株式会社ユーザベースは2020年3月26日に第12回定時株主総会を開催しました。共同代表COOの稲垣が議長を務め、共同代表CEOの梅田は米国から帰国したばかりのためリモートでの参加とし、すべての審議を終了いたしました。
本記事では株主の皆様からいただいた、総会での質疑応答およびパネルディスカッションについてリポートいたします。
(報告事項パートにつきましては、2019年12月期決算の内容を中心にお伝えいたしました。決議事項の議案については招集通知をご参照ください。)
サブスクリプション売上が力強く成長――ユーザベース2019年12月期決算説明会レポート

質疑応答:Quartzの展望と、米国での課題について

質問1:
日々、NewsPicksのコンテンツを楽しみに拝見しております。
Quartzの事業についても非常に期待しております。有料課金事業も順調に立ち上がっているとのことで、今後ますます大きく拡大されていくと思います。ただまだ売上に占める比率はそれほど大きなインパクトになっていないと思うのですが、今後3年くらいのQuartz拡大の見通しについて、どのように現時点で捉えていらっしゃるのかをお伺いします。
また米国で事業を行う上で、現時点で苦戦している部分があればお聞かせください。
稲垣:
ありがとうございます。それではQuartzの向こう3年の展望と、米国での苦戦の2点に対して梅田よりご回答申し上げます。
梅田:
私から回答させていただきます。Quartzに関しましては、この1年間、有料課金事業を立ち上げることに一番注力してきました。今後3年間に関しても、有料課金をどれだけ早いペースで成長させられるかに注力することが何より大切だと思っております。
NewsPicksも6年間かけて、今の15万人近くまでやってきました。NewsPicksの最初の3年間を振り返ると本当に売上の規模は小さかったんですが、課金事業というのは積み重なってきます。
Quartzは1年間かけて、課金事業が立ち上がりましたので、2年目、3年目以降、このペースをどう上げていけるかが何より大切だと思っています。
今のところ、NewsPicksのスタート時より速いペースで積み上がってきています。これを続けて行けば、6年後には今のNewsPicksより大きい事業にもなり得るということですね。そういう姿をまずしっかり作っていきたいと思っております。
共同代表CEOの梅田優祐(右段下)。ZOOMを活用してリモートから回答させていただきました
2つ目のご質問で、どういうところに苦戦しているのか。
やはり「人」ですね。私たちの最も重要な資産は「人」ですので、背中を預けられる、信頼できる、そういうチームを米国で作れるか。それが最初の1〜2年目でのハードルだったかなと思っています。
うまく行かずに離れなければいけなかったメンバーもいますし、信頼して任せられるメンバーを見つけることもできました。我々は早い段階から海外に注力してきたので、ちゃんと現地に根ざした優れたチームを作れて来ています。まだ数字に現れないところですが、私の自信につながっています。今振り返ると最初の1年は、そのチーム作りが大変だったなと思います。
今後につきましては、コロナの影響は必ず出てくると思っています。米国の状況は、今の日本より数段シリアスな状況であると考えています。ニューヨークは今、全ての企業が在宅勤務しなければならない、ロックダウンに近い状況になっています。
これによる有料課金への影響は、ほとんどないかなと思っております。むしろ今、信頼できるニュースが求められています。こういうときこそ、メディアの腕の見せどころだと。信頼できるニュースを提供して、有料会員になっていただける機会かなと思っています。
影響が出てくるのは、やはり広告事業だと思っています。どれだけの影響になるのか、その影響をどれだけ最小限に抑えられるのか。今後しっかり注視していかなければならないところだと思っています。
ただ、こういう環境が不確定なときこそ、本当のビジネスの強さ、我々の事業の根源的な強さが浮き彫りになるなと思っています。こういう場面だからこそ、環境の変化があったら下がってしまうような弱い事業は筋肉質にしていく。そういう機会だと捉えて取り組んでいきたいと思っています。

