニーズに応えていくためには、従来のようにコンサルティングをしながらシステム開発を行うだけではなく、会社対会社でデジタル変革のパートナーシップを結び、開発から人材の育成までを一緒に進めていくことも必要です。
 今やさまざまなテクノロジーを適材適所で使える時代。企業間の枠組みを越え、あらゆる企業と協業し、お客様の基幹システムの刷新も含めたデジタル変革から、人材育成まで、包括的なパートナーシップを組んでいくこと。それがまさに、今のIBMに求められていることです。

IBMのカルチャーとDNA

 今回の入社式では新入社員のみならず、現役社員や新入社員の家族など、大勢が参加した。
 SlackやNewsPicksのコメント機能などを用いながら、リアルタイムで、登壇した役員たちとも活発なやりとりが行われた。
リーダーの自覚、あふれる好奇心、そして、この二つを支えるために絶え間なく学び続けてください。
“Be curious, be open.”何でも疑問を持って、オープンに、そして楽しむということが重要。自分が取り組んでいる仕事やプロジェクトだけではなく、その周囲、世界中で何が起きているかに興味を持ってください。
新入社員のみなさんは、仕事を任されるとき、「なぜこういう指示を受けているんだろう」「この仕事をするとどういうことにつながっていくんだろう」ということを日々考えてください。

あらゆる領域で世界を動かしていくこと

 役員、現役社員らが「New IBMers Kickoff 2020」を通し、新入社員に発信したテーマは「Aspire、世界を変えるチカラ・未来をつくるチカラ」。
 入社式のために制作されたロゴにある二つの円は、「世界」と「IBMerの心」を表現する。上の円は色づき変化しながらも進んでいく世界の未来であり、下の円はIBM社員の思い描く将来のビジョン。未来に向かって世界も彼らも昇っていく原動力に“Aspire”が必要、というメッセージが込められている。
 世界を変え、これからの未来を創造していくテクノロジー企業は、どのようなAspire(=志)を持ち、世の中をいかに変化させていくのだろうか。
山口 IBMでは「社会の課題解決への貢献」をミッションの一つに掲げています。
 例えば、純度の高いプラスチックをリサイクルできる技術・VolCatの開発や、環境に有害な重金属を全く使わない電池を開発するなど、ごみ問題に対するソリューションを提示してきました。
 ここ数年で日本でも大きな被害をもたらしているゲリラ豪雨の問題に対しては、発生予測から発生後の被災地への物資の搬入システムまで、技術によって解決策を生み出す努力を続けてきました。
 現在、世界は新型コロナウイルスという新たな課題を抱えています。
 アメリカのオークリッジ国立研究所に設置されている、IBMが開発したスーパーコンピューター・Summit(サミット)は、新型コロナウイルスの増殖を防ぐ可能性のある化合物を見つけるために活用されています。約8,000種類の化合物を分析して、現在では77の、増殖を防ぐ可能性のある低分子化合物を発見しました。
 新型コロナウイルスの影響は、お客様のビジネスや私たちのビジネスにも出てきています。
 しかしこういったときこそネガティブにはならず、むしろ「何ができるのか」をポジティブに考え、いろんなことに取り組んでいくこと。何が起きても柔軟に発想を変え対応していくことが重要です。
 我々は新しい社会に新しい風を吹かすようなイノベーションを起こしてきました。みなさんと一緒に社会の役に立てるよう、私も頑張っていきます。ぜひ一緒に頑張りましょう。
(編集:中島洋一 構成:高木望 撮影:小林由喜伸 デザイン:月森恭助)