パネルディスカッション

株主総会の審議終了後、よりユーザベースの経営メンバーへの理解を深めていただくため、株主の方々を交えたパネルディスカッションを実施しました。
総会から引き続き共同代表COOの稲垣、共同代表CEOの梅田、取締役の佐久間、執行役員CFOの千葉、執行役員CPO/CAOの松井が登壇し、モデレータは前CFOの村上が務めました(梅田と松井はコロナの影響でリモート参加)。質問プラットフォームにはSli.doを使用して進行しました。
村上:
はじめに簡単に自己紹介をさせていただきます。本日モデレーターを務めさせていただきます村上と申します。2018年までユーザベースでCFOをやっていたご縁で、また今日ご一緒させていただいています。よろしくお願いいたします。
まず最初に、本日の登壇者を私から紹介させていただきます。前半の株主総会とはちょっと雰囲気を変えて、肩の力を抜いて、ざっくばらんにやっていこうと思いますので、よろしくお願いいたします。
まずCEOの梅田です。梅田は何と言ってもみんなから愛されてしまう特性がございまして、ここまでの道のりもいろいろなステークホルダーに応援いただきながら、こうしてグローバルカンパニーをつくり、引っ張ってきたという、まさに小さな巨人でございます。
次にCOOの稲垣ですね。稲垣はマジカルな組織、そしてモチベーションが非常に高い組織、こういった組織づくりに誰よりも強い情熱を持っています。今の成長を続ける組織は、稲垣が中心になって作ってきたというところでございます。
それから先ほど皆さまにご承認いただきました、SaaS事業の取締役 佐久間でございます。ポーカーフェイスでありながらも、誰よりも熱い男である彼は、FORCASを自ら考案し、ゼロから立ち上げ、そしてINITIALは有言実行で黒字化を果たしました。SaaSビジネスでは、業界においても第一人者なのではないかと個人的には思っております。
次にCFOの千葉でございます。これだけ高成長を続け、チャレンジングなコーポレートイベントを次々に仕掛けてくる会社でCFOを務めるのは、本当に大変です(笑)。ですが千葉は本当に冷静に判断し着々と物事を進めて、しっかりと会社の成長を支えています。非常に器も大きく、そして人柄も最高でございます。
そして松井ですね。CPO兼CAOという執行役員で、CPOの「P」は「People」、HR領域全般。CAOの「A」は「Administrative」ということで管理全般。広範囲にわたるコーポレート部門のマネジメントを、タイからリモートでやっています。
山積みの仕事を事も無げに片付けていくスーパーウーマンの1人でございます。
本日はこのメンバーでパネルディスカッションをやっていきます。
前CFOの村上未来(現・somebuddy代表)

個人投資家向けIR、SaaS・NewsPicks・Quartzにおけるコロナの影響について

村上:
最初に、本当は参加したいけどできなかったという株主の方から、質問をメールでいただいております。まずはこちらを読み上げさせていただきます。
質問2:
御社は去年機関投資家向け説明会を年3回開催していますが、個人投資家向け説明会は一度も開催していません。4Q時には決算説明会を初めて動画配信されましたが、それだけでは個人投資家とのエンゲージメントは築けません。
御社は時価総額も500億円にも満たず、スモールキャップ過ぎて大多数の機関投資家の物色対象にはならないなか、今般のコロナショックのような信用収縮局面では、すでに御社の株を購入済みの機関投資家は解約に遭った際に機械的に株を売らざるをえなくなり、個人投資家だけが最後のリスクテイカーになりえます。
このような有事の際に備えて、平時から個人投資家とのエンゲージメントを高めるための施策が真剣に必要だと考えていますが、経営陣の皆様のお考えをお聞かせください。
村上:
ここは普段IRで投資家様と接している千葉に答えてもらいたいと思います。
千葉:
この方からはフェアディスクローズという観点で以前からメールでご質問をいただいており、毎度私からご回答させていただいています。
ご質問で触れられている動画配信につきましても、もともと3Qで一度試みたのですがリソースと機材の問題で、残念ながら実現できませんでした。今回4Qで、初めて実現できました。
我々としても、徹底したフェアディスクローズを今期以降しっかりやっていきたいと考えております。また株価だけではなく、事業の中身をより分かりやすく理解いただくということも大事だと思っています。NewsPicksを通じた配信や、より分かりやすい開示資料の作成には、引き続き注力してまいります。
また今年から開始した株主優待も含め、事業の内容をご理解いただきつつ、皆さまにも違う付加価値を提供するようなコミュニケーションの方法も模索していきたいと思っています。皆さまからのご意見をもとにできるだけ新しいスタイルを確立していきたいと思っておりますので、ぜひ引き続きご意見をいただければと思っております。
執行役員CFOの千葉大輔
村上:
ライブ配信は今後も続けていく予定なんですか?
千葉:
基本的には続けていきます。今のコロナの状況も考えると、オフラインの説明会というのはあまり相応しくないかなと思っています。海外でもその流れはあるので、取締役のメンバーと相談しながらやっていきたいなと思っているところです。
村上:
もう1ついただいている質問を。
質問2:
御社のSaaSビジネスは、企業にとってはある意味固定費となります。大不況時において多くの企業で固定費は削減圧力が高まると予想されますが、どういう対策を考えておられるのでしょうか?
また大不況時において広告費はさらに削減対象となると考えられます。NewsPicksとQuartzの足下の広告受注状況はコロナ後、異変が起きているでしょうか? 特にQuartzの広告受注状況を非常に心配しております。
年間予算を策定した際、コロナは問題化しておらず、予算に織り込んでおられないと思いますが、巻き返し等対策は可能なのでしょうか?
村上:
ちょっと2つに分けたいと思います。
まずSaaSビジネスですね。これは企業にとって固定費ではないのか? そして大不況時に、多くの企業ではそれを削減するという予想があるが、どういう対策が考えられるか。SaaS責任者の佐久間さん、お願いします。
佐久間:
ご質問ありがとうございます。本質的には「役に立つサービスをつくる」、それが試されるタイミングだと認識しています。さらに例えばSPEEDAについては、外部に大きな費用をかけてリサーチしていたものを、自社でSPEEDAを使ってできるようにするというシーンが多くなっています。固定費という目線では、これでコストが浮きます。
またFORCASに関しては、大きなマーケティング施策を打つよりは、ピンポイントで自分たちが価値を届けられる顧客候補を特定して、そこに効率的な施策を打っていくのに使えるサービスになるので、不況でこそ、我々のサービスの価値を訴求し、確かな価値を作っていきたいと思っています。
村上:
もう1つ、NewsPicksとQuartzの足元の受注状況。この状況では特にQuartzを心配していますということです。こちらに対して巻き返し対策を含めて、梅田さん、お願いします。
梅田:
先ほど総会のときにもありましたが、コロナの影響は広告に必ず影響が出てくるだろうなと思っております。その前提で経営をしてまいります。
ただ、影響が出てくるというのは、やはり広告ビジネス自体がお客様にとってmust haveのものになっておらず、nice to haveのものになっていると我々は受け止めなければならないと思っています。景気などの外部環境に簡単に左右されてしまうようなビジネスではいけないので、この機会を使って、広告ビジネス自体を筋肉質化していかなければなりません。そういう機会だと捉えてやってまいります。
ちょっと話がそれますが、ユーザベースを創業したのが2008年4月、リーマンショックの直前でした。創業して半年くらい経ってリーマンが潰れて、「これはいよいよまずいぞ」という状況になっていったことを非常に鮮明に覚えています。
そのときは、一番傷んでいる金融業界にSPEEDAという新しいサービスを提供していこうという状況でした。当時一番感じたのが、must have、本当に必要なものでなければ買ってくれないという事です。そういう厳しい環境下で始めたからこそ、そのDNAがユーザベースの中にはあるなと思っておりますので、今回も全くその時と全く同じような状況だと受け止めています。ユーザベースは間違いなく不況が強くしてくれた会社ですので、今回のコロナショックというのは、ユーザベースが一層強くなるような、そういう機会と捉えて会社を改善するところは、しっかり改善していきたいと思っています。
村上:
たしか震災時も、打撃を受けた工場のデータをいち早く取りまとめて、どのようにサプライチェーンに影響が出るのかのレポートをSPEEDAで届けていましたよね。
梅田:
我々は情報を扱っておりますので、こういう非常時こそ、より我々のミッションが試される時だと考えています。こういう時こそ必要とされる情報を提供できなければ、存在意義がないと思っておりますので、震災のときもそうでしたし、今回のコロナショックもその意気込みでやっております。

Quartz買収時のMSワラントに対する自社株買いについて

村上:
それでは会場からいただいているご質問に回答していきましょう。
質問3:
去年ワラントでの調達を失敗したことにより、TBS三菱地所への増資で希薄化率が大きくなってしまいました。将来、数年後御社の目論見通りにビジネスが成功し、キャッシュに余裕が出た際にはワラント失敗による希薄化分を自社株買いし、即償却して欲しいです。
村上:
こちらは千葉さんからお願いいたします。
千葉:
こちらに書いていただいている通り、2018年4月にQuartzを買収する際、「Moving Strike Warrant(MSワラント)」という方法で、我々は資金調達を試みました。
具体的にどういうことかというと、下限の株価を固定して、これ以上になれば新株予約権が株に変わるという方法だったんです。これを我々が選択した理由としては、Quartz買収というのは我々にとっても大きなチャレンジですので、ここでの資金調達に関して、そのときの時価を株主の方にお約束する形で、M&Aが上手くいって、それが株価に反映されれば、その分は資金調達をさせてください、と。
その代わり株の希薄化は残念ながら生じてしまうので、通常で言うとこの「Moving Strike Warrant」はフロアテーブルを下限に設定することはあまりないんですが、株主の皆さまとコミュニケーションするために、ここを時価と見なして下限にフロアテーブルを設定したということがございました。
残念ながら、その後株価が3,275円というプライスを上回ることがなく、実際には新株予約権の部分が株に変わることがなくて、我々は資金調達をその方法ではできなかったという背景があります。
一方で我々としては、そこをどうみなさんとコミュニケーションするか? という中で、事業的に戦略的パートナーに対する割当をもって共に事業を成長させ、その3,275円を超えることを目指して、今、経営をしています。
ですので誰にでも第三者割当をしているわけではなく、戦略的に重要なパートナーに第三者割当をする形で、去年〜今年と進んでいます。
ここで書かれているような自社株買いについては、まずは事業をしっかり黒字の状態に戻すこと、今年はお約束しているEBITDAベースでの黒字を達成するというところに、まずは注力していきたいと考えております。
他の質問でも出ていましたが、自社株買いは配当やいろいろな株主還元の方法の1つだと理解しております。当然、我々は成長のために成長資金に余力をもたせたいという考えもありますので、その時のバランスシートやキャッシュフロー、事業の状況を鑑みて、適切に対応していきたいと思っております。

金融危機や不況時における資金繰りについて

質問4:
今後、仮に不況や金融危機が起きた場合に、資金の調達や返済、投資にまわすお金の確保など資金繰りには問題は無いのでしょうか。
千葉:
ここについては、かなりいろいろなシミュレーションをした上で運営をしております。現時点では特段心配していただく必要はないかなと思っております。
今年のスタートのとき、売上目標に幅を持って開示させていただいていますし、EBITDAの額もこれまで一本値でご説明していたものを、「黒字」という表現にさせていただきました。その背景としても、いろいろなパターンをシミュレーションした結果、お約束できるラインを開示した経緯があります。
ですので常につぶれない経営というか、どんなケースが発生したとしても中長期的な成長ができる経営を、キャッシュフロー上も見て運営をしています。ですのでこの部分に関しては、現時点では大きな心配をいただかなくても大丈夫かなと思っております。
村上:
会社によっては社長が財務に弱かったりして、それを数字面で全面的にCFOが支えるみたいなスタイルもあります。ユーザベースの場合は、社長、CFOともに非常に数字に強い会社なんですね。前CFOの私から見ても、「石橋を叩く経営」を昔からやっている印象です。

NewsPicksとQuartzの住み分けについて

質問5:
日本ではNewsPick事業とQuartz事業が、毎日記事を配信すると言う点で競合しているように思えます。それぞれの住み分けや各々のユーザーへの期待を教えていただければと思います。
梅田:
Quartz JAPANの大きな特徴は、世界の最先端を伝えるメディアであることです。即ち、世界で起こっていること、かつまだ日本語で報道されていないことに特化しています。まだ日本語で紹介されていない、世界の面白いスタートアップを紹介していたりします。
そのためNewsPicksよりもターゲットは狭いです。狭いんですが、尖った内容でやっていこうというのがQuartzです。NewsPicksに広告を出したりしてQuartzをたくさん紹介しているんですが、意外とNewsPicksとQuartzの有料会員のオーバーラップは、私が想定していたよりも大きくなかったなと思っております。半分もない。それは少し意外だったなと思っています。
こういうサービスをやるときには、切磋琢磨をすると言いますか、Facebookとinstagramではないですが、敢えて別のブランドで、多少オーバーラップしても、お互い良い刺激を持ってサービスを磨いていくというのは、非常にユーザベースのカルチャーに合っていますし、良いなと思っております。
村上:
これだけサービスを展開していると、はたから見るとサービス間のカニバリがあるのではと見えたりするんですね。
SaaS事業でもSPEEDAは法人のお客さんがたくさんいますが、FORCASも基本は法人のお客様ですよね。FORCASとSPEEDAでも、カニバリはあるのでしょうか?
佐久間:
これまではあまりカニバっていないですね。もともとFORCASというサービスは、SPEEDAを営業企画、ターゲティングに使っていきたいというニーズから生まれたサービスでもあります。
サービスローンチ当初は結構カニバるのではと思っていたんですが、サービスを出して、それを磨いていった結果、特にSaaSのスタートアップ企業がお客さんになっていただいたので、そこのカニバリは現時点ではあまり起きていません。
ただ今年はユーザーさんを拡大して、エンタープライズ、大企業の方にもFORCASの価値を実感していただきたいと思っているので、今後カニバリというか、重なる部分は出てくると思います。そのためにも、今年1月から組織の体制を変えて、プロダクト横断的に価値を届ける、大企業にある意味張り付くようなチームを立ち上げてやっています。
取締役 B2B SaaS事業CEOの佐久間衡
村上:
SaaS事業として同じチームでやっていれば、どこかがカニバるというものではなく、「あっちもこっちもいいですよ」という形で、一体としてやっていけるんですね。
佐久間:
そうですね、理想的には経営戦略の策定にSPEEDAを用いていただいて、その経営戦略を営業企画、ターゲティングに落とすところにFORCASを使っていただくようなサービスの連携を実現していきたいと思っています。
梅田:
ユーザベースの7つのルールの中に、「ユーザーの理想から始める」というものがあります。やはり大きくなっていくと、だんだん社内のカニバリが出てきたりして、そのカニバリを気にしてサービスを作っていくという意思決定になりやすい。即ちユーザーを見てサービスを作っているのではなく、社内論理でサービスを作っている。
ただ、我々はユーザーが求めているのであれば、多少社内でカニバったとしても、ユーザーのニーズを満たすためにサービスをローンチしていく。そちらを優先させるべきだというポリシーがあるので、私自身はそこまでカニバリが社内で起こることが悪いとは思っていないところがあります。
社内で重複する部分が出てくるのは当然効率化していくべきなんですが、何より重要なのは、ユーザーを見てサービスを作っていくことです。社内で多少カニバリしたとしても、ユーザーと社内のどちらを優先するかといったら、ユーザーが満足していないニーズを満たすことを優先しようというポリシーでやっています。
村上:
ありがとうございます。次に行きましょうか。

Quartzのコメント数、コミュニティについて

質問6:
Quartzのコメント数・コミュニティが日本のNewsPicksの様に活発で無い様に感じてますが、今後の対応について聞かせてください。
梅田:
それは全然少ないですね。前回の決算説明会でも説明しましたが、私自身がやってみて苦労したところ、また、私の仮説が違ったなと思ったところは、アプリでユーザーをエンゲージさせていくというところでした。ここは非常に難易度が高く、コストが合わなかったです。
一方で、Eメールでユーザーをしっかり集めて、そこでロイヤルユーザーを作っていくというメルマガ会員、こちらのほうが圧倒的に効率良く、なおかつアクティブなユーザーを獲得できるということが、この1年間での一番の学びでした。そのため今、Quartz社内ではアプリでコミュニティを作るのではなく、Eメールのラインナップを揃えて、Eメールの会員を増やし、Eメールの開封率を上げることに多くのリソースを割いています。
NewsPicksはアプリをダウンロードして、アプリの中でまずは無料ユーザーとして使ってくれた人がもっとNewsPicksを好きになり、その後有料会員に転換していくという流れでした。NewsPicksでのアプリの無料ユーザーに相当するのが、Quartzの場合はEメールのユーザーです。Eメールでまずニュースを毎日無料で見てもらって、そこでエンゲージして、そこから有料会員に転換していく形になっています。
村上:
これは意外といえば意外でしたよね。アメリカというか、ニューヨークのビジネスマンの方々は、Eメールをまだメインツールとして使っているということなんですか?
梅田:
Eメールは非常に強いですね。Eメールで読者と直接つながるというのは、Quartzに限らず、各メディアで一番重要視しているところです。
日本でも、実はEメールに特化して良いコンテンツを提供するメディアが無かっただけではないかと思い、Quartz Japanは敢えてEメールだけに特化して始めたところがあります。
村上:
今後SPEEDAでアメリカに進出する場合も、Eメールはマーケティングで重要なチャネルになってきたりするんですか?
梅田:
Eメールでユーザーを抱えるというのは、非常に重要ですね。他社のB2Bのサービスを見てもどこでリードを作っているかというと、まずEメールでニュースレターを送って、そこでユーザーを抱えて、その後リードを作っていく形にしています。Eメールでどれだけのユーザーと直接つながれるかというのは、B2Bに限らず、メディアも含めて非常に大切なツールになっています。
村上:
今少し触れましたが、NewsPicks以外のユーザベースグループの海外展開戦略をそれぞれ取締役が思いを抱いているのではと思うのですが、SaaSの海外展開戦略はどうでしょうか?
佐久間:
我々は「経済情報で、世界を変える」というものがミッションで、必ず全てのサービスをグローバルに持っていくことを目指しています。SPEEDAはアジアに出ていて、FORCASも昨年の夏にプレスリリースを英語で出しましたが、米国のユーザーとコラボレーションして、プロダクトを開発していくことをスタートしています。まだ正式なサービスはUSではリリースできていないのですが、必ずサービスをグローバルに持っていくことは決めてやっています。
村上:
そのFORCASでいうと、ABM(Account Based Marketing)のマーケットは日本よりもやはり圧倒的に大きいんでしょうか?
佐久間:
そうですね。ABMに限らず、セールス&マーケティングのマーケットは非常に大きいですね。
村上:
そもそも世界に出ていくことを決めて、ユーザベースは設立されました。梅田さん、今後の海外戦略構想というか、夢みたいなものがあれば教えていただければ。
梅田:
我々のミッションは、「経済情報で、世界を変える」というものです。
そこに愚直に行くということに全て尽きるのですが、「経済情報で、世界を変える」というのは何を言っているかというと、世界中のビジネスパーソンが小さな意思決定も大きな意思決定も日々しているわけで、そのときの意思決定にユーザベースが提供するプラットフォームが土台になっている、支えている、その情報を元に意思決定しているような状態を、日本だけでなく世界中で作ろうということです。
これは創業したときからずっと一貫して思い続けて、やり続けていることです。そこに対して、毎年一歩ずつでも着実に近づいていることを重要視していきたいなと思っています。
そういう面でいきますと、次に大きな我々のチャレンジになるのは、B2Bですね。B2B領域でも一番大きな市場である米国でしっかりサービスを提供していくというのが、次のステップになるかなと思います。
村上:
着々と海外メンバーのマネジメント層も増えてきていますので、期待しております。稲垣さんにも海外に対する思いを聞きたいです。
稲垣:
やはり、海外戦略のキーになるのはひたすらチームだと思っています。海外にも僕たちが経営を託せるような経営チームを作れるかどうか。
それを立ち上げるためには、まず僕たちのDNAを理解した経営層のメンバーが現地に行ってコミットすることが重要だと思います。今回Quartzであれば立ち上げるために梅田に行ってもらって経営チームを作っています。
ただ、そこで日本人が社長になってまた次の社長も日本から派遣されて、という形では絶対に現地の肌感覚は掴みきれない思っています。先程の話にもあった米国のEメール文化も梅田が現地で感覚を掴んでくれたことが大きいと思いますが、今後、より高い目標を目指して展開していく中ではまだまだネイティブの人でなければ分からないものもあるので、できる限り現地の文化に根ざした人がトップになっていくことが重要だと思っています。Quartzでは今、梅田との組み合わせでZachというメンバーが社長をやってくれていますが、この形をつくっていくことがすごく重要だと思っているんですね。
SPEEDAのアジア展開にしても、米国向けのB2Bサービスを作っていくというところにしても、現地に根ざした強い経営チームを作っていくことが、一番本質的なポイントなのではと思っています。
共同代表COOの稲垣裕介(左から2番目)

直近の株価下落について

村上:
次の質問にいきましょう。
質問7:
株価がすごい勢いで下がり不安です。今後の秘策などはありますか?
千葉:
これはもう丁寧に、愚直にやるしかないかなと考えています。あまり面白くない回答で申し訳ないんですが、投資家と話していてそう思っています。現在、だいたい四半期で80件くらい、いわゆる機関投資家と呼ばれている国内・海外の投資家と会話をさせていただいています。
はじめましての人がだいたい1/3くらい、既に株主の人が1/3、残りが何度かお会いはしていますが、まだ買っていただいていない方が1/3。そのような割合です。
領域というか、会社やファンドのある場所によって、皆さん言っていることが違っています。「もっと赤字を出してもいいから投資をして、トップラインを伸ばせ」という主に米系の方もいらっしゃいますし、他方で国内の方は「このご時世、赤字は心配なので、しっかり黒字にしてくれ」という声もあります。
我々はその方々それぞれに、我々が考えていることを適切に伝えて、その結果、当社の株を保有いただけるようにコミュニケーションしています。一方で冒頭にご質問をいただいた通り、個人投資家の方々に、その状況を適切に正しくお伝えしきれていないなという反省と自覚がありますので、情報発信に関しましては、引き続きフェアディスクローズを徹底していきたいなと思っていますし、より分かりやすい説明を心がけたいと思っています。
何か秘策をとことですが、もう実績を示すことが全てかなと思っていますので、タイムリーに実績を共有させていただいて、その先の未来を皆さんと共有できればなと思っております。
村上:
個人株主の皆さま向けに誤解なきように解説しておきますと、IRといっても、決して特定の機関投資家に、特定の情報をお伝えすることは全くありません。基本的には、決算説明だったり有価証券報告書で記載している事項を改めてご説明し、その本気度を伝えることがIR活動です。
機関投資家としてもCFOやCEOの顔がわからない会社には投資できないみたいなところがあるので、お会いして説明させていただくというのがIR活動になります。

NewsPicksの法人ユーザーが増えた理由について

質問8:
NewsPicksの法人ユーザーが増えたのは何が要因なのでしょうか?
梅田:
やはりNewsPicksしか提供できない価値が作られているからということに尽きますね。ただ単にNewsPicksが作るコンテンツ、動画、MOOC、そういうものが法人パッケージとして見れますよというものではなくて、社内コミュニティを作れるというのがセットになっています。
社内の人向けにニュースとコメントを共有したり、社内プロピッカーみたいな仕組みをつくって、「××部署の○○さんがこの記事をシェアしました。その部署で読んでください」という形で、NewsPicksが作った仕組みを社内でそのまま転用できるようなパッケージをセットで作ったというのが良かったかなと思っております。それはもう、NewsPicksにしかできないものだと思います。
村上:
引き続き好調さは続くんですか?
梅田:
はい、引き合いは大きいですね。
法人サービスで始まったばかりなので、四半期で見ると凸凹はありますが、年単位で見ると確実に次の我々の成長ドライバーの1つとして、積み上がってくるサービスになることは自信を持って言えるかなと思っています。

Quartzの2019年業績見通しについて

質問9:
昨年の3Q発表時に、広告売上は4Q偏重。黒字化を目指すという発表がありました。その後4Qで、パイプラインは半年ぐらい前に見えてくる。広告チームは入れ替りがあり、立ち上がったのが昨年末という説明がありました。
それに対して、3Q発表時点で投資家にQuartz既存事業の黒字化が難しいことをアナウンス出来たはずではないでしょうか? 改めて4Q時点の見通し判断について説明をお願いします。
梅田:
そうですね、そこの可能性というのは、今振り返ると言えたところはあるかなと思っております。ただ、そのときの状況を見ると、積み上がっているパイプラインだけを見ると、本当に12月は非常に大きなパイプラインが積み上がっていましたので、これはもしかしたら行ける可能性があるなというのもありました。あとはコストのコントロールも含めて、行ける可能性はあったというところがありましたので、そこの見極めをもっと丁寧に出来たという反省はあったかなと思います。
村上:
ありがとうございます。それでは次の質問にいきましょうか。

CSOのMarianna B. Ofosuについて

質問10:
CSOのオフォス氏について、どういった人物か、また現在果たしている役割について教えてください。
執行役員CSO(Chief Strategy Officer)のMarianna B. Ofosu
松井:
彼女はグループ全体のCSO (Chief Strategy Officer) と、米国におけるコーポレート部門責任者の2つの役割を負っています。ユーザベースにおける――先ほどグローバル展開についての話題も出ていたかと思いますが、そこを先頭に立って推進し、支えてくれている人材だと思っています。
米国に梅田がいる間は、梅田の傍らにいながら、グローバル展開にあたってパートナーとなりうるような提携先を開拓していったり、既存ビジネスの米国展開を支えてくれたりしています。あとはやはりアメリカに根ざしてビジネスをやっていくうえで強いコーポレート機能が必要だと考えていますので、まさに私が日本で果たしている役割のミラーになるような形で、アメリカで強いコーポレートファンクションを作っていくところを担ってくれています。
私とマリアナは密にコミュニケーションを取っていて、今はウィークリーで定例をしています。必要に応じて常にコミュニケーションを取るなど本当に一緒にやっていて、彼女が入ってくれたことによって、ユーザベースのアメリカ展開の未来が見えてきたなと感じています。
梅田:
彼女はQuartzの役員もやっているので、Quartz事業も彼女がガバナンスを効かせてくれています。本来であれば今日も東京に来て株主総会に参加する予定だったんですが、コロナの件があって来れなくなってしまいました。次の総会でチャンスがあれば、皆さまにも直接ご紹介させていただきたいなと思います。

今年度業績へのコロナの影響について

質問11:
今年度の業績予想(売上・EBITDA)は昨今の新型コロナの影響をどれだけ見込んでいるのか。
千葉:
業績発表をさせていただいたのは、2月13日でした。そのときを振り返っていただくと、中国ではもうコロナの話は出ていて、今の状況ほどではなかったという状況です。ですのでSPEEDAのアジア事業に関しては、一定の影響を織り込んだ形で、業績予想の開示をさせていただきました。
先ほどNewsPicksやQuartzに関して梅田から説明がありましたが、今後起こりうることは当然予期できているわけではないので、今後どういう影響が日本およびアメリカで起こるかはタイムリーに共有させていただくことで、説明責任を果たしていきたいなと思っております。
村上:
コロナの影響がどうかというのは、各社さん、いろいろ業績面でも考えているところはあると思いますが、1つユーザベースグループが強みを発揮できるのは、こういう時こその組織力だと思います。
稲垣さん、このタイミングで組織に対して何かメッセージを投げているとか、こういう動きができているみたいな話があれば。
稲垣:
もともとユーザベースという会社自体が、リモートワークを前提にいつでもどこでも仕事できるようにしています。米国など海外の拠点が多数あって、オンラインをベースに連携して仕事することが当たり前にできているので、その土台はすでにあるんです。早々にアナウンスも出させていただきましたが、コロナの影響が出始めたタイミングで、リモート推奨というメッセージは社内外に出していました。何よりまずリモートでメンバーやご家族が安全・安心に働けることが大切です。
事業面に対しては、各事業がお客様へ提供している価値はそれぞれ異なりますが、事業のポートフォリオを組みながら、この状況下に最適な情報の価値提供の形を作ろうとそれぞれが動いていいます。
たとえばNewsPicksであれば、こういったコロナウィルスの危機的な状況ではメディアとしての真価を発揮しなければならないタイミングでもあります。そういった目標に向けてチームを編成してチームの枠組みを超えて協力し合い、そこに向けたコンテンツを一気に出していくという動きもあります。佐久間が担当するSaaS領域であれば、お客様に対して対面で営業することは困難になってくるところがありますので、昨日も「SaaS Exhibition」というオンライン展示会を開催しました。
今ある私たちのリソースをフル活用して、この難局をみんなで乗り越えていこうと社内にはメッセージしています。
村上:
今日オフィスを覗いてみると、みんな在宅で仕事していて、かなりガラガラな状態でした。原則として在宅勤務にしようとメッセージを伝えていると思いますが、実際の生産性は大丈夫なんですか?
松井:
実際、かなり大丈夫かなと思っています。私自身、今日もタイからリモート参加させて頂いていますが、この1年くらい家族の事情でタイに住みながらリモートワークをしています。稲垣も申し上げたようにもともとこのようにリモートで働ける環境が整っていることもあり、今回のコロナの件があっても意外とみんなモチベーション高く、引き続き効率的に、むしろより工夫しながらやっているなと思っています。
先ほど稲垣から社外向けのイベントをオンライン開催しているとお話しさせて頂きましたが、社内の事業ごとの定例やグループ全体の全社定例も、何百人規模でzoomを使って、全員リモートという形でトライしています。「楽しかった」という声も上がっていて、社員のモチベーションはそこまで落ちていないかなと思っています。
ただ継続して長期化してくると、やはりリモートでも一体感とか、隣にいるのと同じように働ける工夫はより必要だと思っています。そのあたりはもっといろいろやっていきたいなと思っています。
執行役員 Chief People & Administrative Officerの松井しのぶ(右段上)。タイからリモートで参加
村上:
もともとバリューで「自由主義で行こう」を掲げていて、働く場所、時間が自由で、それぞれが考えて仕事をしましょうという会社なので、在宅になっても、本当に影響はすぐには出ていないなという印象がありますね。
松井:
そうですね。
梅田:
今回やってみて、オフィスはこれ以上拡大しなくてもいいなと思いましたね(笑)。基本リモートで働いているマジョリティがいると。
ただ1週間に1回はみんな集まろうよとか、クリエイティブのブレストをするとか、何か意思決定をしない、そういう時にちゃんと集まれる場所があるというような位置づけにしていきたいなと思っています。オフィス=集中して仕事をする場所というよりは、人と人が顔を合わせることで、価値を出すことに特化した場所にしていくほうが良いのではと。そういう変化も起こっていますね。
村上:
ありがとうございます。最後の質問にいきましょう。

定款変更の背景について

質問12:
定礎の変更について、いくつか事業の目的が追加されてますが、具体的にどのような展開を見越しての追加なのか説明できる範囲でお話いただければ。
稲垣:
もともとユーザベースの定款自体がSPEEDA事業を前提として書かれていたものですが、今、これだけ多角化してきている中で、当初想定していなかったこともいろいろ良い意味でできてきており、より実態に合わせて適宜アップデートさせて頂いています。
1つの例としては、決算発表資料でもお示ししたファネル図でもイベントを重要視しています。
SaaS事業の商材を提供していく中でも、1つひとつの商材に人によって利用難易度が高いものがあると思っています。例えばSPEEDAでファンダメンタル分析をしましょうといっても、なかなかどうやればいいのか分からない。こういうシーンで講演イベントを通して、ある会社がこういうやり方で難局を乗り越えたとか、具体的な事例を実際の担当者の方が熱意を持って話してくださると、自分たちの会社もそういう形で変わっていかなければならないのではとか、具体的な利用イメージがが生まれていくということもあると思っています。そういった価値提供を具体的に伝えて、実際に利用される形で製品を普及することは、重要なポイントだと思っています。
そういったイベント事業をやっていこうとした時に、もともとの定款では特定のグループ会社でしか事業として反映できなかったところがあります。そういった例も含めて、拡張性をもたせた形でユーザベースの定款変更を今回いたしました。
松井:
ちょっと補足させていただきますね。ユーザベースの定款は、もちろん今までも目的の範囲内でやらせていただいていたんですが、各社グループがいろいろ広がる中で、グループの事業全てを内包するような形で、ユーザベースの定款変更を今回させていただくことにしました。
今、稲垣が申し上げたように、新しく事業を生み出すインキュベーションにも力を入れていきたいと考えておりまして、ユーザベースはそれら新規事業が生まれる母船としての機能も担いたいと思っていますので、新規事業開発のようなところも入れさせていただいたというのが経緯になります。
村上:
それでは、お時間になりましたので、これで終了とさせていただきます。みなさま、ご清聴ありがとうございました。